【ロシアW杯】各国代表に学ぶカウンター戦術の要点~中編~

【ロシアW杯】各国代表に学ぶカウンター戦術の要点~中編~

前回の記事に引き続き、ロシアW杯のゲームをサンプルにカウンター戦術のポイントを挙げていきます。前回記事にもカウンターのポイントを挙げているため、そちらを先に確認いただくことを推奨します。

※表記は(カウンターを仕掛ける側)vs(カウンターを受ける側)


ベルギーvsブラジル

この試合のトランジション局面は攻守共に狙いがはっきりした質の高いものであった。

攻撃POINT

①ボールと人の待ち合わせ場所はボールサイドのハーフスペース
②WG+偽9番デブルイネでボールを収める

ベルギーのシステムはかなり引き気味の4-3-3。中盤で引っ掛けて速攻に転じるというよりも、前線3人のロングカウンターに託す形だ。その前線にはデブルイネをCF、ルカクを右WGで起用。

この起用の意図はカウンターにある。ベルギーはカウンターでひとつ約束事を定めていた。それが上記①、クリアボールをボールサイドのハーフスペースに落とす事。

クリアの場所が予め分かっていれば、回収に回る前線は無駄な動きが減り、効率が上がる。このハーフスペースでの回収作業をWGとデブルイネで行う。プレーエリアが広くカウンターにおける諸能力も高い、保持を安定させるためのショートパスも捌ける「カウンターの王様」デブルイネを常に速攻に関わらせることがCF起用の狙いだ。

ハーフスペースでの回収はイングランド戦でも見られる。大会通じてベルギーの狙いどころとなった。CH手前とSB裏のスペースを順繰りに突き、短いショートパスでプレッシングを外す攻撃はカウンターアタックのお手本であった。

またルカクのWG起用は、デブルイネCF起用に押し出される形であると同時に、マルセロにぶつける事で高さでのミスマッチを狙ってのことだろう。マルセロが上がればその背後を突かせるところまでが計算だ。これはマルティネス監督とルカクが同時期にエヴァートンに所属していた際も同様の起用がなされていた。

ブラジルを突き放す2点目のゴールはこれらの策が奏功した結果生まれたものであった(後述)。

守備POINT

①基本陣形は最終3枚+手前CH1枚。菱形での計4枚体制
②マルセロの背後はミランダがカバー。マルセロは帰陣の際CHの位置へ。
③ルカクを完全シャットアウトしたミランダの対人能力
④全員に植え付けられたゾーンの意識

ブラジルのシステムは4-1-4-1。フェルナンジーニョがアンカーに入る形だ。このチームは世界最高のSBの一人、マルセロを擁する。この選手を活かさない手はないとなると、被カウンター守備でのポイントは自ずとマルセロの背後ということになる。

基本的にブラジルは左から攻める際はマルセロが高い位置をとるため、ミランダがかなり左サイド寄りにずれ込み、逆SBのファグネルが自陣に留まる3バックを形成。右から攻める際はフェルナンジーニョがファグネルの位置に落ちる、マルセロがCHの位置に入る、等の調整を行う。攻撃的なSB起用のリスク管理をCH・SBで連携して行っていたか否かが、GL最下位という惨敗に終わったドイツとの差だ。

また右からの攻撃時だけでなく被カウンターの際も同様、ミランダが左にずれ込むためマルセロはCH位置に戻る形だ。
この試合においては、マルセロを狙い撃つための起用であったルカクを、ミランダが完全にシャットアウトして見せたのも非常に大きなポイントだ。単に対人能力が高いだけでなく、役割が明確化されていたため迷いなくルカク対応に専念できたのだろう。

そしてこのチームのもう一つの特徴が、全員に浸透したゾーンの意識だ。帰陣の際は敵の動きに左右されないため無駄な蛇行がない。最短距離で帰陣できる上、ラインもきっちり揃っている。ブロックに穴も無いため外への展開を強いることができる。これまであげた被カウンター対応のポイントを完璧に遂行した素晴らしい守備組織であった。

そんなブラジルが喫したカウンターでの失点。ベルギーは狙い通りボールサイドのハーフスペースでルカクが収める。CHラインのフィルターでどうにか外に展開させるが、受け手はカウンターの王様デブルイネ。強烈なミドルシュートを持つ彼に持たせるには内側過ぎた(欲を言えばペナルティエリアの横幅のライン付近が理想)。さらに、この時点で最終ラインを形成するのはマルセロとファグネルの2人。人数的には足りており、2人の距離間も良くラインも揃っているが、エリア内に入っても撤退→迎撃の移行を行わなかったため、壁となることができずに失点。

CK時は長身のCBが上がっていくことが多いため、DFリーダーが不在の状態でカウンターを受けるリスクもある。この部分を守備側はどう担保するのか、また攻撃側は如何に狙っていくのかを練る必要性は今後さらに高まっていくかもしれない。

メキシコvsドイツ

ここまであげてきた攻守のポイントをふまえ、大きな話題となったこの試合にフォーカス。

ドイツの守備に関してはこれまであげたチームと明らかに様子が異なる。言うまでもないが、ドイツには秩序もリスク管理も無い。攻撃サイドに関わらず両SBが高い位置をとり、CHにはバランスをとれる選手がいない。最終は2枚でフィルター役不在。実質ボアテングとフンメルスが2人で守っている状態だ。他のチームが4人~5人(後方3枚+手前のフィルター1~2枚)でリスク管理しているところを半分以下の2人。守れるわけがない。

攻撃面でハイパフォーマンスを見せ、中心を担ったキミッヒを活かすのであればそれに応じたリスク管理を同時に行わなければならない。一部ではキミッヒが酷評されているが、この杜撰なリスク管理を鑑みることなく、数多くのチャンスメイクをして見せたキミッヒを叩くのはお門違いも甚だしい。ブラジルがマルセロの背後のケアを組織的に行ったのを見ても分かるように、キミッヒが上がるのであれば他の選手が埋めるべきであり、「キミッヒが上がってできた裏のスペースを取られたからキミッヒが悪い」という意見はあまりに短絡的で見当違いだ、というのはここまで読んでくださった方ならお分かりになるだろう。勿論、キミッヒもヘクターやCHが上がった際はバランスをとる必要があった。反省材料は0であるとは絶対に言えない。このSBとCHのバランスの欠如はドイツにとって致命的であった。

対してメキシコの攻撃の特徴。

攻撃POINT

最前線への楔でCBを釣り出す

ドイツには最終ラインを保護するフィルター役がいなかった。通常フィルター役はCB手前の選手へのパスを遮断する役割も担う。つまりドイツはCBがむき出しの状態であったため、CBが自身手前の選手にアタック(釣り出される形)しては守備陣形に穴を空ける、というシーンが頻発。1失点目もまさしくその形。エルナンデスが狙い通りフンメルスを釣り出し、2トップを組むベラへのレイオフで穴を空けて見せた。やはりここでもプレッシングをいなすショートパスが活用されている。ドイツの不備だけでなく、メキシコの2トップの距離間が良かったからこそ、こういった得点が生まれたとも言える。

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ブラジルとドイツのリスク管理

カウンターを受けるにあたり重要な点がリスク管理だ。攻撃時、カウンターを受けた時の事を考え、その準備がどのようになされているか。本記事2試合においてカウンターを受ける側、ブラジルとドイツのリスク管理がいかになされていたかをみてみる。

ブラジルのリスク管理

①味方選手の出入りに柔軟に対応し、基本陣形◇を崩さない。
②CBは横スライド、SBとアンカーによるポジションの入れ替え。
③綿密な受渡し・ポジションの確認。

ブラジルは先述の通り最終3枚+手前CH1枚の計4枚の菱形の体制が基本陣形だ。そしてこの陣形の維持が、密なコミュニケーションとカバーリングを土台として徹底されていた。

例えば上のシーン。CKからの流れでアンカーのフェルナンジーニョが駆け上がっていく。代わりにミランダとシウバがゴール前から戻ってくるのだが、まずここでマークとポジションの確認が綿密に行われている。さらに、アンカーとSBのポジションは流動的で、この場面ではマルセロが左に戻るのではなく、フェルナンジーニョの代わりにアンカーのポジションに入っている。4バックではなく◇を形成する、チーム全体の約束事だ。(ちなみにこのシーンのベルギーも、デブルイネがボールサイドのハーフスペースに。両者約束事が徹底されている。)

ポイントとなるマルセロの背後のスペースに関しても、◇をベースとしつつミランダによるケアが行き届いていることが分かる。

繰り返しとなるが、SBとアンカーに関しては流動的にカバーリングを行う。上のシーンでは、左から右に展開されると同時に右SBファグネルがオーバーラップ。この時ファグネルのいた位置をフェルナンジーニョがカバー、マルセロが内に絞りアンカー寄りに構える。クロスボールで再度左に展開されると、ファグネルは右SBの位置ではなくアンカーのポジションに戻る。いちいち元居たポジションにつくのではなく、◇の一番近い位置に戻る。チームとして◇陣形の意思統一がなされているため、無駄な体力を使わずに◇を形成することができている。
流動的であるがバランスを見ながら適切な陣形を保つ。CB、SB、アンカーがきちんとバランスをとれていることが窺える。

ドイツのリスク管理

こちらも一目瞭然だ。バランス調整の主となるべきSBとCHはカウンターのリスクをまるで考慮していない。CBを残して全員で上がっていく。後ろに残る人数はブラジルの半分だ。
メキシコは最前線に1枚、クロースの背後に1枚を残し、加えてSHがものすごい勢いで駆け上がる。少なくとも3枚は絡んでくるため、切り替えの遅いドイツは確実に数的不利を強いられる。攻撃を止められるたびにひたすら自陣に戻らなければならないため、人数を割き、ポイントを押さえて効率的に守るブラジルとは体力の消耗具合も段違いだ。

共に世界屈指の攻撃的SBを擁する、ブラジルとドイツ。ブラジルはマルセロの背後のケアの仕組みを構築し、マルセロ自身にも守備タスクを与え、チームとしてのリスク管理を実行した。対してドイツは、キミッヒの背後は成り行き任せ。キミッヒ自身に守備時の具体的なタスクを課さず、チームとしてのリスク管理はボアテングとフンメルスの根性頼み…。この準備段階の大きな差が結果にも見事に反映されていた。

中編おわりに

今大会ベストマッチとも言えるベルギーvsブラジル、そしてブラジルとドイツを比較分析してきました。どのチームもカウンターを学ぶ上で、良くも悪くも重要な気づきを与えてくれるチームでした。次回は、前編・中編の内容を参考に総括し、日本の最期の失点シーンについても言及します。