HSVが最期に魅せた”4-4-2崩し”と伊藤達哉の現在地

HSVが最期に魅せた”4-4-2崩し”と伊藤達哉の現在地

フォルクス・パルク・シュタディオンの時計が時を刻むのを止めた―。

涙を流す者、発煙筒を投げ込む者、選手を守るためピッチに陣を敷く数百人もの警備員…。試合終了のホイッスルが鳴り響く前から、ハンブルガーSVのホームスタジアムは異様な雰囲気に包まれていた。

降格の決まったHSVが最期に戦った相手は私の応援するボルシアMG。ボルシアMGにはわずかにELの可能性が残っていたが、この試合だけを見た人はどちらが上位を争うチームか分からなかっただろう。意図した通りにスペースを創りボールを前進させる華麗なパスワークを前に、ボルシアMG守備陣はズタズタ。その中心にいたのは20歳の日本人・伊藤達哉だ。

今回は惜しくも残留を逃したHSVが最期に魅せた美しい4-4-2崩しのパスワークと、その中心にいた伊藤達哉について。


スターティングメンバー

4-4-2崩しのポイント

HSVの4-4-2崩しのポイントを1つずつ見ていく。

①FW-MF間のスペース

HSVのビルドアップはCBが距離を広くとる。この間にアンカーが落ちてくるパターンが主流だが、HSVはシュタインマンをほとんど落とさない。基本的にFW-MF間に位置させる。4-4-2守備を採用するチームにとってこのスペースに位置する選手の対応は非常に難しく、永遠のテーマである、というのが理由だ。
FWが引いて見るか、CHが上がって見るか…。

FWが引いて見る→CBが空く
CHが上がって見る→中盤にスペースができる

ボルシアはライン設定とアンカーの見方が曖昧なチーム。毎回対応が違ったが、基本的にはFWが引いて見て、中盤に穴を空けないようにしていた。HSVは同数でプレスをはめられないようにSBサントスを低い位置に置き、GKポラースベックには積極的にパス回しに参加させることでセーフティを作った。アンカーを意識するボルシアMGの2トップはCBにプレスをかけにくく、プレスをかけてもSB経由で逃げられるため、中途半端な対応が続いた。

②SBを浮かせる

①で空いたCBとその脇に位置するSB。この2人をSHホフマンが1人で見る形を強いる。攻撃の起点は常にここ。サントスの的確なポジショニングが可能にした。

③チャンネルへ侵入するIH

IHのホルトビーとハントは常にチャンネルを狙い続ける。WGの伊藤とコスティッチがきちんと幅をとるため、チャンネルが空くのだ。これに対してボルシアはCHがそのままマークについていき、中央にスペースを空けてしまう。

④前進するアンカー

③で空いた中央のスペースに頻繁に顔を出すのがSBサントスとアンカー・シュタインマン、特に後者である。FWは前進していくアンカーにどこまでついていくか迷うものだ。ボルシアは完全に放してしまい、幾度も侵入を許した。

これらは基本的な役割である。伊藤を含めポジションと役割をローテーションしながら攻撃する柔軟性がこの試合のHSVには見られた。短い時間でこれだけの攻撃を仕込んできたティッツ監督の手腕が窺える。

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伊藤達哉について

伊藤最大の特徴はなんと言っても切れ味鋭いドリブルだ。このドリブルに関してはブンデスで通用する・しないを議論するレベルではない。ティッツ監督も称するようにトップクラスであると言えるだろう。縦への突破、カットインのどちらも手札に持っている。味方の動きに合わせてパスに切り替えることもできる。

また、ボールを持っていない時の動きも秀逸だ。外に張る、内に絞る、降りて受ける、を状況に応じて器用に使い分け、味方のためにスペースを創る利他的な動きも当然の様にこなしている。上に挙げたほぼ全てのシーンに伊藤が絡んでいるのを見れば連携の良さは一目瞭然。特に左SBサントスとの連携は絶妙だ。

ドリブルだけでなく、4-4-2崩しの中心として機能できるだけのポジショニング能力、スペースの感覚も備えた魅力的なアタッカーである。ティッツ監督に指導を受けた経験も彼の財産となるはずだ。

課題を挙げるとすれば守備の面、そしてカットインからの選択肢だろう。特に後者、シュートの精度や逆WGとのバックドアを成功させるための柔らかいボールを身につけることができれば鬼に金棒だ。ナポリのインシーニェのようなプレイヤーにもなれるはずだ。

ブンデスリーガ4月の月間優秀若手選手賞にもノミネート。ドイツでの評価がうなぎ上りの非常に楽しみなプレイヤー、どうか怪我だけには気を付けてほしい。

おわりに

EL出場権を取れなかったボルシアMGは、脆く面白味のないチームしか作れないヘッキングを続投する予定。1年間、何一つ向上させなかったこの監督のサッカーにファンはどうモチベーションを保てば良いのやら…。

HSVはパフォーマンスが安定せず監督の交代も多かったが、特徴あるサッカーで魅せる時期も多かった。最期の4-4-2崩しも美しく、ボルシアは歯が立たなかった。ティッツ監督には今後も期待が持てるかもしれない。ハントやホルトビー、サントス、ドイツ世代別代表にも名を連ねるユンク、シュタインマン、ポラースベック、そして日本人の2人。十分に揃ったタレントの中にはチームを離れる選手もいるだろう。

クラブにとってここが時代の一区切り。諸々の問題を整理し、1年で1部に戻ってくることを楽しみにしている。

Auf Wiedersehen…