ホスト国であり優勝候補の一つであるドイツと、初戦を惜しくも落としたハンガリーの一戦。この試合は大方の予想通り、ポゼッション率67%と、ドイツがボールを保持して攻撃を仕掛ける局面が大半を占めた。
ドイツの3-1-6と5バック崩し
ハンガリーの守備は5-2-3で、センターライン付近を先頭にブロックを築く。
対するドイツは初戦と同じクロースが左後方に降りる3-1-6(3-1-5-1)だ。ギュンドアン、ヴィルツ、ムシアラの2列目トリオが敵の中盤の脇や隙間から顔を出す。噛み合わせ的にも初戦スコットランド戦と同じだ。
ドイツの3バックとハンガリーの3トップが噛み合う形となるが、WBのキミッヒとミッテルシュタッドが低めの位置でサポートを行い、2列目が中盤脇で顔を出すという「パスの出し先の確保」によりプレスがハマることはなかった。
ヴィルツとムシアラに対し、ハンガリーはHVがガンガンと前に潰しに出ていった。これに対してムシアラはやや窮屈そうにしていたものの、HV裏のケアが甘く、ハフェルツが何度か抜け出しに成功した。
中央で細かな楔を出し入れすることで中央に守備陣を収縮させ、裏のケアを気にしたHVが前進を躊躇するようになると、広がったCH脇のスペースでムシアラがドリブルやパスによる攻略を図る。
ヴィルツ、ムシアラの2列目とキミッヒ、ミッテルシュタッドのWB陣が相手を手前に釣り出すことで5バックから4バック以下への変換を強いる。そこからのドイツは中央のハフェルツとギュンドアンにボールを当ててチャンスを演出した。
ハフェルツとギュンドアンは縦関係を作ることが多い。ハフェルツがDFを飛び出させないように最前線で釘付けにすることでギュンドアンはフリーでいられる状態が増える。そのギュンドアンがDFラインの隙間に抜ける動きを見せ、敵がついてくればハフェルツへのパスコースが大きく空く。そこへ楔を当てることで死角に入るギュンドアンへハフェルツからラストパスを送る。
出し手とギュンドアン、ハフェルツの3人が一直線上に並ぶ3 on lineから中央のギュンドアンが抜けてパスコースと死角を生み出す高度な連携プレーである。
このように空いたスペースを活用しながら裏、手前、内、外を的確に突いていくのがドイツの特徴となっている。
パスコースを確保しながら的確にスペースを活用して攻めることで、相手はスペースを埋めようとドンドンと自陣に引いていく。ドイツは相手を押し込むことでカウンターを難しくさせ、ロストした瞬間には前線が即座にプレスを実行、後方メンバーはカウンターの起点を潰しに出ていくことで二次攻撃に繋げていった。ここはチームとしての完成度が表れる部分で、ドイツの強みとなっている。
ドイツの2得点はいずれも相手のクリアを回収したところから始まっている。
1点目はキミッヒとヴィルツで敵WBとHVを釣り出すところから始まる。ギュンドアンがライン間でCBを引きつけ、空いた裏のスペースにハフェルツが走り込む。そのタイミングでつけたロブパスのクリアボールをターが回収したところからの速攻で得たチャンスである。
2点目はさらに相手を押し込み、ミッテルシュタッドのクロスボールのこぼれ球をキミッヒが拾ったところから、CFフュルクルクの手前のスペースに潜り込んだギュンドアンが沈めた。
後半のドイツは選手を続々と投入して入れ替えを行いながらも、危なげなく勝利を収めた。しかし、交代により良くなったかというと、そういった変化は見られなかった。
特に圧倒的なスピードを誇るサネをどこで起用するかは悩ましいところだ。ヴィルツやムシアラのように中央の狭いエリアでプレーさせて持ち味を発揮するタイプではない。ワイドでスピード・ドリブル勝負をさせた方が活きる。しかし今のドイツにはそのポジションが無い。WBにはバランサーでありパサーとなるキミッヒやミッテルシュタッドを起用し、被カウンター対策や中央へのスペース創出とパス供給が行われている。
この試合ではサネがワイドに開きWBのキミッヒが内側に絞る柔軟性でバランスを保つことに成功したが、機能性としては前半と比べて落ちる。
サネのように1人で局面を打開できるプレイヤーは貴重であるため、起用法を早々に確立させたいところである。
逆にムシアラと交代で入ったシュツットガルトのヒューリッヒは想像以上のフィットとパフォーマンスを見せた。彼は中央の狭いスペースやCH脇で的確なドリブルとパス&ムーブによる敵陣崩しを担った。交代でムシアラやヴィルツの役割をそのまま担わせるとしたら彼がファーストチョイスになる可能性が高い。
ドイツ守備戦術、ハンガリーのカウンター
ドイツに押し込まれ、攻撃の芽を早々に摘まれたハンガリーはなかなかドイツゴールに辿り着くことができなかった。遅攻によるチャンスは0に近い。
ドイツのセット守備は4-2-3-1で、ギュンドアンとハフェルツが巧みにCHとCBへのパスコースを切ることでプレスをはめに行った。ハンガリーのビルドアップは5人が担当するが、それを2列目+ハフェルツの4人で妨害することに成功した。
そんな中でチャンスとなったのはショボスライをキッカーとしたセットプレーだ。彼のキックは何度かドイツゴールを脅かした。
また、カウンターでは2度大きなチャンスを作り出した。起点となるのは今大会評価を上げているフライブルクのシャドー、ロランド・サライだ。
1つは前半28分。ドイツはボールを失った瞬間、中盤がやや空洞状態であったが、キミッヒとアンドリッヒの素早い切り替えにより埋めることに成功した。しかしその後、短いパスでサライにボールが渡ると、彼のテクニックを活かした溜めとケルケズのスピードある追い越しにより背後を突かれた。このシーンはアンドリッヒ、リュディガー、クロースの全員が中を警戒したために縦を抜かれる形となった。リュディガーが縦切りで寄せる、クロースがDF裏のカバーに入るのいずれかで対応できた場面であった。
ハンガリーとしては完璧なカウンターであった。ゴール前ではヴァルガとショボスライがクロスしつつ縦関係を作ってマークを外して決定機に持ち込んだ。
58分のカウンターも大きなチャンスとなった。このシーンはカウンターというよりも、前から行くか否かが曖昧でロングボールによりSB背後を疲れたシーンだ。サライが正確なトラップと推進力を活かしてドイツ陣地深くまで侵入すると、181cmながら空中戦に強くロングボールのターゲットにもなるヴァルガが頭で合わせた。
ドイツはゴール前にター1人しかDFがおらず、このシーンはボール保持を行うチームとして致命傷になりかねない対応となった。
おわりに
ドイツはスコットランド戦と同様にボール保持においては危なげなくボールを前進・チャンスに結び付けることに成功した。セットの守備局面においても、前線の的確な連動によりシャットアウトして見せた。
ボール保持局面の多いチームにおいて課題となるカウンター対策について、ドイツが講じている策は
①WBの高さ調整による枚数確保
②ロスト直後の前線の素早いチェイス(出し元潰し)とディレイ
③押し込むことによるカウンター距離増加および出し先潰し
が挙げられる。
この試合では2度、相手の個人能力を駆使したカウンターによるピンチを迎えている。より個々の能力の高いチーム相手にどうなるのか注目だ。