【ブンデス頂上決戦】レヴァークーゼンvsバイエルン 〜戦術的差異とアロンソ・ボール〜

マッチレビュー


遂にバイエルンの牙城が崩れるか!?と、かつてないワクワク感を持たせるチーム、シャビ・アロンソ率いるレヴァークーゼン。勝ち点2差で迎えた決戦は、ホームのレヴァークーゼンが3-0で完勝し、勝ち点差を5に広げた。
トゥヘルが仕掛けアロンソが応えたこの一戦、両チームの機能性と表れた差とはどんなものであったのか??

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システムとメンバー


レヴァークーゼンは守備時5-2-3、そして攻撃時に4-2-4になるのがこの試合のポイントとなった。守備配置で言う右WBにフリンポンでなくスタニシッチ、CFにはシックやフロジェク、イグレシアスといった本職ではなくヴィルツが入り、シャドーに機動力のあるテッラとアドリが起用された。ヴィルツを運動量と機動力が求められるシャドーでなく、より攻撃に関与させやすい中央に配した形だ。

バイエルンは普段と異なり攻守共に5-2-3で、レヴァークーゼンのシステムに噛み合わせる形をとった。

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レヴァークーゼンの守備とバイエルンの前進


レヴァークーゼンはセンターラインを数メートル越えたあたりをプレス開始位置に5-2-3のミドルブロックを形成して待ち構える形をとった。普段より引き、相手にボールを持たせる。3トップは距離感を10mほど、センターサークルよりやや広いくらいの距離感に保つ。

バイエルンとミラーシステムとなる中で、噛み合わせで困ることは無い。3トップの間に位置するCHへのパスに対しては、シャカとアンドリッヒが前進して前を向かせないようタイトに寄せることで中央攻撃を封じた。3トップによる制限と、ゴレツカ&パブロビッチの中盤コンビに配置的工夫や連携が見られなかったことも中央遮断に成功した大きな要因である。
逆に、前を向かせなければCHにボールを入れられても問題ないと割り切っていた。バックパスを強いることで、そのパスに合わせて3トップが敵3バックとの距離を詰めて圧力をかけた。こういったバックパスを利用してプレッシングへと移行していく。


3バックが大きく開くバイエルンにおいて、ウパメカノのドライブはチャンスになりえるものであった。絞ったSHアドリの外側を運んでいく形だ。しかし、運んだ先は結局マークが噛み合っており、SHアドリがチェイスをかけることで攻撃は途絶えてしまった。
右シャドーのサネがアジリティを活かして1vs1を制してボールを収め、中央でボールを運ぶ形がバイエルンにとって最大のチャンスの芽となった。
結局ウパメカノのドライブはアドリの体力を削る以上の効果が表れなかったが、この日のアドリはタフにサイドまでボールを追い、攻撃においてはテンポを落ち着かせる素晴らしい働きを見せた。
アドリを外に開かせたところでCHを使うことができれば攻撃の幅は大きく広がるのだが、パブロビッチの立ち位置が高すぎたため、ヴィルツがダイアーへのパスコースを切るのみで攻撃のやりなおしの幅を制限することに成功した。バイエルンの2CHは完全に機能不全であった。どうにかしようと動くほど、いるべきタイミングでいるべき場所にいない、味方とパスコースが被る現象が発生し、自チームのパスコースを消すことになった。


後半はレヴァークーゼンのSHのスライドが間に合わなくなり、中盤の脇からよりチャンスを作れるようになっていった。ミュラーとキミッヒが登場すると、前者は右脇、後者は左脇に入り込んで強かに攻撃を推し進めた。
レヴァークーゼンの右サイドは受け渡しも難しくなったため、WGのカットインが効果を発揮するようになり、左サイドはハーフスペースからのクロスも増えていった。

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レヴァークーゼンのプレス回避とバイエルンのプレッシング

攻撃が機能不全に陥ったバイエルンだが、レヴァークーゼン対策としてトゥヘルが用意した5-2-3によるプレッシングは一定の効果を発揮している。CFのケインがCHを切っている状態からCB間を切るように横向きのプレスをかけ、可能な限りムシアラのいる左サイドへと誘導する。彼のこのプレスがレヴァークーゼンから時間とやり直しの選択肢を奪うこととなった。


CBに対してはシャドーのムシアラがプレスをかける。守備の上手い彼はCHへのパスコースを切りながら寄せることでさらに制限をかける。シャカとアンドリッヒの中盤コンビに対してはバイエルンCH陣もマンツーマン気味に位置を取る。SBに対してはWBが前進してロングボールを蹴らせる、もしくはパスミスを誘発する。
バイエルンの守備の優れていた点は、レヴァークーゼンに時間とやり直しの余裕を与えなかった点だ。


レヴァークーゼンは相手のプレスの足を止めさせるように回すパスワークに特徴がある。(後述)

しかしバイエルンはケインを中心にプレスの矢印を絶やさないよう守備をした。隙を見て素早いプレスをかけてパスにズレを生ませ、その隙に全体を押し上げる。真後ろを向いて受ける相手に対しては強くプレスに出て、そのままバックパスを受ける選手にセカンドチェイスをかける。チェイスをかけた選手の背後を使われないよう、隣り合う選手はケアできるようポジションを調整する。
トゥヘルの打った策はある程度機能した。しかし、アロンソ・レヴァークーゼンも見事にそれに対抗して見せた。5-2-3に対する4-2-4という噛み合わせを活かしたビルドアップだ。


レヴァークーゼンは左SBにヒンカピエ、右SBにスタニシッチを起用して4バックを形成した。これにより、SBに対してWBが前進するという判断を突きつけていく。
WBが前進すると、ワイドのテッラに対してHVのキムミンジェがスライドして対応する必要が出てくる。ここで活きてくるのがヴィルツだ。彼はバイエルンのCHの脇に位置することで、マークの所在を曖昧にした。CH同士マッチングしており、キムミンジェが外に出ると、ヴィルツがフリーとなる。スタニシッチに対してCBタプソバ、CH、シャカ、テッラとパスコースを用意し、空いた選手を使っていく。

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パス回しの違い〜アロンソ・ボール〜

バイエルンとレヴァークーゼン。両チームは同じシステムを用いていても、攻撃面で大きな違いがある。それはシステム云々以前の部分、パスの回し方だ。


例えばHVがボールを持った場合、絞っていた守備側のシャドーは外にプレスの矢印を向ける。バイエルンは相手のプレスの矢印に逆らわずにWBにパスを出す。例えCHが空いていても、だ。当然相手は勢いそのままにプレスをかけ続けることができる。


対してレヴァークーゼンはボールホルダーが相手と正対しつつ、プレスの矢印に逆らうように、この場面では極力CHにボールをつける。守備者との正対とCHを中心とした細かなパス回しは敵を崩すためというよりもその前段階、プレスの足を止めるという効果がある。矢印の向きに逆らってパスを出すと、敵は方向転換をする必要がある。スピードを落とさずに方向転換することは不可能だ。敵はプレスの矢印の向きをリセットする必要がある。方向転換して、足を止める。シャドーであれば、外側に向けたプレスの矢印を内側へと方向転換する。CBにボールが渡るころには足を止めて立て直す。
足を止めるとプレスの勢いが弱まる。初速も遅くなる。プレスがかからなければ押し込まれる。相手によりよいポジションの取り直しの時間を与えることとなる。レヴァークーゼンは押し込めば、ボールを奪われた際のプレッシングもかけやすくなる。このように、敵のプレスの矢印に逆らい、振り回し、リセットさせて足を止めるようにパスを回す
のがレヴァークーゼンの特徴だ。


この試合の両チームのパス本数を見てみると、レヴァークーゼンのパス本数チームトップはCHのシャカ。ヴィルツが3位。CHアンドリッヒと合わせて3人で全体のパス本数の35%を占めている。
対してバイエルンはトップ3を3バックが占めている。CHゴレツカが4位。5位のサネ、CHパブロビッチと合わせても25%。レヴァークーゼンの中盤に比べて10%もの開きができている。このように両チームのパス回しの特徴がデータにも表れている。


このレヴァークーゼンのパス回しを行うにはパスコースを多数用意する必要がある。複数のパスコースを用意するために各階層(敵FWの手前、FW-MF間、MF-DF間、DF背後)に選手を配置し、さらに別の味方と繋がれるように三角形を作り出す。HVに対してCHとシャドーが敵CHを挟み込むようにポジションをとれば、敵CHはどちらか一方しか塞ぐことができない。
空いた選手にパスを預け、ボールを受けた選手は次に空いた選手にパスを預ける。そうしてパスコースを確保しながら全体がまとまって前進していく。前方に大きなスペースが出来上がれば、少人数でも一気にスピードを上げて攻撃を図る。


52分の攻撃が象徴的だ。左ハーフスペースで受けるテッラに対して、ヒンカピエは5m内側のヴィルツを指差し、ターは後ろで要求。これに反して単騎で加速しサイドに抜け出すテッラのクロスに中で合わせようとする味方は皆無であった。それどころか、全員歩いて攻撃を終えている。その後ヴィルツはテッラに向かって「落ち着け」のジェスチャーを見せた。
加速すればプレーの正確性が損なわれ、選択肢も狭まる。アロンソ・レヴァークーゼンは、選択肢を確保しながら全体で前進して攻撃を行う。テッラはこのチームの攻撃の原則に反したプレーを見せた。この部分の徹底が、彼らの強さに繋がっている。

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得点シーン

https://x.com/ABEMA_soccer/status/1756380533859516557?s=20
https://x.com/Bundesliga_JP/status/1756679482608406613?s=20

先制点のシーンはバイエルンの連携ミスであった。レヴァークーゼンのスローインの前からサネvsゴレツカ&ウパメカノで口論(恐らくサネの攻守の切り替えか?)しており、結局そこから失点した。
しかし、サネだけでなくゴール前も誰も準備をしておらず緩慢なまま失点を喫することになった。チームとして心配になるものであった。


このスローインを獲得したレヴァークーゼンの崩しは彼らの特徴が表れている。先述のプレス回避術を活かし、前方に大きなスペースを生み出して速攻を仕掛けたプレーであった。CBタプソバがボールを持つと、SBスタニシッチがWBを釣り出し、ヴィルツがCHを引きつける。WGのテッラがHVをサイドに寄せた状態で、アドリが左から移動して楔を受けに来た。中盤のフィルターが利いていない状態だ。楔をアドリがダイレクトで落とすと、抜け出したヴィルツがウパメカノと正対しDFラインを乱れさせ、再度現れたアドリが決定機を迎えている。


2点目のシーンはバイエルンがCBを前進させてヴィルツを捕まえることで曖昧なマークをクリアにしたところを逆手に取っている。極端に圧縮するバイエルンの中盤とDFラインの間にスタニシッチがロブパスを送り、アドリが斜めに降りつつボールを受けてプレスをひっくり返してみせた。相手の守備方法に応じてやり方を変える選択肢の豊富さと柔軟さの成せる攻撃である。
ここまで大活躍を見せてきたフリンポンの代わりにスタニシッチを起用する大勝負を仕掛けたアロンソの采配がズバリ的中した。とどめの3点目は途中出場のフリンポンが決めている。


昨シーズンの優勝争いはドルトムントの健闘で最終節までもつれこんだ。今シーズン、レヴァークーゼンによってバイエルンの牙城がついに崩れるかもしれない。そんな予感をよぎらせる一戦となった。

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