青森山田とロングスロー戦術

戦術分析

山梨学院の優勝で幕を閉じた第99回全国高校サッカー選手権大会。正直私はほとんど観ることができていないのですが、聞いていた通りロングスローの導入率が非常に高いのだなと感じました。

中でもロングスローで数多の得点を奪ってきた、準優勝・青森山田高校。よくよく考えてみると非常に効果的な戦術だなと思ったのでメモ程度に書いておこうと思った次第です。

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ロングスローの利点(メリット)

ロングスローの利点はいくつかあります。まず、

①ゴールに向かっていく軌道となること

ゴールに向かう軌道ということは、ジャストミートせずとも少し軌道を変えるように触れるだけでゴールを奪えるということです。CKの場合、それはインスイングのボールとなりますが、ロングスローはコーナーアークよりも必ず手前から投げることとなるので、CKよりもさらに「ゴールに向かう軌道」を実現しやすいものとなっています。どちらかというとFKのような感じですね。

ただ、FK同様ゴールに向かう軌道であるにもかかわらず、

②オフサイドが無い

というのも利点です。ものすごく極端に言えばGKの前に居座ってわずかに触れれば得点となります。FKではオフサイドとなるので実現できません。

そして、ボールを蹴るよりも投げる方が山なりで柔らかいボールを送り込むことができるため、

③クリアをするのに強いパワーが必要

となります。強いボールは触れれば大きく跳ね返りますが、柔らかいボールはきちんとミートして弾き返さないと手前にショートしてしまいます。

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青森山田のロングスロー戦術

こういったロングスローの利点を踏まえて青森山田のロングスロー戦術を振り返ってみます。

ざっと見ただけなのでザックリですが、上図の通りです。スロワーは右SB2番の内田君。左サイドでも彼が投げていました。

残りの選手達はおおよそ2人組を作って動きます。
①ニアに入り込む部隊
②中央に入り込む部隊
③大外から入り込む部隊
④セカンドボール回収部隊

の4つです。最後尾にはカウンター対応のため1人残ります。

①ニアに入り込むのは最も空中戦に強そうな2人。左SB3番のタビナス君と、浦和入りが決まっているCB5番藤原君。彼等2人はニア寄りの中央からニアサイドへ、ボールを呼びこむように走りこみます。

敵は空中戦に強い2人のマークのため2-3人ついていきますが、これが罠となっています。2-3人がゴール前からいなくなるため、中央にスペースが生まれることとなるからです。

ここに②中央に入り込む役割を担う、次点で空中戦に強そうな4番CB秋元君と18番那須川君が走り込み、ニアの2人が後ろに逸らしたボールを押し込みに行きます。

さらに続いて③大外から入り込むのが、得点能力の高そうな7番安斎君と10番松木君。このように3段階に分けて入り込むことでゴール前にスペースを作りつつ押し込みに行きます。

多くのチームはマンツーマンで守るため、青森山田の中の選手に対して後追いするような形となります。青森山田はすでにタナビス君と藤原君の働きで中央にスペースを作り出すことができているため、連鎖的に続々と飛び込んでいくことで敵より早くボールに到達して押し込むことができる形となっています。

④ペナルティアークの付け根近辺に立つ2人はカウンターのリスク管理と共にセカンドボールを押し込む役目を果たします。エリア内はカオス状態となっており、大きくクリアされないシーンも多々あります。そういったボールを回収し二次攻撃を展開する重要な役目を果たします。

以上のように、青森山田は空中戦能力が高いだけでなくスペースの創出や、セカンドボールを回収してから二次攻撃に繋げるための策まで施された優れた戦術を用いて戦っていました。

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守り方

では、こういった青森山田のロングスローに対してどういった形で守るのが効果的なのでしょうか?

これが正解!というのは無いのであくまで私の案です。

まず、ロングスローの性質から考えてみます。ロングスローはゴール前に勢いよく飛んで、シンプルな空中戦でズドン!と勢いよく決まるというよりも、少し触れてゴールに吸い込まれるというケースの方が多いはずです。その流れつく先となりやすい

①ファーポストに1人立たせる

というのは効果的な対応策の一つだと思います。またそういった性質上、GKはわずかに変わる軌道に対して反応する必要がありますが、それはプロのGKでも難しいことだと思います。

逆に山なりのスローインに反応して弾く方が難易度は低いでしょう。そのため、

②GKの初期位置を高くして飛び出し、スローインを直接弾きに行く

というのも効果的でしょう。スローインはFKやCKよりもゴール前に到達するのに時間がかかり、かつ直接ゴールに入っても得点とはならないので飛び出しへの心配も少なく済みます。ゴールラインに立っているよりも効果的な働きを期待できるかもしれません。ただし当然、代わりとしてフィールドプレーヤーをゴールラインに立たせる等のリスク管理は必要になります。

青森山田のセットプレーに目を移すと、守備側の問題としては生じたスペースにマンツーマンによる後追いの後手対応による点が挙げられます。そのため、

③ゾーンで守る

というのも選択肢のひとつになるはずです。予め狙われるエリアに選手を配置できれば対応が後手に回ることも少なくなるでしょう。ゾーンで守ることで、先述のGKの飛び出しも行いやすくなることが期待できます。

より極端に守るのであれば、

④ペナルティエリア内での間接FKのように守る

という思い切った手段も考えられます。ゴールラインに選手が並び、予め決めたタイミングで飛び出す守り方です。味方の干渉がほとんどないのでGKは飛び出しやすく、守備陣は後追いとならずにシュートブロックに向かうこともできます。ペナ内のFKと同様に特殊なロングスローというセットプレーに対して、特殊な守り方をする一手です。スローインにはオフサイドが無いという特徴から考えても、このような守り方をするのもありでしょう。

また藤原君、タビナス君という2人に対して、マーカーは後ろからつくのではなく

⑤予め2人の走路に立って妨害する

というのも有効かもしれません。走路にマーカー2人がFKの壁のように立つことで2人の移動を妨害し、先にボールに触れるもしくは2人の体勢を崩す。前に立てば、後ろからGKが対応に出ることもできるでしょう。

それから、そもそもスローインを与えないよう

⑥敵陣に押し込んで戦う

という、より根本的な部分に手を加えるというのも一つの考え方です。青森山田に自陣でスローインを与えないように戦えばよいという、極端ではありますが何よりも効果的な対応策です。

多くのチームがこの選択をできなかったのは、青森山田がロングスローだけのチームではなく、確かな足元の技術から正確にパスを繋いで敵陣に攻め込むことができるチームであるという証左でしょう。

そして最後に

⑦空中戦に強いメンバー構成、空中戦能力の向上

が挙げられます。身体をぶつけるタイミングや飛ばせない技術等、背の低い日本人が諸外国に空中戦で勝つために必要な能力でもあり、プロになる選手達が高校年代からその能力を磨くことができるのであればそれに越したことはないでしょう。

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おわりに

以上のように、ぱっと思いつく限りでもいくつか出てきました。青森山田のロングスロー戦術を見て非常に効果的だなと勉強になったので、次はロングスローに対する効果的な守備が発展することを楽しみにしようと思います。

またロングスローについて、個人的には特に好きではありませんが、それで点を取ることに問題などあるはずがありません。点を取られる側に守備的な問題があった、攻撃側が敵の(ロングスローに対する)守備を上回ったというだけの話です。

なので、猛威を振るうロングスロー攻撃が廃れるような守備戦術等が発展すれば、それは日本サッカーのよりよい進歩だなと思います。

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