絶対王者ユベントスを圧倒!今最も”美しい”ナポリの守備戦術を中心に(前編)

戦術分析

スクデット獲得をかけた天王山。勝ち点差4で迎えたセリエA34節、首位ユベントスvs2位ナポリの一戦はクリバリの劇的なヘディング弾でナポリに軍配が上がった。
ウノゼロ。結果だけ見ると最少得点差であるが、内容を見てみるとナポリが王者ユベントスを圧倒していた。その要因となったのが、今最も美しいと言われるナポリの守備戦術である。
今回はユベントスvsナポリにおける、ナポリの守備に比重をおいて書いていく。

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プレッシング

初めに主導権を握るためボール保持を試みたのはホームのユベントス。低い位置から組立てを行い、パスワークの巧みなナポリからボールを取り上げる。…ただその目論みは開始10秒で外された。

この試合のユベントスは、ナポリが得意とするカバーシャドウおよび”curved run”を駆使したプレッシングに悉く捕まることとなる。

基本的には逆WGとFWメルテンスによりSBにボールを誘導。SBに対しWGがアプローチをかけ、IH・SB・アンカー・CBが待ち構えるゾーンにボールを蹴り出させるという形だ。

ナポリの守備には明らかに約束事が設けられている。それもかなり厳格に、である。でなければこれだけの守備を行えるはずがない。そのいくつかを挙げていく。

SB裏のスペースのケア

ナポリはSBに対して、限定でき次第前から潰しに行くというタスクを与えている。限定できていればパスコースを読みやすく、パスカットの確率が高まるからだ。その際ネックとなるのがSB裏。このスペースをCBのクリバリとアルビオルに埋めさせている。

タッチライン際までカバーできるようスライド。ホルダーにきちんとプレッシャーがかかっているためサイドチェンジの心配は二の次。またCBがサイドまでカバーに出た際、SBはCBが元居た位置を埋める。2手、3手先まで詰められた守備である。

HSまで絞るジョルジーニョ

ジョルジーニョはボールサイドのHSまで絞り込み、パスコースの遮断およびセカンドボールの回収に回る遊撃役に。IHが高めのポジションをとった分を埋め合わせる。どんな展開になっても素早く対応できる機転と判断力、ポジショニング能力が必要だ。

肝となるIHの挙動

スピードよりもパスコースの限定に重点を置いたクレバーなプレッシングは、以前のシメオネ・アトレティコに近い。共通点も多いが相違点もある。それはなんといってもシステムの違いであり、ナポリのプレッシングの肝は、アトレティコのシステムには存在しない”IH”の守備である

敵の挙動パターンに応じてポジションを修正する、選択するプレーを変える。サッカーにおいて当然のことであるが、ナポリのIH(アランとハムシク)のそれには規則性が見られる。そもそもナポリの守備は決まったようにカバーシャドウ、”curved run”による限定をかけるため、再現性が高く「ほぼ同じ場面」というのが散見される。そのため、ナポリIHには想定される「ほぼ同じ場面」の複数のパターンと、それに対してとるべき挙動が明らかに刷り込まれている。規則で厳格に縛られているのだ。

①SBもしくは低く開いたCBに誘導するまで→CHの背後につく(シーン4)
②CBがボールを持つ→場合によってはIHが飛び出しSBに誘導。完了したらCHへのコースを切るようにプレスバック(シーン1)
③SBへ誘導完了、蹴り出すモーションに入る→CHを放し味方WGの斜め後ろに移動、パスコース遮断とセカンド回収(シーン2・3)
④敵のサイドの選手が中央に逃げてくる→飛び出して奪取へ(シーン5・6)

この辺りがツイート内の動画、またシーズン通して見られる「ほぼ同じ場面」におけるIHの動きだ。自分たちの型・規則を持つからこそ敵と味方の動きの予想を立てやすい。想定される複数のパターンのそれぞれにおいてどう動くべきかを刷り込まれている。毎回即興でプレーしていたら敵だけでなく味方の動きすら予想できない。そんな状況で行う「思い切ったプレー」はただの博打だ。

そしてIHに限ったものではないが、反転の速さとプレスバックが非常に特徴的だ
ナポリはプレッシングだけでなく、ボールを蹴り出された後のセカンドの回収、およびプレスバックまでが仕込まれている何重にも策が練られた緻密な構造だ。
目的が「蹴らせること」に留まらず「回収」にまで及んでいるため、蹴らせる時点で半身になっており、すぐにプレスバックが利く仕様になっている。プレッシング自体がスピード任せのものでないことも大きな要因だ。

この場面が象徴的である。限定→SB誘導→蹴らせる。この際ハムシクとインシーニェは半身から即反転、プレスバック。コスタに渡る頃にはルイもプレッシャーをかけている。

この時のコスタが見る景色を想像できるだろうか。背後からプレッシャーを受けている状態で、バックパスを出そうと視線を上げるが、真っ先に見えるのは3枚の青い壁。自陣側には味方が残っているはずなのに、見えるのはライトブルーのユニフォームばかり。結果、あわててパスミスを犯す。プレスバックまで仕込まれた、完全なるナポリの策である。

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ネガティブトランジション

ネガティブトランジション(攻撃から守備への切り替え)においては、近い選手からホルダーに寄せ、他の選手はまっすぐゴール及び自身の守るべきゾーンへと戻る。この時キーとなるのがジョルジーニョ。進退の判断が的確で、寄せる際は必ず敵を迂回させ、周囲が帰陣する時間を稼ぐ。また、ホルダーの体勢が悪いと見るや、複数人での囲い込みに参加、奪取する。

DFラインはきちんと足並みとラインを揃える。特にアルビオルとクリバリは反転のタイミング、押上げ、裏へのボールの警戒と、完全にシンクロしている。
バックパスの際にラインを調整するのは基本だが、メリハリのないチームは多い。ナポリの場合は全員が迷いなく押し上げる徹底ぶり。ユベントスの前線を丸ごと置き去りにしている。サイドに渡った際にジョルジーニョがHSへと絞るのも先述の通り。決まり事が遵守されているのが分かる。

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前編おわりに

ここまでナポリの守備戦術、規律についてみてきました。サッリ・ナポリの守備の規律の厳しさ、そして面白さと美しさ。何となく掴めましたでしょうか?サッリ・ナポリを見ていると、普通のチームにとっての自由=無秩序、思い切り=蛮勇、予想=当てずっぽうに脳内変換してしまいそうです。更に詳しいナポリ守備の記事は別途あげる予定です。
後編はレビューとなるので、このナポリの守備が試合に及ぼす影響、ユベントスの対策、ナポリの攻撃面に触れていきます。

とんとん。

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コメント

  1. […] カバーシャドウは、ゾーンディフェンスを採用するチームには必須の守備戦術です。 ゾーンディフェンスのお手本といえばナポリ。 今季のナポリは私が今まで見てきた中で最も美しいチームだと思っています。このナポリのチーム構造については今度、隅から隅までガッツリ書くつもりですが、カバーシャドウについて少しだけ見てみましょう。 […]

  2. […] この試合を観た印象として、このチームはよく走るし、ゴール前で身体を投げ出す泥臭さも備えている。反面、同じ5バックでも先日取り上げたアタランタのような決まり事や敵を誘導するといった仕組みの部分は弱い。アトレティコやユベントス、ナポリのように守備の段階から自分達主導で奪いやすいエリアに誘い込むというのは難しい。いうなれば受け身の守備である。 […]

  3. […] サッリ・ナポリやユベントス同様、WGが外からカバーシャドウをかけるパターンを備えている。 […]

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  5. […] オーバーロードを実現する上でモデルとしたのは勿論サッリ・ナポリ。私が今まで見てきたチームの中で最も美しいチームです。 […]

  6. […] レスターのプレッシングはWGが外を切りながらCBやSBに寄せる事でサイドを限定する方法を採る。サッリ・ナポリのような形だ。IH、逆サイドのWGも適宜前進することでショートカウンターの発動を狙う。 […]

  7. […] ウイングを張らせる意味~グアルディオラによるリスクを排した4-3-3戦術~偽サイドバックをはじめ、様々なアイデアを落とし込みピッチで表現させてみせるペップ・グアルディオラ。彼が率いるマンチェスター・シティが18-19シーズンCLグループリーグ第2節で対戦したのは、新進気鋭の若手指揮官・ナーゲルスマン率いるホッフ…birdseyefc.com2018.10.09 RBライプツィヒの4-2-2-2守備・速攻戦術分析【独の誇る戦術家ラングニック】ドイツの誇る名将ラルフ・ラングニック。彼の率いるRBライプツィヒは、18/19シーズン、ブンデスリーガでの失点数がわずかに29。バイエルンの失点数をも3下回る、驚異的な数字だ。このチームの特徴はセットした状態の守備、そしてそこから…birdseyefc.com2019.06.20 世界一の強度を誇るアトレティコ・マドリードの4-4-2守備戦術の分析4-4-2の守備ブロックを形成するチームが多数を占めたロシアW杯。限られた時間の中で確実に形にしたチームが多かったが、やはり細部まで詰めるには限界がある。今現在、世界で最も強度の高い4-4-2守備ブロックを有しているチームはアトレ…birdseyefc.com2018.07.19 絶対王者ユベントスを圧倒!今最も”美しい”ナポリの守備戦術を中心に(… […]

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