【「緩」と「急」のプレッシング】スパレッティ・インテルの守備戦術分析

戦術分析

※半年前書きっぱなしで上げ忘れていました!笑。

インテルの現状というよりも、堅守スパレッティ・インテルがどういうチームであったのか、そしてその特徴的な守備の方法をメインにご覧いただければ幸いです!

シーズン前半戦を終えた時点で2位ナポリと勝ち点差5の3位。失点数は先日取り上げたユベントスに次いで2番目に少ない14。今季のインテルは守備に明確な型が見られる。指揮官のスパレッティが軸に据えているのはプレッシングだ。今回はそんな好調スパレッティ・インテルのチーム戦術について。

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基本布陣

インテルの基本布陣は4-1-4-1(もしくは4-2-3-1)。核となるのは1トップのイカルディ。守備においては彼が基準となって敵の攻撃方向を限定。攻撃になればポストプレーとクロスボールのターゲットとして機能する重要な役割を果たす。IHにはテクニックのあるマリオやバレロ、守備能力の高いガリアルディーニ、ナインゴラン、ベシーノと豪華な顔ぶれが揃う。その他ポジションにも能力ある人材が揃っており、余裕を持ってCL出場圏内を狙えるメンバー構成となっている。

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「急」のプレッシング

インテルはプレッシング戦術を得意としており、特徴的なのがプレッシングにおける「緩急」の使い分けである。
それぞれ「緩」のキーマンがCFイカルディ、「急」のキーマンが右WGポリターノだ。

インテルのカバーシャドウ
・サッリナポリが得意とした、WGのカバーシャドウ
→サイドを確実に制限
・開くCBに、中ではなく外からカバーシャドウをかけるポリターノ
→外の逃げ場を消しつつ早いプレスをかける事でカウンター直結のミスの誘発を狙う
→プレス回避で魅せるフェルトンゲン

サッリ・ナポリやユベントス同様、WGが外からカバーシャドウをかけるパターンを備えている。

インテルの場合はユベントスと同様、右からかけて左で仕留める形が多い。これは機動力のあるポリターノのプレッシング能力の高さがもたらしている現象である。

ポリターノは的確に、スピーディに外を切るプレッシングをこなすことができる。ビルドアップを担うDFにとって、高速で外を切られるのは芳しい状況とは言えない。なぜなら外へのパスは、最悪ミスをしてもボールがピッチから出るため、失点に直結するような事態にはならない。反面、内側へのパスはカットされたら最後、即失点に繋がるリスクを伴う。ましてやインテルはプレッシングの意識がチームに浸透しており、中央のIHにはナインゴラン等、守備能力に長けた選手が構えている。

動画のトッテナム戦は、足下の技術に秀でたフェルトンゲンにいなされるシーンも見られたが、大抵のDFであればポリターノによる外を切るプレッシングに屈するはずだ。

制限だけでなく奪取までも視野に入れるポリターノから始まるプレッシングが、インテルの「急」のプレッシングの特徴だ。

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「緩」のプレッシング

イカルディのプレッシング
・スピードよりもカバーシャドウを優先
・「敵から『時間を奪う』プレス」ではなく、「味方に(陣形整理の)『時間を与える』プレス」
・スローペースで追い詰めることで選択肢を狭める。

「緩」のプレッシングのキーとなるのがイカルディだ。イカルディはポリターノとは逆でゆったりとしたスピードでプレッシングをかける。

彼のプレスは「奪取」ではなく「制限」に重きが置かれている。攻撃方向の制限だ。通常、フリーで持ったCBはボールを前進させる「運ぶドリブル」(=ドライブ)を試みる。イカルディは、敵に運ぶドリブルを行う時間を許す反面、攻撃サイドを変えるやり直しは許さない。攻撃サイドを限定出来れば、後方メンバーはそちらのサイドに人数をかけて陣を組むことができる。

つまりイカルディの「緩」のプレッシングは、『敵から時間を奪う』プレッシングではなく、「味方に陣を組むための『時間を与える』」プレッシングなのだ。運ぶドリブルは「される」のではなく「させる」。インテルにとって攻撃方向を限定するための罠なのである。

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CBを排除するイカルディの守備

インテルのプレッシング
ホルダーの隣の選手への寄せが速い。ポリターノがシンプルにスピードを活かす反面、イカルディは片方のCBに張り付く事でそれを実現。アグエロもそうだけど、アルゼンチンはこういう形で守備をする選手が多いのかな。

(「緩」のプレッシングと似た部分であるが)イカルディの守備でもう一つ特徴的なのが、「片方のCBに張り付く」という守備だ。これは2018ロシアW杯でのドイツvsメキシコにおいて、パス技術の高いフンメルスに徹底的にマークをつけ、ボアテングにボールを持たせるというメキシコの作戦が記憶に新しい。これは、「フンメルスにボールを持たせない」という効果以上に、「攻撃サイドを限定する」という点において効果を発揮した

インテルの場合も同様で、イカルディが片側のCBにつくことでCB間のパス回しが行えなくなり、ビルドアップにおける大きな障害となる。左右に揺さぶられることがなくなるため、後方のメンバーはボールサイドで迷いなく迎撃準備が行えるのだ。

横ドリに対してナインゴラン、ベシーノ、ポリターノの中盤3枚がこの高さに防波堤を築く事ができる。インテルの守備強度の高さを感じるシーン。

横へのドリブルで逆サイドとのリンクを狙うという選択肢も考えられるが、中央にベシーノやナインゴランといった守備能力の高い選手が配されており、即座にブロックを築くことも可能だ。ナインゴランの起用法は守備強度の高さを維持する上でも興味深いものである。

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サイドのひし形を破壊する

上述「緩」と「急」のプレッシングがもたらすもの。それはサイドのひし形の破壊と創造だ。

ビルドアップはハーフスペースの活用が効果的である。ハーフスペースに2人、内側と外側に各1人配置するひし形を形成できればパスコースの確保が容易となり、スムーズに前進できる。

対する守備側の有効な打ち手は何か?答えは単純、守備においてもサイドにひし形を形成すれば良いのだ。ただ、サイドを限定できていない状況でサイドに人数をかけてひし形を形成するのは非常に難しい。ここで活きるのが「緩」と「急」のプレッシングだ。

サイドで◇を作って前進するスパーズに対して、同じくサイドに◇を作って守るインテル。この◇作りを可能にするのが、
①サイドを限定するポリターノ等のカバーシャドウ
②イカルディ等によるコース切り優先のゆったりプレス。(味方に陣形整理の時間を与えるプレス)

サイドを限定する術を2つ備えているインテルは、サイドにひし形の陣を形成するのが巧みだ。主なひし形構成パターンはIH-WG-CB-アンカーとCF-WG-SB-IHの2パターン。上の動画を見ても2パターンのプレッシングを用いて、2パターンの構成で奪取を成功させているのが分かる。守備でひし形を創ることで、敵の攻撃のひし形を破壊する。

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速攻での対応

カウンターの攻防
◆インテル
・ジワジワと横幅を詰めながら後退
・押し下げられても崩れないライン
→抜けた攻撃手をオフサイドポジションに

◆スパーズ
・前線2人の斜めの動きでラインを押し下げ大外を空ける
→シュートエリアの確保
・抜けた後死角でフリーになり溢れを狙ったランナー2人。

インテルは速攻やカウンターでの対応も非常に落ち着いている。数的不利の局面でもジリジリと横幅を詰めながらパスコースを消しつつ後退。斜めに抜ける動きを取り入れたスパーズの巧みな攻撃に対してもラインを乱さず背後をケア。最も危険の少ない大外に迂回させシュートブロックの態勢を作り、抜けた選手は確実にオフサイドポジションに追いやっている。

この場面でもシュクリニアを中心にジワジワと横幅を詰める。背後に抜ける選手がオフサイドラインを越えたところで、CB2枚で挟撃している。非常に落ち着いた守備である。

逆にチェルシーの対応を見てみると分かりやすい。ホルダー、裏抜けの選手それぞれへの意識が強くなり、CB2枚が交差するような対応に。ラインに穴が空いたところに侵入され、失点を喫している。

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攻撃戦術

攻撃戦術についても簡単に触れておく。インテルの攻撃は何と言ってもイカルディの存在が大きい。ターゲットとしてゴール前でのワンタッチゴールも可能であれば、ポストプレーもそつなくこなす。

イカルディのポストベースで攻撃するインテル。
マリオとブロゾビッチでハムシクの位置を操作してパスコースを作る。

ボールが低い位置にある段階ではジョアン・マリオやブロゾビッチ、ボルハ・バレロといったIHの選手の動きで敵中盤ラインに穴を空け、DFラインから直接イカルディにつける攻撃パターンが数多く見られる。

インテルはクロスボールをDF-MFのライン間に放るのが上手い。メインターゲットのイカルディが2CBを引きつけて、ボールサイドの敵CHを外/前に引っ張り出してスペースメイク。空いた所に2列目が飛び込んでくる。

ゴール前まで前進した局面では、イカルディを警戒したCB陣と中盤ラインの間に平行のクロス(もしくはグラウンダーパス)を入れる形が多々見られた。SHとSBの間を切れない敵に対して非常に有効であり、IHの選手がボールを迎え入れてチャンスを作っていた。

インテルの攻撃で面白かったやつ。
サイドチェンジ+カットインでポリターノ→イカルディのパスコースを開放。からのガリアルディーニのダイナミックなランニング。ホルダーのすぐ脇を抜けるコース取りが秀逸。マテュイディでなければもっと楽にブチ抜いてた。

同様に平行のボールを直接イカルディに収めたシーン。走り込んだガリアルディーニはイカルディのすぐ脇を抜けている。イカルディのマーカーがそのまま対応することは可能かもしれないが、ガリアルディーニのマーカーが対応するのは非常に難しい。縦のランニングに対して2人の間に入る必要があるからだ。守備の名手マテュイディでさえ奪取には至っていない。イカルディのポストプレーを活かす上でこのランニングをこなせる選手・機会が多ければさらに攻撃の危険度が増していたことだろう。

引かれた時に大きな力となったのがボルハ・バレロ。自身が動くことでスペースを作り、少ないタッチでボールを捌くスペースメイカーは崩しにおける貴重なピース。イカルディのような派手さこそないが、堅実な仕事でインテルの攻撃を活性化させていた。

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おわりに

イカルディの組み込み方、ナインゴラン起用による守備強度の増強、複数のプレッシングの使い分け、守備時のひし形作成等、インテルの守備は非常に興味深いものであった。こういった守備を構築できるスパレッティは、今更改めて言う事でもないがやはり名将と言えるだろう。
来季は指揮官がコンテに変わる。インテルの今後、そして新天地でのスパレッティのチームに注目していく必要がありそうだ。

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サッカー戦術分析ブログ〜鳥の眼〜

コメント

  1. […] 思い切った策をとるとすれば、4-4-2を採用し畠中にマンマークをつける方法だ。これはインテルの守備戦術で解説した、W杯ドイツvsメキシコにおいて、メキシコが採用した守備である。畠中を消すことはつまり左サイド攻撃の起点を消すことに繋がる。つまり柔軟に動くティーラトンを無力化することにもつながる。 […]

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