ELプレーオフ敗退、セリエA開幕8戦で1勝3分4敗。18-19シーズン、厳しい船出となったのはガスペリーニ率いる昨季7位のアタランタ。しかしその後22節までの14戦は9勝2分3敗。独走を続けるユベントスは兎も角、2位ナポリの9勝4分1敗とほとんど差のない成績である。コッパ・イタリアにおいてはベスト8でユベントス相手に3-0と完勝した。
また、成績だけでなく内容も充実している。攻守において特徴的なのが、ガスペリーニの仕込んだ5バックの機能性。守備においては次々とスペースが埋まっていき、攻撃においては逆にスペースに続々と侵入していく。それはまるで空所に流れ込む水のようだ。
ということで今回はマニアなら絶対に押さえておきたいガスペリーニ・アタランタの5-2-1-2を、数回に分けて紹介する。まずは守備編その1。
基本布陣
アタランタの基本布陣は5-2-1-2。5バックは左から185cm、187cm、190cm、185cm、187cmと、大柄な選手が並ぶ。中盤2CHには守備の得意なデローンとフロイラー。前線のプレッシングへの連動と後方スペースのカバー&リスク管理で全体のバランスを調整するキーを担う。2トップ+トップ下はテクニックのあるイリチッチと、アジリティも備えたアレハンドロ・ゴメス、パワーとスピードのサパタが配置されている。
コンセプトと前提条件
アタランタの守備のコンセプトはザックリ言うと、「中央を使わせずサイドに誘導し、仕留める」だ。
アタランタ5212守備
・大前提として、前の3枚をCB+アンカーに当てて中央での組立てを許さない(SBを起点にさせる)
・枚数が足りなければ2CHが加勢
・サイドに誘導後、再び中を経由しようものなら刈り取る
「中央を使わせない」のは、5バックならではの弱点を隠すという意味合いも強い。多くの場合5バックを採用するチームは片方のWBを中盤に上げDFラインをスライドさせることで4バックに変化する。こうすることでサイドでの数的不利の発生抑止、中盤のスライド負担の軽減を図る。これを行うにあたり、攻撃側にされたら都合が悪いこと。それが中央の支配+WGの張り出しだ。丁度以前紹介したマンチェスター・シティのような形だ。
中央でボールを持たれた、両WGが張っている、となるとWBは両サイドとも1列前に上がることができない。両サイド共に背後を突かれる可能性があるからだ。さらには中盤の構成も歪になる。
攻撃側にとってこれはCFを含めた3トップで5人の敵を釘付けにすることができるという事だ。となると残るは守備側5人、攻撃側(GK除いて)7人。各所で数的優位を作りやすい状態となる。特にサイドでは、WBが1人で大外エリアを担うような現象も発生する。
逆に両WGに張られても、中央の支配は阻止する。つまりどちらかの「サイド」で持たせることができたら?ボールサイドのWBが前進し、残りがスライドして4バックを形成できる。WBの前進の判断もつきやすいのだ。
以上の点から、アタランタがサイドで仕留めるための前提条件が「中央を使わせない」ということになる。中央を使わせたら、仕留めるはずのサイドで数的不利となってしまうのだ。
前提となる「中央を使わせない守備」を担うのが主に2トップ+トップ下だ。彼らが敵の2CB+アンカーを見る。数的不利を受容せず、同数でのプレッシングを行うからこそ、確実にサイドに誘導できる。そのため、2トップ+トップ下の逆三角形構成が効果的なのだ。当然敵のシステムによって噛み合わせが外れるが、そこの調整役を2CHが担う。2CHのフロイラーとデローンにはその見極め能力が求められている。
ビルドアップの要となる中央ポジションの選手を潰せば、自然と攻撃の起点はサイドもしくはロングボールとなる。ロングボールに関しては、DFラインに大柄な選手を配しているため、それほどの脅威とはならないだろう。5バックで人数も足りており、ユベントスやホッフェンハイムのようなロングボール戦術をとるチーム相手でも、ある程度の対応を見込むことができる。
サイド攻撃対応
では、前提を満たしたうえでサイドを起点にされた時はどうするか?
サイド誘導後はWBが前進、HVがSBに変化し4バック化。長いボールはスライドの合図。
WBが前進しホルダーにアプローチ、HVがWGを捕まえる。WBは内側ではなく縦方向のパスを切るように寄せる。なぜなら、内側にはショートカウンターを発動させられる前線5枚の選手、最終ラインに残っている3枚のDFがおり、さらには受け渡しのリスクのある外側のWGをケアする必要があるからだ。
WBの前進と同時にSB化するHVも果敢に前進するシーンが多々。その背後のカバーはサイドによって異なる。右はCHのデローン、左はCBのジムシティ。WB-HV+αの3層でサイドの守備が行われる。
さらに敵WGが引いて受ける動きを見せれば躊躇なくHVも奪取に行く。ではその背後を誰がカバーするか。これは左右で若干異なる。
左サイドの場合は上図の通り、CBのジムシティがカバーする。左CHのフロイラーは守備も無難にこなせるが、デローンに比べて機動力に長けており、攻撃参加のタスクも担う。そのため彼はDFライン背後のボールに対してカバーシャドウでの制限に留め、ジムシティにケアを託す。
右サイドの場合、CHのデローンがHVの背後をカバーすることが多い。サイズのあるデローンは低い位置でのプレーが多く、DFラインに入って敵の攻撃を跳ね返すことも可能だ。
つまりサイド誘導後、WB・HV・CB(or CH)という「三重の網」が張られることとなる。この3人は全員違う高さに位置し、それぞれが背後をケアすることができるため非常に厚みのある守備となる。
5バックの守備。外での数的不利に陥りがちのシステムでも、「前線3枚+αのはめ込みによる早い段階での外誘導」という前提があればサイドに人数をかけて守る事が可能。
5バックシステムの守備はしばしばサイドでの数的不利を招くことがあると言われる。上で説明した5バックの弱点に関連する点だ。しかしアタランタのようにチームとしての前提条件を掲げることで、上述のようにWB・HV・CB(or CH)という三重の網を張ることもできるのだ。
サイドの厚い守備を見て、再び中央を経由しようとすれば前線の5枚が絡め取り、ショートカウンターを発動させる。サイドチェンジに対しては、ボールの滞空中にWBが対応のため距離を詰める事も可能だ。
おわりに
今回はアタランタ守備構造の大枠を紹介した。非常に面白い守備構造を持つチームだが、なかなか日本での注目度は上がらない。残念ではあるが、当ブログをご覧いただいている方だけでも注目してもらえれば幸いだ。
次回はさらにアタランタならではの守備の仕組みとその根底にあるもの、ウィークポイント等も紹介する。
コメント
[…] この試合を観た印象として、このチームはよく走るし、ゴール前で身体を投げ出す泥臭さも備えている。反面、同じ5バックでも先日取り上げたアタランタのような決まり事や敵を誘導するといった仕組みの部分は弱い。アトレティコやユベントス、ナポリのように守備の段階から自分達主導で奪いやすいエリアに誘い込むというのは難しい。いうなれば受け身の守備である。 […]
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