ウイングを張らせる意味~グアルディオラによるリスクを排した4-3-3戦術~
- 2018.10.09
- 戦術分析

偽サイドバックをはじめ、様々なアイデアを落とし込みピッチで表現させてみせるペップ・グアルディオラ。彼が率いるマンチェスター・シティが18-19シーズンCLグループリーグ第2節で対戦したのは、新進気鋭の若手指揮官・ナーゲルスマン率いるホッフェンハイムだ。
この試合で両指揮官はなるべくリスクを取らない戦い方をチョイスした。特にシティは、選手個人の高いクオリティを前提としてリスクを排した、無駄のない4-3-3で力の差を見せつけた。
スターティングメンバー
驚きはナーゲルスマンの選択したシステムとメンバーだ。この試合彼は慣れ親しんだ5-3-2ではなく、4-3-3をチョイス。
普段ホッフェンハイムが採用する5-3-2は前線3-2の5枚でペンタゴンを形成、アンカーをシャットアウトしてサイドに追いやり、待ち構えるWBを中心に奪取するスタイルだ。
ホッフェンの5バック+ペンタゴンセット守備。
・前の3-2はペンタゴン形成(2ラインではない)
・2トップはカバーシャドウでアンカーを消しつつ中央に蓋
・サイドに誘導したらIHがHSに蓋、SBがIH脇のケア、HVがその背後をケア。
・ペンタゴン内部では息をさせない。そもそも通させない。 pic.twitter.com/QjqfWBIaSF— とんとん (@sabaku1132) September 24, 2018
しかし、敵WGが高い位置で張っている場合WBが迎撃に出られないという欠点を持つ。
シャフタールのホッフェン・ペンタゴン崩し
・左サイドにオーバーロード、アタッカーを張らせてWBをピン留め→IH脇を空ける
・イスマイリー、タイソンを中心に、WBとIH、HVの受渡し連携の弱さを狙う
・IHがスライドする間に前進し、先手をとる。 pic.twitter.com/sNhAK1eqYh— とんとん (@sabaku1132) September 24, 2018
戦前、この5-3-2でシティを迎え撃つには無理があると思っていた筆者だが、さすがはナーゲルスマン。隠していた別の手で迎え撃つ。普段4バックを使う、もしくは試合途中で4バックへ変更することは少ないため、この一戦での採用はペップの狙いを外す上でも効果的であっただろう。さらにメンバーは怪我等での離脱により、4・5番手のCBアクポグマとポシュを起用。さらにアンカーには更に序列の低いCBホーフマを配した。
ホッフェンハイムの狙い
ホッフェンの守備ブロック
・ペンタゴン封印、4-3-3に。
→サイドケアのため。サイドに出たらIHとホーフマがスライド、WGはカバーシャドウでアンカー消しつつ寄せ。
→CF-WG間が開くため中央遮断に限界あり
→CFサライがジーニョを抑えるも、シルバの加勢で劣勢に pic.twitter.com/NYBJbAwzWn— とんとん (@sabaku1132) October 7, 2018
ホッフェンハイムが4-3-3で臨んだ最大の理由はサイドのケアだ。ボールがサイドに出たらWGとIHが対応。WGはカバーシャドウでアンカーを消しつつ寄せる。IHとアンカーのホーフマが適宜チャレンジ&カバーのためにスライドを行い、外からの攻撃をシャットアウトする。5-3-2に比べるとサイドに人数をかけて守れるうえ、難しいWBとHVの連携が除かれるため非常に効果的な打ち手となった。
シティvsホッフェン。シティの絶え間ない攻撃を中断させ、チームに時間を与えるデミルバイのプレス回避。懐に入れたボールを守りながらパスコースを作るのがめちゃ上手い。 pic.twitter.com/QXpbVF5hcE
— とんとん (@sabaku1132) October 7, 2018
また、ひたすら守勢に回るのを回避するのに一役買ったのがIHのデミルバイだ。彼はチームの中でも一際キープ力が高い。ボールを懐に収め、身体を巧みに使って敵をいなし、パスコースを作る。彼のプレス回避からボール保持を安定させ攻撃につなげるシーンが何度も見られた。
シンプルな4-3-3攻撃
ここからが本題。この試合のマンチェスター・シティは非常にシンプルでリスクをかけない4-3-3の戦い方をチョイス。ホッフェンハイムのカウンターへの警戒もあったのだろう。ポイントとしては下記4点。
①WGは高い位置に張り出す。
②アンカー周りのエリアを獲得する。
③SBはここぞという時以外上がらない。
④オーバーロードはかけない
シティの攻撃
・SBは基本上げない(カウンター対策)
・中央をとる
→ジーニョを警戒するサライの脇を狙うシルバがポイント
・両WGが開いて両サイドのチャンネルを開放
→3トップ+ギュンでチャンネル狙い撃ち
・狙いを絞らせない。数的優位は作らず、リスク管理重視。同点弾に。 pic.twitter.com/GAhV9Gq8y3— とんとん (@sabaku1132) October 7, 2018
まず①シティのWGサネとスターリングはサイド高い位置に張り出す。これは敵のDFラインの横の間隔を広げるのに役立つ。横の間隔が広がればチャンネルへの侵入が容易となり、カバーリングも難しくなる。高いドリブル技術とスピードを持ち合わせる2人と1vs1の状態となれば苦しいのは勿論ホッフェンハイムである。ここで重要なのは「横に広げる」が目的とならないようにすることだ。横に広げる事で広がったチャンネルに「侵入」する意識を持たなければ全く意味がない。
上記を前提として、次に狙ったエリアが②ピッチ中央、アンカー(フェルナンジーニョ)周りだ。ピッチ中央は当然だが、パスの供給源として獲得したいエリアである。ホッフェンハイムはこの試合、サイドの守備に軸足を置いた。サイドに出た際WGにアンカーを切らせるよう徹底していたナーゲルスマンだが、前線3枚で横幅をカバーしつつアンカー周辺のエリアも同時に守るのは難しい。守備意識の非常に高いCFサライもアンカーを警戒していたが、ここに関わってくるのがクレバーなシルバである。
サイドのボールをCB等を経由して中央に戻すと、「経由」に弱いカバーシャドウは無力化される。この状態でCFサライの脇からシルバが顔を出す。フェルナンジーニョは囮に使われる形だ。チームのボール循環の為に囮としてのポジションを取るのもアンカーの重要な役割の一つだ。オーバーロードを行わない以上、パスの供給エリアである中央の制圧は大きなポイントとなる。
WGの張り出しによるチャンネル開放+中央での主導権獲得。ここまでくればあとは単純だ。チャンネル、裏のスペースへIHと3トップを走らせる。非常にシンプルだが効果的な攻撃戦術だ。前線に無駄な人数をかける必要がない(④オーバーロードをかけない)ため、③SBはここぞという時以外上がらない。カウンター対策に専念できる。
3トップのクオリティと裏への意識、IHの技術レベルが高いからこそとれる戦術である。3トップとIHに裏への意識が無ければU字のパスが続くこととなり、この戦術は機能しない。
同点弾はまさしくこの形からだ。シルバが中央でターンを決め、開放されたチェンネルへのスルーパスをサネに送り届ける。理想的な一撃であった。
万全のカウンター対策
シティのカウンター対策
・中央エリア攻略+両WGの張り出しで、リスクの少ないシンプルな攻撃を実行
→両SBに高い位置を取らせない。
・奪われたら即座に4バックが横幅圧縮、壁を作る
・1枚が迎撃に出ても穴が開かない。 pic.twitter.com/YOmBu4aRIg— とんとん (@sabaku1132) October 7, 2018
上がシティのカウンター時の対応だ。4バックの距離間が非常に良い。SBが上がらないため、即座に帰陣して壁を作ることができる。どちらもアンカー不在の状況となっているが、4枚が圧縮しながら後退する方法、1枚が迎撃に出て残りの3枚で穴を埋めつつ◇を作る方法。共に高レベルで遂行しているのが分かる。
※被カウンター対応について詳しくはこちら
選択肢を潰すプレッシング
シティのプレッシング
・カバーシャドウとタイミングの良い押し上げ
・アグエロは右HV-CB間、シルバはアンカーを切りつつ左HV
・DFラインが高い位置をとる事で中盤のラインは前から捕まえに行ける
・スピードに頼らず1つずつ選択肢を奪っていくプレッシング pic.twitter.com/jDWck7zFmZ— とんとん (@sabaku1132) October 7, 2018
ブロックを作る際は4-4-2のラインディフェンスとなる。
各選手の役割は、
アグエロ:右HV-CB間。隙あらばCBから奪取。
シルバ:CHを消しつつホルダーに寄せる
右SH:WBを捕まえる。楔をひっかける。
CH:敵CHを背後から狙う。ホルダーの状態を見てCHを放し、ロングボール対策に切り替える。
こちらに関してもレベルの高い守備を見せているのが分かる。各選手が複数の役割を担う事で非常に効率の良い守備を実現している。
おわりに
ペップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティの4-3-3についてみてきた。この試合はリスクをかけず、非常にシンプルに4-3-3を機能させていた。様々なアレンジを取り入れていくのがペップだが、アレンジを加えないスタンダードな形がこの試合の4-3-3だと言えるだろう。ウイングを張らせる、中央を制圧する、チャンネルや裏を狙う。裏に飛び出す意識が無ければただのU字パス製造システムであり、そんな状態に陥っているチームも少なくない。攻撃に人数をかけずにカウンター対策を行いつつ、中盤から前線のクオリティで勝負する。非常に堅実な強者の戦い方であった。
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