【Impregnable】クロップ・リバプールの4-3-3守備戦術の分析

【Impregnable】クロップ・リバプールの4-3-3守備戦術の分析

プレミアリーグで好調を維持するリバプール。その要因となっているのが鉄壁の4-3-3守備システムだ。ユルゲン・クロップが構築したこの守備組織はどうしてここまで堅いのか?対戦チームはなぜ前進できないのか?

極めて緻密に設計された構造を、プレミアリーグ第8節マンチェスター・シティ戦をベースに分析する。また、チェルシーvsリバプール、そして前記事にて分析したホッフェンハイムvsマンチェスター・シティを比較サンプルとして用いる。

守備戦術シリーズとしてはサッリ・ナポリの4-1-4-1、シメオネ・アトレティコの4-4-2に続く第3弾。両チームに勝るとも劣らないクロップ・リバプールの4-3-3は必見だ。


スターティングメンバー

各ポジションの役割

 

クロップ・リバプールの4-3-3の基本的な立ち位置と役割は上図の通りだ。
★CF(フィルミノ):ホルダーとアンカーの直線上でアンカーを消すカバーシャドウ
★WG(マネ、サラー):CBとSBの間でSBを消すカバーシャドウ
3トップは全員、カバーシャドウを用いた制限をかける。
★中盤3人(ミルナー、ヘンダーソン、ワイナルダム)
IH、アンカーに前を向かせないように寄せられる位置(高さ)& 3トップの隙間(幅)
中盤3枚はフラットに並ぶ。そのため中央のヘンダーソンも積極的に前進してプレッシャーをかける。前を向かせずバックパスを選択させれば、WGがそれに合わせてプレッシャーに向かえる。
★SB(ゴメス、ロバートソン):WGを高い位置まで捕まえに出る。
★CB(ファン・ダイク、ロブレン):SB裏のスペースをカバーできるくらい外まで出る。

基本的にカバーシャドウをかけるのは3トップのみ。3枚で制限をかけて、残りの7人で網にかからなかった獲物を仕留めに行く。

CB→SBへと渡った場合

CB→SBのパスは、WGのマネとサラーがカバーシャドウで牽制をかけているため、出しにくい状態となっている。ただ、そうはいっても毎回切れるわけではない。トランジションで陣形が乱れた時などは特にそうだ。SBに渡る際、プレッシャーがきちんとかかっている状態のときはIHが前に出てアプローチに向かう。この時中央が空いてしまわないよう、WGのマネは味方(ミルナー)の位置を見て確実に絞ってハーフスペースを封鎖している。この担当ゾーンの受け渡しが、敵の前進を阻むうえで、また体力の消耗を抑える上で非常に効果的であった。前方のWGマフレズはSBロバートソンが対応し、その裏はCBファン・ダイクが流れてケアをする。マネが中央を埋めて、フィルミノがアンカーを切ることで、敵の攻撃の選択肢を絞れているからこそ可能な守備である。

WGが外に釣られた場合

WGのカバーシャドウが利かず、プレッシャーがかかっていない状態でIHのアプローチも間に合わない。その場合はWGがCHを切りながらSBにアプローチをかける。これはホッフェンハイムと同じ対応だ。では何が違うか?それは3センター中央の選手のポジショニングだ。

ホッフェンハイムのホーフマは中盤の底、低い位置で横のスライドに重点を置いていたが、リバプールは中盤3枚がほぼ横並びであり、中央のヘンダーソンが前進して奪いにいけば、両脇の2人が絞ってカバーポジションにつくという流れが浸透している。

上の動画においてマネが外に出てフィルミノとの距離が空いてしまった際、ヘンダーソンが前進して埋めている。この時、ミルナーとワイナルダムは中央のカバーができる位置にポジションをとり、さらにフィルミノがD.シルバを消すためにカバーシャドウをかけているのが分かる。チーム全体にカバーリングの意識が浸透していることにより可能な守備である。

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ファーストラインを通過された場合

 

これだけ策を張り巡らせても通過される時は通過される。このリバプールの守備も決して完璧ではなく、課題もあるからだ。では、ファーストラインを通過された場合どのような対応をとっているのか?

基本的に3トップの内、戻るのはCFのフィルミノだけだ。ただしフィルミノもアンカーからボールを奪取できる位置までである。この時、必ずしもカバーシャドウをかけられる位置というわけではなく、背後から強奪できる位置。とにかくアンカーを使わせないという点に意識を置いているようである。

WGの2人、マネとサラーはそれほど戻らない。ただし、戻らない=守備をしないというわけではない。守備は確実にこなしている。
WGの2人はCBを使ったやり直しを防ぐ役割を果たしている。これは低い位置まで戻ったらこなすことのできない役割だ。ファーストラインを通過された際に3トップ全員がやり直しを防ぐ守備へとシフトしている。そのため中盤、DFラインはボールサイドにスライドして積極的なチャレンジ&カバーを行う事が可能となる。

また、リバプールのWGの持ち味は何と言ってもスピードだ。前線にWGを残す事でこの脅威を敵に植え付けることができれば、カウンター対策のため攻撃にかける人数を制限させることができる。「抑止力」として働かせることで敵の攻撃力を弱めているのである。

ホッフェンハイムの4-3-3との違い

ホッフェンハイムとリバプールの4-3-3。並びは同じだが、中身は大きく異なる。それは上述のポイントなのだが、まとめると以下のポイントとなる。

①WGのカバーシャドウ
②WG-CF間の埋め方
③前から寄せる中盤の構造

ホッフェンハイムの4-3-3との最大の違いはWGのカバーシャドウだ。リバプールのWGは「外にパスを出すのを躊躇させる守備」を行っているのに対し、ホッフェンハイムは「外に出されてから対応する守備」を行っている。その際にWGがアンカーを切りながら外にプレッシャーをかけるのだが、WG-CFの空間を埋める術を持たなかった。シティ戦はそこから同点を許している。中盤は横のスライドに忙しく、ピッチ中央アンカー周辺のケアに気を回す余裕が持てなかったのだ。

横にボールを動かせばボロがでるホッフェンハイムと、横のボールの移動を躊躇させるリバプール。言わば付け焼刃のホッフェンハイム4-3-3の守備組織は、「アンカーを切るWGの寄せ」を除くと大きなレベルの差を感じさせるものであった。

シティ、チェルシーの打ち手

レベルの高い守備を見せるリバプールに対して、シティやチェルシーはどんな手を打ったのか。まずはシティの例を見る。

シティはアンカーのフェルナンジーニョの横にもう1枚(B.シウバ)加えるアプローチをとった。ホルダーとアンカーの間に立って邪魔をするフィルミノに対して、ボールの出口をもう一つ増やしたのだ。CF1人で2つのパスコースを切るのは不可能であり、このアプローチはホッフェンハイム戦でも採用していた。

一方でチェルシーはまず、CBを大きく開かせた。CBが距離をとるとホルダーとアンカーの間に立つフィルミノの移動距離も長くなり、対応できなくなる。シティと同様、崩すのは負担の大きいフィルミノからであった。そこからはサッリが得意とするオーバーロードの出番だ。カバーシャドウの弱点であるレイオフを用いるため、IHをサイドに流れさせる等でオーバーロードを実現。前進した後はウィリアンを裏に走らせるオプションも見せ、リバプールに対し優位に試合を進めて見せた。

おわりに

リバプールの守備は非常に緻密な構造で成り立っている。

①アンカーを使わせない。→使われたら中盤が対応
②SBを使わせない→使われた時の対応を2パターン用意
①と②によりファーストラインを通過させない→通過されたらサイド限定、やり直しを防ぎ、カウンターに繋がるポジションをとる→やり直しと攻撃にかける枚数の制限により単調な攻撃を強いる

アンカーを使わせない、サイドにも出させない。仮に使われても受渡しが整備されており、奪うための術が全体に浸透。カウンターへの筋道も明確だ。

完成度の高い守備組織だが課題としては上述の「打ち手」への対応、そして起用される選手によって少しずつ歯車が狂うという危険性だ。例えば、前半でミルナーと交代したケイタが確実に役割をこなしたかというと疑問が残る。時折判断ミスが見受けられ、少なくともミルナーのようには機能しなかった。

そしてトランジション等によりポジションがずれた場合。例えばトランジションの影響でフィルミノとサラーが入れ替わった際に各々が同じ仕事をこなせるかというと答えはNoであった。
課題はどのチームにもある。ただしリバプールにはこういった課題を覆い隠す「スピード」という絶対的な武器がある。絶対的な武器を手に、守備のフェーズから主導権を握ることができるのはこのチームの強さの秘訣だと言える。緻密な守備組織と絶対的な「スピード」という武器を手にプレミアリーグ、チャンピオンズリーグでのタイトルレースに間違いなく絡んでいくことだろう。