【戦術用語】「オーバーロード」とは?~サッリ、ナーゲルスマンが落とし込んだ戦術~

戦術用語解説

14-15シーズン:ブンデスリーガ3位と躍進したファブレのボルシアMG
15-16シーズン:クロップ退任による不安を見事払拭したトゥヘルのドルトムント
16-17シーズン:ITをも活用しCLプレーオフ出場権を獲得したナーゲルスマンのホッフェンハイム
17-18シーズン:王者ユベントスに食らいつき最後までスクデット争いを演じたサッリのナポリ

結果及び戦術的に話題となったこれらのチーム。記憶に新しいことだろう。どれもパスを繋いで点が取れる魅力的なチームであった。この4チームに共通点はあるのだろうか?その共通点こそが今回取り上げる「オーバーロード」である。

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オーバーロードとは?

辞書的な意味での「オーバーロード」は負荷のかかり過ぎている状態の事を言う。ではサッカーで言うところの「オーバーロード」とは何だろうか?

それは「一定のゾーン(エリア)に人数を集中させること」を言う。

上の画像で言う左サイドがオーバーロードのかかっている状態。人数をかけて、細かいパスを繋いで攻撃を展開するために必要な距離間を確保している。

敵からしてみれば、特定のゾーンに複数人が雪崩れ込んでくるため数的不利が生まれ、対応に苦戦する。当然全体を大きくスライドさせて守るのだが、その際反対サイドの人数が少なくなる。この状態は聞き馴染みのある人も多いことだろう、「アイソレーション」と呼ばれる。各エリアに均等に選手を配置するのではなく、あえてバランスを崩すのがこの戦術の特徴である。

上述4チームはいずれも左サイドをベースとしたオーバーロードを採用し、アイソレーションの状態となっている右サイドに対角のロブパスを送り込むバックドアを武器として装備していた。

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メリット

オーバーロードを採用することによる利点は下記。

①選手間の距離が狭まり、ロンドの様な細かいパス回しが可能になる
②縦パスの出し手・受け手、スペースへの侵入者の確保、増加。縦へのスイッチを入れやすい
③枚数不足に起因する縦への推進力の欠如が解消される
④溜めを作りやすい
⑤アイソレーションサイド、一撃必殺バックドア
⑥ボールを奪われた際にプレッシングをかけやすい

オーバーロードの最大の特徴は何と言っても選手間の距離が近くなることだ。

「選手が開いて広く距離をとる→パス回しに対して敵だけでなく味方の移動も追いつかず、数的優位の作成およびスペースに侵入する選手を確保するのが難しくなる→縦へのスイッチが入らない→やり直し(U字のパス)」という負のサイクルが無くなる。

上記が①、②、③に関連する部分である。U字のパスが敵の守備ブロックだけでなく味方のリンクをも断ち切ってしまうケースは少なくない。特定のエリアに枚数を集める事で楔の受け手、出し手の枚数を確保。さらにスペースへ侵入する役の選手も確保することで縦への推進力が高まるのだ

低い位置にポジションをとる選手をスペース(チャンネル)への侵入役に設定すれば守備側は大混乱だ。ただでさえ人数が不足する中、低い位置でフリーだった選手がチャンネルに入ってくる。さて誰が見る!?敵にそんな判断を迫るインテリジェンス溢れるプレーを見せるのがイニエスタだ。彼を観に行く際はそういった部分にも注目してみてほしい。

そして細かいロンドの様なパス回しが可能となることで④溜めが作りやすくなる。この溜めが様々な攻撃を可能にするわけだが、その一つが⑤アイソレーションサイドの選手とのバックドアである。

ボルシアMGはヘアマン、ドルトムントはギンター、ホッフェンハイムはカデジャーベク、ナポリはカジェホンをアイソレーションサイドに配置し、オーバーロードサイドから送り込まれるロブパスを得点に結びつけた。

シャカ、香川真司、デミルバイ、ジョルジーニョ等それぞれが抱える優秀なパサーの存在も大きかったが、それ以上に正確なボールを送り込むための時間(溜め)の確保、角度のつけ方、死角作りがチーム全体に浸透していたことの影響が大きかった。

守備の面でみれば、短いパス交換の最中でボールを奪われる=敵へのアプローチの距離も短いため、即時プレッシャーをかけやすいという利点がある。

選手配置としては、
★オーバーロードサイド
・細かいパス交換が可能なテクニックのある選手
・スペースの創造、侵入が可能な選手
・対角のパス精度の高い選手。

★アイソレーションサイド
・裏を突くのが上手い選手
・走力に秀でた選手
・リスク管理ができる選手

が配置されている。

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デメリット

欠点としては、ボールを奪われた後のプレッシャーが上手くかからず、オーバーロードサイドから逃げられてカウンターを浴びることだ。如何にファーストプレスで奪い返す、もしくは遅らせるか。そしてリスク管理を行うかが重要となってくる。

上記4チームだと、ボルシアMGとナポリは右SBを必ず残しており、カウンター対応も徹底して統制された動きを見せていた。

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おわりに

今回紹介したオーバーロード、戦術的な利点は上述の通り。緻密なパス交換、縦への推進力、逆サイドでの一撃必殺…。これらの攻撃は単純に観ている側にとっても楽しいものだ。上記4チームは非常に観ていて面白いサッカーを展開していた。偶然にも毎年別のチームでオーバーロードを採用・機能させているチームを観てきた。4-4-2、4-3-3、5-3-2とベースのシステム自体も多様だ。18-19シーズンにオーバーロードを駆使するチームは現れるだろうか。非常に楽しみである。

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サッカー戦術分析ブログ〜鳥の眼〜

コメント

  1. […] こうすることでパスラインを確保、数的優位を確実なものにする。当然のことだが規模が小さくなるにつれ1枚の数的差異が持つ意味は大きくなっていく(1万人vs9,999人と3人vs2人では1枚差の持つ価値が違う)。この最小単位の数的優位作り(オーバーロード)が彼の特徴だ。2トップのもう一方が数的不利の解消に動けば逆CBがガラ空きとなる。食い止めるには連動を行うしかないが、少しでも連動にズレが生じれば右脚から高精度のロングボールがその傷口に向かって放たれる。 […]

  2. […] […]

  3. […] また両IH、FWが左サイドでオーバーロードをかけるパターンも多く、これに関してもSB裏攻撃を促すポイントの1つとなっていた。 […]

  4. […] そこから左サイドに多くの選手を密集させて細かいパスで崩す形(オーバーロード)や、ジャカの精度の高いロングパスを活かして素早く右サイドに展開し、高い位置を取るベジェリンが相手のSBと1対1の状況となる形(アイソレーション)で多くのチャンスを作っていた。 […]

  5. […] ナポリは左サイドをベースサイドに設定しオーバーロード(人数をかける)をかけて攻撃を展開した。ベースサイドを設定することで攻撃に人数がかからないという状態が発生しないような工夫を加えていたのだ。オーバーロードが可能にしたロンドの様な細かいパス回しには溜め(次の攻撃に繋げるための時間的バッファ)を作る効果もあったため、攻撃が単調化しなかった。左は人数をかけて、右はシンプルな攻撃&バックドアでのフィニッシュ役。 […]

  6. […] 大きく3つ。・ベースサイドを設定したオーバーロードを実現・サッリのナポリを再現・勝てるチーム […]

  7. […]  サッカー戦術分析ブログ〜鳥の眼〜  3 users【戦術用語】「オーバーロー… […]

  8. […] 最も多く見られる形だ。バイリーが張ってSBを釘付け、ヴェンデルがSHを引き付け、中間地点にブラントが流れてオーバーロードを作る。そこから本職WGのIHブラントがアクションを起こす。 […]

  9. […] アヤックスの攻撃はマンチェスター・シティのように両WGがワイドに開いて幅を作ることをしない。基本的に片側のサイドにオーバーロードを創り出して攻める。起点は中央よりもサイド(CHも若干外に位置する)になることが多く、逆サイドの選手が絞ってくるため中央にも人が集結する。これを可能にするのが、シンプルに個々人のボールコントロールの上手さである。 […]

  10. […] 偽サイドバックが上手くいかない時の策としてのサイド攻撃。シンプルな形、オーバーロードを駆使した形の両方が見られる。 […]

  11. […] いくつかパターンを説明した後、最後にまとめた動画サンプルを載せる。アタランタは右サイドでオーバーロードをかけるため、主人公は背番号2、右HVトロイとなる。 […]

  12. […] ※ちなみにハーフスペース起点のひし形の利点は下記の通り。オーバーロードを採用するチームに多い。 […]

  13. […] […]

  14. […] 状況に応じて、ベースとなる3人に左CBラングレやCFのスアレスが補佐に入る事でオーバーロードの状態を作り出して攻めるパターンも備えている。 […]

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