アタカール・エル・バロンとは?~ジョルジーニョが無数のパスコースを生み出せる理由~
- 2018.09.18
- 戦術用語

以前、【サッリ・チェルシー】軌跡の出発点。開幕前の現状課題の分析の記事でも触れたように、18-19シーズン、サッリ・チェルシーはまだまだ発展途上ながら順調なスタートを切った。サッリ・サッカーの中心にいるのは、サッリと同じく今夏ナポリから加入したアンカーのジョルジーニョだ。
ジョルジーニョは味方との距離間を維持するのが抜群に上手い。決定的なパスを出す前段階、ビルドアップからチームとしてのボール循環を考えた適切なポジショニングを維持している。こまめにボールを引出しシンプルに捌くことで敵チームのプレスをいなし、味方に時間とスペースを与える彼のプレーは、サッリのサッカーには欠かせない重要なピースとなっている。そんな彼が得意としているプレーにアタカール・エル・バロン( atacar el balon )という動きがある。
今回はアンカーには特に習得していてほしい、アタカール・エル・バロン( atacar el balon )の重要性について。
アタカール・エル・バロン( atacar el balon )とは?
この動きはボールを迎えに行くことで縦パスの出発地点をずらすプレーである。3人目Cを介することにより、Bへのパスコースを遮断しようとする敵の守備を無効化している。この時のCの「3人目としてボールに寄る動き」が、アタカール・エル・バロンだ。フットサルでよく使われる言葉である。
レイオフ同様、敵のカバーシャドウを無効化するこの動きを取り入れることができれば、パスの選択肢が圧倒的に広がる。
アンカーがこの動きを身につける利点は以下の3点。
①3人目としてCB間をリンクさせればプレス回避に繋がるだけでなく、わざわざDFラインに降りなくて良いため、中盤に厚みをもたらすことができる。
②浮いた位置となりやすいため、前を向けるうえ、前方のスペースを使いやすい。
③2択を迫ることで優位をとる。
ジョルジーニョがプレスを回避し、味方に時間とスペースを与え、チームとしてのボールの循環をコントロールできているのはこの動きを頻繁に取り入れているからである。
実践例
実践例を見てみる。
アンカーの「寄り」の動き。
・フットサル、スペイン語だと"atacar el balon"て呼ばれるらしい。
・寄りからダイレクトで叩く
・ホルダーとパスの出し先の間に立たれてパスコースを切られた時、ボールの位置を動かし角度をつける事で簡単に通せる
・ジョルジーニョが得意なやつ。 pic.twitter.com/EDzHII37eB— とんとん (@sabaku1132) February 4, 2018
ジュルジーニョ得意のアタカール・エル・バロン
ボールホルダーに近寄り、パスの出発点を変える事で、楔を打ち込むパスコースをつくる。ボール循環を促すうえでアンカーには備えていてほしい技術。 pic.twitter.com/KQUaXOLBMz
— とんとん (@sabaku1132) July 14, 2018
どちらもボールに寄ることで新たなパスコースを作り出しているのが分かる。ボールホルダーの代理で楔を打つようなイメージだ。ボールホルダーは、ジョルジーニョがダイレクトで楔を打てるよう弱めのパスを出している。この点からも、複数人で意識的に行っているプレーであると言える。
IHがSBと連携して楔を打ち前進する手法もよく見られる。
サンプルはナポリのハムシクとアーセナルのスミス・ロウだ。
ディアワラ活用応用編
・ハムシクがポジションを下げ、ディアワラは上げる
・カンプルがハムシク対応で出るが、ポジションを上げるディアワラの監視役が不在に
・ハムシクのatacar el balon→レイオフの美しい流れ
・ハムシクの降りる動きはこの試合通じて多々。 pic.twitter.com/Ba20MlyaIo— とんとん (@sabaku1132) February 26, 2018
スミス・ロウ
・サイドチェンジに合わせてSBに寄るアタカールエルバロンがお得意。
→食いついてきた選手を外してランニングアーセナルはこういった局所的な優位を作るプレーを得意とする選手が多い。 pic.twitter.com/z2V30yjnO2
— とんとん (@sabaku1132) August 17, 2018
IHの場合は楔を入れたあと、そのまま次のスペースを狙ったランニングへの移行をスムーズに行う事ができればより効果的だ。
最後にジョルジーニョのアタカール・エル・バロンを餌にしたボール循環を見せるナポリとチェルシーの攻撃を見てみる。
ボールに触れずに循環促すジョルジーニョ
・ホルダーに寄るatacar el balonで敵を動かす
・ついてくれば逆のハムシクが降りてくる
・こなければダイレクトで縦に
・自らが敵をひきつける事により空けたスペースを使わせる意識。コーチングが証左。 pic.twitter.com/gQSKqd6JKl— とんとん (@sabaku1132) April 16, 2018
背後をとるチェルシーの攻撃
・敵中盤ブロックの手前でフリーの状態を作る
→可能にしたのは、2CBと常に優位を作るジョルジーニョ
・プレッシャーがかからない場合背後を警戒し後退するのがセオリー
・プレッシャーとラインコントロールの関係性 pic.twitter.com/MBh3zTGPor— とんとん (@sabaku1132) August 20, 2018
アタカール・エル・バロンは、メンディの偽サイドバックや、3オンラインと同様、敵に2択を突き付ける攻撃である。
ジョルジーニョのアタカール・エル・バロンに対して敵が
①ついてくる→反対のハーフスペース(CB)が空くため、そこから前進可能
②ついてこない→ダイレクトで楔を打ち込む
という2択を迫ることができる。
数的優位の考え方としては、先日挙げたマテオ・ゲンドゥージの考え方と近いものがある。近距離でボールを扱うため、周囲の選手が近い距離、狭いスペースでも安心してボールを当ててくれないとアンカーとしては厳しい。
おわりに
アンカーの選手がこの動きを身につけていれば、パスの選択肢が圧倒的に広がるためチーム全体のボール循環が非常にスムーズになる。ジョルジーニョはこういったボール循環を促すポジショニングが巧みだ。まさにアンカー、そしてアタカール・エル・バロンの手本となる選手である。
ただ、周囲の選手がアンカーの意図・作り出したスペースを把握していなければ意味がない。チームとしての相互理解・完成度が高まるほど、この動きの効果も大きくなる。
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