”偽10番” セントラルウインガーとも称されるその役割とは?

戦術用語解説

こんにちは。今回はセントラルウインガーとも称される”偽10番”についての紹介です。

偽10番(False 10)は2010年南アフリカW杯くらいに、流行りそうで結局大して流行らなかったワードです。それを何故今更…?と思う方もいるでしょう。理由は単純。私が、偽10番の役割が好きだからです。

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偽10番とは

偽10番の基本ポジションは従来通り4-2-3-1や4-3-1-2のトップ下の位置です。
ちなみにこのトップ下が位置するエリアは「ゾーン14」と呼ばれています。

クラシカルな10番は常にゾーン14に位置し、来る瞬間まで準備。ボールを受けると自身のテクニックとアイディアを融合させ決定機を演出します。対して偽10番はサイドに流れることでゾーン14を空洞化します。基本は中央に位置するが起点を作るためにサイドに位置を移す、という点からセントラルウインガーという矛盾を孕んだ面白い表現が使われています。

ゾーン14の空洞化には3つの効果があります。ゾーン14の空洞化を前提に、下記3つのいずれかを成す動きが偽10番の動きです。

①サイドで数的優位を築く
②マークの噛みあわせを外す
③ゾーン14を他の選手に使わせる

それではまず画像で例を挙げてみます。

数的均衡が保たれている左サイドに偽10番が流れます。

このシチュエーションにおいて、CHが偽10番の動きに
(1)ついてくる→ゾーン14が空く。さらにSHが入れ替わりで侵入可能。
(2)ついてこない→サイドでの数的優位確立。
という2択を迫ることができます。上の3要素でいうと

ついてくる:②・③
ついてこない:①
の効果を発揮します。

サッカーにおいてこの「2択を突き付ける動き」というのは非常に重要ですね。相手になんらかのリアクションを迫ることになるので崩しの糸口となります。

では実際に偽10番がどのように機能するのかを見てみましょう。

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偽10番の代表例

私が真っ先に思いつく偽10番の代表例はレアル・マドリードのイスコ、ドイツ代表のエジルです。

イスコ

このシーンも面白い。これはクロースが大きく開く。エレーラの対応をイスコのポジ取りで牽制、縦のパス交換の最中イスコがマティッチを外に引っ張るランニング。空いた中央でカゼミロがリンクに走り、押し込むとモドリッチとクロースが前進、カゼミロはカウンター対策に下がっていく。

このシーンでは左に流れてマティッチを外に引っ張り、中央カゼミロの侵入を容易にしています。

このシーンでは右に流れることでカルバハル&イスコvs左SBフィリペの2vs1の数的優位を作り出し、フィリペを混乱に陥れています。

このシーンではサイド2vs2の局面に加わる事でアトレティコのCBをサイドまでひきずり出します。これによりゾーン14付近で2vs2の状況、さらにマルセロが浮いた状態になりました。

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エジル

マークのズラし方とスペース創出が上手なシーン。クロース、HSでIH釣り出し→ドラ降りる→SB釣出される→エジルがその裏へ→SB戻りSHに受渡す→ヴェルナー降りてアンカー釣り出し。ここまでで創り出されたスペースをケディラとドラクスラーで利用。うめぇなほんとに。

このシーンでは左に流れる事で、本来左SHのドラクスラーをマークしていた右SBを引き付け、マークの噛み合わせを外すと共に、空洞となったゾーン14へドラクスラーが侵入するお膳立てをしています。

ドイツはエジルが拠点を移してリンクに、そこから空いた空間に送り込んでズラしていく。そしてコンフェデから爆発的に存在感を増したドラクスラー。スペースを突くだけでなく、スペースを創出してヘクターを浮かすダイアゴナルが絶品。これができる人が居ると攻撃は回る。小さい動作でのターンもお見事

(29秒からのシーン)

このシーンはサイドに位置をとることでSBとCHを釣り出すと共に、空洞化した中央に入ったミュラーへの配球に成功しました。

イスコは極端にボールサイドに寄り、細かい連携とテクニックで崩しにかかるタイプなのでサイドにも頻繁に顔を出します。また彼の場合、スペースの感覚とボールの受け方も一級品です。

エジルに関しては極端にサイドに寄るということは少ないですが、ゾーン14から外れたハーフスペースでのゲームメイクが抜群に上手いです。この点に関してはマンチェスター・シティのダビド・シルバと世界で一・二を争う選手だと思っています。

我らがラースの同点弾。ワイドのルディがSBを牽制、SB-CB間でラースとゲッツェが重なったような位置取り。アウトでタイミングを外したエジルの楔と同時に、手前のラースがパスラインから外れてゲッツェからのパスを受ける。

HSの活用法に関しては別記事で上げるかもしれないので、ここでは紹介に留めます。

また、「セントラルウインガー」は、4-3-3や5-3-2のIHにも該当するプレー特性ワードです。そのため必ずしも偽10番=セントラルウインガーというわけではありません。エジルなんかはゾーン14を空洞化しますが、サイドまでは流れずにHSで留まりますからね。

こちらも例を挙げてみます。代表例はシャルケのレオン・ゴレツカです。

先制点。これもキミッヒが受けてから溜めを作り、敵WBを引きつけスペースメイク。そこにゴレツカが低い位置から抜けてタッチラインに沿うパスを受ける。中央で弾かれるも絞り込んだキミッヒがセカンド回収、ルディが右脚一閃。

シャルケvsヘルタ。HSとCH脇を効果的に出入りして作るベンタレブ、浮かせたり角度つけたりパスがいちいちお洒落。ゴレツカは抜け出しとミドルでらしさが。これで守備もめちゃ堅いんだから、後は組立て等攻撃に絡む頻度を増やせれば。

面白かったWBヘクターとIHドラクスラーの入れ替わり。ヘクターが敵SBを巻き込むように縦→内に駆け上がりドラクスラーを浮かす。ドラはHSか大外で浮いた状態で受けられるため得意のカットインで仕掛けやすい。SHはギンターが食いつかせてるためSB-SHにスペースが生まれるという仕組み。

これらは説明不要ですね。数的同数、もしくは敵SBを釣り出している状態の時にチャンネルもしくはSB裏へ侵入していくプレーです。

セントラルウインガーという名称とプレースタイルに関しては上のイスコ、エジルよりもゴレツカの方が合っていますね。IHにも様々なタイプの選手がいますが、WGをサイドに開かせて敵の守備ブロックを広げようとするチーム等では、彼のようなダイナミックなランニングでチャンネルに侵入できるIHの存在は間違いなくプラスに作用します。

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おわりに

ということで、偽10番およびセントラルウインガーの紹介でした。

冒頭で偽10番という役割が好きだと書きましたが、クラシカルな10番が嫌いというわけではありません。むしろロマンがあり、かつノスタルジックでもあるのでたまにそういう選手が出てくると応援したくなります。

結局、「チームとしてきちんと機能するような組織づくりがされているか」であり、されているのであればどちらも重要な役割ですね。

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コメント

  1. […] 先の分岐の前者「SBが対応に出る」場合。IHがSB裏を狙う「セントラルウインガー」としての役割を担う。この時リヨン守備陣の頭に引っかかるのは2トップの存在だ。ナーゲルスマンは必ず1人、ポストプレーをこなせる大型FWを起用する。この試合は2人とも大型のFWサライとベルフォディルだ。この2人が2CBと逆SBをゴール前に釘付けにする役割を果たす。つまりSB裏をケアするのはIHもしくはアンカーということだ。これにより深い位置まで進出すると共に、敵の中盤をさらに押し込むことが可能となる。2トップという構造が、セントラルウインガーの働きの効果を倍増させているのである。 […]

  2. […] ホッフェンハイムのWBは基本的にそれほど高い位置をとらない。RBLのSBが「ケアに出るには若干遠いかな」と思わせるような高さに位置を取る。 中央に絞ったSHは位置的にホッフェンハイムの俊足WBに対応できない。仕方なく代わりにSBがケアに飛び出してくる形だ。そのSBが空けた裏のスペースを狙い撃つ。 […]

  3. […] ・セントラルウインガー ピッチ中央から離れ、サイドに流れる事で攻撃の起点を作る動的なタイプ。詳しくは偽10番の記事を参照。 […]

  4. […] 以上がヘドンドおよびスペースの連鎖性の説明になります。ここまで挙げた例はどちらかというと「ヘドンドやろうぜ!」という意図的なものというよりは、スペースの「連鎖性」を活かすための個々人の動きが、結果的にヘドンドという形になったと言った方がふさわしいかもしれません。連鎖させる前、初めのスペースはたまたまできているものではなくシステムの噛み合わせ、降りる動きやパラレラ、セントラルウインガー的な動き等さまざまな形で創り出すことが可能です。 […]

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