世界一の強度を誇るアトレティコ・マドリードの4-4-2守備戦術の分析

戦術分析
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4-4-2の守備ブロックを形成するチームが多数を占めたロシアW杯。限られた時間の中で確実に形にしたチームが多かったが、やはり細部まで詰めるには限界がある。

今現在、世界で最も強度の高い4-4-2守備ブロックを有しているチームはアトレティコ・マドリードだろう。それは5大リーグにおけるリーグ戦最少失点という数字にも表れている。今回は17-18シーズンEL決勝をベースに、アトレティコの守備戦術について分析する。

17-18シーズンEL決勝のカードはアトレティコ・マドリードvsオリンピック・マルセイユ。

スタメンは下図の通り。

基本的にはマルセイユがボール保持から敵陣突破を図り、アトレティコが受けてショートカウンターに持ち込むという展開でゲームが進んでいく。この試合でひたすら際立ったのがアトレティコの守備の完成度だ。

アトレティコの守備は「構造の質」を問う段階を通り越し、「駆け引きの質」を問う段階まで成熟している。

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アトレティコのプレッシングの基本

4-4-2を採用するアトレティコは2トップによるカバーシャドウを駆使したパスコースの限定が抜群に上手い。この試合のグリーズマンとコスタのコンビは全ての2トップの手本となるだろう。GK、2CB、CHのパスコースを2人で限定していき、ロングボールを蹴らせる。2トップの限定に連動して後方の8人はポジショニングを調整し、回収する。

上の動画にて注目すべきはコースの切り方に加え、プレスのタイミングである。どのシーンもバックパスとサイドチェンジをトリガーに一気に距離を詰めている。これにより敵に焦りを与え、パスミスの誘発、奪取につなげている。

マルセイユ戦の先制点も2トップの限定から生まれた。カバーシャドウの駆使とバックパスに合わせた寄せでGKまでボールを押し返すと、仕上げにコスタがGKにプレスをかける。

この時点で、丁寧に繋ぐとなるとパスコースはCHのザンボ1択となっている。これを察知したのが、この試合終始ボールを刈り取って回っていたガビ。ガビは逆のCHサンソンに付いていたが、「サンソンとザンボの直線上を移動することでサンソンを消す」カバーシャドウ。結果的にコントロールミスに即座につけこむことが可能となり、先制点に繋がった。

アトレティコはピッチに13人選手が立っているのでは?と錯覚してしまうような守備を見せるが、その要因は運動量だけではない。カバーシャドウを駆使することで数的不利でも対等に渡り合っている。

カバーシャドウの弱点は3人目を介したパス回し(アタカール・エル・バロンレイオフ)。マルセイユ視点で見るとコスタに消された左CBにザンボが叩くことができれば、プレスの空転に成功していた。マンダンダのボールの質、ザンボのコントロールミスとマイナス要素が重なってしまったが、狙いとしては悪くなかった。こういった状態で確実にプレスを空転させられるCH、アンカーがいるチームはスムーズなパス回しが可能となるだろう。

CHの守備の特徴

CHの守備の特徴は2点。1つ目がサイドへの誘導だ。

2トップの脇、HSから前進させるビルドアップは対4-4-2のセオリーだ。そんな敵に対し、アトレティコのCHはFW-SH間のラインまで飛び出していく

これにより中央FW-MFのライン間を塞ぎながらサイドに誘導することが可能となる。FW-SH間をプロテクトし、ボールの位置に応じて盾の向きを調整して構えることができるのはアトレティコの強みである。

2つ目がサイドに誘導した後の中央・マイナスの選択肢の排除だ。サイドに誘導、もしくは入られた際、逆CHが極端にボールサイドに寄る。ホルダーが中央への展開、カットインを狙った時に一気に攫うためだ。SBとCHが縦、逆CHがマイナス、と二段構えの守備となっている。また、一段目のSBとCHに関しても、縦・外に誘導する様に中を切って対応している。斜めに追走するような形をとることで中に展開できないように寄せ、仮にカットインをしてきても最悪後ろの足に引っ掛けられる。

ガビは特に守備時の判断が的確だ。SHが縦一本に限定すれば、ガビは連動してサイドまでスライドしカバーシャドウでパスカットを狙う。カウンター時、ポジション・スピード的に優位の味方がスプリントすれば、ガビはその選手が抜けたスペースをケアする。先制点に繋がるボール奪取といい、味方の動きに連動して守備をこなせる選手であり、こういう選手のいるチームは強い。

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マルセイユの仕掛け、アトレティコの回答

マルセイユも決勝まで勝ち上がってきた力のあるチーム。ただでは負けるわけもなく、様々な仕掛けを繰り出していく。

このチームの攻撃面での特徴。それはCHザンボとサンソンの距離間だ。1失点目はアトレティコの守備に上手くはめられたが、距離間を狭める事で楔を打ち込む(=アタカール・エル・バロン)、もしくは展開するタイミングがとりやすい構造となっており、基本的には同じサイドに寄ってプレーする。

ここを起点に様々な仕掛けを見せるマルセイユ。これに対してアトレティコが守備で回答していく。上のツイートをシーンごと見ていく。

シーン①
仕掛け:短距離のCH間のパスでガビのプレスをいなす。
回答:サウール、ヒメネス、コケが穴を塞ぐため中央に絞り、サイドに誘導する。

シーン②
仕掛け:2CHにパイェを加え、サウールのプレスを回避。
回答:左CHコケが穴を塞ぐため中央に絞り外へ誘導。

シーン③
仕掛け:同サイドに寄った2CHが逆サイドにボールを逃がす。
回答:バックパスでCBに渡る時点で既にパスコースはSB一択。コレアのプレス、穴を空けないガビのスライド。

シーン④
仕掛け:同サイドに位置するCH間のパス交換でプレスを回避
回答:先制時同様(今回はサウールが)、CH間を切るカバーシャドウによる対応。

シーン⑤
仕掛け:SBを釣り出し、裏にロングボール
回答:CBヒメネスのスライドによるSB裏ケア
シーン⑥
仕掛け:SBを釣り出し、裏にサンソンを走らせる(HSV4-4-2崩しの記事参照)。
回答:中央を切りつつ時間を稼ぎ、ゴール前に人数を集める。

様々な攻撃に対して柔軟に対応する守備はまさしく鉄壁である。

おわりに

アトレティコの守備は、守備構造の質を問う段階を過ぎ、駆け引きの質を問う段階まで成熟している。2トップはパスコースを完璧に塞ぐというよりも、敵選手に「パスコースが切られた」と思わせるに必要な位置までプレッシャーをかける。パスコースを切ることは「目的」ではない。あくまでボール奪取が目的で、そのために限定をかけて蹴らせている。つまりは「手段」であるわけなので、「パスコースが切られた」と思わせ選択肢から除外させることができれば十分。そして、その「どこまで寄せれば限定できるのか」の駆け引きが絶妙なのだ。省エネであると共に、次のプレーに関与しやすくもなる。先制シーンやサイド誘導後の中央への展開の阻止のように、「成功すればチャンス、いなされればやられる」という勝負どころでの駆け引きも秀逸だ。勝負に出るときは力を集中させ、「奪い切る」、「展開させない」を確実に実行する。一度引くという判断を下した場合は態勢を整え、機を待つ。

穴のない守備で駆け引きの質を突き詰める段階まで来た鉄壁の盾を持つアトレティコがELを制したのは納得の結果だったと言えるだろう。

コメント

  1. […] スピードよりもパスコースの限定に重点を置いたクレバーなプレッシングは、以前のシメオネ・アトレティコに近い。共通点も多いが相違点もある。それはなんといってもシステムの違いであり、ナポリのプレッシングの肝は、アトレティコのシステムには存在しない”IH”の守備である。 […]

  2. […] この試合を観た印象として、このチームはよく走るし、ゴール前で身体を投げ出す泥臭さも備えている。反面、同じ5バックでも先日取り上げたアタランタのような決まり事や敵を誘導するといった仕組みの部分は弱い。アトレティコやユベントス、ナポリのように守備の段階から自分達主導で奪いやすいエリアに誘い込むというのは難しい。いうなれば受け身の守備である。 […]

  3. […] 例えば4-4-2の代表格、シメオネ監督のアトレティコ・マドリードの場合、2トップでカバーシャドウを駆使し、制限をかけながらプレッシングを行い、状況によっては逆CHの選手が前進する。 […]

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