【ホッフェンハイム】ナーゲルスマンが魅せる5-3-2攻撃戦術の分析
- 2018.11.02
- 戦術分析

19-20シーズンからRBライプツィヒで指揮を執ることが決定しているユリアン・ナーゲルスマン。最年少という「年齢」で大きな注目を集めた彼も、わずか数年でその「戦術」にフォーカスされる名将へと成長した。ホッフェンハイムの残留、そしてCL出場と、クラブにもたらしたものは計り知れない。
今回はそんなドイツが生んだ名将・ナーゲルスマンの攻撃戦術にフォーカスし、CLグループリーグ第3節リヨン戦をベースに取り上げていく。16-17シーズン、17-18シーズンのプレーについては下記モーメントと記事参照のこと。
16-17シーズンモーメント & 17-18シーズンモーメント
スターティングメンバー
3バック+アンカーでのプレス回避
リヨンも4-3-3でWGが外を切るタイプ。最近流行ってるな、リバポとは似て非なる形だけど。 pic.twitter.com/QUcqr3KF2u
— とんとん (@sabaku1132) October 29, 2018
まずは、リヨンのプレッシングから。リヨンは序盤4-3-3でのプレッシングを仕掛ける。WGがカバーシャドウで外を切る、以前取り上げたリバプールの守備戦術に似た形だ。
大きな違いは中盤の構成。アンカーが中盤の底に留まり、前から捕まえに行く頻度はそれほど高くない。
このリヨンの守備に初めに風穴を開けたのが3バック+アンカーでのビルドアップだ。3バックのためアンカーへのパスコースを3本用意できる。この3本をCFデパイ1人で塞ぐには無理がある。マンチェスターシティやチェルシー同様、ホッフェンハイムもCFを崩しの起点としている。
また外を切るようにカバーシャドウをかけるWGも、HV-WB間を切るには移動距離が大きくなり、リバプールのように中央に壁を築くことができなくなる。
以上よりホッフェンハイムが打った手は、3バック→アンカー(IH)→WBの経路の確立だ。
ホッフェンの外切り対策
・3バックによるアンカーへのパスコース確保
→CFから崩す定石
→横幅が広すぎてWB-HV間をWGが担当できない
→カバーシャドウを無効化して外に展開
・プレスを外しアンカーのマークがさらに緩んだところで次の攻撃へ。 pic.twitter.com/osvzceIM2z— とんとん (@sabaku1132) October 29, 2018
リヨンは中央に壁を築けないことに加えアンカーとIHへのプレッシャーがかからず、WBへの逃げ道を封鎖できなかった。この経路によりWGのカバーシャドウを無効化し、WBに時間を与えることができる。これに対してリヨンは①SBを対応に向かわせるか、②IH・WGが引くかの選択を強いられる。後者の場合は敵を押しこむことに成功、前者の場合はIHのセントラルウインガーとしての働きを促す事となる。
「WGをHVに喰いつかせる→WBを浮かせる→SBを喰いつかせる→IHをSB裏に送り込む」という攻撃は以前からホッフェンハイムが得意とする攻撃である。
SBの裏を取るIH
ホッフェンの崩しは5-3-2のお手本のよう。どのポジションも機能してるけど、特に効果的なのは低い位置で敵を釣り出すWBカデルジャーベク、空いたスペースに幾度もランニング入れるIHのルップ pic.twitter.com/IyiWahxb7J
— とんとん (@sabaku1132) October 31, 2016
ホッフェン攻撃パターン②
IHのSB裏抜け
・3本のパスコースを用意してCFから崩す
・カバーシャドウ回避から外のWBへ展開
・無力化されたWGに代わってSBが前進して守備
・前進したSB裏へ抜け出すIHクラマリッチ pic.twitter.com/nSNK0KxzaR— とんとん (@sabaku1132) October 29, 2018
先の分岐の前者「SBが対応に出る」場合。IHがSB裏を狙う「セントラルウインガー」としての役割を担う。この時リヨン守備陣の頭に引っかかるのは2トップの存在だ。ナーゲルスマンは必ず1人、ポストプレーをこなせる大型FWを起用する。この試合は2人とも大型のFWサライとベルフォディルだ。この2人が2CBと逆SBをゴール前に釘付けにする役割を果たす。つまりSB裏をケアするのはIHもしくはアンカーということだ。これにより深い位置まで進出すると共に、敵の中盤をさらに押し込むことが可能となる。2トップという構造が、セントラルウインガーの働きの効果を倍増させているのである。
また両IH、FWが左サイドでオーバーロードをかけるパターンも多く、これに関してもSB裏攻撃を促すポイントの1つとなっていた。
ロングボール戦術
中央を締めるブラガに対して主となったWB攻撃。逆サイドへのロブを用いる大外攻撃では2トップの一角がチャンネルに位置する故、大外のSBが2枚見る必要がある。ただでさえ面倒な死角からのラン対応をより難しくさせてた。 pic.twitter.com/gMwQ7F5aHa
— とんとん (@sabaku1132) September 24, 2017
ホッフェン大外攻撃。アンカーのグリを使った噛合せ外しでホルダーに自由を。左起点のホッフェンに対し2トップを2CB+シュメルツァーで見るんだけど、WBカデルジャーベクにWGが付くのか、手前のIHはどうするか等問題が。あのグリの見方と寄せ、構造で大外喰らったらどんなSBでも守備タスクオーバー。 pic.twitter.com/8XSxROAkLx
— とんとん (@sabaku1132) December 18, 2017
ホッフェン攻撃パターン①
大外からのWBの抜け出し
・2トップというシステム的特徴を活用
・2トップを2CB+逆SBで見るため、大外が浮く
・ベルフォディルはチャンネルに位置。SBには体格差で勝り、CBに対しては死角を抜けやすい
・ライン間を狙うIHが裏のスペースを確保 pic.twitter.com/YbvrwZj3DM— とんとん (@sabaku1132) October 29, 2018
ホッフェンハイムはバックドアと、対角線へのロングボールの活用頻度が高い。カギとなるのは2トップという構造的な部分。ボールサイドのSBの裏を狙い所としているのは上述の通りだ。そうなるとゴール前で2トップとの空中戦を担当するのは「+1枚の原則」でいくと2CBと逆サイドのSB。つまり大外のWBが浮く形となる。(解説図は前項参照)
2トップは横並びとなる場合、遠いサイドのFWはチャンネルに位置する。そうなるとどうしてもSBの注意は内側に向き、外のWBを視野に入れることが難しくなる。
フィジカルの強いCBよりもSBとの空中戦を選んだ方が勝率は高くなる。アッレグリ・ユベントスがマンジュキッチをサイドで起用するようなイメージだ。ホッフェンハイムの場合、FWがSBに競り勝たなくても、後ろに流すことができれば浮いたWBが拾えるため勝ちなのだ。このように様々な困難をSBに強いるのがホッフェンハイムのロングボール戦術の特徴であると言える。
楽隊戦で面白かったシーンはこのくらい。上手に守られた印象。最後のヴァグナーとトリャンの交差なんかはたまんないけど。 pic.twitter.com/umgCL5UtQl
— とんとん (@sabaku1132) December 23, 2016
DFライン手前に位置するIHや2トップを餌にWB・IHが切り込む動きもパターン化している。これは引いた相手に対して裏を取る際にも有効だ。押し込むことでキック精度の高いグリリッチュ等がフリーになるシチュエーションは先の分岐の後者に当たる。爆発的なスピードを備える左のシュルツと、身体の軸が安定していて折り返しが上手い右のカデルジャーベクという人選も適材適所といえる。
スクリーンプレー
ポストプレイヤー+機動力に長けたタイプで2トップを組むことが多かったナーゲルスマン。今シーズンは2枚共大型タイプを配する機会が多くなっている。そんな中この試合で見られたのがスクリーンプレーだ。
これもスクリーンぽい動き
・アンカーを使った回避、IH裏抜けから。
・ベルフォディルがバックステップで逆 CBにつけると同時に、サライが入れ替わるように前進
・セットプレー以外でもスクリーンを取り入れ、大型CF2枚の起用にも工夫を凝らすナーゲルスマン pic.twitter.com/PgXD81Y0el— とんとん (@sabaku1132) October 28, 2018
上の動画で、ベルフォディルがバックステップで左CBから離れ、右CBにつけているのが分かる。それに合わせてサライが入れ替わりフリーとなる仕組みだ。ここではボールが出てこなかったが、クロスボールに合わせる際やチャンネルラン直前に取り入れることができれば非常に面白いプレーだ。セットプレー以外で落とし込むには難しいが、大型選手で2トップを組む際に用いることができれば鬼に金棒だ。このプレーは次で取り上げる1点目のシーンでも活用されていた。
「らしさ」が詰まった1点目
ホッフェンの1点目
・外に流れるIH
・中盤ライン手前でフリーになるアンカー
・大外WBのバックドア上記お決まりのパターンに加え、よく見るとアンカーのロブ→ゴールまでの5秒間、敵右CBにスクリーンをかけ続けてゴール前に空間を生んだベルフォディル。地味ながら効果的な働き。 pic.twitter.com/MfseOJemWY
— とんとん (@sabaku1132) October 28, 2018
このシーンはこれまでとりあげたホッフェンハイムの攻撃のポイントが凝縮されている。SB裏に流れるIHクラマリッチ、押し込むことでフリーとなるアンカー・グリリッチュ、大外から抜け出すWBカデルジャーベク、スクリーンをかけるFWベルフォディル。全ての攻撃ポイントが連鎖し、相乗効果が生まれている。まさに流れるような攻撃だ。
おわりに
ここまで挙げたナーゲルスマンの攻撃戦術のポイントは相互に関わりが深く、併用することで効果が乗算されていく。「WBを押し上げて前線に4~5人を並べ、後方からロングボールを放る」と簡単に説明されることも多いが、そんな単純なものではない。ロングボールを送るにも上述のような工夫を凝らしている。
またWBを低い位置に置き、敵のSBを釣り出してからIHのセントラルウインガーとしての働きを促す攻撃もホッフェンハイムの大きな特徴の1つだ。WBは低い位置をベースに組立てからバックドアまで関与するため、普段、そしてこの記事のタイトルにも「5-3-2」という表現を用いている。
様々なアイディアで観る者を魅了するナーゲルスマンのサッカーには今後も目が離せない。
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