攻撃の要所”チャンネル”を封鎖するマルセリーノの守備戦術

戦術分析

マルセリーノ・ガルシア・トラル。私の好きな監督の1人です。

以前、彼の攻撃戦術の特徴であるカットイン+パラレラの複合技に関する記事を書きましたが、今回は彼の落とし込む守備戦術、特に「チャンネルの封鎖方法」に注目してみます。

マルセリーノは低めの位置に4-4-2の3ラインを敷いて守ります。この際2トップはカバーシャドウをかけての限定をあまり行わないため、攻撃方向の制限はかかりません。故に、横に揺さぶられてチャンネルが開放してしまうことが少なくありません。攻撃側にしてみれば明らかな「狙い目」となっています。

しかしチャンネルの開放回数に対して、空いたチャンネルを「使われる」回数は非常に少ない。
では一体どのように守っているのでしょうか?

上の動画はバルセロナ戦におけるバレンシア右サイドの守備です。バルセロナの左WGコウチーニョ、左SBジョルディ・アルバによる攻撃を見事にシャットアウトしています。
こちらをサンプルに見ていきましょう。

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アプローチの方法

まずベースとなるのが、選手の立ち位置です。右SBピッチーニがボールホルダーに寄せる役、右SHソレールはピッチーニが空けたチャンネルの前に立ちパスコースを制限する門番役、右CBガライは門を少しでも狭めるようケアに出てきます。

この3人の関係性を前提に、注目すべきは右SBピッチーニの寄せ方です。
ピッチーニの寄せ方は、寄せに出る「高さ」によって変化します
その「高さ」は大きく分けて①中盤ラインの高さ(SHの脇)、②DFラインの高さ(自分の脇)となります。

①中盤ラインの高さ(SHの脇)

中盤ライン(SHの脇)まで前進して寄せる場合、パスコース遮断の優先順位はチャンネル>縦のスペース。チャンネルを使わせないように切りながら寄せ、SHとCBがチャンネルのケアに移動する時間を作ってあげます。そして受け渡しが完了してから、縦のコースの遮断にシフトします。

②DFラインの高さ(自分の脇)

自分の脇、深い位置のアプローチの場合、パスコース遮断の優先順位は先ほどとは逆で縦のスペース>チャンネル。縦に抜かれないように警戒しながらアプローチをかけます。この寄せ方はコウチーニョを同時に視野に捉えることもできます。
深い位置の場合、チャンネルを使うために必要な「角度」がほとんどないため警戒の必要性が薄れます。中央のコウチーニョを使うならチャンネルではなくピッチーニの外を通すようにパスを出すはずです。それに対応できるのがこのアプローチの利点の一つです。チャンネルは左脚を伸ばして届く範囲でのケアとなります。怖いのはコウチーニョの足元に出てくる横パス。こちらに関してはソレール、ガライへの受け渡しが必須となります。

このように寄せに出る高さに応じてチャンネルと縦のスペースの遮断優先度を変えるというのがマルセリーノのチャンネル封鎖のミソになります。

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逆のアプローチをとった場合

ここで優先順位を逆にしたアプローチを見てみましょう。

①中盤ラインの高さ(SHの脇)

SH脇に位置する敵SBからしたら、角度的にチャンネルにパスを通すのは難しくありません。それにもかかわらずチャンネルの受け渡しのバッファを稼がずに縦を切る寄せ方をすれば、簡単に抜けられてしまいます。チャンネルを抜けられるとすぐそこにはペナルティエリア。守る側としては非常に嫌な形に陥ります。

②DFラインの高さ(自分の脇)

深い位置で敵がボールを持った場合、角度的にボールがチャンネルを通過する可能性はそれほど高くないでしょう。(3人目を介して送り込むことは考えられますが、そこを抑えるのはSHの役目。)
内側を切るように寄せた場合、コウチーニョの足元という選択肢を削ることができますが、外側を通るパス&コウチーニョの裏抜けに対応するのは困難になります。
また、SHソレールの役割が不明瞭になります。ピッチーニがコウチーニョを切る場合、ソレールはどう動くべきか。コウチーニョの裏抜けに対応するにも、アルバのマークを交換するにも遠い位置のため、結果的にコウチーニョ&アルバvsピッチーニの局所的優位を許す形に陥る可能性があります。全体最適を考えた場合好ましくありません。

このアプローチは選手の特徴等も加味する必要があります。ボールに寄せる右SBが抜群のスピードを誇り、縦に非常に強い選手である場合、コウチーニョの位置の選手が足元でしか欲しがらないタイプの選手の場合内を切る方が良いでしょう。

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おわりに

マルセリーノが仕込むチャンネル封鎖術についてみてきました。「周囲の選手の配置を前提にした寄せ方」という非常に細かい部分ですが、徹底されていることが分かるかと思います。寄せに出る高さに応じて右曲り・左曲りと動線を使い分ける守備戦術のレベルの高さを窺うことができると共に、こういったディテールにこだわる必要があるほど「チャンネル」が重要なエリアであるとも言えます。
既に述べていますが、この守り方が絶対ではありません。選手、配置等の特徴を考えて仕込む必要があります。マルセリーノはピッチーニの守備技術の高さ、ソレールの運動量、ガライのポジショニングとフットワークの軽さをチームに組み込み、バルセロナ相手に見事機能させたといえるでしょう。

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コメント

  1. […] 多いパターンとしては、アルトゥールが敵のSHを内側に絞らせるようなポジショニングを取り、ジョルディ・アルバを浮かせる形。この状態でアルバvs敵SBのマッチアップを作り、引きずり出す。敵SBからしてみると、コウチーニョを警戒しながらアルバに寄せるという状況に陥る。この時の寄せ方・タイミングは非常に難易度が高い。以前紹介したマルセリーノ・バレンシアのように巧みに守るチームも少なからず存在するが、ほとんどのチームは後手に回ることになる。 […]

  2. […] マルセリーノ監督のバレンシアの場合、2トップのプレス開始位置と全体のブロックを低い位置に築き、FW-とMFのライン間を狭める。 […]

  3. […] ついでに別のチームで使われているシーンも。サンプルはバレンシアのパレホ(最初の2シーン)、ドイツ代表でのドラクスラー、ボルシアMGのザカリア、さらにチェルシーとバルセロナです。 […]

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