アロンソ・レヴァークーゼン戦術分析 〜ブンデス各クラブの対策に対するアンサー〜

戦術分析

公式戦33戦無敗でブンデスリーガクラブ記録を更新した、シャビ・アロンソ率いるレヴァークーゼン。ゆったりとパスを回してゴールに迫り、ブロック守備もプレッシングもお手のもの。

そんな彼らに対して、対戦チームは当然策を用いて対抗する。その策に一度も屈することなく積み上げたのが、33試合無敗という記録だ。

今回はブンデス各クラブがレヴァークーゼンに対して用いた策と、それに対するレヴァークーゼンの打開策を見ていく。

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vsホッフェンハイム(3-3-4)


ホッフェンハイムは5-3-2、対するレヴァークーゼンは5-2-3がベースとなる。レヴァークーゼンのプレッシングは敵ゴールキック時とそれ以外とでセット守備の方法が異なる。ゴールキック時は、前線3枚のうちの1枚がアンカーにつき、残りの2枚がHVにつく。そこから片方がHVを切りつつCBに寄せていく。2CHがIHを見ることでほぼ噛みあった状態で前からプレッシングをかけていく。


ゴールキック以外の局面ではホッフェンハイムのビルドアップを捕まえることができなかった。3バックのホッフェンハイムは3トップと同数になるものの中盤で3vs2の優位を得た。3バックがペナルティの幅に開くことで、3トップがプレスをかける際互いの距離が開き数的不利の中盤へのパスコースが開いてしまう。
トップの距離が開けばホッフェンハイムは中盤にパスをつける。特にアンカーのシュタッハは噛み合わせ上浮くため、フリーの彼にパスをつけての前進が図られた。3トップvs3バック+シュタッハ。この優位を活かして無理なく前進していく。彼にCHがつけば、今度はIHが浮く。左IHのプレメルはシュタッハと入れ替わるようにアンカー位置に入って補佐する動きも見られ、右のベッカーは常にCH脇とWB裏のギャップをとる立ち位置を取った。


トップの距離感が開かない場合、HVの前進とWBの活用による外攻撃が行われる。サイド低い位置でHVかWBがボールを持つと、ホッフェンハイムはボールサイドのIHがWB裏に抜けてパスコース創出を行う。IHにボールが入ることは少なく、狙いはIHが抜けて空いた中央のスペースとなる。中央のバイアーとヴェゴーストは長身でボールを収める能力が高く、楔を当ててレイオフを駆使して前進していく。このコースが空かなければ3トップの脇からシュタッハにボールを入れていき、そこも抑えられていればやり直しを選択する。
最終局面においては高さを活かしたクロスと、プレスがかかりにくい状態を活かしたミドルシュートをメインにチャンスを作っていった。
ホッフェンハイムは成功確率が50%のパスでも入れていく傾向が強い。ミスになればカウンターを喰らう。レヴァークーゼンはそこを突いてショートカウンター気味の攻撃で先制した。その直前にレヴァークーゼンもボールを失っているが、素早くプレッシングをかけることで相手にバックパスを強い、被カウンターを回避している。そもそも50%の場合に無理なパスを出さず、ゆっくりと敵を押し込み、被カウンターでも優位に立てるのがレヴァークーゼンの長所であり特徴となっている。対照的な一面だ。


レヴァークーゼンはボールホルダー周辺にパスコースの網を張り巡らせる。3バックからこまめにCHにボールをつけることで、敵のプレスの向きを変えさせ、足を止める。その上でチーム全体で前進していく。パスコースづくりにはCFボニフェイスまで参加する。そのため、ボニフェイスがゴール前にいないシーンも多く、代わりにWBがDFライン背後に抜ける動きも見せる。
こまめに足元で繋ぐことで、敵の前線はプレスの向きを変えられて足を止めるが、後方の敵DF陣は逆にプレッシャーをかけるためにボールホルダーにプレスの矢印を向ける。そうして空いたスペースに侵入してゴールに迫るのがレヴァークーゼンの攻め方だ。そのため、敵陣にギャップができるまでパスを回すのだ。



的確にパスコースを作り、失わずに捌くことができるのがヴィルツだ。失わないのはボールコントロールと球離れのタイミングが上手いだけでなく、ポジショニングによる部分も大きい。左シャドーの彼がよくとるポジショニングは2つ。1つはCFボニフェイスが敵DFを押し下げて空いた手前のスペースだ。ボールが右サイドにある時はここに入り、パスを呼び込む。オーバーロードがかかるため捌くためのパスコースも多くなる。


2つ目はWBグリマルドの手前のスペースだ。グリマルドは連動に長けているため、ヴィルツと入れ替わるように中央に入り込むこともできる。SBとSHとの間でマークの受け渡しが難しく、そこからチャンネルへのランや横のワンツー、CHを交えたパス回しで前進のアクションを起こしていく。サイドの選手に対してパスコースを作る三角形を作成するためにはシャドー位置の選手が外に流れ、サイドの選手が内を向いてドリブルするのが効果的だ。レヴァークーゼンでも高頻度で見られるプレーとなっている。4-4-2で守るホッフェンハイム相手にも、DF背後に抜け出す機会を演出している。
こうして無数のパスコースを生み出しつつ、じっくりとゴールに迫る。無数のパスコースを活かして相手のプレスの矢印に逆らって足を止め、かつ安全な選択肢をとる。安全な状態から敵の複数の守備の列を越えていく。そのため無理なパスやそれに伴うミスが少なく、被カウンターのリスク管理にも繋がっている。

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vsフランクフルト(ミラーゲーム)


フランクフルトの守備陣形は5-2-3。3-2-5で組み立てるレヴァークーゼンのシステムにガッチリと噛みあう形だ。


レヴァークーゼンがまず優位性の確立を試みたのが敵CH周りだ。CH同士のマッチングの中で、シャドーのホフマンとヴィルツがCHのすぐ脇に陣取る。こうすることで敵CHに対して数的優位を生み出していく狙いだ。
この形でレヴァークーゼンは数少ないチャンスをものにした。ヴィルツがCH脇でボールを受けてボニフェイスに預けると、左に流れたボニフェイスが単独でゴールまで運び、得点をあげた。苦しい時にドリブルで運ぶこともできるチームのエースが真価を発揮した瞬間であった。
この得点シーン以外、フランクフルトはシャドーを自由にさせないように①パチョを中心にHVが前進する②シャドーが絞ってパスコースを消す、の2点で対応して見せた。
レヴァークーゼンはさらに4バック気味に変化して打開を試みた。左WBのグリマルドがSBに変化、右HVのコスヌがサイド寄りに立ち位置を変更する。しかし、フランクフルトの右WBブタが迷いなく前進し噛み合わせ、CFチャイビが巧みにCB間のパスコースを制限することで、右SB化したコスヌを狙いどころにされ、シャドーのクナウフのプレスで前進を阻まれるケースが頻発した。コスヌを経由した攻撃ルートはほぼ100%途中でボールを失うこととなった。コスヌの立ち位置がクナウフに近く、すぐ間合いを詰められる距離であったこと、シャカとパラシオスが左寄りに位置していたこと、CHのゲッツェが中盤へのパスコースを的確に遮断していたことも大きな要因である。
前半戦のレヴァークーゼンは思うように前進することができなかった。ただしCHが敵の右シャドーとCFの間、もう一方がアンカー位置に立ち位置を取ったシーンはスムーズに前進できることが多かった。


後半のレヴァークーゼンはこの良い形をデフォルトとして採用。フランクフルトのプレスをいなせるようになると、ホフマンが右サイドに流れる動き、ヴィルツが中央右寄りに移動する得意のオーバーロードを見せる機会が増え、前進できる回数も増えていった。
ヴィルツやホフマンの動きにフランクフルトのDF陣が釣り出されると、背後にスペースが生まれるようになる。そこを突いたのが2点目のゴール。前がかりに奪って追いつきたいフランクフルトに対して、ボニフェイスへのロングボールを利用して奪ったのが3点目となった。
フランクフルトは攻撃時、システムが噛みあっていることもあってかロングボールを狙うタイミングが早くなっていた。そのため、後方の準備の整っているレヴァークーゼンに回収され続けた。しかし、左WBエンクンクがポジションを下げて4バック化する、右HVトゥタがSBの位置に移る、もしくはトゥタが前進する形でレヴァークーゼンを押し込むシーンも見られた。変化が生まれると、レヴァークーゼンは圧力を弱めてリトリートする。サイドの選手によってビルドアップの形を変え前進をサポートすることは、チームのビルドアップの質を大きく向上させる。フランクフルトの長所である。

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vsドルトムント(シャドーへのマンツーマン)


レヴァークーゼンは3-2-5、対するドルトムントはジャンがヴィルツに、サビツァーがホフマンにマンマークでつく、実質6-3-1(5-1-3-1)のような形だ。ジャンとサビツァーの2CHが2シャドーをマンマーク気味に見ることでDFラインに吸収される。


レヴァークーゼンはこのマンマークを利用して攻撃を推し進めた。ビルドアップにおいてはドルトムントの2列目3枚+CFに対して3バック+2CHで優位が作れている状態だ。SHはCHをケアするためにかなり絞っている。そのためCHは1トップの脇まで降りて守備基準をぼかし、右HVのコスヌはSHの背中を取って大きく前進していく。さほど下がらないホフマンに対し、CHサビツァーが常時DFラインに居るような状態であったため、スペースが出来上がっていた。こういったスペースをHVの選手が見逃さずに前進できるというのはレヴァークーゼンの強みだ。
ドルトムントの守備はホフマンとヴィルツの動きに合わせてCHがDFラインを出入りするため、チャンネルの担当が曖昧になった。レヴァークーゼンはそこを見逃さず、両WB、そして手前で受けると見せかけ裏を取るのが得意なホフマンがチャンネルに抜け出してチャンスを作っていった。
ヴィルツもハーフスペースを離れて相手SHの脇やセンターレーンに移動し守備基準をぼかす、ワンタッチパスで味方に前を向かせるプレー等を駆使して試合から締め出されることなくプレーして見せた。プレーエリアの広い彼に対するマンマーク守備は、守備のバランスを崩すばかりで有効な対策とは言い難い。
ボニフェイスも入れ替わるようにレーンを移動し、ホフマンもセンターと右ハーフスペースを行き来してサビツァーの守備位置を困らせた。
5バック崩しという意味ではHVを釣り出して裏を取るのが最も効果的なプレーとなった。HVと隣り合うポジション(CB or WB)の1枚、5枚中隣り合う2枚を釣り出した際は確実に裏を取りに行く。背後のカバーが手薄となりスペースを拡大できるからだ。サビツァーがDFラインを出入りするためWBを含めて2枚が釣り出されるシーンが多くなり、レヴァークーゼンのチャンスが生まれていった。
後方の優位を活かして敵を押し込むことで、危険なカウンターを喰らうシーンはほとんどなかった。セットした状態からプレッシングをかける場合は両シャドーがCB、ボニフェイスは1列下がってCHの片方を見る、WBは前進してSBを見る等、噛み合わせを外さずに調整して仕掛けていった。

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おわりに

無敗記録を樹立したレヴァークーゼンといえども、必ずしも盤石ではない。ここではピックアップしていないが、セットプレーの守備は弱点となっている。

とはいえ、ここまで策をぶつけてくる相手に屈することなく勝利を積み重ねるのは、当然ながら並大抵のことではない。レアル・マドリード、リヴァプール、バイエルン・ミュンヘンによるアロンソ獲得が噂される中、ロルフェスは残留の自信を伺わせるような報道もある。

アロンソ・レヴァークーゼンを見られるのは今季だけかもしれない。5-2-3をベースに用いるチームのロールモデルと言える彼らは、いま最も観るべきチームの一つである。

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