見落とされがちな「リターンパス」のメリット〜列を越える準備〜

戦術分析

パスを回して前進を図るチームにとって、見落とされがちなのがリターンパスの重要性だ。リターンパスというと、相手の列を越えるための「前方に仕掛ける崩しの手段」をイメージするだろう。当然それも重要であるが、見落とされているのは「守備ブロックの列を越える準備」のためのリターンパス餌となるパスだ。

このパスを出せるのと出せないのとでは、配球・崩しの幅に大きな違いが出る。バックパスと同様に、パス回しにおける必須項目だ。

前進=相手の複数の列を越えることを念頭にパスを回していれば、リターンパスは自然と生まれるはずだ。しかし、リターンパスの効果を知っているのとそうでないのとでは、いざプレー選択をする際に差が生まれることも多々ある。

今回はそんなリターンパスの効果について。

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2種類のリターンパス

ここではリターンパスを2種類に大別する。

①列を越えるためのリターンパス(ワンツー)

②列を越える準備のためのリターンパス

①は崩しの局面で用いられる、列を越える=突破のリターンパスだ。突破となれば当然技術的な難易度が高く、失敗のリスクが高いプレーとなる。

②は列を越えるために敵を動かし、味方が動き直してよりよいポジショニングをとるためのリターンパスだ。失敗のリスクが低く、その後に続く「列を越えるプレー」の成功確率を上げるためのパスである。

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列を越えるためのリターンパス(ワンツー)

列を越えるためのリターンパス(ワンツー)。パスの方向とは逆方向に走ることで相手の死角に入り込み、背後を突くパス交換だ。敵の列を越える手段としては最も有効なもののひとつである。

このリターンパスも、パスの蹴り足や走る方向次第で様々なパターンを生み出すことができる。

◆逆脚ワンツー

https://x.com/sabaku1132/status/1573463417381605376?s=46&t=9aPSHMen3GiOndNl03TQ1A

左サイドであれば右脚(壁役に近い方の足、敵から遠い方の足)でボールを扱うことで相手を食いつかせ、裏を取りやすくする。

◆フロントカットワンツー

https://x.com/seriea_en/status/1455532627105038346?s=46&t=9aPSHMen3GiOndNl03TQ1A

相手の背中側でなく、ボールと同じ方向から相手の手前を抜けることでパスカットのリスクなく先にボールに到達できる。背中(裏)側と手前(表)側の2つのランニングコースを持つことでより効果的になる。

◆横移動ワンツー

https://x.com/realmadrid/status/1552224778009710592?s=46&t=9aPSHMen3GiOndNl03TQ1A

壁役が敵をブロックし、手前のスペースを利用する。マークが外れやすい。

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列を越える準備のためのリターンパス

重要性が見逃されがちであるのが、列を越える準備のためのリターンパスだ。列を越えるためのリターンのような大きな移動を伴わない。

このリターンは、列を越えないパスだ。ただし下記の効果により、その先に続くプレーで列を越えやすくなる。

  • 相手のスライドを乱す(足を止める)
  • 相手を動かしてスペースを作る(餌となるパス)
  • 味方(自分)が動き直し、よりよいポジションと身体の向きを作るための時間を作る
  • ロストを回避する=攻撃機会を創出する
  • 受け手と出し手のペアで視野を確保し、死角が無くなる

選手Aから選手Bにパスを出す。この時にBがCに出す場合、相手のスライドは一方向で済む。選択肢も中央に比べて限られる。

Bにパスが出た時点で守備側はポジション修正のためにスライドする。そこからBがAにリターンを返した時のメリットを考える。

・相手がスライドするため、Aと敵DFの間に自動的に間合いができる。
・Bにパスを出した瞬間にAがバックステップで動き直しを入れれば、さらに数歩分の間合いを確保できる。先ほどよりもDFとの間合いを確保した状態で前向きにプレーすることが可能となる。前向きでスペースを確保した状態でプレーできれば、列を越えるプレーの成功率も高まる。
・相手は逆方向(B→A)への切り返しが生じる。切り返しが発生すると一瞬足が止まり、ボールホルダーAへのプレスが弱まる。(同じスライド距離でも切り返しを挟む方が守備側は対応しにくい)
・切り返しでスライドの足並みが乱れ、選手間が開いてギャップができやすくなる。
・AからBにパスを出せば、単純にBに近い選手がプレスに出てくるため、その背後や脇に生まれるスペースを使うことが可能となる。
・AとBのリターンパスでできた時間で3人目の選手(前線のシャドーや左HV)がポジションを取り直すこともできる。
・Bへのプレスが早ければ、Bはリターンでロストの可能性を下げることができる。(身体の向きを変えないためリスクが低い)

これだけ多くのメリットがある。
Bに寄せる選手の背後のスペースと、Aと敵DFの間合い、スライドの乱れによる敵中盤間のギャップを作るための餌としてのパス交換となる。

単にボールを持って相手を引きつけてスペースを作るのではなく、ボールを動かすことで相手を動かし、矢印を操作してスペースを作る。

単純に運ぶ
相手の矢印を操作するリターンを入れる

例えば上のシーンのように自身がフリーの状態であっても、ただ単に前に運ぶだけだと相手のスライドが間にあってしまう。そこで、あえて一度味方にボールを当てる。すると相手の守備の矢印は自分とは逆側に向き、かつ相手は自分から遠ざかるように動く。その状態でリターンを受ければ、先ほどよりもより良い状態でボールを扱うことができる。
リターンを受ける側は、リターンを受けることを頭に入れたうえでパス出しとポジション取りを行う必要がある。リターンを出す側は、無理にターンして別の方向にパスを出すのではなく、リターンを頭に入れたうえでプレー選択を行う必要がある。彼が逆を向けば、破綻するプレーだ。

はじめの例でAからBに出したあと、Bが何も考えずにサイドにパスを出すようだと、前進は難しい。前進の上手くないチームはリターンパスを選択肢に入れずにサイドに展開する傾向がある。これは中央が単に「右と左のサイドを結ぶ中継地点」としての働きしか持っていないことになる。そうなると、相手のプレスの矢印と逆向きにボールを動かすことができない
中央に寄せることでサイドが開き、サイドに寄せることで中央が開くため、どこかで敵を引きつける、もしくは足を止めるための時間が必要となる。その時間を生み出すのがリターンパスだ。受け手と出し手の2人がペアとなることで、確保できる視野も広がり、死角も無くなる。

リターンパスは列を越えるための時間とスペースを作るのに効果的な手段となる。

列を越えるパスと違い、受け手は大きな移動を伴わない。小さな動き直しとなる。相手が勝手に動くため、自身は動く必要が無いというシチュエーションも少なくない。そこにリターンを返すことによる意味と効果を考えられるようになり、選択肢のひとつとして持てることが重要である。

この選択肢を持てず、別のエリアに展開してしまう選手は非常に多い。

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どのタイミングでリターンを出すか

列を越える準備のためのリターンパスはどのタイミングで出すのか?

これも当然、チームとして列を越えることを前提に、最も安全で選択肢を豊富に保ったまま列を越えられるルートをイメージする必要がある。

リターンパスを行うことによって利益を得るのは、基本的にリターンパスを受ける側だ。リターンパスを出す側が利益を得るのは基本的にプレスを回避する時のみ(ロストの回避)だ。

つまり利益を得るリターンパスを受ける側の選手。その選手が最も利益を得られるタイミングでリターンを返すべきである。

リターンを出す側の選手が前進を目指してボールをこねて、諦めて相手の寄せがキツくなってから出すリターンパスは、受け手の利益のことを全く考えていない「受け手に利益を与える」という観点が抜けており、自分自身の逃げ道としているだけだ。

敵を自分に引きつけ、スペースを作ってから受け手にそのスペースへ楔を打たせるためにリターンを返すのは有効だ。同じ「ボールを保持して溜めてからパスを出す」というプレーでも、目的を履き違えるとその先の効果が大きく変わっていく

逆にリターンの受け手が動き直している最中にすぐにリターンを返すのも、受け手の利益を考えられていない。受け手が列を越えるためにプレーしやすい状況となるタイミングでリターンを返す必要がある。

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おわりに

リターンパスを的確に使うことは、選手間の距離が遠くなりすぎないよう、適切に保つ効果もある。

リターンパスが頭に無いと、それだけで選択肢がひとつ減ることとなる。チームとして列を越えることを考えれば、リターンパスの利点を活用することは必須となる。

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