「間に立つ」ことが相手に与える影響は?〜奥行、横軸、矢印により生まれる変化〜

戦術分析

相手の間に立つこと。相手の守備陣形を崩していくうえで重要なポイントである。ボールを前進させていくためには、ボールの通り道=スペースを広げ、より前進しやすい状況を作っていく必要がある。敵の間に立つことは、このスペースを広げるうえでも役に立つ。

敵の間と言っても様々だ。相手の守備の列を想定した時に、その列に対して奥も、手前も、ライン上も「敵の間」だ。では、間であればどこでもいいのかというと、そんなことはない。それぞれ相手に及ぼす影響が異なってくる。

今回は「敵の間」について、奥行き、横軸、矢印の3点から考える。

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そもそもなぜ間に立つのか?

そもそも敵の間に立つと何が良いのか?それは、

①誰がマークにつく?という迷いを生み出すことができる

②スペースを作ることができる

という点にある。間に立つことで敵はマークにつきにくくなり、マークのミスを誘発しやすくなる。また、守備側は自分の持ち場を離れる必要がある。持ち場を離れれば、そのエリアにスペースができあがる。ゾーンで守る場合はスライドして埋めていくがその分、別のエリアが空くことになる。

ボールを前進させるためにはボールの通り道(スペース)を作る必要があり、そのスペースを作るために間に立つのだ。

ただし、間に立つことが必ずしも良いというわけではない。例えば、ウイングの選手はサイドに張ってSBを引き付けることでチャンネルにスペースを生み出すことができる。そこに味方を走らせてボールを運ばせる。これは、SBとCBの間に位置を取っていると生み出せないスペースである。

つまり、間に立つことは必ずしも良いというわけではなく、チームとしてボールを前進させるための通り道(スペース)を作るための手段の一つであるため、通り道ができていなければ間に立っても意味はない。

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「相手の間」を奥行きで考える

話を戻す。ボールの通り道を作る手段であるという前提の元、相手の間に入る際の奥行き「手前」、「ライン上」、「奥」について、それぞれどんな違いがあるのか?

手前に位置する場合、相手は横方向と縦方向の両面でポジションを修正する必要がある。特に縦方向の移動と視野の影響により、背後にスペースができやすくなる。このスペースを使えるのが、手前を取った時の利点だ。相手のプレスが弱ければ背後にできあがったスペースに自らパスの供給が可能で、相手が強くプレスに出てくればすぐにボールを味方に預け、味方からそのスペースに楔を打たせることができる。

手前に立つ場合、「降りながら受ける」と「降りてから受ける」の区別をつけることも重要だ。降りながら受ける場合、相手を引き付ける効果は大きいが前を向くことは難しい。守備側にとっては、パスコースとスペースを埋めるための素早い判断が求められる。

そのため、空いたスペースを利用するために味方の流動的で素早いサポートが必要になる。スペースをベースにした考え方だ。

逆に降りてから受ける場合、前を向くことは簡単だが、相手がステイする可能性もある。そうなった場合、周囲の味方はポジションの取り直しを行うことが重要となる。立ち位置に変化が加わるため、相手のリアクションに応じてポジションを調整する。スペースの有無以上に相手の位置や矢印を見て立ち位置を定める。

(相手のいないところにスペースができるため、相手の位置とスペースは密接に関係している、というよりもほぼ同義に近い)

この違いは、身体の向きを作るうえでも重要なポイントだ。降りてから受ければ前を向くのにターンが不要となる。

ライン上に位置する場合、敵を視野に入れやすく、敵を横に動かすことができる。手前を取るよりも相手のリアクションは大きくなる。なぜなら、放置すれば一歩で守備の列を越えられてしまうからだ。そのため、ステイされることはほとんどない。

敵が大きな矢印を出して横に動くということは、その反対側にスペースができあがるということであるため、敵陣を崩す糸口として利用できる。

敵の「手前」にいるとパサーに近い分、バックパスした際の時間的・スペース的な猶予が限定され、セカンドチェイスを浴びる可能性もある。しかし、ライン上であればスペース的な猶予が確保できる。そのため、バックパスを受ける選手が余裕をもって前を向き、ボールを展開することができる。

サイドの選手にとっても重要だ。SBは敵WGのラインを越える意識を持つことでプレスにハマりにくくなる。

逆に相手が縦にコンパクトであったり、プレスの練度が低ければ図の①のように立ち位置を下げ、手前に誘き出し間延びさせ、勢いよくプレスで飛び出してくるWGの背後を取ることもできる。

奥(背後)に位置する場合、列を越えて死角に入り込んだ形でボールを受けることができる。守備側の2人が距離を狭めてパスコースを塞ぎに来る場合、バックステップで2人から離れてボールを呼び込む。こうすることで強くて速い楔のパスを捌くためのスペースを得ることができる。つまり、パサーは2人の間を割ることを念頭に置いたスピードあるボールを蹴ることができるため、楔のパスを通すことができる。相手が横幅を狭めれば、それによって空く両脇のスペースを利用できる。

このように「敵の間」と言っても手前、ライン上、背後の3つの高さを状況に応じて使い分ける必要がある。

どのようにチーム全体でボールを動かしていくべきか?そのために自分はどこにどう動くべきなのか?

自分が誰をひきつけるか?受け手になるべきか、出し手になるべきか?味方にスペースを与え、使わせるべきか?与えられたスペースを使うべきか?ということを考えて立ち位置をとらなければならない。

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「相手の間」を横幅で考える

次は「相手の間」を横幅で考えていく。これも、「チーム全体としてボールを前に運ぶために、次にどうプレーしたいのか」を考える。

例えばビルドアップのシチュエーション。AはWGとCFのちょうど間、BはWG寄りにポジションをとる。

Aの利点はボールホルダーとの距離が近く、CFさえ外せれば自分自身で前進できる。

ただし中央のプレスの圧力が強ければ、なかなか前進することはできない。

対してBの位置を取ると、WG寄りであるため明確に相手WGがプレスをかけにくるだろう。中央への圧力が強い場合、WG寄りに立つことでWGを絞らせ、外のルートを空けることができる。

この時、ボールホルダーに対して角度をつけてパスを受けることができる。ピッチを広く見渡しやすく、中央や前方への展開も行いやすくなる。アンカーの味方へパスを出すとバックパス気味になるため、アンカーも前を向いてボールを保持することができる。

アタッキングサードにおいても誰がマークにつくかという混乱を与えることができる。CB脇からSB側に移動すれば、SBをブロックした状態でボールを受けることができるうえ、パスコースができあがる。CBが引き続きついてくれば、CB間を突くこともできる。相手が引けば、レイオフで味方が前を向くこともできる。

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「相手の間」を矢印で考える

突っ立ったままの相手などいない。相手には必ず進行方向=矢印が存在する。この矢印の向きと長さも考慮しなければならない。矢印の向きはそのまま「方向」、長さは移動のスピードだ。

例えばこのシーン、アンカーの選手は相手のFWと中盤の間にポジションをとる。この時、ボールホルダーへのプレスを合図に相手CFはCBへのプレスを試みている。

この時のCFの矢印は前を向いている。はめ込もうとしているのであれば、矢印の長さは長くなる。そうなると、仮にアンカーにボールが入っても高負荷の切返しが発生するためすぐに対応できない。

つまり、アンカーは「相手の中盤とCFの間」に位置するが、CF寄りに位置することが可能となる。CF寄りに位置すると何が良いのか?

この状況であれば、アンカーは敵中盤とより一層の距離をとることができるので、安全に前を向いてプレーすることができる。

また、自分自身の矢印と身体の向きも重要である。どの方向から移動して、どの身体の向きで受けるのか?これまでの例においても、次のぷれを考えた矢印と身体の向きができていなければ、効果的なプレーは難しくなる。

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おわりに

「相手の間」と言っても様々だ。それぞれ相手に及ぼす影響、自分たちが享受するメリットも異なる。

結局これも、前進=複数の列を越えるために、チームとしていかにボールを回すべきで、そのために自分はどう動くのかというのを前提に考え、プレーに落とし込むべきである。

この前提があれば自然とそういった位置取りになるが、それぞれどういった効果があるかを考えられるのは大きな強みとなるだろう。

これらが生み出す「数歩」の違いはサッカーにとって大きな違いだ。

ロドリ、ペドリ、ジンチェンコ等は特にこういったポジショニングが秀逸であり、ロールモデルである。

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