【戦術分析】レヴァークーゼンvsシュツットガルト〜両チームの機能性とマンツーマンの外し方の差異〜

戦術分析

アロンソ・レヴァークーゼンがブンデスを席巻しているのは周知の事実。しかし23-24シーズン、近年低迷を続けていたチームも上位に食い込んできている。3位のシュツットガルトだ。

シュツットガルトは昨季残留争いを繰り広げ、遠藤航の退団で今季の成績が心配されたものの、CL出場圏内に位置している。レヴァークーゼンに並ぶ大きなサプライズだ。

シュツットガルトも丁寧にパスを回して攻撃を組み立てるスタイルだ。複数のシステムを用いることもできる。リーグ戦では、レヴァークーゼンすらも内容で圧倒して見せた。

この記事ではブンデスにサプライズをもたらしたレヴァークーゼンとシュツットガルトの対戦を、リーグ戦・ポカールの2試合分、戦術的ポイントを観ていく。

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vsシュツットガルト(リーグ戦)

前半戦は支配率57%-43%、シュート本数18本-8本と、ホームのシュツットガルトが圧倒的に攻勢であった。

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レヴァークーゼンの守備は珍しく4-4-2、対するシュツットガルトの攻撃も珍しく3-3-4(普段は4-2-3-1)であった。共に相手に合わせてシステムを変更して臨んだ可能性があると考えられる。シュツットガルトは2トップに対して3バック+1アンカーで優位を作り、IHがCH脇、2トップがCH間でボールを呼び込んでいった。徐々に右IHのカラソルは元のCHの位置に戻っていき、実質3-2-5に近い形となった。

大外を警戒したSHフリンポンはワイドに引いて守るケースが多くなった。その場合はシュティーラーが敵CF-シャドー間に降りることで優位性を確保し、カラソルがアンカー位置へと絞ってプレーした。彼ら2人の中盤の連携はブンデスでも屈指だ。シュティーラーが降りることでFWをひきつけられるため、左HVミッテルシュタットの前進が効果的なものとなった。レヴァークーゼンの守備は後手に回る形である。

前線3枚、特にミロとギラシはバランスを見ながら自由に動いた。ミロがセンターレーンに入りCH間で顔を出せばギラシは入れ替わるように左へと移動、ミロが右サイドまで移動すればウンダフはそのまま残って数的優位を作りギラシにフィニッシュワークをさせる、等だ。

逆の局面に目を向ける。レヴァークーゼンは攻撃時4-3-3、シュツットガルトは守備時5-3-2となる。シュツットガルトは2トップがアンカーを管理しつつCBにプレスをかけ、IHがSBに寄せる守備を採用。2トップがアンカーのシャカを切り続けることができていない中で、SBに対してアンカーのシャカとIHという2択のパスコースを提供できれば崩せた場面もいくつかあったが、流動的がゆえに居るべきエリアに人がおらず、いざSBにボールが入ってもパスコースを提供できずにシュツットガルトのプレスにはめられる、というシーンが何度か見られた。

特にアンカー位置が不在となるタイミングが多かった。左サイドではタプソバが深さを取らずにポジションをあげてしまいシャカがCB位置に降りざるをえない。

また右のコスヌは位置が高く、敵IHにすぐに寄せられるポジションであったため右サイド攻撃はほとんど機能しなかった。普段からパラシオスやシャカが左寄りでプレーしている影響もあり、この日も中盤のサポートが薄く孤立気味であった。

ヴィルツが常にアンカーと左IHの間のスペースを中心に顔を出していただけに、ここを効果的に使う土台を後方で作れなかったのはもったいない部分であった。

両チームとも、相手がビルドアップのための位置取り修正を行う前に、長い/緩いバックパスのタイミングでプレッシングをかけることができた際は、ボール奪取に成功するケースが多くみられた。

後半は共に普段の4-2-3-1と5-2-3を採用。シュツットガルトは2CBでCFに対して優位を作り、絞ったSBがシャドーを外に釣り出し、2CHが斜めにポジショニング、CH脇や間でトップが顔を出すという普段の組み立てでボールを保持。ただし守備は前半に比べて間延びし、カウンターにおけるリスク管理の甘さを露呈し多くのシュートを浴びることとなった。

特にSBが絞っていることもあり、被カウンター時にどのエリアでどの選手を捕まえるかが明確になっていない。

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vsシュツットガルト(ポカール)

両チームともに3-2-5、ミラーシステムでの対戦となった。両チームともに、前線5枚が足並み揃えてプレッシングをかけることで相手の攻撃を阻害し続けた。どちらかが相手を一方的に押し込むという展開がほとんどなく、ミドルサードでの攻防が続いた。

そんな中で両チーム、いかにマンマークを外していくかというのが攻撃のテーマとなった。

レヴァークーゼンは中央の人数調整によってマンマークを外す試みが見られた。最も多いパターンが、シャカが敵CF-シャドー間に降りるパターンだ。5-2-3崩しの定番と言える。この形を駆使した攻撃では何度か前進に成功した。しかし、浮いたところを利用する配球がさほどできなかったこと、HVヒンカピエに対してCBやシャカ自身が深さをとるタイミングが遅いもしくは深さをとらないこと、距離が近すぎてセカンドチェイスを喰らったこと等を要因に、機能しないシーンも多く見られた。

シュツットガルトの前線5枚の連動も見逃せない。シャカが下りた際にCHがそのままついていけば、シャドーのミロが確実に絞って中央をケアする。ついていかない場合はミロがシャカ→HVとプレスをかけて対応して見せた。

そうした中で、左HVヒンカピエのオーバーラップも利用した。シャカが降りることでヒンカピエのマークが弱まるため、中央からの崩しの中でサイドから死角をとる動きを行いやすい。この試合不在であったコスヌが得意としているプレーだ。

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こうした前進には必ず10番のヴィルツが関与した。左シャドーの彼はひたすら敵のマークをぼかす位置にポジションを調整し続けた。

右サイド攻撃の際のヴィルツは中央より右寄りまで移動、左からの攻撃の場合はWBグリマルドの手前といった具合だ。

特に効果的であるのが敵CH周りだ。敵CHのすぐ背後にポジションをとることで、シャカとアンドリッヒの2CHに対して敵CHが前進しにくくなる。そうなるとマンツーマンが崩れるため、レヴァークーゼンのCHが前を向いてボールを保持できる。すると、敵CHの脇や間からヴィルツがボールを呼び込むことができる。

ヴィルツはポジションを取る前にフェイクのステップを入れてからポジションに入るため、相手との距離を作ることができる。

このステップは、チーム全体が攻め急がずにゆっくりとボールを保持して前進するスタイルであることが要因で可能となっている。攻め急ぐチームだと、ステップを入れてポジションをとっている最中にボールが出てきてしまう。

ただでさえCHの近く、さらにはレーンを変えて受けに降りるのに、さらに距離ができるため、マークするDFは前進を躊躇する。ヴィルツとの間に一定の距離ができると、敵DFはヴィルツにボールが入ることと自身が前進してスペースを空けることのリスクを天秤にかけてスペースを埋め、ヴィルツをフリーにしてしまうのだ。

ヴィルツに敵DFがついていけば右シャドーのホフマンやCFシックが必ず侵入していく。レヴァークーゼンは敵DF陣の隣り合う2つのポジションが両方前進して守備を行う場合、すかさずに裏にボールを送り込んでいく。低めの位置のヴィルツとグリマルドにマークが前進すれば、シックがその背後に抜け出しボールを呼び込む。右サイドであればスピードスター・フリンポンが釣り出しと裏抜けの2役をこなす。そうして奥行きのある攻撃を見せて、守備陣に的を絞らせない。

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ヴィルツがCHの脇に位置すると、敵はさらに守備に出にくくなる。CH脇で受けたヴィルツから一気に裏にボールを送り込み、ラインを下げてしまった伊藤を振り切ったアドリの同点弾はまさにその形だ。

レヴァークーゼンが中央の人数調整を行うのに対し、シュツットガルトはサイドでの人数調整で攻撃を推し進めた。特に左サイドのCH、WB、シャドーによるローテーション攻撃だ。

左WBのミッテルシュタットがSBの位置まで降りてフリンポンを誘い出し、シャドーのヒューリッヒがその背後を狙う。HVが外に向かったところで空いたハーフスペースをCHシュティーラーが駆け上がる。

元々4-3-3-のような配置を取り、シュティーラーがシャカと同じように左サイドに降りて釣り出すと同時に、WG位置のヒューリッヒが絞りつつ降りる、といった形で、ローテーションを用いた攻撃が行われた。3-2-5でのローテーション攻撃はさほど多く見られるものではない。

シュツットガルトの2CH、シュティーラーとカラソルの攻撃時のポジショニングと配球力は、レヴァークーゼンのそれをしのぐ。特にシュティーラーは、相手のプレスの矢印を見極めて逆をとる配球能力がブンデスでもトップである。シュティーラーがCBとHVの間にポジションをとることができた場面では、プレスを外しつつ前進する形が多くみられた。中盤で細かなパスを回すことで敵のプレスの方向を振り回し、脚を止めることができるからだ。

互角の戦いを繰り広げた1戦であったが、シュツットガルトは背後をとる仕組みや意識がレヴァークーゼンに比べて足りていなかった。ギラシ不在も響き、レヴァークーゼンの勝利で幕を閉じた。

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おわりに

23-24シーズンのブンデスリーガに大きなサプライズをもたらした両チームの一戦は、どの局面においてもチームとしての練度の高さが表れた戦いであった。

ミラーゲームにおける相手の「外し方」、優位の作り方の差異は非常に興味深い。

アロンソの快進撃に霞んでしまっているが、シュツットガルトの監督、41歳のセバスティアン・ヘーネスにも要注目だ。

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