「バックパス」に対する評価・判断基準が狂うほど、サッカーは難しくなる

戦術分析

「バックパス」に否定的な人が多い。ゴールに直結しない、消極的なイメージが強いからだろう。
前への意識が強く、バックパスを出さない選手も多い。物理的な意味での遠回りになるのを嫌い、素早く攻め込みたいのだろう。

こういった認識や傾向の人は、バックパスの有用性を正しく認識できていない可能性が高い。
例えばマンチェスター・シティやレヴァークーゼンをはじめとしたパスを回して前進することを志向するチームであれば、バックパスの有用性を正しく認識し、積極活用しないと攻撃が破綻する。彼らは前進のために後退する。

今回はバックパスの利点と意味について。

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バックパスの利点と意味は?

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バックパスはチームの考え方によって使い所が変わっていく。とにかく縦に早く攻めたいチームであればバックパスを減らした方が良いだろう。しかし、今日日そんなチームも珍しい。ある程度パスを繋ぐはずだ。
今回はパスを回して敵の守備ブロックを崩していくチームを想定する。
バックパスはその名の通りボールを後ろに下げるパスだ。目標である「ゴール」からボール遠ざけるプレーである。一見ゴールするために必要な「前進」とは真逆であるが、サッカーにおける「前進」(=複数の列を越えること)を考えるとバックパスは必要である。前進するために後退するのだ

バックパスを考える際、「サッカーにおける前進」を必ずセットで考えねばならない。(上記記事参照)
上の記事で言う前進すべき条件を満たしていない時が、バックパスや横パスを選択するタイミングだ。

では前進するためになぜバックパスが必要なのか?それは、バックパスには下記のような効果があり、前進を助けてくれるからだ。

  1. 全体をコンパクトに保つ、間延びしない
  2. 攻撃の選択肢を増やす
  3. 攻撃機会の損失回避=攻撃機会の創出
  4. 動き直す時間を作る(味方、自分)
  5. 前進するのに安全な状態を作る
  6. 味方を活かす(前を向かせる、楔を打たせる)

まず①、バックパスが無いチームはドンドンと間延びしていく。人よりボールの方が早く動く。ボールが前進しかしないのであれば、人がボールに追いつく術はない。ボールだけがどんどんと前進し、ゴールに辿り着くころには選手が追い付いていない状態となる。

間延びすればパスコースが減り、攻撃が終わりやすくなる。攻撃が終わりカウンターを受ける際は、間延びしているため相手に多くのスペースを与えることになる。体力を無駄に消費するシャトルランのような状態と化す。

バックパスを多く用いることで、ボールとチーム全体が同じ速度で前進できる。すると、当然ボールの周辺や活用したいエリアに選手を多く配置できるため、②パスコースや選択肢を多く確保できる。

バックパスは直接ゴールに結びつかないかもしれない。しかし、失敗が少ない。これは③ボールロストの削減=攻撃機会の損失回避=新たな攻撃機会の創出に繋がる。成功確率20%のプレーに賭けるよりも、機会損失を減らして成功確率を上げるパス回しを行い、80%になったら勝負する。そういった考え方がパスを繋いで崩したいチームにとっては必要だ。

ウイングが敵陣タッチライン際でボールを持った時のことを考える。DFの対応は間に合っており、1vs1に備えた状態だ。内側斜め後方4mには味方がフリーの状態でいる。この時、ウイングは縦への勝負と斜め後方へのバックパスどちらを選択するか?

レヴァークーゼンやシティであればバックパスを選択するだろう。縦への突破は失敗のリスクがあり、抜いた後の選択肢も限られる。対してバックパスは失敗のリスクが少なく、中央で選択肢が豊富な状態を作り出せる。ウイングは後述する動き直しを行うことで続く攻撃に備えることもできる。

※ウインガーのレベルが低いと、そもそもバックパスの選択肢すら頭に入ってこない=選択肢を広げられない。もしくは縦に誘い込まれて奪われてしまう。正対の技術等も必要となる。

勝ってる状態であればより一層無理して攻め込む必要がない。バックパスを活用してゆっくりゆったり回していれば勝利で終わるのだ。相手が隙を見せた時だけ前進の判断を下せば良い。

バックパスを用いることで、④周囲の選手は動き直し、パスを受け直すための時間ができる。バックパスが少ないと、選手間で攻撃のタイミングを合わせるのが非常に難しくなる。

動き直す時間がないとボールを受けられない、もしくはボールを受けた時の状態が悪くなる。動き直してる時にボールが来てしまい噛み合わないといったプレーも増えていく。

バックパスを用いれば受け手も出し手も前進のための準備ができるため、⑤安全な状態で相手の守備ブロックの列を越えていくことができる。

前進は個人でするのではない、チームとしてボールを前進させていく。そうなった時、⑥味方を活かすプレーも必要となる。例えば自分が敵を引きつけた状態でバックパスを出せば、味方は前を向いた状態で空いたスペースに楔を打つことができる。

味方を使って楔を打たせることで、味方を活かし、チームとして前進できる。「味方を活かす」とは、ゴール直前のアシストパスを指すのではない。

楔を受けた選手にもバックパスの意識があれば、自分はボールを受け直し、前を向いて次の展開を図れる。チームは活かし、活かされるものである。

サイドの選手であれば、列を越えることを意識していれば、ボールを持っているだけで相手の選手がサイドに広がってくる。そこでバックパスを出せば、中央が空き、前線の選手が動き直す時間が生まれ、味方が楔を打てる。その楔の受け手からパスを受けるために動き直す。自分個人だけ見れば後退しているが、チームとしては大きく前進している。

サッカーはチームスポーツであり、「チームとして」という目線でボールを動かす必要がある。その中で自分と味方、味方と味方を繋ぐバックパスは必要不可欠なのだ。

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バックパスの評価が狂うほど、サッカーは難しくなる

「成功の可能性が低くても前にチャレンジすることが重要」、どんな状況でも「バックパスは消極的だ」と捉える人は、パスを回して前進するサッカーには絶対に向かない。理由は先述の通り、山ほどある。横パスに関しても同様だ。

成功確率がどの程度であればバックパスを選択するか、というパス選択の閾値はチーム・監督によって異なる。

パスコースが空き、列を越えることが容易であり、受け手の選択肢も豊富であるのにバックパスを選択するのは望ましくない。

そういったシチュエーションでないならば、バックパスを選択するのは何の問題もない。むしろバックパスを出さない方が問題だ。リードしている終盤であれば、上のような状況でも無理に前進する必要はない。

判断には様々な基準があり、シチュエーションによって変わっていく。

バックパスは相手の守備陣形を崩すためのチャレンジだ。前進効率を上げるためのバフだ。バックパスを非難するのは、相手の隙を作るために工夫を凝らす選手への侮辱だ。

ファイナルサードであればまだしも、20%の確率でしか成功しないようなシチュエーションで前進を図る方が問題である。

バックパスを選択肢に入れずに前にばかり進んでいく選手は、チームとしてボールを前進させるのに必要な「数手先のパス回しのイメージ」ができていない選手だ。どんなにドリブルが上手い選手でも、チームとして前進するイメージを持てない選手は、チームスポーツであるサッカーにおいて良い選手とは言えない。

バックパスばかりで前進ができない時に問題なのは、「バックパスが多いこと」ではない。「積極性」という曖昧なものでもない。前進の筋道を作れないチーム全体のポジショニングであったり、パス回しのルートである。結果としてバックパスが増えているだけだ。

個人のみの観点で考えず、チーム全体で前進するために効果的か否かが、パス選択の判断・評価項目であるべきで、バックパスが効果的なシチュエーションなら、バックパスを出すべきだ。無理に前進を試みるよりもバックパスを選択する方が非常に有意義だ。
カテゴリーやレベルが下がるほど、バックパスが減って攻め急ぐ傾向がある。
バックパスが禁止になれば、マンチェスター・シティやレヴァークーゼンであっても前進するのは難しい。

「バックパス」を利用できないと、バックパスが持つ「前進を助ける効果」を得ることができない。

「バックパス」に対する評価や判断が狂うほど、サッカーは難しいものになる。

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