鬼木達率いる川崎フロンターレの攻撃戦術分析

鬼木達率いる川崎フロンターレの攻撃戦術分析

2018シーズンを圧倒的な強さで制した川崎フロンターレ。

川崎フロンターレといえば丁寧にパスを繋いで攻撃を組み立てるチームというイメージが強い。しかし、2019シーズン22節までの全33
得点を見返してみると、引いて守るチームをショートパスで崩して奪った得点はたったの2つほどであった。
今回はそんな川崎フロンターレがとる戦術にフォーカスする。


基本布陣

川崎の基本布陣は4-2-3-1。中盤で細かいパスを回して前進する。3列目には展開力がありいざという時には攻撃参加までこなせる選手、2列目にはテクニックに優れた選手が並び、最前線には小林、レアンドロ・ダミアン、知念と得点力に優れた選手たちが位置する。ネガティブトランジションの際は前線のプレッシングだけでなくDF陣も果敢に前に出てカウンターの芽を摘む。

得点パターンのカテゴライズ

川崎フロンターレの22節までの全33得点をカテゴライズしてみると下記のような結果に。

クロス 12
ショートカウンター 6
長い距離の速攻 6
ロングボール 6
セットプレー 5
ショートパスでの崩し 2
裏への抜け出し 2

それぞれが相反する項目ではなく、重複をあえてカウントしたため合計は33を超えている。明確な指標・定義を用いてのカテゴライズではないが、誰がカウントしても誤差の範囲だろう。

当然、惜しくも得点には繋がらず未遂に終わった攻撃もあり、その中にはショートパスでの崩しも含まれる。故に、実際に決まった得点のカテゴライズだけでそのチームの色を判断することは出来ない。

ただし本記事では、カテゴライズした得点数という数字、そして実際の試合での各攻撃パターンのクオリティと得点数はおおよそ比例しているという筆者の印象を元に話を進めていく。

前線のポジショニング

川崎の前線メンバーのほとんどはライン間に位置を取る。SHは絞ってプレーする形だ。通常ライン間でボールを受けるメリットとして、DFを釣り出すことにより最終ラインに穴を空けるという点が挙げられる。しかし川崎の場合ライン間でボールを受けて敵を釣り出しても、周囲の選手が連動して空いたスペースに侵入するという動きが極端に少ない

川崎は「個人」で見ると、裏に抜ける素ぶりを見せる選手が確実に存在する。「ボールを持っている選手に対して」三角形を作ってパスルートを確保する動きもリーグ屈指である。

ただし、「ボールを持っていない選手同士」が連携して崩す動きがほとんど見られない。これが川崎の攻撃における最大の課題であろう。

レヴァークーゼンの三角形の作り方川崎と真逆の考え方なので比較をおすすめ。

例えば、釘付け役と裏抜け役の関係等である。それがないということはつまり、個々人がバラバラに裏抜けを試みている状態である。
良い例は下のシーンだ。

個々人が単発で行う裏抜けというのは動画1秒のシーンで田中が素振りをみせたような形だ。ホルダーとも合わず、他に絡む選手がいない状態である。その数秒後、ゴールとして生まれる知念の裏抜けは田中の降りる動きに連動したものとなっている。

ボールを持っている選手に対して三角形を作るというのは、敵の陣形や状態の影響をさほど受けないボールの位置をベースとしたポジションの取り方だ。ゆえに川崎は敵のシステム・位置取りに対する自らの配置的な優位を作らない・頼らない・使わない攻撃が多い。
自分たちのペースでのボール回しが可能だが、敵の傷口(スペース)を広げる・突くプレーが少なくなる。

また、「全員がライン間に入る」という陣形は「曖昧さ」を生む原因となっている。

通常ライン間に入るというのは良い意味での「曖昧」を作り出す。DFからすれば「前に出ないと攻撃にスイッチが入る、前に出れば後ろにスペースができる、どうする?」という「判断を迫られるプレー」だ。しかし川崎の選手はこれを全員で行うため、味方同士のプレーさえも予測できない、悪い意味での「曖昧」が生まれている。

先日紹介した横浜FマリノスのSH陣は基本的にサイドに張る状態を作るため、味方としては意図が通じやすく、敵に対しては確実に判断を迫るプレーが可能となる。どこにスペースが空きやすいか、どこを狙うべきかの共通意識を持ちやすくなるのだ。

アヤックスの4-2-3-1は非常に流動的で2列目の選手がライン間に入る等川崎に近い部分もあるが、ポジションの高さによって一定の役割が課せられている。それぞれの選手が連動してスペースメイクと裏抜けを行う事で停滞感の無い攻撃を可能としている。

川崎で言うとレアンドロ・ダミアンの起用は「曖昧」を解消する一つの手段となっている。

最も大きなロングボール戦術に関しては後述するとして、上の動画の様にポストプレイヤーとしてはっきりとした役割を与えられる選手を置くことで、裏に抜けずともスムーズな連携から得点を奪うことが可能だ。

また、皆がライン間にいると、裏に抜けるための距離が発生してしまう。これも全員がライン間に入る弊害だ。川崎で裏に抜けての得点はほとんど見られず、逆に阿部を中心としてミドルシュートが多いのもこういった要因である。

横並びの陣形で縦の関係性が作り出せない状況であるが、ここに3列目の田中が加わるとチャンスになるシーンが多い。

局所的に人数がかかるうえに縦の関係性ができあがり、2列目の選手が前に押し出される形となるからだ。

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プレッシング

川崎はボールを奪われてからの切り替え・プレッシングが非常に速く、即時奪回からチャンスに結びつけるシーンが何度も見られる。

即時奪回のフェーズで敵の守備陣形が整っていない状態であれば裏以外にもスペースが発生しているため、素早いパス交換からゴールを陥れるシーンも見られる。

これは最前線の選手が中央から離れる事でSHの選手が斜めに抜けるスペースを確保できるというのも大きい。セット攻撃でなかなか見られないプレーが守備のフェーズ(プレッシングでCFが中央を離れる)を経ることで可能となっているのだ。

ライン間に位置する前線は素早く敵にプレッシャーをかける。前線に張っているわけではないため、攻撃時とは逆に出足で勝負ができる

そしてキーとなるのが3列目、特に田中だ。敵の状況に応じてパスコースの制限、アタック、味方への受け渡しの判断をこなして刈り取る彼のプレーが、カウンターの芽を摘むのに一役買っている。登里、車屋、ジェジエウ、谷口等DF陣の出足もよく、田中と同じ高さまで前進して刈り取るシーンが非常に多い。

ちなみに、芽を摘みきれずにカウンターを喰らった際の対応は特に良いわけではない。

奪われた直後ではなく、セットされた状態から始まるプレッシングに関しても連動性が見られる。守備に走れる小林を中心に前線のメンバーでプレッシングをかけてはめ込む形はチャンスをもたらすこともしばしばである。

ただし、対3バック時には弱みが出る。HVに対してSHが食いついてスペースを与えてしまうシーンは多々見られ、大分戦等では特に苦しんだ様子であった。

ロングボール戦術

ダミアンや知念を目掛けたロングボールはひとつの強力なオプションとなっている。

川崎はライン間での平行なパスを利用するシーンが多々見られる。屈強なフィジカルを活かしてボールを収めることの出来るダミアンのようなポストプレイヤーがいることで、平行パスはさらにつなぎやすくなる。レイオフの関係をつくることで、ライン間で前を向いた選手がシュートに持ち込むこともできる。特にシュート精度の高い阿部は持ち味を発揮しやすい環境だ。ライン間に位置しているため、空中戦の落としを敵の中盤よりも先に触れられるというのもライン間に位置する利点となっている。

ダミアン以外でも、ロングボールをライン間で縦関係を作って処理するという攻撃は猛威を振るっている。ライン間のポジショニングを細かいパスワークよりもロングボールで活かしているというのが川崎の面白いところだ。どちらかというとパスで崩すタイプのチームが仕掛けるポジショニングであり、一見すると川崎もそうであるように見えるが、実際に活きているのはロングボール戦術なのである。

クロスボール戦術

川崎で最も多くを占める得点パターンがクロスボールだ。川崎はクロスボールを上げる際、中央で縦関係もしくは密集を創り出す。

選手がバラバラに点在するのではなく一箇所に集中することでマークにつかれにくくしているのだ。

縦関係を作った場合、マークにつくためにDFまで縦関係になれば左右にスペースができる。ニア・ファーのどちらにボールが入ってきても合わせるためのスペースが確保できるのだ。後ろの選手をフリーにすればマイナスのクロスへの対応が遅れるうえ、数的不利を許すことに繋がりかねない。そんな迷いをDFに与えることができるのだ。

また近距離を維持することで、前方に位置していた選手が合わせられず後ろに流れてきたボールにも即座に対応することができる。

背の高くない選手でもターゲットマンの背後もしくは後方に位置することで得点の可能性をあげている。こういったポジショニングが特に上手いのが小林である。

選手一人一人のクロスボールの精度の高さも当然ポイントとなっている。

おわりに

パスワークというイメージが強い川崎。実際川崎のパスワークは巧みであり、中盤でのパス交換は現地観戦したチェルシー戦でも奪われる気配を感じさせなかった。ただし、アタッキングサード侵入後はパスワークで崩すシーンがそれほど多くなく、裏に抜けるタイミングや連携もバラバラであることが多い。そんな2列目より上の選手のライン間の位置取りはロングボールやクロスボールで役立てられており、イメージとの大きなギャップを感じた。不思議な感覚である。

試合によってはアタッキングサードでの崩しの巧みさを発揮することもあるだろう。ただし、停滞感を打破するためには悪い意味での「曖昧さ」、そして役割の整理が必要となりそうだ。