EL覇者、「王様」から始まる攻撃の形。ロペテギ・セビージャ戦術分析

戦術分析

19-20シーズン、CLはバイエルン・ミュンヘンが圧倒的な強さを見せつけて頂に立った。その一方でELはローマ、ウルブス、マンチェスターユナイテッド、インテルといった並みいる強豪を次々と撃破したセビージャがトロフィーを掲げる結果となった。

ロペテギ率いるセビージャがいかにゲームを支配しEL優勝をさらったのか。彼らの戦術を紐解いていく。

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基本布陣

CBにはそつなくロングボールを蹴ることのできるクンデとカルロス。攻撃参加とそれに伴う運動量が求められるSBには、右にスピードのあるヘスス・ナバス、左には的確なパスと軽やかな身のこなしを武器に持つレギロンが配置される。

セビージャの戦術的特徴ともいえるアンカーにはフェルナンド、右IHにはスペースへ侵入するのが上手いジョアン・ジョルダン、左IHに攻撃の核となるバネガが君臨する。

右WGにはハーフスペースに入り込むのが上手いスソ、左に献身的な守備と推進力あるドリブルを持つオカンポス、CFに高さのあるルーク・デ・ヨングが入る形だ。

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セビージャの攻撃スタイルと一人の王様

セビージャはゆったりとしたビルドアップと長いサイドチェンジで敵陣へとボールを運び、アタッキングサードではサイドから少ない手数とクロスボールで攻撃を完結させる。

セビージャの戦術上のキーマンとなっているのが左IHのバネガだ。パススキルの高い彼が左CBの脇に降りるのはほぼ決まった形となっている。長短織り交ぜた配球で攻撃を組み立てる姿はまさにこのチームの王様と呼ぶにふさわしい。

左サイドに降りる「王様」バネガの動きがほぼ全ての攻撃の前提となっている。彼が降りるところから始まるセビージャの攻撃において特徴となるのは下記4点だ。

  1. アンカー・フェルナンドのデコイ
  2. スペースに入り込むIHジョルダン
  3. 幅をとり攻撃に参加するレギロンとナバスの両SB
  4. 中央でフリーロールとなる右WGスソ
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アンカー・フェルナンドのデコイ

通常ビルドアップにおける中心人物となるはずのアンカーがそれほど積極的に関与しないのがセビージャの特徴だ。なぜならアンカー・フェルナンドの脇に「王様」バネガが降りてくるからだ。例えるならレアル・マドリードにおいてトニ・クロースが降りてきた時のカゼミロに近い。

IHが降りることの利点は2つある。

一つは自チームのポジションを崩すことで敵の守備ブロックに綻びを作り出せること。そしてもう一つが、前線の一人の選手が降りることで後方の選手がポジションを上げることができることである。前後のポジションを入れ替えることで敵の守備を攪乱させるのだ。

このポジションを上げる選手にアンカーのフェルナンドも含まれているのがセビージャだ。アンカーを前進させるチームは非常に珍しい。

バネガが降りるところからスタートする攻撃の代表的なパターンが上のツイートの動きだ。

①バネガが降りることで空いたスペースに逆IHのジョルダンが移動してくる

これは非常にシンプルで、バネガの移動を利用するパターンだ。逆サイドの選手が移動してくると対応は困難となる。ジョルダンはこういったスペースへの侵入が非常に上手いタイプだ。バネガのように低い位置で組み立てるタイプと組ませるのは相性が良いといえるだろう。

②左SBレギロンがポジションを上げ、左WGオカンポスが絞る。

バネガが降りることでレギロンがポジションを上げやすくなる。敵SHの横または背後でボールを受け次の攻撃の展開を図る。レギロンが上がれる状態であればオカンポスがポジションを内側に移動させる。敵SBがオカンポスについていけばレギロンはスルスルと前進してタイミングを見計らい、一気にサイドを駆け上がっていく。敵SBがレギロンを視野に捉えた場合、オカンポスへのマークは緩くなる。バネガはチャンスの臭いを嗅ぎ分けてパスを捌き、攻撃を作っていく。

③アンカー・フェルナンドの前進

これが本項の本題だ。バネガのプレーエリアはおおよそ三日月状となっている。アンカーを兼務するようなイメージだ。そのためフェルナンドは定位置に縛られることなく前進することができる。アンカーのポジションを外れてCFとペアリングすることでレイオフの受け手となり攻撃を展開する。このフェルナンドの動きに敵が引いて対応すれば、逆IHのジョルダンが空いたアンカー位置でボールを受け逆サイドに展開していく

④フェルナンドとバネガの入れ替わり

アンカーのフェルナンドはDFラインに降りるプレーも見せる。彼が下がった場合も枚数の関係でSBは前進しやすくなる。フェルナンドが下がった状態からバネガも降りてくれば、後方の選手がもう一枚上がることができる。この時にバネガと入れ替わるように中央のフェルナンドが上がるのもパターンのひとつだ。降りるバネガが敵の最前列を外に引っ張り出せば中央が薄くなる。そのスペースで前進したフェルナンドがパスを受ければ攻撃の展開の幅が広がっていく。

⑤降りるフェルナンドに連動してジョルダンが絞る

降りるフェルナンドを警戒した敵の選手が彼について行った場合。それはFWラインとMFラインの間にスペースができることを意味する。ここにスペース侵入の名手であるジョルダンが絞って入り込む。ジョルダンがCFのレイオフを受けることで逆サイドへ展開を図っていく。

以上のように、バネガを落とすことで、アンカーをパスの出し手とするのではなくパスの受け手もしくは囮として利用し、かつ他の選手のポジションチェンジのトリガーとするのがセビージャのビルドアップの特徴となっている。

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中央でフリーロールとなるスソ

低い位置ではバネガが主導権を握って攻撃を組み立てフェルナンドがデコイとしてフリーな動きを見せ、ジョルダンがそれにあわせてポジションチェンジを行っている。

この方法で前進を行い、アタッキングサード付近でさらにフリーロールとなる選手が現れる。右WGのスソだ。ここで言うフリーロールとは役割がフリーというよりも、サイドで幅をとる役から解き放たれるという意味だ(ニュアンスの違い)。

フリーロールとなったスソは、時にハーフスペースに絞りIHのようなプレーを見せ、時にトップ下のようにライン間に入り敵CH間で顔を出し逆サイドのバネガからボールを引き出すプレーを見せる。

スソがフリーロールとなる条件は「SBヘスス・ナバスが前進できる状態であること」だ。いつでも幅を使った攻撃を展開できるよう、常に誰かがサイド高い位置へ進出できる状態である必要がある。

セビージャはサイドチェンジを多用する。ボール保持を安定させると同時に敵の守備ブロックを横に引き伸ばし、少ない手数でも攻撃を行いやすくするためだ。このサイドチェンジの受け手を確保するためにも誰かが幅をとっている必要があるのだ。

フリーロールとなったスソはハーフスペースやさらに中央へと絞っていくのだが、サイド攻撃にも引き続き絡んでいく。それが上図である。ジョルダンとスソは状況によって逆の立ち位置をとることも少なくない。

サイドで上図のような三角形を形成する。セビージャのサイドでのパス回しの最中において、この三角形につく三選手がポジションを互いに入れ替えることはない。彼らはこの頂点に立った状態から裏に抜ける動きと、下がってサポートする動きの「上下動」のみを行う。

この上下動を駆使することで、降りてサポートに入った瞬間に敵を釣り出し、スペースが空いた瞬間に背後をとることができる。サポートポジションをとることでゆったりとボールを回せる環境を作り、敵に隙を作った瞬間を刺す。セビージャのシンプルな右サイド攻撃はこのようにして成り立っている。

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レギロンとオカンポスの左サイド攻撃

レギロンとオカンポスの左サイドはさらにシンプルだ。二人が内と外を入れ替えるのみだ。オカンポスが内に絞り、レギロンが外側を駆け上がるのは「フェルナンドのデコイ」の項②で説明した通りだ。

もう一つがその逆、オカンポスが外側に移動し、レギロンがインナーラップする形だ。多用されるサイドチェンジの流れで行われることが多い。レギロンがワイドでサイドチェンジを受けると、内に絞っていたオカンポスが外に流れ、レギロンがインナーラップを仕掛ける。レギロンは敵をかわすプレーも得意としており、内から外に寄せに出てくるSHのベクトルを逆利用して内側に切り込むプレーをこなすことができる。オカンポスが外に流れて空けたスペースに侵入し一人でゴールを決めたELローマ戦は圧巻であった。

このように両サイドで得意の型が存在するため、サイドチェンジを繰り返して少ない手数でゴールに迫っていく。SBに豊富な運動量が求められる。

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守備戦術

セビージャは手数をかけずに攻撃を行う。そのため後方に人数が揃っていることも多いため、敵の攻撃を遅らせたのちにバックパスに合わせてポジションを上げて最終ラインからプレスをかけることが多い。

セビージャのプレッシングのパターンは二つ。敵最終ラインのボールホルダーに対して、①WGが出ていくパターンと②IHが出ていくパターンとだ。

①WGが出ていくパターンはより高い位置で用いられることが多い。WGが敵SBをカバーシャドウで切りつつボールに寄せていく。合わせてバネガとジョルダンのIHコンビが前進し敵の中盤を捕まえ、ロングボールをCBやフェルナンドが回収する。

②IHが出ていくパターンはセンターサークルの先端からプレスを開始する際に用いられることが多い。IHがボールホルダーに寄せるのに合わせてデヨングがアンカーを切り、WGが中央を遮断するように絞ることでサイドにボールを誘導する。ここでWGがプレスバックをかけ、SBが状況に応じて前進することで囲い込むのだ。

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おわりに

セビージャは「王様」バネガのポジション移動からポジションチェンジとサイドチェンジを駆使してボールを前進させ、手数の少ないサイド攻撃でアタッキングサードの攻略を図る。敵チームからすればこのサイド攻撃への対策とサイドチェンジのセカンドボール回収に工夫を入れることがセビージャ攻略のカギとなる。また、カウンターの際はバネガの降りる左サイドに脆さが見られる。

アンカーをデコイ的に使うチームはなかなか見られないため、シーズン終了のこの時期であっても取り上げてみた。王様といえどもプレッシングはさぼらずに行うあたりに時代の変化と強いチームの条件を感じる。この王様がいなくなった後のセビージャがどのように変貌を遂げるのか注目だ。

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サッカー戦術分析ブログ〜鳥の眼〜

コメント

  1. […] 前線のボールホルダーに対して必ず斜め後ろで最も安全なパスコースをつくってあげます。※これに関しては先日分析記事を上げたセビージャのようにアンカーを上げるチームもあります。 […]

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