7月28日にサンガスタジアムで行われた京都サンガvsシュツットガルトの試合を観てきました。京都が3-0でリードした状態から、シュツットガルトが5得点をあげて大逆転。エンターテイメントとして面白い試合でした。
会場のサンガスタジアム。アクセスも良くピッチとスタンドが近くて迫力が伝わる、とても素晴らしいスタジアムでした。
京都駅からは快速で約20分。道中には嵐山や保津峡といった観光スポットもありました。
さて、今回の目的はバイエルンを抑えてブンデス2位と大躍進を見せたシュツットガルトをこの目で観ること。本記事ではサンガ戦から読み取れるシュツットガルトの機能性と、24/25シーズンの展望についてまとめていきます。
デゼルビ・ブライトン風プレス回避
シュツットガルトの退団メンバー及び欠場選手は以下の通りです。
【退団】
ギラシ→ドルトムント
アントン→ドルトムント
伊藤→バイエルン
【欠場】
ヒューリッヒ(EURO)
ミッテルシュタット(EURO)
ウンダフ(EURO)
ミロ(パリ五輪)
シュティーラー
ザガドゥ
ヴァグノマン
昨季の主力級がほとんどいないのは事前に分かっていましたが、目当ての一人だったシュティーラーも居ないのか、、
というところで試合開始。現地のためそれほどじっくり考えて観ていませんでしたが、これだけ主力級がいない中でもヘーネスらしいサッカーが展開されている点に、コンセプトの浸透具合を感じました。
序盤は京都の勢いあるプレッシングvsシュツットガルトのプレス回避という構図。シュツットガルトは4-2-4で前後を分断させる形をとりました。
後方はCHカラソルを中心にショートパスでの前進に注力し、相手を十分に引きつけたら前線で待つ4トップにロングボールを送り込みます。デゼルビ・ブライトンのような形です。
右SBシュテンツェルはハーフスペースまで絞った位置をベースに、時折サイドに開いてボールを呼び込みます。シュツットガルトはCHにボールを当て、そこからカバーシャドーで消されたエリアへボールを送ってプレスを回避していくため、シュテンツェルはCHとの距離を近く保ち、パス交換しやすい位置に立っていました。
CHはSBに対して2つのパスコースを用意します。ファー側のCHがアンカー位置に降りることでそれは実現されます。特にカラソルですが、ダッシュでアンカー位置に降りてマークを一瞬外し、カバーシャドウを無効化するように展開します。
左SBのクレツィヒはハーフスペースのより高い位置でボールを呼び込み、スピードとテクニックを活かして素早い攻撃を見せます。パス&ムーブで活きる彼は1列前で使っても面白いかもしれません。
相手を前方に誘き出すと、4トップにロングボールが送り込まれます。ターゲットとなったのは新加入の2トップ、ヴォルテマーデとデミロビッチ。特に後者はギラシの後釜としてアウクスブルクから€21mという高額で獲得した、昨季15G9Aと期待のかかる選手です。
しかし、この試合前半の2トップは全く機能しませんでした。デミロビッチはポストプレーもできるタイプですがボールの呼び込み方が悪くCBのプレッシャーを受けてしまい、198cmのヴォルテマーデは時折良いポストプレーを見せるものの4トップ間に連動が無く、京都の4バックに捕まったまま打開できませんでした。
連動を起こすのであれば、前線の選手は斜めに受けることでレーンを共有する必要がありますが、そういった動きが見られず、それぞれがまっすぐ後ろに降りるのみでバラバラの状態でした。
2トップが機能せず中央攻撃が上手くいかないため、京都のSBは外の警戒を強めることができ、スピードのある左SHディールへのサイドチェンジもほとんど通りませんでした。
数少ない主力級であるCHカラソルはダッシュでCBに近寄りダイレクトでボールを捌くことでプレス回避に貢献するものの、同じCHケイテルはミスが目立つ形となりました。
攻撃が機能せず守勢に回ると、右SBシュテンツェルのエリアを悉く利用されました。スピード、フィジカルの無い彼は京都のWG原大智を止めることができず起点を作られ続け、2つの失点を喫しました。
CBのルオーは細かなパスワークが得意でCHを使いながら冷静に配球できるプレイヤーですが、カットインへの対応に改善の余地が見られました。
以上のように前半戦は2トップを中心とした攻撃の機能不全と、守勢に回った時の課題ばかりが露呈する難しい展開となりました。
逆に京都としてはプレッシングもロングボールも封じた、充実の前半戦だったといえるでしょう。
後半の変化と若手の躍動
後半はがらりと変わって大量5得点。最大の変化は2トップが代わり、レヴェリングが起用されたことでしょう。彼はスピードを活かして手前やサイドのスペースに移動してマーカーを剥がし、フィジカルを活かしてボールをキープし、シンプルにボールを捌くことで後方からのボールを収め続けました。前半の2トップがほとんどできなかったプレーです。
また、4トップでの連動も見られました。斜めに動くことでレーンを共有し、発生したスペースをフリックで利用して素早く攻め込んでいきました。
前線でボールが収まるようになると、スピードある選手の攻撃参加が可能となります。左SBに入ったシセはスピードと抜け出しで得点に絡む活躍とインパクトを見せました。しかしそれだけではなく、ビルドアップ時にサイド低い位置でボールを受け取り、相手の守備ブロックを引き延ばして前線にパスを送り込むプレーでも大きな貢献を果たしました。
この日最大の発見は19歳のCHベネデット。上の動画では左サイドにスルーパスを送り込んでいます。視野が広く柔らかいボールコントロールを見せる彼は抜群のプレス回避能力を見せました。役割としてはカラソルと同様、CBからボールを呼び込んでカバーシャドウを外すように展開するというものであり、目立ったミスもなくプレーしていました。
比較的小柄なため大成するのが難しいタイプにも感じますが、それを補う武器を持つ今後注目の選手です。
SHライムントにもゴラッソが生まれたように、若手メンバーがアピールに成功した試合となりました。
守っては伊藤、アントンの代役候補として獲得されたCBのシャボが195cmという長身とフィジカルを活かした安定したプレーでボールを弾き返していました。
24/25シュツットガルトの展望
24/25シーズンのシュツットガルトはCLという大舞台に挑みます。注目点としては、なんといっても退団メンバーの穴埋めでしょう。
前半戦の2トップ、デミロビッチとヴォルテマーデはほとんど機能しませんでした。強さ・速さ・足元の器用さを持ち合わせ、どの局面でも働ける万能型FWギラシの穴埋め役は現状不在です。ただし、当然この段階で決めつけるのは時期尚早です。
ヴォルテマーデが圧倒的な高さを備えているように、別の戦い方ならフィットするのであれば、早々に適性を見つけたいところです。特に高額であったデミロビッチがいわゆる「失敗補強」にならないように、へーネスが活かせるかに注目です。
昨季はギラシ不在の際に黒星が増えており、ここが上手く補填できないようだと、24/25のシュツットガルトはかなり厳しくなりそうです。そういった意味でも収穫が見えつつも、不安の残る試合でした。
今回デゼルビ・ブライトン風プレス回避を見せたシュツットガルトですが、これは昨シーズンとは違ったプレス回避策でした。
↓23/24でのプレス回避方法
相手を引き付け、隙あらば味方に前を向かせて前進させる配球力が必要なCH陣は、カラソル、シュティーラー、ベネデット等がこの攻め筋に対応できる能力を持っています。
デゼルビ式の攻め筋の骨格は見えた中で、主力が戻った時の機能性とこの試合で躍動したレヴェリングの奮起に期待がかかります。
CL参戦に伴い層の厚さも試されるシーズンとなります。そんな中で期待されるのが若手の台頭です。ベネデットを筆頭に、クレツィヒ、ディール、シセ、ライムント、そしてチェイス・アンリと、この試合でハイパフォーマンスを見せた選手が今後どこまで出場機会を得ていけるのか。
期待も懸念もありますが、24/25シーズンが彼らにとってどんなシーズンになるのか、要注目です。