2026FIFAワールドカップ王者に輝いた、デラフエンテ率いるスペイン代表。
彼らの強さの秘訣については、前回の記事で取り上げた。
https://birdseyefc.com/tactics/tacticsanalyze/2026worldcup_spain/

サッカーという競技性に従い、先の局面を優位な状態で迎えられるプレーを繰り返し継続することで、目の前の局面も含めて常に優位な状態に立ち続けている。
そんなスペイン代表が最も長い時間を過ごしているのが、ボールを保持して攻撃を行う局面だ。ボールを保持する時間は長いが、決して停滞感は無い。奇抜なことはしていない。基本戦術を忠実に遂行し、確実にスペースを生み出して前進を果たし、得点に結びつけている。
では、攻撃における基本戦術とはどのようなものなのか?
今回は、世界王者・スペイン代表の攻撃局面における戦術を詳細に紐解いていく。
攻撃局面における目標と手段

2026ワールドカップ覇者、スペイン。彼らの強さは、局面遷移の設計図にあることは以前の動画で取り上げた通りだ。

攻守に明確な区切りの無い、サッカーというスポーツの特徴。その競技性に従い、先の局面を常に優位な状態で迎えられるように戦う。スペインはそのサイクルが出来上がっており、局面間の相互作用が強く、常に助走をつけた状態でスタートを切っている。
そんな中で、ここからは攻撃の局面をより深堀していく。
攻撃は、奇抜なことは行わない。基本的な志向や所作を、全員が忠実に行っている。この基本的な志向・所作こそ、我々が学ぶべき点である。
まずは攻撃局面の設計だ。

局面を常に優位な状態で進める。攻撃においては、複数の守備列を越えることが想定されたものでなければならない。1列目をどうにか越えたとしても、2列目を越える余裕がない。そんな攻撃ルートや選択肢を選択してはならない。
「1列目を越えること」だけではなく、「1列目を越えた後も前進できる状態を作ること」 が重要である。

そこで土台となるのが、
・ボールホルダーが前向きフリーの状態で、ボールを運ぶもしくはパスで敵守備ラインを越える
・味方に動き出しの時間とスペースを与える
という点だ。
攻撃の起点となるビルドアップでは、特にこれらが求められる。起点の時点で先細っては、その先のライン通過が難しくなる。
これらを満たすため、ロドリやルイスといった中盤の選手が低い位置でビルドアップの補佐に入る。
第2フェーズとなる敵中盤ラインを破る前進局面においても、求められるものは同様だ。
スペースを作り出し、中盤ラインを越える手段は大きく2つ。
1つはビルドアップで生み出したスペースを、中盤での数的優位で活用する方法だ。空けたスペースに入り込む役を確保、利用する。
2つめは、CBの持ち出しをトリガーに行われるサイドでのローテーションである。
こうした手段で中盤ラインを越えると、最後はフィニッシュの局面となる。
フィニッシュでは、0トップが空けたスペースの活用、マイナスクロス、そしてWGによる抜け出しがメインの手段となる。
では、これらの手段がどのように用いられているのかを見ていく。
ビルドアップ
スペインは、安定したボール保持局面をベースとしてゲームをコントロールする。
土台となるビルドアップで特に求められるのは先述の通り、
・ボールホルダーが前向きフリーの状態でボールを運ぶ、もしくはパスで敵守備陣の1stラインを越える
・味方に動き出しの時間とスペースを与える
という2点だ。そして、この2点を満たし、チームに安定した保持と前進をもたらしているポイントは大きく3つだ。
・相手を引き付けるために運び、引き付けたら放す、球離れのタイミング
・相手のスライドの矢印の逆を突くパス回し
・ロドリとルイスによるサポート

例えば、左SBのククレジャが低い位置でボールを持つ際、プレスの流れに身を任せてパスを回すと詰まりやすい。ここで、ロドリがプレスの流れとは逆行する位置で受けられるようなサポートポジションを取り、ククレジャがそこにパスをつける。これだけで相手のプレスは矢印の逆を取られて乱れるため、回避しやすくなる。


この時、ロドリにマークがつくようであれば、CFのオヤルサバルへのパスコースが空きやすくなる。仮にこのスペースもケアされる場合、ロドリが前方に抜ける動きで相手を引き付け、空いたスペースにルイスが入って配球役となる。彼ら2人の関係性もまた抜群であった。

似たケースで、敵CFがロドリへのパスコースを切りながらCBへプレスをかけてくる。これに対してスペインは、ククレジャを介した回避を試みる。プレスの流れのままWGにパスを出すのはリスクとなるため、ベクトルの逆を突くロドリを活用する。では、ロドリは、ライン間の5つのエリアの内、どこに位置を取るか。

ロドリは、プレスマンであるCFの背中に付けるようにポジションを取る。CFは、前向きのプレスの矢印が伸びているため、ロドリに対してプレスバックをかけるには、急激なターンと時間、距離を要し、来た道を戻るという心理的な抵抗も発生する。さらに、この位置であれば、敵中盤との距離も確保できるため、前向きにボールを受けることができる。
前向きに受けることで、敵中盤が出てこなければ運び、出てくればその背後のスペースを活用しやすくなる。

これとは別に、ロドリやルイスがDFライン近くで起点を作り、CBやSBを押し上げる形で起点の変更を行うことで、相手の1stDFの届かない配置を作る動きも頻繁に見られた。
この動きは、相手の前線の枚数が2枚だから、3枚だから、という数合わせからくるものではない。チームの誰かが前向きフリーの状態で1stラインを越えるためには?という目標の観点から実行される。
そのため、再現性の高い動きはあっても、決まった動きは無い。
時にCB間に降りることで、CBを開かせて脇から前進させる。

時に中盤に留まって相手を引きつけ、前進させる。

時に後方に降りて自らがフリーとなる。

中盤だけでなく、GKのシモンを加えることで、SBのククレジャを浮かせる動きは、オーストリア戦等でよく見られたプレーである。
プレス回避策
スペインに対して、プレッシングでボールを奪取しようという試みを見せたチームは少なかった。猛暑の中での大会であったことも影響したのだろう。
プレスを受けた際のスペインが、それを回避するための策は大きく4つだ。
一つは先述の通り、CHやGKを用いて、敵の1stライン手前に選手を配置することで1stプレスを乱し、機能不全に陥れる方法だ。

2つ目は右サイドのポロとヤマルによる連携だ。ポロはクバルシからボールを受ける際、タッチラインから2mほど離れて位置を取る。クバルシに余裕があれば、敵中盤ラインを越えられる高さに立つが、プレスを受けてパスコースの確保が困難な場合は、敵中盤ラインの手前となる。
自身が2m内側に立つことで、相手の立ち位置も2m内側で止まるため、外側にボールを置いて縦にパスを出す余白ができる。ここで受けるのがヤマルだ。ヤマルは、ドリブルだけでなく柔らかいタッチでのレイオフを出すことができる。彼のレイオフを、オルモもしくはワンツーでポロが受けることで、相手のプレスの矢印の逆を突くことができる。

ポロがボールを受ける際、このヤマルへのパスを餌にすることで相手のプレスの勢いを加速させ、逆を突くように内側へとボールを運んで回避することも可能だ。これが3つめだ。
後述するが、この回避から生まれたのが、自身がゴールを決めたフランス戦での2点目であった。

そして4つめがロングボールだ。4バックと2CHが低い位置まで降り、前線3枚は前方に張る。オルモはサイド寄りで、ヤマルの手前近辺に位置を取る。相手の最終ラインが3枚になる場合、敵SBはスペースを埋めるために絞る。するとワイドにスペースが空くため、ヤマルや裏抜けの得意なバエナへと送り込まれる。仮に通らなくとも、広いスペースであるため、DFは落下地点に追い付かずにバウンドしたボールを後ろ向きに処理する形となる。つまり、大きく弾き返すこと、処理することが難しい。スペインは素早く切り替え、セカンドボールの回収に向かっていく。そうして、プレスを回避して前進した状態から攻撃をスタートすることが可能となる。
前後が分断された形となるため、ライン間に落とすようなボールがシモンから送り込まれ、オヤルサバルが瞬間的に降りて捌くケースも多い。
こういった手段が用意されていたものの、先述の通り、積極的にプレッシングを仕掛けてくるチームが少なかった。そのため、確実に前向きフリーのボールホルダーを使って前進することが容易であった。当然、安全性の高いショートパス主体の攻撃が優先して展開されていった。
中盤での数的優位
ビルドアップにてフリーのボールホルダーを生み出し、前進を図る。この出し手側の準備と並行して、受け手が利用するためのスペースを前方に生み出す必要がある。これはビルドアップを担う後方の選手だけでなく、ボールを受ける前方の選手を交えた、チーム全体で行われる。

特徴的であるのは、中盤での数的優位である。中盤にはロドリとルイスに加え、ダニ・オルモとオヤルサバルが降りることで数的優位を生み出す。
彼らがただ降りて人数を増やすだけでは意味がない。数的優位は、相手の守備組織を広げた構造的優位や、相手に2択を突きつけるような位置的優位の上ではじめて成り立つ。
チームとしてそのような優位性を確保した状態であるからこそ、スペインの10番、ダニ・オルモが輝くこととなった。
逆に、こうした優位性を獲得できないチームにダニ・オルモを放り込んでも、同じようなパフォーマンスは期待できない。スペインがオルモの能力を最大化させ、オルモがスペインを輝かせている。
チームとして位置的優位、構造的優位、そして中盤での数的優位を獲得し、オルモがボールを受ける際のポイントは大きく3つだ。
・ロドリとルイスの関係性
・WGによる釘付け
・オヤルサバルによる釘付け
中盤の低い位置ではロドリとルイスが攻撃を組み立てる。彼らに対して相手の中盤がついていき、空いたスペースにオルモが入り込んでいく。
ロドリはアンカー、ルイスはそれよりもやや高い位置を取り、2人が同サイドに立つような状況が生まれる。この際、敵の2CHが対応に出ることで、逆サイドのハーフスペースが空く形となる。
主にアンカーのロドリがどちらか一方のサイドに寄る形を取ることで、ロドリの脇にスペースを生み出し、オルモもしくはルイスが利用するスペースと、ローテーションが生み出されるのだ。
ビルドアップにて紹介したケースは、まさにこの形だ。
この中盤でのローテーションは、スペースを作り出すうえでのトリガーとなっており、スムーズに前進する上での重要なポイントとなった。
ビルドアップでの移動も含め、ロドリは一所に留まらず、移動してスペースを生み出し、そこを味方に使わせるプレーを見せた。味方が連動できるから成り立つプレーである。

基本的にオルモは右サイドのハーフスペース付近を主戦場としたが、ロドリが右サイドに寄るポジションを取れば、ルイスがアンカーの位置に降りて、オルモが中央に寄る、もしくはオヤルサバルが左に降りるといったローテーションも見られる。
2トップがボールを受けるためのスペースを確保するため、ヤマルとバエナのWG陣は基本的にサイドに張ったポジションを取る。そうして、相手のSBを外側に釘付けにすることで、ピッチの中央のスペースを確保する。
ルイスとロドリが敵CHを、WGが敵SBを引き付け、さらにはオヤルサバルが敵CBを引き付ける。彼が背後へ抜ける動きを見せることで敵CBを釘付けにし、オルモに対してプレスがかからない状態を作り出すことが可能となるのだ。

オーストリア戦39分の攻撃を例に挙げる。この時のスタメンはルイスではなくぺドリだ。ポロがクバルシにボールを預けると、ロドリが2トップの守備範囲から逃れるように左後方にポジションを移動する。相手のプレスが届きにくい位置であり、相手守備の1stラインを越えることが容易となる。

敵CFが素早いスライドで対応すると、ククレジャに預け、前方に抜けて敵CFを引き付ける。これにより、CBに前向きフリーの状態を提供した。ロドリがアンカー位置から移動したことで空いたスペースには、IHのペドリが降りる。

クバルシはペドリに当てる。ペドリが2トップを引き付けることで、クバルシに前向きフリーを提供し、前方に抜けることでさらにCFを押し込む。

ロドリがアンカー位置に戻り、CFが引き返してプレスに出ることでペドリがフリーとなり、運動量豊富な敵1列目の突破を果たした。アンカーにこまめにつけるクバルシの配球も光っている。

1列目を突破したペドリに敵CHが寄せに出てくると、サイドに展開する。この時点で、ヤマルがSB、ポロがSH、ペドリがCHを引き付けることで、オルモがフリーの状態となる。

ここで、オヤルサバルがCBの背後に抜ける動きを見せることで、CBが前に出にくいように釘付けも行う。オルモがフリーで前を向くと、オヤルサバルは踵を返してファーに膨らむ動きを見せる。DFとしてはオルモとオヤルサバルを同一視野に捉えるのが難しくなる。あえてボールホルダーから離れてシュートへと向かう、オヤルサバルの巧みな個人戦術だ。
CBダンソによるラインを下げた的確な守備でシュート自体はブロックされたものの、その後の切り替えの精度も高い。オヤルサバルが素早くプレスバックをかけて時間を作り、ペドリが前を向かせないように素早く寄せる。
ポロとクバルシがボールサイドをカバーし、オルモによる死角からのプレスバックでボール奪取に成功、再び攻撃フェーズに移行している。
サイドでのローテーション
前方にスペースを生み出す手段として、サイドでのローテーションが活用される。これは、相手のスライドの矢印の逆を取るというコンセプトに基づいたプレーだ。

ロドリやルイスといった中盤の選手が低い位置で各選手と接続することで、CBのラポルトとクバルシが外寄りでプレーしやすくなる。
彼らはフリーでボールを持つと、斜め外側前方に角度をつけてボールを運んでいく。単に真っすぐ運ぶのではなく、角度をつけるのがポイントだ。
これに合わせてSBが敵の中盤ラインまでポジションを上げ、敵SHを外に引っ張る。守備のスライドはボールに合わせて行われる。つまり、CBが運ぶ方向に相手守備陣はスライドするため、その逆を取るようにWGが内側に絞り込んでマークを外す。
敵SBがWGの対応のために内側に寄れば、外のSBを利用して前進する。

外のSBに出ると、WGは敵SBの死角から裏に抜け出す動きを見せる。相手がラインを下げれば、ストップして並行や後方サポートを行う。
WGが絞る動きがIHと被ることは少ない。ルイスは低い位置にとどまり、オルモはさらに内側のセンターレーンにスライドすることで相手の矢印の逆を取ってマークを外す動きを見せるからだ。
敵CFがスライドして対応する場合は、ロドリが中継役として低い位置を取ることで、CFが空けたスペースを利用して前進を図る。
1つの運ぶドリブルをトリガーに、複数の選手が敵のスライドの逆を突く動きを行うことで、ローテーションが生まれているのだ。
ワイドプレイヤーによる4つの裏抜けパターン
オヤルサバルやダニ・オルモが降りることで中盤で優位性を作り出す。ここで重要となるのが、背後を突く選択肢を見せることだ。背後を突けない場合、相手はCBを前進させることでスペインの優位性を消すことができる。背後を見せて手前を取る、手前を見せて背後を取る。2つの選択肢が両立していなければ、機能性は格段に落ちる。
背後を突く選択肢を見せるのは主にWGの役割だ。
スペインのヤマルとバエナをはじめとするワイドプレイヤーは、主に4つのパターンで背後への抜け出しを行う。

・ショートパスでのサイドチェンジに合わせた抜け出し
・足元で受け、ボールをハーフスペースに返してからのバックドア
・レーンチェンジからのフロントカット
・(相手がハイライン時)逆ローハーフ前向きフリーでの抜け出し

スペインは、チャンスができるまでゆったりとボールを回して、プレースピードや試合展開をコントロールする。WGが抜け出しを試みるタイミングの一つとなっているのが、逆サイドからのショートパスを、ハーフスペース低めの選手が前を向いて受けた時だ。
この位置にはラポルトやクバルシといったCBや、ロドリ、ルイス、ペドリといった中盤が入るケースが多い。
守備陣形は、ボールの位置に合わせてスライドする。CBにボールが入る際、敵SBはWGに寄るようにスライドを行う。このスライドの逆を取るようにWGが抜け出しを図る。そうすることで、相手の矢印の逆を取り、優位な状態に立つことが可能となるのだ。つまり、WGは予め幅を取っておく必要がある。サイドチェンジに合わせて自らも幅を取るようでは、逆向きの動きとならないからだ。


仮にWGが内に入った状態で外に流れてくる場合、SBがそこを使うことは無い。敵の守備にはめ込まれやすいからだ。SBは内側にボールを運ぶ、もしくはパスを展開し、自らがレーンを変えて内側に入りこむ等の配置変換を行う。
動き出すタイミングは、パサーがトラップをした瞬間だ。そのため、フェイクを入れるのはパサーがトラップする前までだ。

フェイクは、やや絞った状態から開いて相手を引きつけ、トラップした瞬間に背後をとる。
手前に入るステップを見せてから裏に抜けるといった形だ。
パサーがトラップしたあとは、横移動で助走を取ってから抜けることが多い。
パサーは、敵SBに身体を向けるようにボールを置く。すると、SBはパサーと正対する形となり、視線を奪われ、背後の状況が見えなくなる。
パスは、受け手と出し手の合作であり、2人で作り上げる必要があるのだ。
相手が裏を警戒してWGと距離を取る場合、WGは足元でボールを受けやすくなる。ヤマルであれば、足元で受けてから得意のドリブルで仕掛けることができる。彼は、背後への抜け出しとドリブルという2つの手札を持つことで相手に2択を突きつけることができる。ドリブラーはドリブルができるだけでは怖さが半減する。ドリブルという選択肢を持つことで、複数の選択肢を相手に突き付け、後手に回らせることができるから輝くのだ。
ヤマルは、時折強引な仕掛けが見られるのが玉に瑕ではあるが、優れたWGであることに疑う余地はない。
バエナは、ヤマルのようなドリブルは無く、パスワークも他のスペインの選手に比べると見劣りする。しかし、背後への抜け出しの試行回数は非常に多く、相手の脅威になった。

また、足元で受けたあとも、抜け出しのチャンスは訪れる。これはバエナだけではなくヤマル、そしてククレジャやポロのようなSBにも見られるムーブだ。
足元で受けたワイドの選手がハーフスペース低い位置の味方にボールを戻すと、敵SBは順足を前にしてボールの行方を目で追う。そうするとワイドの選手が視界から消えるため、バックドアで背後を取りやすくなる。
ベルギー戦の先制点はまさしくこういった裏抜けの動きを駆使した得点であった。

クバルシが前向きフリーでボールを運ぶと、ヤマルが背後を取るアクションを見せる。SBが警戒して内側に絞ると、空いたワイドのスペースにポロが前進して受ける。

ヤマルがローハーフでサポートポジションを取ると、ポロがそこにつける。このパスに対し、ポロのマークについていたドクが順足を前にしてボールを目で追うと、ポロはすかさず背後を突いた。守備者は後方にターンして追いかける必要があるため、快速のドクすらも振りほどけるのだ。
裏抜けを用いることで、ヤマルとポロの間ではポジションのローテーションが発生している。後方でドクに守備をさせていることからも分かるように、守備組織を乱す糸口にもなっている。

逆に、守備の名手ククレジャはどのように対応しているのか。分かりやすい例でベルギー戦前半43分のシーンでは、自身の死角から裏を取られそうな際、絞りつつラインを下げることで、順足を後ろにしてボールホルダーと受け手を同一視野に捉え、パスが出た瞬間に対応できる形を取っている。
身体の向きだけでなく、立ち位置を的確に調整するのだ。

ワイドの選手は、ボールを下げた後に内側へとレーンを変えるケースも多い。この際にフロントカットでチャンネルを陥れる方法も備えている。レーンチェンジのような横向きの動きは、守備者にとって、どこまでついていくかという迷いを生じさせるもので、対応が非常に難しい。ついていっても、入れ替わりで別の選手がワイドに立てば、その選手がフリーになってしまう。

裏抜け最後のパターンは、ハイラインの相手に対して、逆サイドのCBやCHが前向きフリーでボールを持った時の抜け出しである。
オフサイドラインを見極めやすい逆サイドの大外から、横向きで助走を取りながら、パサーとタイミングを合わせて一気に抜け出す。
この動きに対して守備側は、SBがついていくのがセオリーだ。その際、サイドにスペースが生まれるため、SBのククレジャがそのスペースに連動して走りこんでいく。
フィニッシュ局面での手段
スペインのフィニッシュの局面で特に用いられている手段は大きく2つだ。
1つは0トップが空けたスペースへの抜け出しだ。オルモやオヤルサバルが敵DFの手前でボールを受けることで、相手のCBを釣りだし、空いたスペースに周囲の選手が飛び込んでいく。
優勝候補筆頭であったフランス戦の2点目はまさしくこの形だ。そして、ゴールまでの1分間は、フィニッシュだけでなく、スペインの様々な戦術的特徴が表れたものとなった。

プレッシングからセカンドを回収してマイボールにすると、ラポルトがGKのウナイ・シモンに預ける。相手のプレスの向きを見て、シモンはすかさず逆を取るように、ダイレクトでラポルトに返した。

ラポルトが運ぶのに合わせて、ルイスが中央レーンに移動、オヤルサバルが前方で膨らむように降り、ロドリは斜め後方のサポートを行うためにあえて動かない。こうして複数のパスコースを作ると、ラポルトからロドリ、そしてルイスへと渡って逆サイドへ。見事にプレスを回避する。

ルイスがポロに預けて前方に抜けることでチュアメニを引き付け、ポロは内側へのドリブルで、プレスの矢印に逆らうことで剥がす。
この時、中央のオルモには左CBがついており、ヤマルがその背後に抜ける動きを見せている。
ロドリは相手の中盤の手が届かない、敵1stライン上でポロをサポートする。

ラポルトがフリーで前進できる状態になると、ロドリは位置を上げる。この動きで、ロドリとオルモvsコネという2vs1を作り出す。さらにオルモは、中央から左へとポジションを移動することで、マークを完全に外した状態となる。元々マークについていたのは左CBだが、右サイドまでついていくのは難しい。オヤルサバルは前方で右CBを釘付けにしている。中盤での数的優位とローテーションが完璧に決まったシーンだ。

その後、持ち味の予防的配置でクロスのセカンドを拾うと、ポロにボールが渡る。ポロはサイドのヤマルの方向に身体を向けて敵をサイドに誘導する。そこから再度内側に向き直すことで相手のプレッシャーを弱める。
この時、コネがルイスに釣られて前進し、2トップへのパスコースが空く形となった。ポロからオルモへと渡り、同時に降りてレイオフを狙うオヤルサバルに釣られた左CBが空けたスペースにポロが侵入、試合を決定づけるゴールが決まった。SBのディーニュも、サイドのヤマルに気を取られてカバーに入れるポジションを取れていない。
優勝候補筆頭のフランスとの試合を決定づける、スペインのすべてが詰め込まれたようなゴールである。

2つ目はマイナスクロスだ。スペインのCFには大柄な選手が起用されていないため、単純なクロスボールでは得点を奪うことが難しい。そこで活用されるのがマイナスクロスである。
マイナスクロスを上げるうえで重要となるのは、マイナスを切る敵CHを動かすことだ。
スペインは中盤で数的優位を作り出すことで、相手の中盤を前方に釣り出し、マイナスクロス対応を遅らせている。
また、ネガティブ・トランジションも重要な要素となる。素早くボールを奪還することで、相手の前線がカウンターのために広がって間延びする構造的優位を生み出す。相手が間延びすると、CHの守備エリアが広くなるため、マイナスクロスへの対応まで手が回らなくなるのだ。
ゴール前では、オルモとオヤルサバルが縦関係を作る。そうすることで、前方の選手がCBを釘付けにし、後方でマイナスクロスを受ける選手をフリーにすることが可能となる。

オーストリア戦での先制ゴールも、セカンドボールを回収し、相手の構造が間延びした瞬間を狙って前進し、敵CHが中盤のペドリに食いついて空いたマイナスのスペースを突いて得点している。


WGの裏抜けにて例に挙げたベルギー戦の先制点においても、同様にCHを動かしている。降りるヤマルが敵SBとCHを釣り出したことで、マイナスのオルモが空く形となっている。

スペインの攻撃局面は、こうした戦術の上に成り立ち、全体循環に組み込まれているのである。攻撃中から、ネガティブ・トランジション局面を優位に進めるための準備が行われ、局面転換がなされていく。
各国のスペイン対策

スペインに対して、各国はどのような対策を取ったのか。まず、この大会においては、ハイプレスで守るチームが少なかった。それは、スペインのプレス回避策が充実していたというのもあるが、それ以上に暑さという環境面も起因していたと思われる。
スペインに対して面白い対策を見せたのが、以外にも、守備に消極的なクリスティアーノ・ロナウドを擁するポルトガルだ。
スペインは、敵陣に穴が空くまで何度でもやり直しを行う。そんな彼らに対し、対戦国の多くは、スペースを与えないようにブロックを敷く守り方を取る。

しかし、ポルトガルは、やり直しにかかるコストを増加させるというアプローチをとった。ロナウドには大幅なスライドや素早い切り替えは求めず、ラポルトを消すというタスクが与えられた。
スペインのようなチームに対して、やり直しにストレスを与えるアプローチは効果的なものとなる。攻撃の起点となるラポルトを消すことで、左サイドからの攻撃機会を奪い、逆サイドへの展開にかかる位置取り等のコストやパス本数を増加させることで、リズムを崩させ、攻撃の幅を限定した。やり直しができなければ、スペインの攻撃は前方へのベクトルが増す。すると、仕掛けの比率が高まり、スペインの攻撃が終わる回数が増える。つまり、スペインの攻撃時間が短くなる。スペインからボールを取り上げることにつながるのだ。
ロナウドがユベントスに在籍していた時代に、アッレグリ監督も見せた守備アプローチである。ロナウドのような守備に積極的でないスター選手を組み込むにはうってつけの策となっている。
最もスペインが苦労したのが、ウルグアイだろう。ウルグアイは、南米のチームらしい激しい守備が特徴だ。
球際で激しく寄せ、早めにファウルでプレーを切る。そのあとに続くプレーへの移行を阻害する。決して美しいとはいえないものの、そうしたプレーを繰り返し、スペインのシュートを6本に抑え込んだ。
ボールを取り上げる、プレッシング、ロングボール等、様々なアプローチの中から、スペインの無敗記録を止めるチームの戦い方にも期待したい。

スペイン代表のような戦い方の手本、そして今後の活躍が期待される新進気鋭の若手指揮官達の戦術については、上記リンクの書籍にて。
アルテタに加えてアロンソ、イラオラ、マレスカ。
26-27シーズンでは、取り上げた監督の多くが新たにプレミア上位チームに集結しており、新時代の到来を予感させます。
28人もの若手指揮官の戦術と、サッカーの原理・原則を学ぶことのできる一冊となっています。ぜひお手に取ってみてください。


