【サッカーの本質】デ・ラ・フエンテ率いるスペイン代表戦術分析【2026FIFA W杯】

戦術分析

2026FIFAワールドカップ。優勝を果たしたのは、最強との呼び声高かったフランス、そしてメッシ率いるアルゼンチンを撃破した、スペイン代表だ。

世界最長記録となる38戦無敗。W杯8試合でわずか1失点。決勝ではアルゼンチン相手に90分間でのシュートを0本に抑えこんだ。まさに、他を寄せ付けない、圧倒的な完成度を誇るチームであった。

平均身長は、我らが日本代表とほぼ一緒だ。個の力だけ見れば、フランス代表の方が上であろう。選手別の最高速度を見ても、トップ10にフランス代表選手が3人入っているのに対し、スペイン最速であったバエナは、大会全体だと113位。

この値は、全力で走る必要が無かった結果とも言えるが、スペイン代表がここまで強い要因は、基盤となる個の力だけでなく、組織力にこそある。

スペインが記録を塗り替えるまでの無敗記録は、EURO2020で優勝を果たした、ロベルト・マンチーニ率いるイタリア代表だ。面白いのが、今大会のスペインの強さの要因は、当時のイタリアのそれと共通しているという点だ。

ではスペイン代表はどのようなチームなのか、なぜ強いのか。彼らの強さの要因にフォーカスしていく。

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チームのスタイル

監督のデラフエンテは、スペインの世代別代表も指揮してきた監督だ。

今から7年前、2019年のU-21欧州選手権は、デラフエンテが率いたチームが優勝を果たしている。

その際のメンバーがこれだ。

オヤルサバル、ダニ・オルモ、メリーノ、ファビアン・ルイスといったメンバーは、

7年の時を経た2026年W杯においても存在感を示した。

そして、7年前と今大会とで、戦術的な特徴は似通っている部分も多い。

相手の守備ブロックを揺さぶるようにボールを保持し、スペースを作り出して、突いていく。

そのスペースを作り出すための連携、手段が研ぎ澄まされており、サイドで行われるローテーション攻撃は象徴的だ。

そして、当時とは比べ物にならないほど高レベルに達し、今大会のスペインの戦い方において何よりも優れていた点は、次の局面を優位な状態で迎えるための、局面遷移の設計図だ。

彼らの強さの秘訣を知る前に、サッカーというスポーツの特性を再確認しなければならない。

サッカーは攻守がはっきりと分かれているわけではない。例えば野球は、攻撃と守備で明確に分かれている。つまり、局面間の境目の無いサッカーは、攻撃の段階から守備の準備を行うことができる。現在の局面と先の局面の準備を同時並行で進められるのだ。

守備の準備が済んだ状態で守備の局面を迎えれば、相手より優位な状態で局面を進めることができる。

攻撃、攻撃から守備への切り替え、守備、守備から攻撃への切り替えと、局面が循環していく中で、常に先の局面を優位に進められるように、現在の局面の時点で準備、体制を整えておく。

次の局面を優位な状態で迎えられるプレーを繰り返し継続することで、現在の局面も含めて常に優位な状態に立つ。「優位」とは、位置的優位、構造的優位、数的優位、ベクトル的優位、時間的優位等、様々だ。

これこそがスペインのサッカーの本質だ。スペインは4つの局面をさらに細分化し、落とし込んでいる。

サッカーとは、未来の局面における目標達成期待値を、最大化するための意思決定を逐次的に行うスポーツだ。スペインはまさに、これを体現している。

攻撃局面を例にする。自陣でのビルドアップで、無理やり相手の守備列を越えても、次の守備列を越えるための力、スペースが残されていなければ攻撃は途絶えて、意味が無い。逆にボールを奪われれば、乱れた陣形を一気に突かれてしまう。

攻撃における最終局面となる、フィニッシュに至るまでのプレーが見据えられている必要がある。ビルドアップにおいて、ボールを運んで相手を引きつけることで、フリーになった味方にパスをし、余裕のある状態で守備列を越えていく、というのはその代表的なプレーだ。

フィニッシュに至るまでのビルドアップや前進という攻撃局面の中だけでなく、攻撃から守備等の局面間の移り変わりも同様である。

逐次的な意志決定とは言っても、原則を設けることで方向性が統一されているため、バラバラになることはなく、迷いもない。

このサッカーの競技性を無視し、一局面に特化したチームは、現代サッカーにおいて勝つことが難しくなってきている。

今大会、決勝トーナメント1回戦で散ったドイツ代表はまさにその典型であり、2年前のEUROで死闘を繰り広げたスペインとドイツの明暗は大きく分かれた。詳しくは、ドイツ代表の敗因を取り上げた動画にて。

我らが日本代表も同様だ。

セカンドボールの回収とカウンター封じのポジショニングを徹底することで、連続的に攻撃を仕掛けたブラジル。それに対し日本代表は、守備の局面から脱することができないまま、一方的に攻撃を受け続け、1回戦で敗れた。よくまとまった好チームであった日本だが、守備の局面から攻撃に転換する手立てを見出すことができなかった。

こちらも詳しくは、日本代表の戦術分析動画にて。

スペインは次の局面のために体制を整え、優位に進められるだけでなく、その局面単体で見た時の機能性も高い。サッカーという競技をここまで完成度高くプレーしたチームは、長いサッカー史でもそう多くないだろう。

そしてこの、次の局面を優位な状態で迎える、というスペインの強さの秘訣は、冒頭で述べたこれまでの無敗記録保持者、EURO2020優勝国イタリアとの共通点となっているのである。

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局面遷移の設計図

ではスペインが見せた、次の局面を優位な状態で迎えるための、局面遷移の設計図とはどういったものであったのか?

スペインは、各局面で取るプレー選択や戦術が、そのまま未来の局面を優位に進めるための準備につながっている。

ベースとなるのはボール保持だ。ボールを動かすことで相手を動かせば、「スペース」という、ゴールへ向かう筋道が生まれるだけでなく、相手を疲弊させることにも繋がる。

ボール保持者をフリーにしつつ、確実にスペースを生み出してから前進することで、確実性と、先の局面の目標達成期待値を最大化する。

中盤では相手の守備のギャップに入ることを前提に、数的優位の創出が図られる。ロドリ、ファビアン・ルイスに加え、ダニ・オルモ、CFのオヤルサバルが敵の中盤の隙間や手前で顔を出し、パスコースを生み出す。

このパスコースを消すために相手のCBが前進してくると、DFラインにはスペースが生み出される。創出されたスペースは、WGのバエナやヤマルによる裏抜け等で利用される。また、オヤルサバルやオルモが、相方の作るスペースに飛び込む動きも頻繁に見られ、一瞬にして決定機を生み出すことも可能だ。

攻撃にはいつか終わりが来る。そしてそれは、ゴールではなく失敗で終わることの方が圧倒的に多い。攻撃の数だけ、守備への切り替えが発生する。

では、スペインの攻撃志向は、守備への切り替え局面にどのような効果をもたらしているのか?

まず、スペースを埋めるためにブロックを築く相手は、自陣に押し込まれる形となる。つまりスペインにとっては、セカンドボールを広範囲で拾うことができ、かつ相手のアタッカーを捕まえやすい構造的優位の状態となる。

もしも攻撃が縦に早くなると、奪われた瞬間に間延びした状態となり、相手のアタッカーのマークにつくことができるポジションに、守備者を配置できない。

そうならないように、中盤での数的優位やローテーションを活用し、前向きでフリーの選手を作り出し、確実に前進する。数的優位ができれば、極論、フリーの選手を活用すれば奪われることはない。ゆっくりと、相手を不利に晒し続ける。相手が引けば中盤での数的優位は消えるかもしれない。しかし、奪われた後に一気に圧縮して押しつぶせる。相手にとっては、前方に味方が居ない状態で、前を向かせてもらえず、かつ後方のスペインの選手がプレスバックをかけてくるため、八方ふさがりとなる。

中盤で数的優位を生み出すために低い位置を取る2トップは、ロスト後にボールホルダーに寄せるために必要な距離が短くなる。

彼らのボール保持志向は、そもそも守備に回る機会そのものを減らすことに繋がる。DFライン背後を取るボールは低リスクで、切り替え時に即、守備ブロックを構築することが可能となる。

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ネガティブ・トランジションの設計図

こうした攻撃局面のもとでボールを失ったスペインは、どのように守備へ切り替えるのか?

この局面は、守備陣形組織化前の危険な速攻リスクを最小化することが重要となる。

さらにスペインは構造的優位を活用し、相手が広がって攻撃を開始する前にボールを回収、もしくは広がろうとしている最中にボールを奪取することで、相手の構造の乱れを突く、二次攻撃へと移行することを志向する。

SBのククレジャとポロは、相手のアタッカーに即座にプレスをかけられる位置でカウンターを予防する。ロドリ、そしてボールと反対のサイドのSBは、クロスボールのセカンドを回収しやすい位置を取り、攻撃を継続させる。

相手にボールを拾われた場合でも、前を向かせないことで速攻への展開を防ぐ。ボールホルダーに近い、低い位置を取るオルモやオヤルサバルが、死角からプレスバックをかけてボール奪取を図る。

敵に前を向かせない。ただし、後ろに戻すにも、スペインの選手がプレスバックをかけてくる。まさに八方ふさがりだ。

彼ら二人だけでなく、ヤマルやバエナ等、WG陣のプレスも非常に早い。アタッカー陣が激しくプレスバックをかけ、ファウルでプレーを切ることで、速攻を潰し、自分たちの守備組織を構築する時間を生み出すシーンも多く見られた。

裏への浮き球でWGが裏を取る攻撃は、守備側にとって後ろ向きの対応となる。またDFラインのギャップが広がっている状態であるため、落下点に入るのに時間がかかり、クリアするのが難しい。短いクリアを狙うようにセカンド回収をかけ、バックパスに合わせて全体を押し上げる。

裏へのパスが流れるのであれば、プレーが切れる時間で守備組織を構築することができる。

逆に、相手がDFライン背後にボールを蹴りこんでくる場合、GKウナイ・シモンが高い位置まで勇敢に飛び出して相手のチャンスの芽を摘んだ。守備範囲の非常に広い彼の存在は、ハイラインを保つうえでの支えとなった。

このネガティブ・トランジション局面ですべての選手が力を発揮したことが、スペインの局面遷移の設計図における最大のポイントであった。

準決勝では、圧倒的な個の力を誇り、スピードあるアタッカーを多数起用するフランスをも完封している。

特に目を見張る活躍を見せたのが左SBのククレジャだ。彼は切り替えのスピード、アタッカーを封じ込める予防的配置、そして、サイドを捨てて中央の敵を潰しに行く勇敢で的確な判断を武器に、スペインの切り替え局面に多大な貢献を見せた。

スペインはW杯8試合でわずか1失点と、失点の少ないチームである。それは、ブロック守備が堅いからというより、相手に攻撃の機会を与えていないという要因の方が大きい。丁寧にボールを保持し、無駄なロストを減らすこと、そして守備への切り替えで即座に相手の攻撃を終わらせることで、相手の攻撃機会を奪っているのだ。

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守備局面と攻撃への切り替え

スペインの攻撃から守備への切り替え。この局面が、守備にもたらす効果はどのようなものか?まずは、相手の速攻を防止することで、ブロック守備を構築した状態で守備を始められることにある。

そして即座に奪回することで、そもそもの守備の局面を省略し、攻撃へと切り替えることが可能となる。

守備は2トップによる攻撃方向の制限から始まり、サイドでのボール奪取を狙う。ミドルゾーンにブロックを敷き、制限したサイドに全体をスライドさせて、網を張る。相手の中盤にボールが入る場合は、ロドリやルイスといった中盤の選手が前進し、前を向かせないように守ることでバックパスを強いて、押し上げる。その際、2トップがバックパスを切る位置取りとなるため、相手の選択肢を消すことに繋がっている。

SBは、SHのプレスに連動してサイドの選手を捕まえ、SB裏やチャンネルはCBがカバーする。

では、こうした守備局面が、攻撃への切り替え局面に与える影響はどのようなものか?

中盤ラインでボールを奪うことができれば、相手のアタッカーをボールより後方、置き去りにした状態を作ることができ、かつ前向きに奪うことで、即座に前方に展開していくことができる。

また、中盤を切るように位置する2トップ、絞ったSHが、奪った瞬間にフリーとなれる構造的優位の状態となる。この、相手が組織化する前にスペースを突くことができるというのが、スペインの攻撃切り替えにおける特徴だ。

これは、即座に前向きにボールを回収することができているから成り立っている。相手が攻撃に移行しようと広がっている状態を突いていく。

速攻が難しい場合には、慌てて攻め込まずにボール保持へと切り替える。この判断を数秒の間に行うことができるため、自ら攻撃の機会を失うようなことが無い。オープンな展開へと変化せずに落ち着いた試合展開が多いのは、この局面での判断に優れているからである。

このように、局面間の結びつきが強く、常に優位な状態を維持し続けることで、優勝を手繰り寄せたスペイン代表。

彼らが最も長い時間を過ごす攻撃局面についての詳細は、次の記事で紐解いていく。

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