私が日本代表戦を観るのは4年ぶり。前回ワールドカップのコロンビア戦以降、恐らく一度も見ていない。日本代表に限らず、基本的に「急造」である代表チームよりも、洗練されたクラブチームの方が完成度の高いサッカーを見せてくれるからだ。
アギーレの時代もハリルの時代も知らず、賛否両論ある解任劇の話題にもついていけない(まあ普通この時期での解任はありえないと思うが…)。
協会・代表への不信感を募らせる者、それでも応援するサポーター。どちらも熱があるからこそとれる立ち位置だ。ただ、自らの立ち位置からくるバイアスにより見るべきものが見えていない、なんていうことがざらにある。
今回は、熱のある日本代表ファンより良し悪しを客観視できるのではと思ったのでガーナ戦での西野ジャパンの3-4-2-1について振り返ってみる。
スタメン
3-4-2-1攻撃
3-4-2-1の特徴はなんといってもHVの存在。ビルドアップにおいてHVがボールを持つと、サイドを起点にWB、CH、シャドーと菱形を形成しパスコースを確保。さらにこのHVをFWが見るのか、SHが見るのかという2択を迫る。そして「SHが見る」という選択肢をとらせた時にこのシステムの見せ場が訪れる。
HV攻撃1-1
HV攻撃1-2
HV攻撃2-1
HV攻撃2-2
槙野に対して敵SHが寄せると、長友に対してSBが出てくる形となる。これにより空いたSB裏のスペースを攻略するというのが本来のこのシステムの特徴だ。この試合の日本はサイドチェンジを用いることでHVに敵SHを喰いつかせていた。
大島1
大島2
SHが喰いついてこない場合、キーとなるのがCHの大島だ。ポジショニングが良くターンの技術にも長けている彼がHVからボールを引き出し、前を向き展開を図る。この時WBが前進することで敵SB vs WB+シャドーという数的優位を作り出すことができる。
3-4-2-1攻撃の課題
この攻撃が毎回続けば理想的だが、そう上手くはいかない。ここで2つの課題が見えてくる。
裏に抜けるシャドーの不在
先に上げた例でSB裏に抜けたのはどちらもWBの長友だ。右WBに入った原口も数回SB裏への侵入に成功している。反面、シャドーに入っていた宇佐美、本田は全く裏に抜ける素振りを見せない。
裏に抜けない宇佐美
象徴的なのが宇佐美のこのシーン。ボールホルダーに近い選手が抜ける動きはナポリの記事を参考にしてほしい。この場面で宇佐美がSB裏に抜けると長友には
(1)SB裏(宇佐美)へのパス
(2)宇佐美が抜けてできたスペースへのカットイン
(3)抜ける宇佐美、それについていくCBの動きによって空く大迫へのパス
と3つの有効な選択肢ができる。
しかしここで宇佐美のとった選択はまさかの「真横で足元に要求」。上記3つの選択肢を全て潰し、速攻のスピードを0にして見せた。このシステムでのシャドーがとる選択としては考えられないプレーだ。
裏に抜けない本田
次に本田のこのプレー。狙うスペース(チャンネル)自体は良い。しかし低速で入って、停まる。彼が抜ける事で香川&本田vs CBという優位と選択肢を作ることができたはずだ。
酒井の抜け出し1
酒井の抜け出し2
後半、本田と酒井高徳がポジションを入れ替えるシーンがいくつかあった。その際の酒井はきちんと抜けていた。敵SBに対する数的優位をきちんと活かしている。
後半9分のシーンは宇佐美のシーンと似たシチュエーション。酒井は、SB裏、カットイン、香川・武藤へのパスと3つの選択肢を本田に与えることに成功している。本田はカットインから大外の長友を選択し好機を迎えた。
理想のイメージ
ここで抜ける動きをもう一度繰り返すことができれば。3 on line を駆使するナポリならこうするだろうというイメージが上図。香川が本田に近づきCBを釣り出しつつ武藤-香川-本田の3 on lineを形成。直後に香川が抜けて、釣り出したCBの裏へ。本田は武藤にパス、武藤から裏へ抜ける香川へダイレクト…。こんなシーンが見られればと思っていたが、残念ながらここまでの連動性は無く、裏に抜けられるシャドーもいなかった。
SB裏に抜けた酒井だが、本来はSBの選手。狙って抜けたというよりも、ライン間でのプレーに不慣れのためそれしかできなかったという方が正しいだろう。
敵が強めのプレッシングを採用するチームの場合、SB裏はプレス回避のポイントとなる。それにも拘わらずシャドーがSB裏に抜けられない日本は、確実に餌食となってしまうだろう。
枚数の不足
前線の枚数不足
このシステムはミドルゾーンでの前進に人数を割きにくい。逆に枚数をかけすぎると前線のターゲットの枚数が確保できない。そんな枚数管理に苦しむチームが非常に多い。
上のシーンも2シャドー+トップが同サイドに寄るが、ターゲットが誰もいない状況だ。いくら崩しに力を入れてもターゲットがいないのでは怖くない。
これは日本の課題でもあるが、このシステム自体の難しさでもある。
逆サイドのWBに背後を突かせるチームもあるが、日本が採用するとしたらWBの負担が大きすぎるだろう。シャドーとのタスクの差が大きすぎ、バランスの悪さが如実に表れる。
枚数のかけ方
枚数をかけること自体は悪いことではない。上のシーンではボール保持を落ち着かせ、ポジションチェンジから長友が抜け出している。ターゲットには大迫が残り、原口もマイナスのクロスを受けられそうな位置にいる。本田が左に寄っていくのも決して間違いではないだろう。要はチーム全体のバランス・配置が重要なのである。しかし、その辺りはまだまだ練られていない状態だ。
日本の5-4-1守備
3-4-2-1で攻撃を展開、守備に切り替わりブロックを作る際はシャドーがサイドに入った5-4-1となる。
対するガーナは4-2-3-1を維持したままビルドアップを行う。ハーフスペースに入って組立てを図るCBに対し、日本はCHを前進させる。
ハーフスペース対策1
ハーフスペース対策2
ハーフスペース対策3
ハーフスペース対策4
基本的には大迫を中央に置きCH経由で逆サイドに展開されるのを防ぐ。これによりサイドを限定、その上でシャドー+2CHのユニットを組み、楔のルートを塞ぐ。シャドー-CH-CHの並びで、中央のCHが前進しつつ寄せる形。両脇へのパスにも対応できるようにするためだ。
サイドバック対策
SBからの展開の際はWB-シャドー-CHの並びで、中央のシャドーが寄せる。これらの守備でパスを引っ掛けショートカウンターに持ち込むシーンは何度かあった。これが日本の基本的な5-4-1守備。
5-4-1守備の課題
課題はプレッシャーの弱さだ。CBからの楔は遮断できているかもしれないが、プレッシャーが弱く、「タイミング」だけで言えばいつでもパスを打ち込めるような状態だ。
この状態でガーナの前線は裏取りの駆け引きを行う。タイミングがガーナに握られている以上、日本のDF陣は常に後手に回る形となる。そしてハイボールが送られてきた際、セカンドボールを回収できるような仕組みが整っていない。中盤の選手はパスコースの遮断に出払い、CBにはハイボールを確実に跳ね返すような屈強な選手がいない。中盤のブロックに引っかからなければ、ひたすら耐えるサンドバック状態に陥る。
失点シーン
そんな状況でラインが下げられ、中盤のブロックも強度を維持できなくなった時、失点が生まれる。この試合の先制点もそうであった。
選手間の動きに統制がとれておらず、スライドのタイミングもバラバラ。特に陣形の回復の動きには統制等という言葉は一切なかった。自陣にも拘わらずボールホルダーに全くプレッシャーがかからない、跳ね返せない、拾えない。厳しい状況である。
おわりに
私はターゲットの確保・崩しの枚数管理が難しいこの3-4-2-1が好きではない。この試合の日本もターゲット不足、逆に崩しの枚数不足のシーンが散見された。守備はより一層深厚な状態だ。整備されていない部分が致命的に多い。ただ西野監督初陣にしては、シャドーが動かないわりには、本気度は兎も角ガーナが相手にしては、難易度の高い3-4-2-1にしては、良くやっていたと思う。
そうはいっても完成度の高いチームが付け込まない筈の無い、明らかな課題が山積みだ。本番を目前にして「~にしては」等と言っている場合でもないだろう。
果たして1カ月も無い短い時間でどんな策を練っていくのだろうか…。
ちなみに、この試合で好印象だった選手は吉田、槙野、大島、長友の4人。
コメント
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