スタジオ・オリンピコでのEL準決勝1stレグの戦いは2-0でレヴァークーゼンが勝利を収めた。ポゼッションは58%でローマが上回ったが、シュートに向かうレパートリーと質が足りずにシュート本数は8。レヴァークーゼンの19を大きく下回った。
レヴァークーゼンは実験的に、これまでとは違った一面を見せる試合となった。そういった要素を含んでいたこともあり、ローマはレヴァークーゼンに対して攻守で上回るシーンを見せ、後半には決定的なチャンスも作り出した。
シャビ・アロンソとデ・ロッシ。名プレイヤーであった若き監督同士が指揮する一戦をベースに、試合内容と両チームの機能性にフォーカスする。
ローマのプレッシング
ローマはボール保持局面において後方メンバー(主に中盤)がポジションチェンジを多用し、前線に人数を割く。そのうえ難しいパスを前線に供給するため被カウンターの態勢が取れていないことも多く、そこに弱さを見せる。そのためレヴァークーゼンはカウンターで多くのチャンスを作り出すこととなった。
しかし、レヴァークーゼンがあえて「ローマにボールを持たせた」のかというと、判断が難しい。ローマの守備にレヴァークーゼンのビルドアップが阻害されることが多かったからだ。
レヴァークーゼンのシステムは3-4-2-1。普段と違うのは、守備時にWBの位置に入るスタニシッチとグリマルドが攻撃時にそのまま位置を上げるのではなく、シャドーの位置に入った点だ。
対するローマの守備は5-3-2だ。レヴァークーゼンの3バックでのビルドアップに対して、2トップのディバラとルカクに加えて、左IHのペッレグリーニをぶつけることで同数の状態を作る。さらに残った中盤の一方がアンカーを抑える位置に入ることで中央を使わせないように位置することで、ひし形のような守備配置となった。
残った中盤の脇にスペースが生まれ、グリマルドやスタニシッチが入り込むが、HVマンチーニとWBエルシャーラウィが前進してボール奪取を図った。
レヴァークーゼンは通常通り、CHを片方敵1列目のライン上に落とす4バック化を行い後方で優位を得たいところであったが、ローマは構えることをせず絶え間なくプレッシングと中央の遮断を行うことで、レヴァークーゼンが4バック化するタイミングを消し続けた。スローインからのバックパスやゴールキックでは素早くプレスをかけてGKまで戻させ、GKをビルドアップに組み込ませることで3バックを強いていく。
短いパスと溜めを得意とするスタニシッチを利用した4バック化はある程度効果を発揮したが、この日のスタニシッチはIH位置での働きを求められていたのか、頻度が少なかった。タプソバとフリンポンの間に大きなスペースができることも多く、この日のスタニシッチの起用法はさほど効果を発揮しなかった。
レヴァークーゼンのロングボール戦術
レヴァークーゼンは思うように前進ができず、ロングボールを利用していった。この日のレヴァークーゼンはシックやボニフェイスのような長身CFを置かない布陣である。しかし、レヴァークーゼンのロングボール戦術は一定の効果を発揮した。理由は以下の点だ。
- 相手を十分に自陣に引き付ける
- 緩い山なりのボール
- セカンド回収のための配置
- 縦関係の配置
- アドリの奮闘
彼らのロングボール戦術は緩めの山なりのボールをターゲットに送り込み、ターゲット周辺に前線3枚、クリアボール回収に2CHを動員する形だ。十分に自陣に引き付けてから山なりのボールを送ることで配置につく時間を確保することができる。
レヴァークーゼンのビルドアップは、同数以上でないと止められない。そのためローマの中盤より上の選手は前進せざるを得ない。繋ぐ選択肢を持つレヴァークーゼンだからこそ、相手を自陣に引き付けられる。相手が食いついてこなければ、彼らはショートパスを繋ぐのだ。
そうしてローマの守備陣形は中盤とDFラインの間にスペースが生まれる。そのスペースを利用するためにレヴァークーゼンはターゲットのアドリとCFのヴィルツが縦関係を取った。ローマがマンツーマンを取る場合、CBはアドリとヴィルツのマークのために縦関係をとる必要がある。そうなると、最終ラインは3枚となり、DF同士の横の間隔が広がりスペースが生まれる。フリンポンやアドリ、グリマルドといったスピードある選手に対してスペースを与えると一気に置いていかれる可能性があるため、ローマは最終ライン4枚を保つことを選択する。
すると、ヴィルツがライン間でフリーになる。彼はアドリの競り合ったセカンドボールを拾うか、GKコヴァールの秀逸なロブパスを受けるかのいずれかでボールを収めて攻撃を展開していく。ロングボールが出ると、シャカとアンドリッヒのCHは即座にセカンドを拾うために前進していく。
そして予想外の奮闘を見せたのが、ターゲットとなる機会の多かったアドリだ。アドリは174cmと小柄だが、相手の前に入り込むことに長け、相手に身体をぶつけてジャンプを妨害するテクニックも見せ、194cmのスモーリング相手でも先にボールに触れるシーンが何度か見られた。
簡単にクリアをさせなければ周囲の味方がセカンドを拾うこともできる。先制点は自陣に8人をひきつけ、アドリがスモーリングとの空中戦で先にボールに触れたところから始まった。奪われはしたもののその流れのままプレッシングを敢行して相手のミスを誘い、ネットを揺らすことに成功している。
繋げない時はロングボールで打開を図る、レヴァークーゼンの戦い方の幅が表れたシーンとなった。
ローマの3-1ビルドアップ
ローマのビルドアップは3-1-6のような形だ。両WBが高い位置を取って構成される。中盤の3枚は頻繁にアンカー担当を入れ替える。WBとHVの間にIHやディバラが流れ降りてボールを引き出しつつ、相手の守備陣形を崩して前進を図っていく。
レヴァークーゼンはvs3-1ビルドアップを苦手としている。そこで取った策が6-3-1での守備だ。右WGのフリンポンが大外に落ち、前方4枚はダイヤを形成する。ローマのシステムに噛み合わせる形だ。当然、ローマのビルドアップ陣が距離を取ればボール奪取は難しくなるが、プレッシャーが全くかからなくなるということもなくなる。
IHやディバラが降りて起点を作る場合は2CHや左HVヒンカピエが対応に出ていく。後方が6枚のため、DFが飛び出しやすい状態となる。
つまり、終始6-3-1であるわけではない。フリンポンのマークする選手が下がれば、フリンポンもポジションを上げて5-2-3に戻り、クリスタンテやディバラが右後方に降りればヒンカピエがついていき最終ラインは5枚となる。カルスドルプが下がれば、ローマの前線は5枚となるので、フリンポンが1列上がる。要は相手の枚数に合わせる形をとるのである。ポジションを前後するのは主にフリンポンとヒンカピエとなった。
この守備のメリットは噛み合わせだけではない。カウンターにおいても有効であった。ローマは前線に多くの選手を配置するが、成功難易度が高いボールを前線に供給する機会が多かった。これは、後方が4枚しかいない状態で、レヴァークーゼンにカウンターの機会を与えるということだ。競走をさせたらローマのDF陣はアドリやグリマルドに遅れを取る。そして最も脅威となるのがフリンポンだ。後方から加速したフリンポンについていける選手はいない。大きく空いたスペースにフリンポンが駆け込むことで決定機が演出されることとなった。
配置とパス回しの両面でのローマの弱点、そしてレヴァークーゼンの強みが噛み合う形である。ボール保持による前進が上手くいかないレヴァークーゼンはロングボールとカウンターでシュート機会を作っていった。
ローマのゴールキックの際は、レヴァークーゼンのプレッシングが効果的に決まった。ローマはGKを交えた3バックでヴィルツとアドリに対して優位を作るものの、ヴィルツはワンサイドカットでサイドを限定することでローマの優位性を消し去り、アドリはワンサイドカットに加えプレスをかわされた際のセカンドチェイスでバックパスの選択肢を消して同じく優位性を消すことに成功した。外に流れるIHに対してはCHがワイドまでついていく。
困ったローマはロングボールを選択する。ターゲットは当然ルカクだ。しかし前半のローマはルカクの周囲に誰も配置できず孤立状態であったため、ロングボールがほとんど機能しなかった。タプソバとターで挟み込んで奪うシーンが多発した。
レヴァークーゼンはカウンターでシュートまで持ち込むことでローマのゴールキックを誘発した。GKまでボールを押し戻された際のレヴァークーゼンは保持に苦労したが、ゴールキック時のプレッシング等からボールを得て、ローマにプレッシングを浴びない状態の場合(ローマが構えた場合)は普段通りボールを繋いでシュートまで持ち込むことができた。
後半戦
後半戦もローマのペースながら、レヴァークーゼンも耐え続けた。ビルドアップで中央が空洞化しがちなローマはサイドからの押し込みを図るが、アドリとヴィルツを中心に中央を遮断し、やり直しやサイドチェンジにかかる経由選手を増やさせることで全体のラインアップの時間を稼いだ。特にアドリは空中戦、カウンター、精力的なプレッシングと黒子として非常に重要な役割を果たして見せた。このチームで最もタフな選手だ。
とはいえ、疲労の影響でレヴァークーゼンのプレッシングがかからず、押し込まれる頻度は増えていった。
ローマは中盤が降りてSBやHVを前進させることでサイドで優位を築き、押し込んでいく。
そうしてローマはクロスボールをあげられる位置まで前進することに成功し始める。ターゲットのルカク、その手前で縦関係を作る186cmのペッレグリーニとクリスタンテに向けたボールが増えていった。この縦関係は、レヴァークーゼンがロングボール戦術でアドリとヴィルツの縦関係を作るのと同じメリットを持つ。
そんな中でも次の得点を奪ったのはレヴァークーゼンであった。ローマの守備の足が止まった隙に細かなパス回しでシャカがフリーになると、前線のスピードある選手達で速攻を仕掛け、最後はアンドリッヒがコントロール重視のミドルシュートでネットを揺らした。
このゴールの後はローマの攻勢となった。ルカクに替えてより駆け引きに長けたターゲットのアズムンが投入されると、マーカーの死角となるファーへ流れて受ける動きで決定機を作り出す。同じくエイブラハムを投入してクロスボールをあげようというメッセージ性の強いカードをデロッシが切ると、負けじとアロンソもコスヌを投入しCB5枚起用+シャカ・アンドリッヒで中央を固める、これまたメッセージ性の強いカードを切った。
レヴァークーゼンは中央を固める中でも、クロッサーがフリーにならないよう確実にプレッシャーをかけていった。
アディショナルタイムにはクロスボールからエイブラハムにも決定機が訪れるが決めきれず、ローマが同点に追い付いてもおかしくなかった試合は、レヴァークーゼンが2ndレグに向けて最高の形で勝利を収めることとなった。
おわりに
レヴァークーゼンとローマは中盤の選手が後方でセーフティなパスコースを用意するという点で似た部分を持つ。
しかしローマの場合は中盤の選手のポジションチェンジにより中央が空洞化することが多い上、パスサポートの観点で中盤の選手が居るべき時に居るべき所に居ない、無駄となる移動が多い。
加えて配球における縦志向が強く、余計なロストも多い。この2点により被カウンターの態勢が取れていないケースが多発していた。中盤での横パスが欠けている点は、ファイナルサードでのバリュエーションや質の不足にも繋がっている。
とはいえ決定機を何度か演出した攻撃面、レヴァークーゼンの前進を阻んだ守備面と、デ・ロッシ率いるローマの強さを感じる試合となった。
チームとしての完成度、戦い方の幅の差が出たゲームとなったが、デ・ロッシはまだ就任間もない。ローマの今後が楽しみである。
レヴァークーゼンは結果的に上手くいかなかったが、相手の5-3-2守備に対してグアルディオラがよく用いる3-1-3-3と似た攻略法を見出し、実践したのかとも思える内容であった。
ローマを自陣にあえて引き込んでカウンターを浴びせたのか?という点は、より多くの3-1ビルドアップを用いる強豪との試合を観察しないと何とも言えない部分だ。
ただし、苦戦したホッフェンハイム戦(ローマと同じ5-3-2システムを採用)とは違ったアプローチを見せたため、アロンソの策であったことは十分に考えられる。
アロンソとデ・ロッシ。注目の若手指揮官対決はアロンソに軍配が上がったが、両者レベルの高さを伺わせた。