25-26シーズン開幕から3試合を終え、6得点1失点で3連勝。
上位チームとの対戦は無かったものの、取りこぼしをせず、リーガ制覇に向けて着実な一歩を踏み出すことに成功したアロンソ・マドリー。
テスト的な意味合いが強い中で、ユベントスやドルトムントといった強豪相手に勝利を収め、ベスト4進出を果たしたクラブワールドカップから1ヶ月。
レアル・マドリードに起きた変化とここまでの戦いにおける機能性についてフォーカスしていく。

システムと選手起用

クラブワールドカップにおいては3-3-4、4-2-2-2と、3バックと4バックの両方を試すように試合に臨んでいたが、開幕3試合はいずれも4バックを採用。中盤の配置が微妙に異なる4-3-3-と4-2-3-1が用いられた。
選手起用の面では、新規加入の左SBカレーラス、右WGマスタントゥオーノが起用され、負傷のベリンガムは欠場となった。
攻撃戦術の機能性と変化
前回の動画で、クラブワールドカップでのレアル・マドリードにおける課題として、チャンネルへのランニングが少ないことを取り上げた。
しかし開幕3試合においては、このチャンネルへのランニングが非常に多く見られた。左SBのカレーラスと左WGヴィニシウスが入れ替わり立ち代わりチャンネルを狙うことで、相手の守備に難しい受け渡しを強いて攻撃を作っていった。
開幕3試合、オサスナ戦、オビエド戦、マジョルカ戦の中で、この攻撃が最も効果を発揮したと言えるのは3節マジョルカ戦だ。

ヴィニシウスがボールを持つと、左SBのカレーラスはインナーラップとオーバーラップの両方を仕掛けていった。

インナーラップを仕掛けると、5-3-2で守るマジョルカはIHがついていくことで対応する場面が見られた。すると、DFラインの手前にスペースができるため、カットインやパスで中央にボールを展開していくことができる。ただし、脇のCBがカバーに入ることでこのエリアは消されやすい。
そのため、より効果的であったのがカレーラスの「オーバーラップ」だ。

ヴィニシウスと敵WBがマッチアップしている状態でカレーラスが外を回ると、必ず受け渡しが発生する。この時、IHが慌ててスライドしてくれば、その逆を突いてカットインができる。

スライドが甘ければ、WBとIHの間を抜けてシュートやパスの選択が可能だ。

IHとアンカーの間にギャップができればエンバペが顔を出して相手を引き付けることもできる。

受け渡しをしなければカレーラスがフリーになる。

WBと脇のCBで対応すれば、ギュレルが脇CBの背後から抜け出すことでチャンスを作り出すシーンも見られた。
5バックに対してオーバーラップで敵の守備陣形を乱すことができるのは、4バックを採用したことによるメリットであり、5バック崩しの定石だ。3-3-4では、WGの外を回る選手を確保することが難しい。
左サイドではこうした攻撃を駆使することでゴールを目指していった。

右サイドでは同様の手法と、よりシンプルな攻撃が見られる。ワイドのマスタントゥオーノがボールを持つと、アーノルドやカルバハルといったSBはインナーラップを入れる。この動きで相手を押し込み、マスタントゥオーノは敵中盤手前で中央に運び、中や後方に展開する。そのまま彼はハーフスペースやセンターレーンにポジションを移す。ボールが左サイドに移っても中央に位置して攻撃に関与する。
敵中盤の背後、DFライン裏、裏抜けのフェイクを入れて敵中盤の手前と、相手の守備ラインのギャップに入り込んでリンク役となることができるのが彼の強みとなる。エンバペが左のハーフスペースに流れることも多く、ゴール前のギャップを突く位置取りをする選手が少ない中で、サイドから中央に移りつつギャップに入り込むマスタントゥオーノの存在は今後貴重なものになるかもしれない。
この時、バルベルデがバランスをとって後方に位置を取っていることも見逃せない。

マジョルカ戦では、アーノルドから一気にDFライン裏にアーリークロスのようなボールを送り込むシーンも2度ほど見られた。ハーフスペースからのクロスでは、セカンドボールの回収からチャンスを作り出しており、局面に変化を加えるうえで貴重な攻撃手法となる。
対戦相手のオサスナ、オビエド、マジョルカはいずれも5バックを採用し、ゴール前を固めて立ちふさがった。
特にオサスナは素晴らしい守備組織を見せた。
リッシ・オサスナの守備構造

オサスナを率いるアレッシオ・リッシは、アロンソと同じく今夏チームに就任して間もない39歳のイタリア人監督だ。
リッシには選手としての目立った経歴が無い。20歳でラツィオのフィットネスコーチを務めたのち、10年にわたりレバンテのユースチームを指揮した。
その後、0勝7分8敗で最下位に沈んでいたレバンテのトップチームの監督に就任。序盤のビハインドがあまりにも大きく19位でのフィニッシュとなったものの、彼の就任後の獲得勝ち点は13位と盛り返して見せた。
23/24シーズンからはスペイン2部ミランデスの監督に就任。2季目となる24/25シーズンはリーグ2位の少失点で4位へと躍進を遂げた。

彼の守備は非常にコンパクトな5-3-2で構築されている。2トップはチュアメニへのパスコースを徹底的に消し続けた。そうしてボールをサイドに誘導した後の守備の連携が極めて強力だ。

ボールを受けたヴィニシウスに対してWBがアプローチに出ると、右IHのモンカヨラがサポートポジションに入る。この時、斜め後方にサポートポジションをとることで、WBとの間を割られてカットインやパスを送り込まれるといったリスクを排除した。
カレーラスのインナーラップは、DFラインに吸収される前に見切り、中央に展開される危険なスペースを空けないように対応した。


オーバーラップに対しては、慌ててスライドして逆を突かれないよう、そしてヴィニシウスのマークの受け渡しが遅れないよう絶妙な距離感とタイミングでスライド対応して見せた。正面で迎えるような軌道でアプローチをかけ、カットインに対しても距離感を詰めすぎずにゴールとボールの間にポジションを取るように対応した。
モンカヨラの守備に加え、右FWのルベン・ガルシアがさらにIHの補佐のために下がり、ヴィニシウスのカットインおよび中央への展開のルートを封鎖し、囲い込んでいく。
ただ単に引いて人数をかけて守るだけではない、計算された守備を見せるチームだ。
カレーラスのインナーラップに対しては脇のCBが対応に出るケースも見られた。そうすると、ゴール前からDFが1枚減るため、クロスも有効になるが、オサスナのIHやFWのケアにより近い距離からクロスをあげることが難しくなった。また、レアル・マドリードとしてはゴール前にターゲットとなる選手が居ないという選手起用の面でもデメリットが生じる形となった。
カウンターへの転換に課題が見られるものの、レアル・マドリードも結局PKでの1得点のみに終わった、今季楽しみなチームである。
攻撃面の課題
レアル・マドリードの開幕3試合の得点の内訳はPKが1、CKが1、カウンターが4つと、引いた相手を崩しての得点は生まれなかった。
レアル・マドリードはセット攻撃の時間が多くなることが目に見えているため、引いた相手からでも得点を奪えないと取りこぼしが増えてしまうだろう。
ただし、サッカーは引いた相手から点を取るスポーツではない。トランジションやセットプレー等、セット攻撃ではない局面でも得点は得点だ。逆にセット攻撃に強くても、ネガティブ・トランジションが整備されていなかったり、ボールを取り上げられた時の守備がボロボロであったりすれば勝つことはできない。複数の局面が密接に関わり、相乗効果を生むことができないと現代サッカーで勝つのは難しい。
例えば、セット攻撃においてクロスの選択肢を持つことができれば、セカンドボールの回収からの速攻というネガティブ・トランジション局面で点を取る算段も立てることができる。
相手を敵陣深く押し込んでいる分、ネガティブ・トランジションについては出来が良かったと言える。事前に相手のアタッカーを守備範囲に置くCB陣のポジショニングと、チュアメニによるセカンドボールの回収は非常に効果的なものとなった。
ただ、マジョルカ戦においてはCFムリキのフィジカル、中盤モルラネスのボールキープとパス捌きによってプレスを回避されるシーンも見られた。

マジョルカ戦のCKからの得点も、デザインされた素晴らしいものであった。この形をオープンプレーでも利用できると攻撃の幅が広がるはずだ。現状のオープンプレー時は、ボールホルダーも受け手側もこうしたプレーがさほど意識されていないように見える。逆サイドの折り返し役がハイセンのような長身でなくても、バックパスに合わせて相手の死角を突く、DFと正対する等すれば小柄な選手でも抜け出すことが可能だ。アーノルドやギュレルのようなキック精度の高い選手もいるため、中央や逆サイドの選手が背後に抜け出す動きを増やしたいところだ。

チュアメニがボールを持つ場合、中央の選手に楔を入れる意識が強いため、センターレーンでの細かなパス交換でシュートに持ち込むことが可能となる。彼に時間を与えるため、CB陣はボールを足元に置いて相手を引き付ける、もしくは正対しつつボールを落ち着ける時間をとりたいところだ。オビエド戦では、左CBハイセンに対しては敵CHが素早くプレスをかけることで早々にサイドに限定されており、右CBのミリトンやリュディガーはプレスが弱くてもすぐにボールをサイドに放してしまい、相手を引き付けることができなかった。
守備戦術

レアル・マドリードはゆったりとボールを保持し、ネガティブ・トランジションで素早くボールを回収するため、守備に回る機会と時間が少ない。しかし、たまに見せるミドルゾーンでの守備では、ボールの出し先を制限してプレッシングに移行して回収するシーンが多く見られた。中央をケアし、バックパスに合わせて全体を押し上げ、サイドにボールが出るタイミングでWGがプレスをかけ、SBが縦方向に連動、DFライン手前のチュアメニがボールの回収役となる。
ただし、やはりネックとなるのはヴィニシウスだ。彼は前向きの守備は行うが、自身の外側からラインを通過された時等、基本的に戻ることはなく、SBカレーラスやIHギュレルがカバーに入る。プレスに出るタイミングが早すぎて背後のスペースを利用されるシーンも見られる。
カウンターの脅威を残すことでセット攻撃以外の局面での得点を狙うという意味ではプラスに働く可能性もあるが、強豪相手にどう転ぶかが注目点となる。
現レアル・マドリード指揮官、シャビ・アロンソが成し遂げたブンデス無敗優勝時のレヴァークーゼンにおけるパス回しの原則や、実践された戦術については、2025年8月29日発売の書籍にて。
アロンソを含めた、28人もの若手指揮官の戦術と、サッカーの原理・原則を学ぶことのできる一冊となっています。
ぜひお手に取ってみてください!!