EURO2024ではいくつかのサプライズチームが生まれた。その筆頭はラングニック率いるオーストリア代表だ。彼らは決勝トーナメント1回戦で散ったものの、グループリーグではオランダを破り、フランスを抑えて堂々1位で突破を果たした。
予選での彼らは中盤より上に新旧ライプツィヒメンバーを5人固め、良くも悪くも確固としたライプツィヒスタイルで本戦出場を果たした。
4-4-2でミドルブロックからプレッシングに移行する守備と、2列目への楔を契機に細かいパスを繋いで素早く攻め込むのが特徴だ。
本戦では中盤のシュレーガーが欠場となり、代わりにグリリッチュが起用された。彼の起用がオーストリアにボール保持時の柔軟性をもたらした。
今回はフランス戦とオランダ戦をベースに、彼らの戦い方を紐解いていく。
vsオランダ
オランダ戦の前半はボール保持率57%で、シュート7本を記録した。4-1-4-1で守るオランダに対してオーストリアは4-2-3-1のような布陣を取る。そこから右SBがWGの位置、左SBプラスはやや低めの位置で時に中央に絞りつつビルドアップの補佐を行う。
2CBがオランダ1トップに対して優位を作ると、2CHはCB→SHへのパスコースを潰さないように中央に絞った位置をとる。こうした配置バランスを実現することで、CBのヴェーバーとリーンハルトは1トップの妨害を受けず、かつパスコースを確保した状態で持ち運ぶことが可能となった。グリリッチュとサイヴァルトのCHコンビに対して、相手IHが前進してくる場合はその背後に位置をとるサビツァーやシュミットがボールを呼び込んでいく。このDFと中盤のライン間にボールを入れてから、細かいパスでフィニッシュに向かうのが予選の時からのオーストリアのスタイルだ。
2CHが相手のIHを釣り出すだけでなく、右SB以外の前線4枚が中央3レーンに入り込むことでDFラインの釘付け役とアンカー脇での受け手役という分担が可能となった。
相手が中央に絞った場合は左SBプラスへのショートパスで広げにかかる。彼は本来SHの選手で、背後の守備対応等に難があるものの、攻撃面ではグリリッチュへの平行パスやDF-中盤のライン間への斜めのパスを的確に使うことで守備陣形にギャップを作る役割を果たした。手詰まりとなっても無理なパスを送り込まずにGKに戻すことで、落ち着いた展開を実現させた。
また、被カウンター対応では絞った位置から攻撃の芽となる選手に素早くプレスをかけることでショートカウンターの起点をなる動きも見せた。今大会でもアシストを記録した、今後期待の23歳である。
左SHのヴィマーが多くの局面で絞った位置を取るため、サイドには大きなスペースができあがった。このスペースへのロングボールも打開策の一つとなったが、ヴィマーが収めきれずにオランダ右SBヘールトロイダが完封して見せた。
オランダのプレスが噛み合った場合は無理をせずに後方からロングボールを選択する。ターゲットとなるのはアルナウトビッチだ。長身でフィジカルの強い彼と、その周辺に位置する2列目の選手によるセカンド回収までがパッケージ化された戦術となった。
攻撃以上にオランダを苦しめたのは4-4-2のプレッシングだ。オーストリアは2トップがCB→中盤へのパスコースを常に遮断し続ける。アンカーが浮いてしまう場合はグリリッチュが前進することで4-1-3-2のような形となる。そこからSBに誘導すると、SHは縦を切るように回り込んでアプローチをかけ、ニア側のFWはCBを、逆FWはアンカーを、グリリッチュは持ち場に戻るようにスライドをして囲い込んでいく。広い守備範囲と素早く的確に狩りに出ることができるサイヴァルトの貢献は見逃せない。
オランダは両SBが絞り気味でビルドアップに関わるため、オーストリアSHによるアプローチにかかりやすい状況であった。WGがワイドに張った状態でCB手前にロングボールを送り、CFとIHでボールを収めてWG陣が背後をとるという攻撃が打ち手となったが、どうしても正確性に欠けるものとなった。
vsフランス
0-1で敗戦したフランス戦は、オランダ戦ほどハマりはしなかったものの、対等に渡り合った。
攻撃では(主に)サイヴァルトが右後方に降りてグリリッチュがアンカー位置に入る3-1-5-1で前進を図った。フランスは4-1-4-1だ。オランダ戦のように2CBで運ぶ際に、グリーズマンがCFに並ぶような位置で構えることで4-4-2気味にシフトしたため、サイヴァルトが降りるようになったのだ。
フランスの守備陣形が間延びするケースも多く、オーストリアはある程度前進しやすい環境を得られた。しかしグリーズマンがアンカーを切りながらHVに寄せることで数的不利を補う守備を見せ、左SBムウェネの位置が高くデンベレとクンデに配置的優位をかき消されるケースも少なくなかった。
また、ファイナルサードではワイドからチャンネルを狙う攻撃が主となったが、精度も選択肢も欠ける形となった。
オランダ戦同様、フランスを苦しめたのは攻撃以上に守備の部分であった。センターサークル付近に守備ラインを構築し、SHのよる縦切りプレスからプレッシングを開始する。2トップと2CHによって中盤へのパスを抑えつつ、2トップの一角がボールホルダーにプレスをかけていく。そうしてパスを逆サイドに誘導して囲い込んでいく。IHが浮いてしまう場合はCBが前進していく。ヴェーバーとダンソ共に積極的な出足を見せたが、特にダンソは空中戦にも強くビルドアップでの貢献も大きかった。
IHが外側に開く場合にはSBではなくCHが外に出て対応する。
この守備は2トップと2CHが中盤へのパスコースを遮断する前提となっているため、SHのプレスではなく2トップによってプレスが開始される等で中央遮断が上手くいかない場合に破綻する。SHから始まるプレスは、確実に次のパスがCBになるためチーム全体でスイッチを入れやすく、中盤遮断とCBへのアプローチの2役を担うCFもプレスをかけやすい。
フランスはラヴィオが降りてボールを引き出す、SHのプレスをテオ・エルナンデスが内側にいなす等でオーストリアの守備への対抗策を示した。しかし、ウパメカノがロングボールに逃げる癖があり、攻撃の選択肢を狭めるシーンが目立った。
おわりに
ラングニック率いるオーストリアは予選から通じてライプツィヒ・スタイルの守備戦術を採用し、対戦相手の脅威となった。攻撃においては中盤でのグリリッチュ起用により、ビルドアップの柔軟性が増した。
拙攻でボールを失い、トランジションが頻発していた予選とは打って変わり、ビルドアップの改善はチームに落ち着きと攻撃の幅を与えることとなった。