【EURO2024王者】デ・ラ・フエンテ率いるスペイン代表攻撃戦術分析

戦術分析

EURO2024を制したデラフエンテ率いるスペイン代表。今大会のスペイン代表は各局面の進め方、役割、各チームへの対策等、最も準備を整え、集団としての戦い方に優れたチームであった。

2019年に行われたU-21欧州選手権の覇者スペイン。当時チームを率いていたのが今大会で監督を務めたデ・ラ・フエンテであった。ファビアン・ルイス、ダニ・オルモ、オヤルサバル以外のメンバーは様変わりしているものの、当時展開されたサッカーの面影を感じさせる部分も多く見られた。

攻守にバランスのとれた彼らにおいて、一際目を引いたのが「ローテーション攻撃」と「ロングボール戦術」だ。

ローテーション攻撃は配置の変化を伴う。EURO2024で最も派手に配置変化を行ったのはスイス代表であるが、スペインはスイスよりもオートマチックで規則性のあるものとなっている。ロングボール戦術はコンセプトが確立され、ローテーションが組み込まれたパターンも見せた。
今回はそんなスペイン代表のローテーション攻撃とロングボール戦術についてみていく。

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ローテーション攻撃の前提と中盤の役割

まずはローテーション攻撃の前提を見ていく。スペインのローテーション攻撃は主にサイドのユニット(SB、IH、WG)によって行われる。

最も多いローテーションパターンは、IHがハーフスペース高い位置から捌けて、WGがハーフスペースに絞り、SBが高い位置へと移動していくものだ。WGとSBの移動はほぼ同時に行われる。
ここで前提となるのが、

  • IHがハーフスペース高い位置から捌けていること
  • SBとWGが移動する時間を確保できていること(ハーフスペース低い位置でボールを持つ選手がゆったりとボールを保持できていること)

となる。IHが留まったままであれば、WGが絞るスペースが無くなる。また、ハーフスペース低い位置で配球役となるCBやIHが溜めを作らずにすぐにパスを出してしまう、サイドを変えてしまうと、SBやWGが移動する時間が無くなってしまう。そのため、この2点はローテーションにおける前提条件となる。

では配置的な部分で、スペインのIHはどこにいるのか?
スペインの中盤3枚は相手の守備に応じて後方の枚数や配置を調整する。例えば相手が2トップだったら左IHファビアン・ルイスが2トップの脇に降りて攻撃を組み立てる。もしくはアンカー・ロドリが降りて、ルイスがアンカー位置に入る。

イングランド戦ではトップ下に入ったフォーデンがアンカーのロドリを消しに来たため、ロドリがDFラインに降りることで噛み合わせを外しに行った。

ボールが右サイドで展開される場合、ロドリがボールサイドに寄ってサポートに入るため、左IHルイスはアンカー位置まで引いて組み立てに参加する。代わりに左CBのラポルトが左サイド寄りにポジションをとり、ローテーション攻撃の配球役を担う。

このように中盤が人数調整しつつ組み立ての役割を担う中で、SBとWGはローテーションを実行する。そのためIHはハーフスペース高めの位置を離れて、低い位置や中央に位置することが多くなる。

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ローテーションのポイントと事例

このローテーションは敵にマークの受け渡しをさせないことが重要だ。それを踏まえて、ポイントは以下だ。

  • 底(配球役)の選手がフリーで持ち運べるように時間を与える。
  • 底(配球役)の選手は味方の動きをよく観察しながら、味方が動く時間の溜めをつくるように運ぶ。すぐにボールを放したりサイドチェンジを行ってしまうとローテーションができない。
  • 底の選手はやや外側に進路をとるようにドライブする。ドライブの方向とローテーションの方向が逆向きになることで死角をとってマークが外れやすくなる。
  • WGが絞り、SBが高い位置をとるタイミングは、ハーフスペースの底の選手にボールが渡り、ドライブを行うタイミング。
  • SBは必ず敵SHのラインを越えられる位置へと前進
    →越えられないと、SHの対応が間に合う。そのためSHを外に広げる効果が薄くなる。
  • WGは敵SHの死角に入る(SBが注意を引く)。敵CHの守備範囲に極力入らない。
  • 底の選手からSBとWGへの2つのパスコースを作り出す。
    →敵SBが外を警戒すればハーフスペースのウィリアムズ、敵SHが絞って対応すれば空いたククレジャ経由でウィリアムズがチャンネルに侵入
  • IHはハーフスペース高めの位置から捌ける。後方に降りるか、センターレーンへ。IHやアンカー、CFが中央へのパスコースを作り出すことで、敵CHを中央に引き付ける

ほぼ同じローテーションでも、WGとSBが役割を変えたパターンもある。SBククレジャがハーフスペースに入り込む形だ。WGウィリアムズとボールホルダーの位置が遠く、WGが絞ってのパスコース作成が難しい時等に有効だ。WGの突破力を活かすこともできる。

ルイスが中央に寄って、左CBラポルトが底でドライブをかけるシーンも多かった。

ここまではビルドアップに参加したIHがハーフスペースを不在の状態でのローテーションを見てきたが、労せずに前進ができたためIHがハーフスペースに残った状態である場合はどのように攻撃を展開したのか?

ハーフスペースでのドライブと配球役はラポルトだ。彼がゆったりと前進できたのはスペインにとって非常に大きな価値を生んだ。

立っているだけでマークにずれが生まれるのであればハーフスペースに立ったままであるが、基本的に動きを加えていく。まずはIHが外寄りにズレていくパターンだ。WGが入れ替わるように内側に入ることで死角を突きつつマークを撹乱し、空いたCH間を使うこともできる。

相手がカバーシャドウで守る場合は、IHが一瞬相手の手前をとることで影に入った味方にボールを送り込むことができる。

相手が4-1-4-1で、敵IHがCBにアタックをかける時等は、敵SHのプレスの向き等も考慮に入れてサイドに流れる動きも見せる。いかに後方からボールを引き出すかが重要となる。

次に、IHが中央にズレるパターンだ。中央に寄ることでWGが絞るスペースとパスコースを生み出す。IH自身は中央で逆サイドへ通ずるリンク役になることもできる。また、「手前」の選択肢を増やすことで、「奥」の選択肢が増える。CFモラタが抜け出すスペースが創出される。

モラタが関わってきたように、別のポジションの選手もパスワークに混ざることもある。その中で多いのは逆サイドのIHだ。モラタが最前線につくことでDF陣を釘付けにし、空いた中央のエリアに入りパスワークに関与していく。逆サイドではハーフスペースが空くため、WGのヤマルが絞り込む。

決勝イングランド戦後半では右サイドでのローテーション攻撃が活性化した。先制点もオーソドックスなローテーション攻撃により生まれている。

選手配置の工夫によりポジションチェンジを控えるチームが増えている中、連動したローテーション攻撃を苦手とするチームも多い。特に攻撃時に3-2-5を採用するチームはよりその傾向が強い。

敵味方の配置をより的確に捉える必要のあるローテーションであるが、それを行うことができるスペインの攻撃に破壊力が生まれるのは至極当然であった。

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ロングボール戦術のポイントと事例

相手のプレッシングを回避するために今や必須となっているロングボール戦術。今大会このロングボール戦術が最も練られていたチームもスペインだったのではないだろうか。

スペインのロングボールは前後分断で行われる。主に前は3トップ、後ろがGKを含めたその他のメンバー8名となる。後ろのメンバーは相手を自陣に引き付け、フリーの味方を使ってパスを回し、前進する。GKをカウントする分、フリーの選手が必ずできる。相手がDFラインを減らし、カバーシャドウを用いて7人で合わせに来た場合、引き付けに成功したことになる。

相手DFが前進しない場合、8vs6の優位となる。この優位を活かしてボールホルダーに「パスの出し先を見極める判断を行う時間」を作り、かつフリーの受け手を作ることで前進していく。

相手CBが前進して潰しにくる場合、相手を自陣に引き付けることに成功しているため後方の選手は役目を果たしたといえる。しかし、後方の選手はパスコースを増やす工夫を怠らない。ロングボールよりもショートパスの方が確実性が高く、より自らのペースでゲームをコントロールできるからだ。

例えばイタリア戦では右IHペドリに対して左CBカラフィオーリが果敢に前進してボール奪取を試みた。そんな中でスペインが行ったのがローテーションだ。
アンカーのロドリが右にずれ、左IHのルイスが降り、右IHのペドリは左サイドにポジションを移した。これでペドリはカラフィオーリのマークを受けなくなる。さらにルイスがアンカー位置まで降りることでペドリにさらなるスペースを与えることが可能となった。ウィリアムズが背後を狙うことでCBを釘付けにする働きを見せた点もポイントだ。

ロングボールを蹴るとなった場合のターゲットはCFのモラタで、ほとんどは彼を目掛けて送り込まれる。WGの二人はセカンドボールの回収や裏への抜け出しで二次攻撃を行う。

多かったパターンが、CFモラタがサイドに流れるものだ。サイドに流れることで、CBよりも背の低いSBとの競り合いを挑むことができる。スピードのあるWGウィリアムズは機動力を活かして裏のスペースへの侵入やセカンドボール回収を行い二次攻撃につなげていく。
ドイツ戦の場合、ターとリュディガーの2CBをサイドに引きずり出し、中央にクロースしかいないという状態を作り出していた。

次に多いパターンが、縦関係を活かしたものだ。最前線の選手が敵DFラインが前進できないよう裏を狙って釘付けにし、その手前の選手がスペースを享受してボールを収める、もしくは競り合いを行う。モラタがトップ下の位置に入れば、CBよりも背の低いCHと競り合いを挑むことができる。
この2パターンがロングボール戦術の柱となった。

サイドでの人数調整でスペースを作り出す動きも見られた。イングランドとの決勝にて、SBカルバハルが内側に絞ることで敵SHベリンガムを絞らせ、WGのヤマルが降りることでSBを前方に誘き出す。カバーシャドウで守るベリンガムを置き去りに、カルバハルが前線に駆け上がることでモラタと共に数的優位を作り出すことに成功し、決定機を演出している。

IHオルモがサイドに流れてCHを外に、SBを前に釣り出し、空いた中央のスペースでモラタが受けるシーンも見られた。

スペインのようにショートパスを主体として攻め込むチームに対して前線からのプレッシングで対抗するチームが多く見られる。そんな相手に対し、ロングボールという選択肢を持っているか否かでは天と地ほどの差が生まれる。相手は守備の的を絞れなくなるからだ。今大会のスペインはロングボール戦術まで練られており、準備の周到さ、それを遂行する選手たちのレベルの高さ、幅の広さを伺わせた。

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おわりに

今回はスペインの攻撃面、ローテーション攻撃とロングボール戦術にフォーカスした。彼らの攻撃面は特筆すべき点が多かったが、それは守備に関しても同じだ。彼らはブロック守備もプレッシングもハイレベルでこなすことのできる幅の広さを見せた。ネガティブ・トランジションではSBのククレジャとカルバハル、特に前者の働きが凄まじく、激しいプレスで攻撃の芽を即座に摘んで見せた。アンカーのロドリも予めリスクとなるポイントを潰すようなポジション取りを見せ、ネガティブ・トランジションは十分すぎるほどに安定していた。
ショートパス主体の攻撃だけにとどまらない幅の広さを見せたスペインの戴冠は、誰もが納得するものであっただろう。

大会として、デ・ラ・フエンテ率いるスペインの他にもルーマニアの躍動等、5年前のU-21欧州選手権を想起させる部分も多く、個人的にアツい大会であった。
ドイツもターとミッテルシュタット以外のメンバーは残っておらず、移り変わりの激しさと生き残りの難しさを改めて感じた。

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