0-2で敗れたガーナ戦から約1週間をおいて臨んだスイス戦。この日は3バックから4バックへ変更した4-2-3-1の布陣。面白いことに、システムを変更しても浮き彫りになってくる課題は攻守共にほとんど同じものであった。つまりはシステム云々の前に根本的な部分に闇を抱えているとも言えるだろう。
大会直前にシステムの並びから試行錯誤している日本とは対照的に、スイスは非常に手堅くシンプルな戦術を採用し、機能させている。そしてこのシンプルさは、短期間でのチーム作りを余儀なくされている日本が手本とするべきものであった。
スタメン
スイスのビルドアップ、日本の守備課題
スイスの基本陣形は4-2-3-1。低い位置から組み立てる際は基本的にベーラミが1列落ちて、チームの心臓であるシャカがアンカーのポジションをとる。このスイスのビルドアップに対して日本は、本田がシャカにマンマーク気味につき、大迫が3枚を見る4-4-1-1の形だ。
多くのチームは3vs1の状態を改善しようと手を打つだろう。例えば、本田とシャカを交えた4vs2の状態に変更し、二人で連携を取り、カバーシャドウを駆使して数的不利の影響を緩和する。もしくはラインをはっきり上下させてコンパクトな状態を保ちパスコースを絞る、等である。
日本の守備1
日本の守備2
しかし日本はひたすら大迫を走らせる。稀にシャカと本田が壁となり、上手い具合にパスコースの制限、奪取へと繋がるシーンが見られた。とはいえ偶発的で、HVに全くプレッシャーのかからない状態が多発する。
結局日本は5-4-1でも4-4-1-1でも、敵のDFにプレッシャーをかけることができなかった。
ミドルゾーン以降のスイスの攻撃、日本の手本
ノープレッシャーのHVは、基本的に手数をかけずに長いボールで裏を狙う。右に入ったファビアン・シェアはキックの精度が高く、ドリブルでの前進もこなせるモダンなCBだ。彼をフリーにするだけでも本来は恐ろしい。ただ、スイスの攻撃はシェアのキック精度とスピードのある選手に頼ったやみくもな裏抜けではない。複数人の選手による的確なポジショニングとランニングを駆使した連携技となっている。詳細は下の画像。
スイスの攻撃
このようにキック精度の高い選手を後方に揃え、連動して走れる選手を前方に揃えるスイスの攻撃は非常にシンプルだが厄介だ。また、HVがフリーでロングボールを蹴れるとなると、日本のSHは強気に前に出るとかえって危険なため、引かざるをえなくなる。常に後手に回るのだ。さらに、ボールを奪ったとしてもカウンターの先鋒となるSHが低い位置にいるとなると、その威力は半減する。スイスは攻撃の段階で既に、日本の攻撃の精度を半減させているのだ。全てのフェーズをトータルで見てもスイスとの差は歴然だ。
スイスのプレス回避
後方3枚vs大迫の数的優位から主導権を握るスイス。仮にその前提が覆された時にどうしているのか。まず一つが先程の裏へのランニングによるシンプルな攻撃への移行だ。その他に、ボール保持を優先した手段が次の二つ。
ロドリゲスの活用
ロドリゲスの補佐
ロドリゲスはキックの精度も高いが、ポジショニングの良さも魅力の選手だ。上のシーンは本田が3vs1で苦しむ大迫の補佐のためHVに寄せようとしたシーン。この時ロドリゲスが補佐に降りる事で、CB→ロドリゲス→心臓であるシャカのパスコースを生み出している。「シャカに渡ると一気にスイッチが入る!」と本田が慌てて戻るが、それがスイスの狙い。再び平穏な3vs1の状態でゲームを進めていく。
サイドでのユニット攻撃
ヘドンド1
ヘドンド2
サイドの狭いスペースでの攻防となった時。スイスは狭いスペースでもボールを扱える選手が多いが、それに加えてフットサルでいう「ヘドンド」と呼ばれるローテーション攻撃に近い動きも見せる。基本的には狭いサイドを脱出・展開する時に使っていた。
①フロイラーがSB裏へ。長谷部がついていく。
②リヒトシュタイナーは外のシャキリにパス。そして①でフロイラーと長谷部が抜けてできた内側のスペースへ。宇佐美がついていく。
③シャキリは、②でリヒトと宇佐美が抜けたスペースへ。守備の陣形に乱れを生み、内側への展開も容易となっている。
極めつけはシャカ。マンマークの本田を率いてボールサイドに寄る事で、逆サイドに巨大なスペースを創りだした。サイドでの密集から、逆サイドへの展開。非常に見事なユニット攻撃だ。日本には基本的にこういったユニット攻撃が無い。偶発的に生まれることもあるが、そもそも走って抜けられる選手が前線にいないからだ。
日本の攻撃課題
ここまで日本の守備課題に触れながらスイスの攻撃についてみてきた。今度は逆にスイスの守備に触れながら日本の攻撃課題についてみていく。
プレス回避
スイスの守備1-1
スイスの守備2-2
スイスの守備は前線でのパスコース限定が整備されており、中盤・DFラインはそれに合わせてパスカットを狙っていく。日本とは違い、前線がプレッシャーをかけつつパスの選択肢を減らしていくため、後ろは積極的に前に出ていける。
スイスの守備2
このシーンもそうだ。前線2枚が制限をかけ、パスコースを大島一択に。その上でCHのベーラミが飛び出し、ボール奪取を決めている。こういったプレスへの対応が日本はできていない。また、こういったプレスを行うこともできていない。そもそも前線2枚のプレスに連携が無いからだ。
SB裏1
SB裏2
このシーンは既に全てのパスコースを封鎖されている。画面外だが長友がリヒトシュタイナーとマッチアップしている状態のため、残された選択肢はそのSB裏。ここに抜ける選手へのロブパスだ。だが当然のごとく誰も走らない。リヒトが早々に長友を捨ててSB裏のケアに戻っているが、これは前の2人がパスコースを切っているから、そしてSB裏の重要性を認識しているからだろう。リヒトが戻ったためSB裏で収めるのは難しいかもしれないが、仮に抜けた選手が収められなくても、セカンドボールを拾える土台は十分にできていたことが分かる。
カウンターの精度の低さ
日本は、プレッシャーがかからない→SHが低い位置取りを強いられる→「カウンターの精度が低い」という欠点を持っている。これは先述の通りだ。この試合、チャンスと言えるシーンはたったの1つだけ。スイスが明らかに流し始めた頃だ。
相変わらず抜けない本田1
相変わらず抜けない本田2
本田がライン間で受けてサイドに展開、外で原口が持ったシーン。原口のカットインに合わせて本田が抜けて、マルセリーノ・バレンシア風のパラレラ攻撃を見せれば選択肢は無限に広がる!といった場面。
ここで本田がとった選択は…やはり「停まる」。
確かに、ここで停まるという選択肢は無いことはない。ただし、精度の高い右脚のシュートを持っていればの話だ。
本田が抜けていればどれだけの選択肢があっただろうか。白:原口、黄色:本田、赤:武藤、水色:柴崎で示した。
まず活きるのが、本田が抜けない事で死兵と化した武藤だ。原口に上手く寄ればシュート、本田へのパス、原口へのリターンと選択肢が格段に広がる。さらに武藤が抜ける事で駆け上がってきた柴崎に大外を使わせるという選択肢も生まれる。
この稚拙なカウンターでは千載一遇のチャンスをフイにしてしまうだろう。
おわりに
何をするにも足りない要素が多すぎる、八方塞がりの状況だ。この時期にこの完成度なのだから、足りない部分は諦めて、できることだけを意識合わせしてやるしかないだろう。スイスのサッカーは非常にシンプルな戦術を採用しており、意識合わせのためのモデルとするにはうってつけだろう。ビルドアップに関しては3-4-2-1時と若干形も近い。ただし裏に抜ける選手ありき。岡崎と武藤、もしくは香川・乾を二列目に据え、ひたすらSB裏を狙うというのも手だろう。いずれにしろ非常に厳しい状況であることは間違いない。
ボルシアファンとして、個人的にはシャカが元気そうでなによりでした。
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