レヴァークーゼンを苦しめたドルトムントの4-1-4-1守備戦術とチャンネル封鎖【戦術分析】

戦術分析

CL決勝へと駒を進めたドルトムント。PSG、ミラン、ニューカッスルという死の組を首位通過し、決勝トーナメントでは再度PSG、そしてアトレティコ・マドリードを下すという厳しい道のりを越えてきたチームだ。
彼らはブンデス王者レヴァークーゼンとの試合で、あと一歩で土をつけるところまで追い詰めた。強みとなったのは4-1-4-1のブロック守備であった。
そんなレヴァークーゼンvsドルトムントにおける両者の戦いぶりについて。

【ハイライト】ドルトムント×レヴァークーゼン 「23/24 ドイツ ブンデスリーガ 第30節」

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ドルトムントの4-1-4-1守備とチャンネル封鎖

この試合はドルトムントの強固なブロック守備がハマり、レヴァークーゼンは良い形でシュートを放つことができなかった。
3-2-5のレヴァークーゼンの攻撃陣形に対し、ドルトムントの守備陣形は4-1-4-1だ。攻撃方向を片側サイドに制限するような守備を見せた。

ポイントとなったのは下記だ。

  • フュルクルクによる限定と退路遮断
  • IHによるCH潰し
  • チャンネルケア

まずはCFのフュルクルクがCBターにプレスをかけてHVにボールを誘導する。この時両IHは敵CHについている。ここは絶対に離さない。HVに対してはIHがCHを切りながら寄せに出る。SHは斜め後ろに絞り、内側はCFもしくは逆IHが斜め後ろに位置をとりプロテクト。基本的にCFはHVに誘導したのち、CHにプレスバックできるような位置(CHへのパスを躊躇させるような位置)に戻る。

斜め後ろのポジションをとることで間を通されないようにし、WBにボールを誘導する。WBへのアプローチは必ずチャンネルケアをセットで考える必要がある。ドルトムントの守備はここが徹底されていた。

まず、SHがプレスバックするパターン。SBがチャンネルケアを行う。右サイドでは多くがこのパターンだ。

次にSBがアプローチをかけるパターン。サイドチェンジ等の場面で、SHが絞っていて間に合わない時だ。この時、SHがチャンネルケアに入る。誰かがチャンネルをケアするのが前提のため、SBのアプローチは縦切りとなる。

中盤のラインを大きく越えられる場合、SBがディレイ対応し戻ってくるSHに受け渡す。

さらに、SBが出た際はアンカーのジャンによるチャンネルケア、DF陣のスライドでのCBによるチャンネルケアも行われる。ドルトムントの左サイドでは、敵WGフリンポンが高い位置に張っている状態でボールを受けるため、CBシュローターベックがチャンネルケアのスライドを見せた。SHは内側を切るように戻る。

IHは敵HVにプレスに出た直後なのでSHの斜め後ろにポジションが取れず、IH背後が空いてしまうが、そこはライン間をコンパクトにすることでスペースを潰すのと、アンカーのジャンがケアすることで塞いでみせた。

CBも大きくスライドしてハーフスペースの選手を潰しに出ていく。

IHと、特にフュルクルクが斜め後ろの退路を断つことでプレスにはめていく。この試合のフュルクルクの働きは非常に大きかった。

レヴァークーゼンの2CHが縦関係で同サイドに寄る場合、逆IHもスライドする必要が出てくる。当然逆SHは連動して絞る。そのため逆サイドに展開されると、SHの外側にスペースができてしまう。その場合、チャンネルを突かれないことを確認してSBが縦切りで出ていく。代わりに絞っていたSHがチャンネルケアに入る。

SHがチャンネルに入れない場合アンカーが入ることもあるが、通常時はCBがスライド対応することも多い。

ドルトムントの守備はレヴァークーゼンの攻撃を抑え込むことに成功したが、効果的なカウンターは少なかった。ただし、レヴァークーゼンからボールを取り上げ、保持からのチャンスを生むことには成功していった。

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レヴァークーゼンの打ち手

統制の取れたドルトムントの守備に対して、レヴァークーゼンはどう手を打ったのだろうか?

まずCHを落とした4バック化により、相手IHの守備基準をズラすのが効果的な打ち手となった。CFに対してCB+CHで優位ができると同時に、SHに対してCHと SBで優位が作れる。IHがCB、SBどちらにアタックに行くにせよ、ズレが生まれることとなる。

2IHとCFがなす三角形の中に1人、アンカーの両脇に1人ずつ配置することでギャップを効果的に使うことができ、前進が容易となる。

また、敵SHとSBの間にシャドーやCHが流れてボールを呼び込むポジションチェンジも効果的なものとなった。敵SHがHVにプレスをかける場合にSH-SB間が空きやすくなる。

フュルクルクによる囲い込みを抜けて逆サイドに展開した時などは、1列目を越えた状態となるため敵SHの前進を誘発しやすくなる。

フリンポンはスピードがあるだけでなく、相手の身体の向きを計算し、完全に背走させるルート(相手の真後ろ)に抜け出すのも得意としている。例えば相手が自分と正対するように身体を向けていれば、そのDFに向かって走れば完全に背走させることができる。

しかしフリンポンはこの試合、ワイドで足元のパスの終着点となった。スタニシッチが絞ることでフリンポンへのパスコースが空くからだ。しかし、チャンネルはドルトムントが先述の通り封鎖している。

CBがチャンネル封鎖を行う代償として、ゴール前の人数が少なくなるという点が挙げられる。そのため、レヴァークーゼンのチャンスもクロスから生まれることが多くなったが、ターゲットとなる選手が不在であったため大きな驚異を与えることはできなかった。

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ドルトムントの攻撃

ドルトムントのビルドアップは4-3-3がベースとなる。対するレヴァークーゼンの守備は3-4-1-2で前からはめに行く。両WBが前進してSBにプレスをかけ、前線3枚のうち中央のホフマンが1列下がってアンカーをケアすることで噛み合わせる。

ドルトムントは4-3-3に加えて、ジャンがCB間に降りて左SBマートセンがCHの位置に絞る3-2-5での攻撃も見られた。しかし、これはレヴァークーゼンの通常時の守備システムである5-2-3と噛み合うため良策とはならなかった。

いずれの形においても右ワイドのサンチョが自由にトップ下の位置まで絞るため、イレギュラーとなった。

ドルトムントは途中から4-1-5に変更。CFに対して2CBで優位をとり、シャドーを含めた3枚に対してはSBを含めた4枚で優位をとった。アンカーのジャンに対しては2CHどちらかが対応するため左右の守備にずれが生まれる。

序盤のレヴァークーゼンの守備はSBに対してWBが前進してプレスをかけたが、WGがWBを釘付けにすることでプレスを阻み、後方の優位を助けた。WGが内側に移動するタイミングでSBが前進することで大外でチャンスを演出することも可能となる。

ただし、GKまでボールを押し戻されると、レヴァークーゼンのWBは前進してSBにつき、プレスモードに移行していった。

レヴァークーゼンは両翼を下げることでサイド攻撃への対応を見せるものの、その代償としてプレスがかからずに押し込まれる場面が増えていった。押し込まれると、フュルクルクの頭やポストプレー、ブラントやサンチョのテクニックに晒され、ゴールを脅かされる機会が増えるため、彼らにとって望ましい展開とはならなくなる。

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後半の変化

後半はドルトムントがやや優位に試合を進めた。攻撃は SBが高さを変えることで配置に変化を加えていく。右IHのサビツァーがジャンの脇に入る4-2-4をベースに、3トップに対する4バックで優位を取り、レヴァークーゼンの両翼を押し下げていった。

DF陣は深さをさほどとらず、ロングボールや長い楔のパスを選択する。前線では空中戦に強いフュルクルク、ボールコントロールに長けるブラントとサンチョがそれぞれの強みを活かしてボールを収める。

中でもサンチョはボールを収めてから溜めを作り全体の押し上げを図った。トラップやドリブルの得意な選手にとっての理想的なプレーぶりである。

敵陣深くまで押し込むと、リエルソンとヴォルフの両SBが絞った2-3-5のような形をとる。両SBはセカンドボール回収やカウンターの源を絶ちに行く。2CBはマンマーク気味にレヴァークーゼンのWG陣につく。スピードスター・フリンポンに仕事をさせなかったシュローターベックの対応が光った。アンカーのジャンは中央エリアに入ってきた選手を捕まえると同時に、カバー役を担った。

こうして優位をとりにいくドルトムントであったが、盤石とはいかなかった。その原因としてあげられるのが、2SBの位置だ。彼らの位置が高すぎると、レヴァークーゼンのWGは高い位置でカバーシャドウを行う。SBへのアプローチをWBに託す形だ。そうすることで、WG陣は中央のエリアの封鎖にあたることができる。

それに加えて、ロングボールや長い楔を用いた攻撃手法がピンチを招くケースが発生した。当然、こういった攻撃手法は失敗のリスクが高い。レヴァークーゼンのWGが前に残っている場合、ショートカウンターに移行されやすくなる。特にサビツァーがジャンの脇を離れて前進した場合、後方から3トップへのパスコースにフィルターをかけることができなくなる。それを補うのが先述のSBの絞りとなるが、彼らが絞るのは押し込み切った時であり、ビルドアップ段階ではサイドに開いている。

こうした被カウンターの部分でピンチに陥りそうなシーンがあったが、CBとジャンを中心にしのいでみせた。リエルソンとヴォルフの両SBも、毎回高い位置を取っているわけではなく、リスク管理の意識が高かった。レヴァークーゼンの前線に収められても、そこですぐに潰せないだけで、人数が足りないという局面は少なかった。

そして、レヴァークーゼンのセット攻撃に関してはほぼ完封に近い出来となった。フュルクルクと2IHの守備により攻撃の選択肢を大きく制限していた。

そんな中で生まれた先制点。途中出場のロイスがクロスに対してマイナスの位置を取ることでスタニシッチを中央に引き付け、ファーに大きなスペースを作り出すことに成功。そのエリアに流れたフュルクルクが強烈なボレーを叩き込んだ。

最終的にはレヴァークーゼンの驚異的な粘りとセットプレーにより引き分けとなったが、ドルトムントが勝っていてもおかしくない内容であった。

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