2回にわたり紹介したガスペリーニ・アタランタの5-2-1-2守備戦術。今回は23節終了時点まででセリエA最多得点数を稼いでいた(50得点)攻撃戦術にフォーカスする。同じく5バックを駆使するチームとして以前、ナーゲルスマン・ホッフェンハイムの攻撃戦術を紹介した。彼らは5バック採用の成功例と言えるチームである。しかしアタランタは、ホッフェンハイムとは全く別の形で5バックを機能させている。
基本布陣
アタランタの基本布陣は5-2-1-2。5バックは左から185cm、187cm、190cm、185cm、187cmと、大柄な選手が並ぶ。中盤2CHには守備の得意なデローンとフロイラー。前線のプレッシングへの連動と後方スペースのカバー&リスク管理で全体のバランスを調整するキーを担う。2トップ+トップ下はテクニックのあるイリチッチと、アジリティも備えたアレハンドロ・ゴメス、パワーとスピードのサパタが配置されている。
ハーフスペース起点のひし形
アタランタのビルドアップにおける形は様々だ。5バックのまま、片方のWBを上げた4バック、片側サイドのWBとHVを上げ、CHを落とした4バックなどだ。
これら多彩なビルドアップの鍵を握るのは右サイドの3人。HVトロイ、WBハテブール、CHデローンだ。この3人が状況に応じて柔軟にポジションを入れ替える事によってボールを前進させる。
それでは実際の例を見ていく。
アタランタの攻撃の特徴はHVの前進。それから右サイドでは5バックの中にCHデローンが落ちる事で右WBハテブールがIH化、右HVトロイとWBによるサイド攻略、両WBの押し上げ等の効果をもたらしてる。
— . (@souko_sa) May 3, 2020
パターン①:デローン落ち&ずれ込み型
パターン②:デローン落ち&HVパラレラ&3オンライン型
— . (@souko_sa) May 3, 2020
この前進はサッリ・ナポリっぽい。DF3人による3オンラインでSB釣り出してライン間へ。DF3人だけでできるってのがすごい。FWのイリチッチが上手く絡むからさらに効果的に。
パターン③:ローテーション型
— . (@souko_sa) May 3, 2020
パターン④:CH-HV交換型
ここまで見てあることに気づいた読者も多いかもしれない。それは、WB・HVを中心にビルドアップの段階から柔軟なポジションチェンジを繰り返してはいるが、ほとんどのケースでポジションチェンジ後の「配置」(=ひし形)に関しては変わっていないという事だ。
アタランタの右サイドの攻撃。ベースは◇、ポジションチェンジは上下左右どの頂点に立つかの配役だけを変えるパターンが多い。
— . (@souko_sa) May 3, 2020
基本的にはハーフスペースを起点にFW、WB、CH、HVの4人からなるひし形が形成される。このハーフスペース起点のひし形こそがアタランタのベースとなる。
※ちなみにハーフスペース起点のひし形の利点は下記の通り。オーバーロードを採用するチームに多い。
ハーフスペース活用は受け手ばかりフォーカスされてるけど、出し手にとっても重要。利点は確実に敵を動かしスペースを創出できる点。例えば4-4ブロックに対してDFがHSで持出し。CHを釣出せれば空いたスペースにアンカー経由、SHを釣出せれば浮いたWB経由でチャンネルへ送り込む事ができる pic.twitter.com/HeybKxihZV
— とんとん (@sabaku1132) May 17, 2017
ファブレがこのHalbraumの重要性を強く意識してたのなら、ただの突貫小僧だったヘアマンの成長やシャカを左に落としての組立、ジョンソンのSHへのコンバートを華麗に成功させたのも頷けますな。 pic.twitter.com/Y82dqlbzi0
— とんとん (@sabaku1132) November 20, 2015
ポジションチェンジによって変わるのは、この4人がひし形のどの頂点に位置するか、である。ひし形という形自体に変化は無い。「ハーフスペースの魔術師」の風格さえ漂うイリチッチのみ、最も上の頂点に固定されるパターンが多い。
パターン①のようにSBの釘付け役を設けるわけではなく、形自体ひし形で変わらないのなら、常にひし形ポジションを固定し、チェンジなく前進すれば良いと思う読者もいるかもしれない。しかし、このポジションチェンジを行う意図は、受渡しミスの誘発やスペースの創出にある。
画像内にも各種動きに関する説明があるが、自分たちが動けば相手としても複数の判断を行い、動かざるを得ない。動いた分だけパスコースも数的関係も変わるため、対応が必要だからだ。そうして敵を動かすことで新たなスペースが生まれる。CHが大外に回れば、WBとの走力的ミスマッチが生まれる可能性もある。持ち場を必要以上に変えたくない守備側は受渡しを行うが、その際にミスやラグが生まれる。
ハーフスペースを活かした攻撃は有効だが、レベルが上がるほど敵の対応速度・精度も上がり、配置的な噛み合わせも行い、ポジション固定の攻撃は通用しなくなっていく。そもそも毎回同じ形で前進できるのであれば、フットサルのチームがめまぐるしくポジションチェンジを行う必要もないだろう。
そういった意味でポジションチェンジが必要なのだ。ただポジションを入れ替えれば良いと言うわけではない。ポジションを入れ替える事により敵に複数の判断を迫り、ラグやミスを生じさせ、敵を動かし、パスコースやスペースを創出することに意味があるのだ。
ひし形の再構築
サイドでの◇作り。1シーン目はノーマルパターン。2シーン目はCHがDFラインに落ちて◇が再構築されるパターン。
— . (@souko_sa) May 3, 2020
このシーンもアタランタのベースとなるサイドベースのひし形での攻撃である。
1シーン目に関しては最もベーシックな、ポジションチェンジを行わないタイプのひし形だ。これに対して2シーン目はひし形の再構築が行われた面白いパターンだ。
初めはベーシックな形で運ぶ。この状態から左頂点を成すCHがDFラインに落ちて一度ひし形を分解する。
このCHの落ちる動きに対して敵のIHがついていく。空いたスペースに上頂点を成していたFWが落ちて左頂点に変化。この動きにSBの選手がついていくと、空いたスペースにもう一方のFWが流れて上頂点を担う。CHがひし形を分解することで敵の陣形も一度破壊。ポジションチェンジを交えてひし形を再構築することで敵の守備陣形に穴を空けた面白いプレーである。
守備においてもそうであったが、アタランタは基本的な軸がしっかりしている。サイド起点のひし形ベースという共通理解があるからこそ、こういった動きも可能であるのだ。
さらに、ベースのひし形にトップ下のアレハンドロ・ゴメスが組み込まれていない。その分彼は自由なポジショニングが許されている。ライン間でボールを受ける準備、ビルドアップへの加勢、ひし形の補助など状況に応じて適切なプレー選択ができ、かつ個人のクオリティで勝負できる彼だからこその役割だ。チームの決め事が彼をフリーにし、フリーの彼がチームを助ける。相乗効果が望める関係性だ。
後編に続く・・・
ここまではアタランタのベースとなるハーフスペース起点のひし形攻撃の紹介をした。この意識がチームに浸透しているため、ポジションチェンジを行っても結果的にひし形の陣が形成される。チームとしての軸が定まっているからこそできるアレンジだ。
同時投稿の次記事ではアタランタ最大の特徴であるHVの前進について紹介する。アタランタのHVの前進パターンの豊富さ、頻度の高さは他のチームとは比べ物にならない。今後、HVに求められる能力がこの水準まで高まるのか、それともアタランタ以降パッタリ見られなくなるのか・・・。魁になるにしても、絶滅するにしても、このチームのHVの動きは見ておく必要があるだろう。
コメント
[…] この記事は、同時投稿【ハーフスペース起点のひし形】ガスペリーニ・アタランタの5-2-1-2攻撃戦…の後編として、アタランタにおけるHVの役割を中心に紹介する。 […]
[…] 先日紹介したアタランタのように、ハーフスペース起点のひし形を作って攻撃を組み立てるのは非常に有効である。ハーフスペース起点のひし形攻撃が有効なら、ハーフスペース起点のひし形を守備においても用いることは同様に有効であり、アヤックスはそれを実行している。SBに誘導したらSHが寄せてはめ込む。 […]
[…] 【ハーフスペース起点のひし形】ガスペリーニ・アタランタの5-2-1-2攻撃戦… […]