久保建英がスペインの強豪・ビジャレアルにローンで加入したのは8月の話。ウナイ・エメリが監督に就任したのはその1か月前。当然まだチームとして洗練されておらず、久保の起用法や序列、そしてそもそものチームとしての戦い方も容易に覆る段階だ。
ビジャレアルといえばCL出場経験もあり、ほぼ毎シーズン安定した内容で好順位につける名門クラブだ。そんなチームに日本人選手が在籍するというのは非常に誇らしいことである。
そのビジャレアルがエメリの元、現時点でどのようなサッカーを展開しているのか、そして久保のチームメイトでありポジション争いのライバルとなる選手達がどのようにプレーしているのか、攻撃面に絞って紹介する。
基本布陣
ボールを運べて左脚で正確な楔を打てる191cmの左CBパウ・トーレスがビルドアップの起点となる。
中盤はゲームメイカーのパレホと、より守備的なコクランが2CHを組む。
右SHはアジリティに長けたチュクウェゼ、左SHにはスペースに侵入しボールを呼び込むのが上手いモイ・ゴメスが配される。
昨季のチーム得点王であるエース、ジェラール・モレノと、常に敵の背後を狙うパコ・アルカセルが2トップを組む。
市場価値としてはパウ・トーレス、久保、ジェラール・モレノが2700万ポンドで並び、パコ、チュクウェゼ、パレホと続いている。
ハイライト動画
第1節 ウエスカ戦
第2節 エイバル戦
攻撃スタイル
エメリ・ビジャレアルはゆったりとボールを繋いで楔を入れるタイミングを伺い、楔が入ると一気にスピードを上げ、アーリークロス等を活用し少ない手数で素早く敵の背後を突いていく。
ビジャレアルの攻撃における陣形は上図のような形となる。
パレホやコクランがDFラインに降りるケースもあるが、基本的には左SBのペドラサがやや高い位置をとる3バックのような形となる。右SHのチュクウェゼと左SBのペドラサが幅を担う形だ。
キーとなるのは左SHのモイ・ゴメスとCFのモレノだ。モイ・ゴメスは絞り、モレノは降りてハーフスペースに位置することでボールの引き出し役となる。攻撃が停滞しがちな4-4-2というシステムにおいて彼らの果たす役割は非常に大きなものとなっている。
CFのパコ・アルカセルはそれほど動かずに常に敵の背後を狙える位置をとる。
右サイド攻撃
右サイドで幅を担うのはSHのチュクウェゼだ。彼はアジリティに長けたプレイヤーでカットインを得意としているが、開幕からの数試合はコンディションの影響もあるのかボールロストが非常に目立つ。
彼の役割はまず、ハーフスペースでボールを受けるジェラール・モレノのレイオフを確実に収めることだ。キープ力のあるモレノからのボールを受けて攻撃を展開するのはこのポジションの必要条件となる。
チュクウェゼがボールを受けると、内側に位置するモレノ、パコ、モイ・ゴメスが一斉に動き出す。
まずはモレノがチャンネルに抜け出す動き、続いてパコがCB間、モイ・ゴメスがさらにその奥からゴール前もしくはパコの空けたスペースに侵入する動きを見せる。
連続的に動き出すことで次々とスペースが生まれるため、それぞれがスペースに入りやすくなり、逆脚SHであるチュクウェゼからドリブルアット+バックドア攻撃が展開されるのだ。
久保建英が起用される可能性が最も高いのはこのチュクウェゼの位置となるだろう。そしてPSMにおいて彼はカットインからのロブパスでチャンスメイクをするというまさに理想的なプレーを見せている。
エイバル戦では縦への突破等で決定機を演出しており、チュクウェゼの状態が上がっていない今がまさにポジション奪取の勝負どころとも言えるだろう。
左サイド攻撃
左サイドで幅を担うのはSBのペドラサだ。
右サイドでいうジェラール・モレノのように、左サイドでも引き出し役となるモイ・ゴメスがパートナーとしてハーフスペースに位置する。
ただ、ペドラサにはチュクウェゼのようなカットインはない。スピードもそれほどない。ボールを引き出したのちにチャンネルに走りこむモイ・ゴメスに合わせるパス能力もない。
現状敵に恐怖を植え付けるに足る武器はなく、モイ・ゴメスにプレーさせやすくするために外で敵をひきつける程度の貢献にとどまっている。
アルベルト・モレノが負傷している今、夏に約1500万ポンド、7年間という長期契約を結びワトフォードから加入したエストゥピニャンが左SBに定着するのは時間の問題だろう。
彼は2節エイバル戦でペドラサと交代で出場し同点弾の起点となる活躍をみせたが、左サイドはこの同点弾のように左脚から放たれるアーリークロスが武器となっている。
開幕2試合のウエスカやエイバルはCBがサイドのケアに出ていく傾向があった。そのため左サイドから左脚で敵を避けるような軌道であげるアーリークロスは非常に効果的であった。
中央にはラインブレイカーであるパコとモレノが揃っており、2トップというシステムを活用し枚数の面でも優位に立てる場面が多かった。
二人が枚数的不利に陥らず、敵を避けるような左脚アーリークロスに飛び込むプレー。これは常にラインブレイクを狙うパコにとっても駆け引きのしがいと持ち味の発揮をしやすい攻撃となっている。
このように右は逆足、左は順足のプレイヤーを起用することで攻撃に変化がついている。
中央攻撃
中央攻撃も2トップというシステムを活用したものとなっている。楔のパスをフリックで、走りこむ相方に送り込むというものだ。
両サイドで幅取り役を置くことで敵の注意を外側に逸らせ、中央で2トップ(+モイ・ゴメス)vs2CBという状況を作り出し、2本のパスで敵の背後に抜け出す。
パレホやパウ・トーレスといった楔を打ち込める選手、モイ・ゴメスのように引き出せるSH、幅をとる2人と、4-4-2には珍しく的確な配置バランスで縦に素早く攻め込む、チームとして機能した攻撃が展開されている。
おわりに
久保建英はエイバル戦、出場時間はわずか5分間であったが決定機を2度選出して見せた。今のようにスーパーサブ的な起用が続く可能性もあるが、スタメン起用となれば右SHチュクウェゼの位置(もしくは4-2-3-1のトップ下)となりそうだ。
調子があがらずボールロストの目立つチュクウェゼからの定位置奪取に必要なのはやはりゴールやアシストといった「数字」で出場時間を増やし、パートナーとなる絶対的エース、ジェラール・モレノとの連携で魅せることだろう。
チュクウェゼもカットインからのスルーパスでチャンスクリエイト自体は何度か実現しており、アシストも記録している。
左SHモイ・ゴメスは非常に器用にリンクプレーをこなしている。仮に彼と変わって起用されるのであれば、久保の出来次第でチームの機能性もガラッと変わる可能性がある。
短い時間ではあるが実力は確実に示せているはずだ。今後の彼の起用法には要注目である。
久保からビジャレアルという「チーム」に目を移すと、すでに何度も記載している通り4-4-2という攻撃が停滞しがちなシステムにおいて2トップいう旨味を残しつつポジション移動を活用して巧みに機能させているのが特徴だ。まだ開幕したばかり。今後さらなる進化が期待される。
エメリはセビージャ時代の強さを取り戻すことができるのだろうか?個人的にはパレホとトリゲロスの2CHを見てみたいところである。