23-24シーズンEL決勝、レヴァークーゼンvsアタランタ。無敗で迎えたレヴァークーゼンはこの試合、まさかの0-3で敗北。今季公式戦最初で最後の黒星となった。
この試合で印象的であったのはアタランタのマンツーマンプレスだ。ただし、レヴァークーゼンがマンツーマンプレスを受けるのは初めてではない。リーグ戦でもアタランタと同様のアプローチを見せたチームが存在した。それでもレヴァークーゼンは無敗を維持してきた。
では、この試合のレヴァークーゼンは何が上手くいかなかったのか?アタランタはどのようにレヴァークーゼンを相手に勝利を掴んだのか??
アタランタのマンツーマンディフェンス
この試合のレヴァークーゼンのベースシステムは3-3-4。右WBスタニシッチがIHの位置に入る形だ。対するアタランタは5-2-3ベースのマンツーマンで対応する。ワイドとハーフスペース、位置の高低を変えてポジションをとるスタニシッチに関しては左HVコラシナツと左WBルッジェーリがマークの受渡しを行う。この2人でスタニシッチとフリンポンを捕まえる。
マンマークはレヴァークーゼン陣内の深い位置にて行われる。ゴールキック等で相手が深さをとれず、後退の余地と選択肢が無い状態だ。
逆に、ロングボール等である程度前進を許した場合、ミドルゾーンでブロックを組む。そこから相手がバックパスを選択したタイミングで押し上げて先ほどの「これ以上深さが取れない」エリアでマンツーマンをはめ込んでいく。
淡白な攻撃がもたらすプラスの影響
マンツーマンディフェンスによりレヴァークーゼンからボールを取り上げるアタランタ。ボールを取り上げた効果はアタランタのショートカウンターを含む攻撃機会の創出という面でなく「レヴァークーゼンの長所を出させない」という点に集約された。アタランタのボール保持はほとんど機能しなかったのだ。
アタランタの攻撃は3-2-5をベースに、CHが DFラインに落ちてボールを引き出し、前線に繋いでいく。
対するレヴァークーゼンの守備は5-2-3。アタランタの攻撃と噛み合う形となる。降りるアタランタCHについては、CHがついていくことで噛み合わせはズレない。ということで、レヴァークーゼンもチーム全体でプレッシングを敢行した。
アタランタはそれを掻い潜ることができず、単調なロングボールに終始した。彼らの攻撃時間はほんのわずかだ。
ゴール前に迫ることはできないものの、無理に繋ごうとしないためミスはない。そして、アタランタの攻撃がすぐに終わるということは、レヴァークーゼンの攻撃=アタランタのマンツーマン=レヴァークーゼンにとってストレスフルな時間が長くなることを意味するのであった。
アタランタ勝利のポイント
アタランタの勝利のポイントは何であったのか?まとめると下記である。
- 相手にストレスを与えるマンツーマン
- CB陣の奮闘(ファウルの活用)
- ロングボールによる拙攻(マンツーマンの時間を延ばす)
- 組織を破壊するレベルの「個」
まずは何と言ってもマンツーマンだ。直接的に得点に繋がったわけではないが、レヴァークーゼンにストレスを与え続け、試合のペースを自らに引き寄せた。
レヴァークーゼンの最大の特徴はパスワークを活かした前進と、それによる押し込み及び被カウンター対策という盤石の試合運びにある。ボールを保持できずにその持ち味が発揮できないのであれば、それはレヴァークーゼンにとってストレスフルな状況であるということである。
マンツーマンを掻い潜りにくるレヴァークーゼンに対し、奮闘したのがCB陣だ。彼らは効果的にファウルでプレーを切ることでレヴァークーゼンの速攻を完封してみせた。ビルドアップを封じても、ロングボールや速攻でやられたら意味がない。CB陣がそちらをシャットアウトした意味は当然大きい。191cmのヒエンがアドリを抑え込むシーンはこの試合何度も見られた。
さて、ここでレヴァークーゼンのロングボールのスタッツを見てみる。
リーグ戦(1試合平均)
試行数37.7、成功数21.5、成功率57%
アタランタ戦
試行数63、成功数27、成功率42%
シュツットガルト戦
試行数45、成功数18、成功率40%
シュツットガルトを引き合いに出しているのは、彼らがアタランタと同じくマンツーマンでのプレスを行っていたからだ。
アタランタ戦のロングボールの成功率は普段の57%に比べて15%も低下しているが、これは同じくマンツーマン気味にプレッシングを敢行したシュツットガルト戦の数値と大差ない。大きく異なるのは試行数だ。リーグ戦よりも25本、シュツットガルト戦よりも18本も多い。
シュツットガルトはリーグ戦での平均ポゼッション率が60.4%で3位と高く、パスを繋いで点を取れるチームだ。そのため、レヴァークーゼンからボールを回収したら大切に繋ぐため、レヴァークーゼンは守備の時間が増えて攻撃機会が減る。攻撃機会が減れば、ロングボールの試行数も当然減る。
対してボールを取り上げたアタランタはパスワークを駆使した攻撃が機能せず、早々にロングボールの判断を下す。ロングボールを用いた素早い攻撃も上手くいかないものの、それは早々にボールがレヴァークーゼンに返ることを意味する。同じマンツーマンのシュツットガルトとは真逆だ。そのため、レヴァークーゼンの攻撃機会が増える=アタランタのマンツーマンプレスの時間が増える=レヴァークーゼンにとってストレスフルな時間が増える=ロングボールの増加に繋がったのだ。
そして勝利のポイントとして欠かせないのはなんと言ってもルックマンのハットトリックだ。3点全てが爆発的なアジリティを活かしたものであり、レヴァークーゼンは完全に崩されたというわけではなかった。そんな組織的な守備を打ち砕くルックマンの個人能力が、レヴァークーゼンに今季唯一の黒星をつけたのだ。
レヴァークーゼンのマンツーマン外しと成果
アタランタの徹底したマンツーマンディフェンス。これがアタランタに良い影響をもたらしたことに疑う余地はない。しかしレヴァークーゼンは為す術なく一方的にやられたかと言うと、実はそんなこともない。
レヴァークーゼンにとっては普段通り自らの最も得意とするボール保持で試合を進められなかったことは大きなストレスであり、我慢の時間となった。アタランタの狙い通りだ。しかし結果としてそれは前進に苦戦しただけであり、ピンチを招くシーンはごくわずかであった。
実際にアタランタの3得点はどれもルックマンのアジリティが爆発したスーパーゴールばかりである。
プレスにハマったように見えるのは2失点目であるが、これもコヴァールの正確なフィードがアドリまで届いており、フィードのタイミングも彼らの約束事通りだ。アドリのポストプレーはミスとなったが、その時点でゴール前の人数が足りない、もしくは乱れた状態ではなかったため、組織的に崩された・破綻していたとは言えない。
レヴァークーゼンに対してマンツーマンを採用するチームは当然アタランタが初めてではない。バイエルンを退けてブンデスリーガ2位に躍進したシュツットガルトや、ホームに迎えたフランクフルトもマンツーマンであった。
レヴァークーゼンに対してマンツーマンもしくはハイプレスを仕掛けるチームの多くは疲労もあり後半にプレスラインを下げて戦うことになる。つまりレヴァークーゼンにとっては我慢の時間が限られる。
レヴァークーゼンにとって望ましい展開でない=アタランタのペースとなったもののピンチを招くシーンは少なく、我慢の時間と割り切ることが可能であるうえ、その中でも何度か前進に成功するシーンも見られた。つまり、勝利に結びつけることは叶わず、望ましい展開とはならなかったが、プレス回避によって強力なマンツーマンに一方的に屈して瓦解する展開を避けることに成功したと言える。他のチームであればより多くのピンチを迎え、失点を喫していただろう。それだけアタランタのサッカーは徹底されていた。
ではレヴァークーゼンのプレス回避はどのようなものであったのか?
ポイントは以下だ。
- ロングボールとセカンド回収
- 中盤のパスコースの確保
- ヴィルツのポジショニングとレイオフ
- ポジションチェンジ(横移動と追い越し)
レヴァークーゼンがロングボールや裏へのボールを蹴るタイミング(シチュエーション)は原則として決まっている。相手最終ラインが減った時だ。スペースができるからである。もう少し具体的に表現すると、隣り合う2つのポジションの選手が共に前進した時(5バックなら右HVと右WB等)、最終ラインが2枚(状況によっては3枚)になった時だ。
この試合のアタランタはマンツーマンであったため、最前線にアドリとフリンポンだけが残る際に必然的にアタランタの最終ラインは2枚となった。アドリは174cmと小柄だがローマ戦で194cmのスモーリング相手に空中戦で何度か先にボールに触れることに成功しており、フリンポンはセカンド回収や裏を突くための圧倒的なスピードを誇る。
サイド深い位置まで相手を引きつけてアタランタの最終ラインを2枚に強い、スペースを広げたレヴァークーゼンであったが、ヒエンやコラシナツの奮闘により、フリンポンとアドリはなかなかロングボールを収めることができなかった。
ただし陣形を乱さず、降りた選手で後方の人数を増員することでセカンドボールの回収に成功するシーンは少なくなかった。後方メンバーの素早い収縮だけでなく、ボールを失った際のフリンポンとアドリによる素早い切り替えとプレスも不可欠だ。
ゴール前まで押し戻されるとプレスがハマりやすくなるが、セカンドを回収するミドルゾーンであればプレスははまりにくい。
プレス回避方法はロングボールだけではない。レヴァークーゼンは元来細かなパスを繋ぐチームであり、ショートパスをベースとしたプレス回避も見せた。ポイントとなったのは中盤だ。
シャカとパラシオスは近い位置でプレーする。そして、2人の間のパスコースを極力確保する。パスコース確保は基本的に斜めにポジションを取ることで行われる。一方にパスが入る直前に、相方はバックステップやサイドステップでマンマークの相手と距離を取る。DF陣からのパスに注意が向く死角を利用して距離を取ることはそれほど難しくない。レイオフを受ける形となれば、相手の1列目を越えた状態で前向きでボールを保持することが可能だ。シャカであれば一気にチャンスを作り出すロブパスが可能である。
ここで相手のCHが勢いよく出てくれば、その背後に入り込むヴィルツへのパスコースが出来上がる。この試合のヴィルツは2CHを助けるポジショニングが秀逸であった。ヴィルツがレイオフ役となれば、両CHとも前向きでプレーできるうえ、敵CHがヴィルツを警戒して前進してこなくなればマンツーマンは破綻する。
では、レヴァークーゼンで最も危険な選手の1人であるヴィルツはマンツーマンでつかれていなかったのだろうか?
この試合のヴィルツはトップ下のような位置をとった。CH間、CH脇、左サイドと幅広く動くことで特定の選手にマークを受け続けることがなかった。また、中盤やDFからボールを引き出す際は斜めか横移動(レーン移動)を行う。さらに裏や反対方向に必ずフェイクを入れることで相手DFを一瞬置き去りにして間合いを作る。
アタランタのマーカーは遅れてでもヴィルツに強く当たるため、ヴィルツはなかなか前を向かせてもらえなかったが、味方に前を向かせるためのレイオフパスを送り、ヴィルツに対するマークで空いた裏のスペースを前線の味方に使わせることでプレスを回避の核を担った。
そして最後にポジションチェンジだ。左サイドではグリマルドがワイド低い位置からハーフスペースへ複数列を越える追い越し、パラシオスやヴィルツがHVヒンカピエとグリマルドの間に流れる等のポジションチェンジでマンマークを剥がしに行った。複数列を越える追い越しはマークにつきにくく、パラシオスの横移動はCHを外に釣り出すため中央が空きやすくなる。
右サイドはIHの位置に入ったスタニシッチがHVを引きつけることで、フリンポンが大外の広いスペースでスピードを活かした1vs1を仕掛けられる状況を作り出し何度かチャンスを作ったものの、その頻度はかなり少なかった。
後半戦の変化
レヴァークーゼンは後半開始と共にスタニシッチを下げてボニフェイスを投入。ヴィルツをトップ下に配した3-2-1-4のような形で、タプソバからCFやフリンポンへのパスコースが開けて縦につけやすくなるというシステム上の変化に加え、フィジカルの強さでボールを収められるボニフェイスの個人能力が活かされることで前進しやすくなった。
ただし、それ以上に彼らの前進が容易になった理由はアタランタがプレスを控えることが多くなったからだろう。
左サイドではグリマルドが引いた位置でWBを引き出して、背後にアドリが抜けてHVを外に釣り出し、空いたスペースにグリマルドが侵入する攻撃が度々見られたように、ポジションチェンジを利用した攻撃が展開された。
しかし、アタランタは自分のマークの選手に対してのプレッシングが衰えることはなかった。激しく寄せてボールコントロールを乱れさせる、もしくはファウルで流れを切る。コープマイネルス等はその筆頭で、この試合のファウル数は5。チーム全体で見るとアタランタはレヴァークーゼンの倍近いファウルを取られている。
レヴァークーゼンはこれを嫌ってボールコントロールが乱れ、球離れが早くなり、攻め急ぐようなシーンが多くなった。アタランタはそうしてミスを誘いつつ、ゴール前まで運ばれたら多くの人数をかけて壁をつくり、凌ぐ。アタランタの守備、そして試合運びがレヴァークーゼンを上回っての勝利となった。
おわりに
前人未到の不敗神話が崩れたレヴァークーゼン。シーズン中にほとんど見られなかった不用意なパスミスが前半から見られ、安定感のあるヒンカピエやパラシオスも普段と違ってミスが多かった。決勝という舞台、無敗記録継続というプレッシャーが影響していたことも考えられる。
しかし、結果ほど一方的にやられたわけではなく、マンツーマンに対する解も一部表現して見せた。
アタランタは素晴らしい戦いを見せたが、彼らの勝利のポイントを単に「マンツーマン」とだけ認識するのは問題があるだろう。
来季は本格的なアロンソ体制で迎える初のCL。強豪相手にどんな戦いを見せるのか、来季最大の注目ポイントのひとつとなる。
ルックマンの強烈な「個」を止められなかったレヴァークーゼンだが、CLにはさらに理不尽な「個」を振りかざしてゴールに迫るプレイヤーが何人もいる。そんな中で彼らの組織力がどこまで相手を抑え込むのか、来季さらにレベルアップが見られるのか?要注目だ。