25-26シーズン、セリエAで最も大きなサプライズを見せているのが、昇格2年目にしてCL出場権争いを演じている、セスク率いるコモだ。
昇格1年目の昨季は、シーズン序盤に降格圏を彷徨う苦しい戦いを強いられた。しかし、14名と大量に獲得(ローン含む)した冬の移籍市場からの新規加入選手の組み込みに成功。強豪相手でもボール保持の信念を貫いて戦い、シーズン後半の獲得勝ち点は9位。最終的に10位まで順位を上げて見事に残留を果たした。
今季はさらにポゼッション率が高まり、序盤から高順位につけている。ただし、彼らが勝ち星を重ねているのは、ポゼッション率が高いからではない。
ここからはセスク率いるコモの戦術に迫っていく。
チームのスタイル

セスク率いるコモは、ポゼッション率が61%と、セリエAで最も高い。急ぐことなくじっくりとボールを回して前進機会をうかがいつつ、慌ただしいオープンな展開で不確定要素が増さないようにゲームをコントロールする。
34節での得点数はリーグ2位となっているが、それと同等に優れた数字となっているのが失点数だ。28失点もリーグ2位。彼らのボール保持は相手の攻撃機会を取り上げているともいえる。
ボール保持の時間が長いが、それ以外の局面にも強さを見せる。スムーズに攻撃に移行するため、誘導プレッシングを組み込んだボール奪取設計が練られている。また、ボール保持を中心として見た時の補助的な局面となるトランジション局面も計算されている。
1局面に依存することのない、現代的な好チームである。
スタメン格の選手にはイタリア人が一人も居ない。そんなスカッドにおけるキープレイヤーは、ビルドアップの核となるCHのペローネ。そして高いボールコントロールを武器に、ファイナルサードで決定的な仕事を見せるアタッカーのニコ・パスだ。アタッキングサードでは、彼らの個人技が十分に発揮される。
誘導型の守備構造
コモはリーグトップのポゼッション率を誇る、ボール保持局面の時間の長いチームだ。しかし、コモの強みはむしろボール非保持の局面、ボール保持の終わりの局面、そしてボール保持の始まりの局面にこそある。
まずはボール非保持の局面を見ていく。
コモの守備の優れている点は、狙いどころを定めることで前向きに、攻撃に転じやすい形でボールを奪うことのできる点である。
彼らの守備は4-2-4、4-2-3-1、もしくは5-4-1でセットされる。

5-4-1のミドルブロックは、センターサークルの先端付近に前線を張り、サイドにボールを誘導して刈り取る形となる。CFのドゥビカスは、進行方向となるサイドを限定する役割を担う。彼は、ボールホルダーとなるCBと、逆サイドのCHの間のパスコースを切るようにポジションを取るケースが多い。このパスコースを消すことで、サイドを変えるのに要する時間を増やし、サイドの限定に繋げるのと同時に、味方のスライドに余裕を与えることができる。
同サイドのCBとCHのパス交換を許す形となるが、仮にこれが縦方向のパス交換となれば、それに続くパスは必ずバックパスとなる。つまり、チーム全体がプレッシングに移行する時間が生まれる。
また、ドゥビカスは自身の守備ラインを越えられる場合、斜めに追走するような形で逆CBへのパスコースと中盤へのパスコースの間にポジションを取り、進行方向を決定づける。

仮に、CBが逆CBにパスを出す場合、方向転換に時間を要する。その時間を利用して、逆SHがCBへと一気に距離を詰めてボール奪取を図ることができる。


SHはハーフスペースを遮断する。相手のCBが広がってビルドアップを行う場合、ドゥビカス1人では対応することが難しいため、SHが相手のSBもしくはCBに対して前向きにプレッシングをかける。CFとSHによって中央を遮断することで、外からの迂回を相手に強いる。ここで重要となるのがWBのプレッシングだ。WBは中盤の位置まで前進し、相手のサイドアタッカーに前を向かせないように斜め前方を切りつつ厳しく寄せる。ここがボールの奪いどころだ。
前方にプレスをかけたSHは必然的にバックパスを切るポジションに入る。こうしてボールホルダーを囲い込み、ボール奪取につなげる。
ここでネックとなるのが横への展開と、WBの背後のスペースだ。相手が横への展開を図る場合は、CHがタイトに寄せて同じく前を向かせない。前を向かせないように寄せるというのが非常に重要だ。
WBが1列前進して寄せる形となるため、その背後はDFラインがスライドし、CBによって補われる。DF陣はスピードの無い選手が多いが、狙いどころを定め、スライドの判断を素早く行い、連携を取ることで見事に補っている。
相手はサイドに誘導される前にロングボールでの打開を図る。その際のコモの中盤の選手は、相手がキックモーションに入るのに合わせて後方へ戻る準備を始め、セカンドの回収に切り替えていく。
いずれの場合も、CFのドゥビカスは中間のポジションを取っているため、即座にフリーの状態となる。また中盤より上の選手はみな細かなパスワークに長けているため、セカンドを回収したのちに相手のプレスを回避し、前進することが可能だ。

相手がサイドに誘導される前に、中央で楔を狙う場合。その場合、中盤の4枚で楔のパスを遮断する形となるが、隙間を通す楔に対しては、DF陣が積極的に前進して潰しに出ていく。ラモンやカルロスは前進守備で激しく寄せて奪うことができ、カバーの動きも秀逸だ。基本的なカバーを当たり前にこなすことができるため、迷いなく寄せることができる。

4-2-3-1に関しても誘導して刈り取るというコンセプトは明確だ。CBからSBにボールが入るタイミングで、SHがSBに寄せに出る。この時、SHは前向きにプレスをかけられるように守備ラインを上下して調整する。
敵CBとSBの距離が近い場合、CFがCBとCHを同時に見やすい状態となり、サイドの限定が容易となる。
逆に、敵CBとSBの距離が遠い場合、CFはCBとCHの2方向を切るのが難しくなる。ただし、CHを切ることでCBへのバックパスに制限し、そのパスに合わせてプレッシングに移行することが可能となる。ドゥビカスが横切りで寄せることもできる。

相手が3バックの場合、SHがCFのラインまで押し上げ、外を切りつつHVにプレスをかけるケースも見られる。2トップが確実に相手の中盤へのパスコースを切っていること、そして、SHがHVにすぐに寄せることのできるパススピード、距離、タイミングであることが条件となる。
この場合においても、SHの外に出てくるボールに対してはSBが激しく寄せ、CB陣がスライドして背後をケアする。
FW陣は常に進行方向に制限をかけるのではなく、守備陣形が整うまではスペースを埋めて時間を作る。相手のボールホルダーや配置状況を見て制限に入っていく。
一撃必殺のショートカウンターの構成要素
コモはボールを奪った後の速攻に優れたチームだ。では、どのような点に優れているのか?

まずはボール奪取の設計だ。狙いどころを定めた守備により、中央でもサイドでも前向きにボールを奪うことができる。カバーシャドウを用いた誘導プレッシングは、人ではなくパスコースに入る形となる。これはつまり、奪取直後に即、フリーとなることを意味する。中盤が近い距離を維持して楔を消すスライドを行うことで、ボール奪取後に近距離のパスで相手の1stプレスを外すことも可能だ。
センターサークルに前線を敷くミドルブロックを採用し、相手が広がってビルドアップを行うことによって中央が空く構造的優位性を活用する。
CFのドゥビカスはスピードを生かしてサイドのスペースでボールを収めることも、相手DFと身体をぶつけながらパワーを生かして収めることも可能だ。腕を使って距離をとるのも上手い。ファーサイドに流れつつボールを呼び込む、もしくは囮となることで、ボールホルダーや後続の味方に選択肢を与えるプレーを見せる。
流動のビルドアップ、即興のファイナルサード

コモはポゼッション率の高さが示す通り、粘り強くパスをつないで攻撃を組み立てる。システム的には3-2-5や、4-3-3、4-2-3-1が採用される。

コモは「カバーシャドウの背中側」へのパスを狙う。例えばGKのブテは、横向きのプレッシングで制限をかける相手に対して執拗に相手の背中を狙い、チームに攻撃の選択肢を与える。
ただ単に逆サイドに展開するのではなく、背中側に送る方がスペースを得ることができる。さらに、相手のスライドにも方向転換と乱れを生じさせる。「揺さぶる」とは、サイドを変えるだけではないのだ。

ビルドアップ時は、CHのペローネが相手の守備の1stラインまで降りて相手のCHもしくは1stラインの選手を引き付けることでスペースを生み出し、ビルドアップの助けとなる。
中盤の選手の関わり方はセスクの戦術において重要なポイントの一つだ。ボールを持つCBに対し、必ず逆サイドのCHがパスコースを作るよう、主にアンカーの位置にポジションを取る。彼らCH陣は、「誰がプレスに出るか」という迷いを与え、相手を引き付けることで空いた選手にパスを送って前進を図る。
ペローネは、自身が引き付けることで空いた脇のCBにパスを出し、内側後方でサポートポジションを取る。相手CHが前進してくるのであれば、その背後に逆CHのセルジ・ロベルトが移動してパスを呼び込む、といった具合に、2CHが流動的、的確にポジションを入れ替えながらボールを前進させる。
相手の1stラインを抜けた後は、ワンツーを利用した2vs2での攻撃、サイドでのローテーション攻撃が多く見られる。
ワンツーは、無駄なターンと展開を行わずに相手の背中を突くという点で、先述の影の活用と同じ概念である。3人目が関与するエイトのようなローテーションも見せる。バジェやバトゥリナといった細かなパスワークを得意とする選手が多いため、効果的に活用されている。
サイドでは、幅取り役の挙動に合わせたサポートが行われる。左はWBのバジェとシャドーのバトゥリナが連携を取る。外で張る選手に対してインナーラップでサポートを行い、相手が食いつけばカットインから中へとボールを展開していく。いずれも裏を取ることのできるプレイヤーだ。

右サイドはWGのディアオが固定で幅取り役となる。彼の動きに合わせて、SBのスモルチッチが斜め後方でのサポート、オーバーラップ、インナーラップといったサポートを行う。スモルチッチは時に、パスが降りて空いたスペースに斜めに入りこむ等、スペースを見つけること、チームの配置バランスを調整することに長けている。トップ下、時にCFを務めるパスも右寄りに位置することが多く、平行のサポートを入れる。
しかし、ディアオはそんなサポートを有効に活用することができず、球離れが遅れる、無理な仕掛けを行う等、攻撃に停滞を生んでしまうことが多くなっている。
両サイド共に、IHやシャドーを務める選手がサイドに流れつつ降りてボールを引き取り、中央に位置する相手選手を引きずり出す動きも見せる。

相手がマンマークで守備を行う場合は、CHが低い位置に降りて両SBを押し上げる等のローテーションに加え、主にトップ下を担うパスがCHの位置まで降りることで数的優位もしくはスペースを生み出す。
フィニッシュに決まった型は無い。
ただし、ゴール前のDFの枚数が少なく、ボールホルダーがフリーならクロスをあげる、CHが前を向いて受けたらワイドの選手が裏を狙う、影を利用してパス交換を行う等、ファイナルサードにおける有効な攻撃原則に則っている。それゆえに、即興でも連携を取ることができ、その場の状況に応じて即興でゴールを生み出すことができる。
また、ペローネ、ダクーニャといったキック精度の高い選手に加え、バトゥリナ、パスといったドリブル能力の高い選手による打開等、選手のクオリティも十分に活かされている。
ただし、こういったプレーの中でレーンを共有するというポジショナルな志向は薄い。ローテーションが多いものの、相手DFの裏と表で2択を生み出すようなプレーが少ない。時折CFのドゥビカスと右シャドーのパスが、それぞれ裏と手前を狙う程度だ。
このレーン共有がなされた時は、効果的な攻撃が生まれやすくなっている。
配置的優位をさほど活かさない攻撃は、無駄な人数過多が発生する要因にもなっている。ビルドアップに人数をかけすぎて、前線に配置される選手が少なくなる状態に陥るケースが見られるのは、昨季から続く課題と言えるだろう。
ボール保持を支えるネガティブ・トランジション

ボールを失った際、ボールより前に位置する選手、逆サイドの選手は素早く戻り、ボールに近い選手はプレッシングをかけて攻撃を遅らせる。
後方の選手は、失う前から切り替えの準備を進める。基本的にCB陣は、チャンネルのケア、中盤まで前進してのボール奪取、押し込んだ後のアタッカーケアと、守備範囲が広い。
後方に5枚確保し、CHのペローネもカウンターの経路を塞ぐようにボールホルダーにプレスをかける。
各ポジションの選手がネガティブ・トランジションにおいて役割を果たすものの、CB陣が相手のアタッカーを潰しきれず、前を向かれてしまうと厳しくなる。CB陣はスピードに不安のある選手が多く、背後を狙われるとひとたまりもない。そのため事前の準備と、自由にプレーさせないために、前を向かせないプレッシングが重要となる。
ポゼッション率の高いコモだが、それがコモの強さの秘訣というわけではない。それ以外の守備、トランジション局面が密接に関わり、相乗効果をもたらしている。助走をつけた状態で次の局面に移ることができているのが、彼らの強さの秘訣となっている。

躍進するコモの指揮官セスクをはじめとする、新進気鋭の若手指揮官達の戦術については、概要欄のリンクに記載された書籍にて。
28人もの若手指揮官の戦術と、サッカーの原理・原則を学ぶことのできる一冊となっています。ぜひお手に取ってみてください。


