25-26シーズンのプレミアリーグは、2025年終了時点で4位から12位が6ポイント差にひしめく大混戦となっている。その中で虎視眈々と上位進出を狙っているのが、日本代表MF鎌田大地が所属するクリスタル・パレスだ。フランクフルト時代、鎌田と共にELを制した指揮官、グラスナーにより、プレミア屈指の堅守が形成されている。オープンプレーでの失点に限れば、アーセナルと並んでリーグ最少である。
彼らの採用する5-4-1守備システムは、今や主流とも言える3-2-5攻撃システムとセットで扱われることが多い。3-2-5から両翼を下げるだけで5-4-1の守備がセットできるからだ。つまり、現代サッカーの新スタンダードだ。つまり、パレスの教科書のような5-4-1守備組織を学ぶことは、現代サッカーの守備の教科書を学ぶのと同義と言っても過言ではない。
今回はそんなクリスタル・パレスの守備戦術にフォーカスする。

チームのスタイル
グラスナー率いるクリスタル・パレスは、堅守が売りのチームだ。


2025年終了時点、18試合で20失点はリーグで4番目に少ない。中でも、オープンプレーでの失点に限れば、アーセナルと並ぶ7でリーグ最少である。
ポゼッションはリーグ16位。守備に回る時間が多い中で、被シュート本数は5番目に少ない。リーグ3位のタックル数、リーグ4位のインターセプト数、リーグ3番目に少ないファウル数が示す通り、狙い通りに無理なく守備を遂行している。ゴール寸前の水際で身体を張って守るのではなく、よりソリッドに、ペナルティエリアの手前で相手の攻撃をシャットアウトしている。
ただし、セットプレーからの失点はリーグで5番目に多く、明らかな弱点となっている。また得点数は21でリーグ14位と、攻撃面に課題が残る。
グラスナー式5-4-1守備の原則
グラスナー率いるクリスタル・パレスの守備は5-4-1で構築される。ELを制したフランクフルト時代と同様だ。ただし、当時に比べて、守備の1stラインをハーフウェイラインの高さに設定した、低い位置での守備ブロックの質が大幅に向上し、安定感がもたらされている。

基礎となるのはなんといってもチャレンジ&カバーの原則だ。ボールホルダーがフリーにならないように絶えずプレッシャーをかける。そして、プレッシャーをかけた選手の脇の選手がカバーのために絞る。パスが出る前から寄せてしまうと、間や裏を取られる可能性が高まるため、パスが出てから寄せる。奇抜なことなど何もない。
奇抜ではないが、この基本的な原則を徹底することで、堅守が生まれている。アルテタ率いるアーセナルと同様だ。
カバーの動きが徹底されているため、どのポジションの選手も思い切ってチャレンジすることが可能となっている。ただし、ボールホルダーに対してどの選手がチャレンジに出るかという判断が非常に重要となる。
チャレンジ&カバーは同一守備ラインの選手だけで行われるものであってはならない。CFとCH、SHとWBのように、異なる守備ラインを跨いで行うことで、継ぎ目のない守備組織が構築され、より強度を高めることができるからだ。このライン間連携を行うにあたり、DFラインからCFまでがコンパクトである必要がある。
中央をプロテクトしてサイドに誘導し、サイドで囲い込む。無理な前進は絡め取って奪う。バックパスを選択した場合、それに合わせて押し上げてプレスに移行、もしくは守備陣形を修正して次の守備に備える。これが、パレスの大まかな守備の流れと原則だ。
グラスナー式5-4-1守備の実例

4-3-3で攻撃するチームに対する守備を例に挙げる。ビルドアップの起点となる2CBに対して、CFのマテタ1枚だけで対応しようとすると、数的不利でプレスがかからない。そこでパレスは、CHの鎌田やウォートンがCBの寄せに出る。
この際、CFのマテタとSHは必ず絞って脇を固める。こうして隣り合う選手が絞って中央をプロテクトすることで、相手のパスをサイドに誘導することができる。

ここでSHが敵CBに寄せに出てしまうと、サイドに大きなスペースが生まれ、簡単に守備ラインを突破されてしまう。CHがCBに寄せに出られるというのは、原則に忠実なパレスの強みである。
CFのマテタが絞るという点も重要だ。アンカーへのパスを許してしまうと、サイドチェンジを行うための近道ができてしまうため、左右に揺さぶられてギャップが生じやすくなってしまう。最前線のマテタが、2列目の中盤ラインと協力して、継ぎ目のないブロックを形成する。

敵SBにパスが出たタイミングで、絞っていたSHがはじめて敵SBにプレッシャーをかける。当然ここでも、CFが絞ることでパスコースを制限する。ただし、CFのマテタは状況に応じてCBへのバックパスを牽制する位置にポジションを取ることで、退路を封鎖する。
物理的にパスコースが切れていなくとも、パスを出せないと心理的に思わせれば、それはパスコースが切れていると同義だ。この部分の駆け引きが、マテタは非常に上手い。現代サッカーにおいて貴重であり、今後ますます必要となるであろう能力だ。

サイドを限定した後は、後方のメンバーがチャレンジ&カバーを駆使してボールホルダーへのアタックと背後のケアを行ってボールを回収する。
サイドに誘導してから、敵WGにパスが出るタイミングでWBが縦を切りながら寄せ、脇のCBがその背後をケアし、SHが横を切り、CFが状況に応じてバックパスを切るイメージで囲い込んでボール奪取を図る。
サイドに出た後のSHは2通りの守り方を見せる。まず、守備陣形がコンパクトに保たれており、WBが1列前までアプローチをかける場合、SHは WBの斜め後方に入って中への展開を防ぐ。よりブロックとしての強度が高まる守り方だ。手詰まりとなった相手がバックパスを選択するのに合わせてプレスをかけることで、全体の押し上げとボール奪取を図る。

守備陣形がやや縦に広がっている場合、SHが WBの脇まで戻ることが難しい。その際、SHは敵のアンカー、もしくは後方へのバックパスを切るように、斜め後方から挟み込むようにプレスバックをかける。逃げ道を消し、よりボール奪取に重きを置いた守り方だ。
相手のIHが中盤の脇でボールを引き出す場合、グエイやリチャーズ等、脇のCBが前進して潰しに出る。特に、背を向けて受ける選手にはガツンと寄せる。その際、WBやCBのラクロワが空いたスペースをカバーする。
カバーが居なければ、グエイ達は背後を憂いて前進することができなくなってしまう。

敵のIHがサイドに流れる場合、WBが前進して寄せ、脇のCBが敵WGを見る形で受け渡すことが多い。ただし状況による部分が多く、マークの受渡しを確実に行うことで臨機応変に対応することが可能となっている。例えば左サイドであれば、WBのミチェルではなく守備範囲の広いグエイが前進するシーンもしばしば見られる。
相手が3-4-2-1であれば、配置的に5-2-3と噛み合うため、マークの所在がはっきりする。いわゆるミラーゲームだ。「ボールホルダーに対してどの選手がチャレンジに出るか」という判断が容易になるため、守りやすい。
グラスナー式5-4-1の攻略方法
リーグ屈指の堅守を誇る、グラスナー・パレスの5-4-1守備組織。では、攻撃側からしたら、どのように攻略を図れば良いか?弱点はどこなのか?

まずは、ハーフスペースからのクロスだ。パレスは強豪相手に、ハーフウェイラインに前線を敷く低めの位置にブロックを築くことが多いが、ゴール前でギリギリの攻防を強いられるほど引くことは少ない。ただし、敵WGから押し込まれた際、SHがサポートポジションを取るとハーフスペース低めに位置する敵選手が空くこととなる。そこからアーリークロスを送り込まれると、対応が難しい。出所の封鎖に間に合わない可能性が高まり、出し先はDFライン背後となるため、視野、体勢、連携等、あらゆる面で守りにくい。

低い位置である場合、マークの受け渡しがシビアになるため、大外の選手に対してSHが出るケースが増える。これは他の5-4-1を採用するチームに多く見られる現象だ。パレスの場合は押し込まれる前の段階でプレッシャーがかかるため、ペナルティまで押し込まれることは少なく、大外はSHではなくWBがケアする。
ただし、そんなパレスにおいても時折発生する現象だ。こうなると、よりハーフスペースクロスへの対応が難しくなり、弾いた後のセカンドボール回収でも後手を踏むこととなる。
配置的な観点で言うと、3-3-4のような形でのアプローチを見せたアーセナルは、効果的にチャンスを生み出していた。

まずはCFのマテタの守備を乱すところからだ。右SBのティンバーを上げることで形成される3バックで、CBの位置に入るカラフィオーリ。彼がマテタの脇からドリブルで運ぶことで、マテタに強いる守備範囲を広げた。
さらにアンカーに入ったノアゴールが、マテタと中盤ラインの間にポジションを取り、時に前方に抜けてスペースを作成。脇のCBがボールを持つ際にCBとノアゴールで2択のパスコースを作り続けることでマテタの守備基準を乱した。
脇のCBにSHが出ると、敵WGと相対する WBとの距離が開き、 WBのカバーに入ることができなくなる。WGのマルティネッリは、カバー不在で侵入しやすくなった中央へとカットインしてからのハーフスペースクロス。そして、その選択肢を見せることで活きる縦突破でチャンスを演出していった。
スペースを埋めるため、パレスはボールホルダーへのプレスに出にくくなった。中盤とDFのライン間に配置された選手も、プレスを躊躇させる要因である。

ボールホルダーへのプレスが弱まると、アーセナルはフリーのボールホルダーからDFライン背後に向けてロブパスを送り込む攻撃手法も見せた。WG陣が脇のCBの背後に斜めに抜ける形だ。
弾かれた場合、中盤の選手がセカンドボールを回収して二次攻撃に繋げるという、別局面からのアプローチも効果的に利用している。
そして、パレスの守備局面とは異なる、別局面からの攻撃という観点で、セットプレーも重要だ。冒頭でも述べたが、堅守クリスタル・パレスはセットプレーでの失点が多い。特に、今季最多の4失点を喫したリーズ戦のほとんどは、ロングスローを含むセットプレーによるものであった。
攻撃面と課題
オープンプレーでの守備時の失点数が非常に少ない、堅守のクリスタル・パレス。
リーグ屈指のソリッドな守備を見せる反面、攻撃面に目を向けると、ビルドアップは得意としていない。少しでもプレスを浴びれば、リスクの少ないロングボールを選択する。ターゲットとなるのは、CFのマテタだ。
守備で重要な役割を果たすマテタは、攻撃においても最重要プレイヤーだ。類稀なフィジカルと安定したボールコントロールで悉くボールを収め、フリックやレイオフでチャンスを作り出している。
そんな攻撃の選択肢の少ないパレスだからこそ、日本代表・鎌田大地の存在も、より貴重なものとなっている。中盤で起用される彼の相方、ウォートンと共に、シンプルなパス捌きで決定機を演出している。少ない手数で攻撃を完遂するパレスの攻撃のキーとなる存在だ。
守備に関しても、鎌田の1試合平均のタックル成功数は2.9回と、プレミアリーグにおいて8位となる数字で、彼の果たす役割の大きさを示している。
ソリッドな好チームであるが、攻撃面での不足と、セットプレーの弱さは、リーグ戦や勝負所において明らかな弱みとなる。上位進出を果たすためには、この2点をいかにクリアするかという点が大きな材料となるだろう。

現代サッカーにおいて必須項目ともいえる5-4-1の崩し方、守り方についてのより詳細な解説は、概要欄のリンクに記載された、2025年発売の書籍にて。
28人もの若手指揮官の戦術と、サッカーの原理・原則を学ぶことのできる一冊となっています。ぜひお手に取ってみてください。


