司令塔型サイドバック、ヨシュア・キミッヒの「見る力」とは?

司令塔型サイドバック、ヨシュア・キミッヒの「見る力」とは?

前回王者ドイツ代表のグループステージ敗退。大会前から攻守に露呈していた明らかな弱点が改善されず、内容においても敗退してしかるべきものであった。そんな低調なドイツ代表で、幾度となくチャンスクリエイトを重ねた選手が右SBのヨシュア・キミッヒだ。

現代のSBは監督の戦術的志向に合わせて様々なタイプの選手が起用されている。守備的な選手、フィジカルに恵まれ空中戦に強い選手、スピード・スタミナのある選手…。これらの特徴を掛け合わせたハイブリッドなタイプも出てきている。


「眼」と「頭」

そんな中、キミッヒは非常に珍しいタイプの選手と言える。速くない、強くない、守備も特別上手くない…。では一体何が優れているのか?それは「眼」と「頭」だ。

元々CH出身であるキミッヒはパスの配球能力に優れた選手だ。その特徴はSBにコンバートされても変わらず、ドイツ代表ではライン際の司令塔としての役割を担っている。

キミッヒはボールを受けてから
足元に収め、周囲の動きを促す”溜め”
人の動き、それに伴うスペースの視認
適切な判断・配球
までを恐ろしいほど冷静に、的確に遂行する事ができる。

独特の”溜め”

ボールを収めてからの独特の”溜め”は、複数の味方に連動して動き出す時間を与えている。「ワンタッチでボールを捌くこと」が盲目的に美化されることが多いが、正しいのは「適切なタイミングでボールを放すこと」。場合によってはダイレクトプレーよりも溜めを作る事の方が断然重要度が高いのだ。

下の動画をみても分かるように、キミッヒにボールが渡ると同時に周囲の動きが活発になっている。

周囲の動きに関してポイントとなるのがチャンネルへのランニングだ。必ずと言って良いほど出現するこの動きに対して、敵は何かしらのリアクションを起こす必要があるため、守備陣形に穴を空ける上で非常に大きな役割を果たす。キミッヒはチャンネルに抜ける選手に対してピタリと足元にボールをつけるパス精度を備えている。つまり、チャンネルランひとつだけで好機を演出できるという脅威を、ボールを持つだけで既に与えているのだ。このチャンネルランをトリガーに周囲の選手が空いたスペースにポジションを移し敵守備陣形の穴を広げていく。そして最も良い状況の味方にボールをつける。

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内へのドリブル

ここでパスの出し先を得られなかった場合、普通の選手なら大人しく後ろへ戻してやり直すだろう。しかしキミッヒは違う。キミッヒは「内へのドリブル」を試みる。これが彼の最大の特徴の一つと言えるだろう。

このドリブルには
①アングルを変える事で縦へのパスコースを創出する。
②敵SHを内に引っ張ることで、外の味方をフリーにする。
③CHへの加勢、逆サイドへの展開
と複数の効果が見込まれる。ただ単にボールを下げるのではなく、先の展開に繋がる・もしくは繋げやすい土台を作ってからボールをリリースしているのだ。この動きをこなせる選手は思いのほか少ない。フットサルで言うエイト(楔を入れるタイミングとギャップを作るためのローテーション攻撃)ではこの横のドリブルがポイントとなる。ボールの循環をスムーズに行う上で、こういったプレーをこなせるSBの存在は非常に貴重なのである。

精度の高いクロスボール

こうしてボール循環の中心を担いつつボールを前進させた後のクロスに関しても、精度の高いものを持ち合わせている。

これらのクロスも中の状況を把握し、状況に適した質のボールを供給している。速さ、高さ、方向、距離…。クロスの種類と状況判断能力の掛け合わせがクロッサーとしての力量のパラメーターだ。キミッヒは世界で指折りのクロッサーでもあるといえる。

おわりに

SBというポジションは基本的に低い位置、タッチライン際にポジションをとるため、敵からのプレッシャーにさらされることなくピッチ全体を見渡すことができる。本来、冷静に適切な判断を下せる司令塔を置くにはもってこいのポジションだ。

このポジションにおいて、溜めに関しては内田篤人、内へのドリブルに関してはリカルド・ロドリゲス(スイス/ACミラン)が得意としている。しかし、キミッヒほど司令塔としての役割を高精度でこなす選手は見当たらない。

キミッヒのサイドバックとしての才能に目をつけてのコンバート、積極起用を行ったのがグアルディオラ。彼がドイツにもたらした大きな産物のひとつである。溜めて、見て、判断して、実行する。「眼」(=見る力)と「頭」(=溜めて動かす司令塔としての力)を武器に戦うキミッヒのような「司令塔型SB」が今後も継続的に輩出されれば、現在のサッカーの組み立て方も大きく変わっていくことだろう。