【EL準々決勝】ウェストハム戦に見るレヴァークーゼン戦術分析

マッチレビュー

EL準々決勝、レヴァークーゼンvsウェストハム。2戦合計3-1でレヴァークーゼンが準決勝進出を決めた。
このカードで特筆すべきポイントは、
・レヴァークーゼンの攻撃局面での3バックと4バックの使い分け(人数調整)
・4バックの作り出し方(2パターン)
・ウェストハムの守備戦術
・レヴァークーゼンの弱み
である。
ウェストハムがセカンドレグで逆転し、勝ち進んでもおかしくはない内容であった。しかし今季無敗を誇るレヴァークーゼンの記録が更新されることになった。そんな準々決勝を振り返っていく。

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ファーストレグ

ファーストレグは2-0でレヴァークーゼンの勝利。シュート数33-1、ポゼッション65%-35%。レヴァークーゼンが完全に試合をコントロールしてみせた。

ウェストハムの守備は5-2-3で、センターサークル先端付近で構える形だ。対するレヴァークーゼンは2パターンの形を見せた。

まず1つは、グリマルドがSBの位置に入る4-2-3-1だ。3トップに対して4枚をぶつけ、SHの脇からSBが前進を図る形である。
最前線のCFシックが敵CBを釘付けにすることで、ヴィルツがプレーするスペースを確保する。そうして得たスペースを利用しつつ、ヴィルツが中盤の隙間から顔を出すことで、敵2CHに対して2CHvsヴィルツで優位を作り、前進を目指した。
シャカとパラシオスは近い距離感を維持するため同サイドに寄るため、逆サイドに降りて中継点になる等、各選手の中継点となる役割をヴィルツが担った。
SBはサイドに張りすぎずに絞り気味に位置する。SHが幅を取り、SBがハーフスペースを前進する形が多くなった。特に左サイドのアドリとグリマルドではその役割分担が明確に見られた。

もうひとつがCH1枚が敵の1列目まで降り、両HVが広がることで形成する4-3-3だ。
シャカが低い位置に降りて右HVスタニシッチが広がるタイミングでは、明確にジェスチャーを交えたポジション調整のコミュニケーションが見られた。
この場合も3トップに4枚をぶつけるため、SH脇でスタニシッチがボールを前進させるシーンが多くなった。

レヴァークーゼンはこの2つの形を行き来するようにポジションチェンジを行ってみせた。いずれの場合も3トップに4枚をぶつけ、中央のパスルートを使えるような配置をとりつつ、サイドを使って広げることもできる。中央に配置して外を空け、外を使って敵を広げて中を突く。
相手の守備列を越えることと、味方の立ち位置を考慮し2CHと2HV、グリマルドがポジションを微調整する。ここの調整が抜群に上手い。
幅を守れなくなったウェストハムは両翼を下げて5-4-1へと変化する。押し込みに成功したということだ。そうなった時のレヴァークーゼンはグリマルドがWG、シャカがCHの位置に戻って3-2-5を形成する。この状態の時もシックを最前線で囮に、シャドーがその手前のスペースを利用する形を取った。

ファイナルサードでの崩しは、サイドがメインとなった。サイドの選手にボールが渡る段階でシャドー位置の選手がWB裏にランニングを入れる。このランニングはデコイとして効果的だ。敵がついてくれば空いた中央のスペースを利用することができる。ついてこなければシャドーにパスを出してサイド深くからクロスをあげるのも攻撃手段の一つとなる。

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ここのパス判断において重要なのは「決して縦に急いではならない」という点だ。成功確率が低ければ出さない。溜めを作り、CH、2シャドー、WB(主に左のグリマルド)がボールを持つ選手を中心にYの字のような配置をとり、ボールを持っている中央の選手が脇の選手にパスを出してチャンネルに抜け、マークがついていくことで生まれるパスコースを突く攻撃を繰り返す。
HVの裏と手前を用いることで、「裏への抜け出し」か「HVとの間にできる間合い」を利用してシュートを放つことができる。3人以上が必要となる、「サイ」と呼ばれる連携だ。


この攻撃は、「囮のための裏抜け」と横や後ろの「サポートポジション」をとることにより、「100%通る横パスとバックパス『だけ』」でシュートまで持ち込んでいる。無理な縦パス、攻め急ぎが無い以上に、そもそも縦パス自体が無いというのが脅威的だ。より安全にシュートまで持ち込むことができる。
当然これだけサイドに人数をかけているため、簡単に逆サイドに振るような配球策は厳禁だ。ゴール前のシックとフリンポンがクロスの脅威を与えていないとサイドで攻撃が作れないが、彼らを使うのは彼らかパサーがフリーになる時だけだ。

押し込んでいるためカウンターも喰らいにくい。3バックが全員敵陣ペナルティアーク近辺まで押し上げ、2CHと共に被カウンター時にボールの近くの選手がプレスをかけ、自身の近くの選手を捕まえる。
敵の攻撃部隊を押し込んでいるのと、こちらの攻撃陣が下手なロストをしないことを前提とした3バックの立ち位置だ。

前半41分に左のワイドでボールを受けたアドリが、マークを引き連れてWB裏に抜けたグリマルドに縦パスを送りロストしてしまうシーンがあった。「攻め急ぎ」だ。この時、中央に居たスタニシッチ、パラシオス、ヴィルツは一斉にジェスチャーを交えて不満を露わにした。グリマルドがマークを引き付けているのだから、アドリは中に展開するべきシチュエーションだからだ。
これは約束事が明確であり、アドリのプレーがチームのコンセプトに反していると皆が認識できているという、レヴァークーゼンの強さの秘訣を表している一幕である。

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こうして攻撃志向の統一と被カウンターの態勢を整えて試合を運ぶレヴァークーゼンであったが、パワーとスピードを備えたアントニオに手を焼くこととなった。被カウンターの態勢を整えた状態の3人がかりでも突破され、クロスを上げられるシーンも見られた。
セット守備に関して、ウェストハムは攻撃時に右SBツォウファルをあげた3-2-5となるケースが多かったが、レヴァークーゼンの守備システムと噛み合うため、大きな問題は起きなかった。
こうしてゲームをコントロールしたレヴァークーゼンが完勝を収めることとなった。

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セカンドレグ

この試合の前半は、レヴァークーゼンにとって今季最も苦しい時間のひとつとなった。
ウェストハムは4-2-3-1をベースとしたハイプレスを選択。対するレヴァークーゼンはファーストレグと同様に4バックと3バックを切り替えて戦った。違うのは切り替えの方法だ。左HVのヒンカピエが高さを調整することで3バックと4バックが切り替わる。

ウェストハムの守備を見ていく。レヴァークーゼンが4バックの場合、アントニオが左CBターに寄せて(もしくはCB間、ター寄りに立つ)ボールを右サイドに誘導し、トップ下の位置の選手(主にマッギン)が右CBコスヌにアプローチをかける。SBに対してはSHのクドゥスが寄せ、CH同士がマッチアップし、右SHのボーウェンは低めの位置でロングボールのセカンドを待ち受けることでプレスにはめていった。
CBのコスヌが開いた位置を取れば、SHのクドゥスがプレスに出ていき、SBクレスウェルが前進してSBを見る。
いずれの場合もSHは外を切る。中央にはマッギン、ソウチェクと守備能力が高く球際の強い選手が居るためショートカウンターに繋げることができる。
レヴァークーゼンにとって誤算だったのはCBコスヌの低パフォーマンスだ。CHのシャカが盛んにサポートポジションをとるものの、ほとんどのシーンで彼を使わずに中途半端なロングボールに逃げることとなった。

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失点シーンはコスヌの中途半端なポジショニングから放たれたロブパスを奪われ、アーリークロスに対してアントニオに競り負けたことによるものであった。
その他のシーンでもパスミスが多く、パス成功率は72%。序盤でイエローカードももらったコスヌは前半29分で退くこととなった。彼はHVからSBに変化し、前進していくプレーを得意とするが、最後方でサポートポジションをとり、ボールを繋ぐことはさほど得意としていない。
レヴァークーゼンがプレスを回避するルートはCHのシャカとSBスタニシッチが並行に位置し、敵中盤の脇や背後でフリーとなるヴィルツに送り込む楔のみであったが、コスヌのプレーぶりも影響しほとんど見られなかった。
レヴァークーゼンのビルドアップが3バックの場合、ウェストハムは3トップをぶつけることができ、GKまで戻させて4バック化を強いる形となった。
プレスの前に前進できないレヴァークーゼンだが、危険な奪われ方をすることも少なかった。可能な限りウェストハムの前線を引き付け、シックに向けてロングボールを送り込んだからだ。ロングボールは長身のシックの傍にSHテッラが位置しセカンドを狙うシンプルなものであり、効果的な攻撃にはつながらなかった。しかし、シックが簡単にクリアさせないように粘り強く競ることで全体を押し上げる時間を確保することには成功した。
レヴァークーゼンにしては珍しく、縦に攻め急ぐシーンも多く、苦しい展開が続いた。
レヴァークーゼンの守備局面に目を移す。4-4-2のセットで、シックとヴィルツの2トップがアンカーを管理しつつアプローチできている序盤は、ウェストハムのシステムとも噛み合い問題は起きなかった。
しかしアンカーのアルバレスがDFライン付近に降りて3バック気味になる変化を見せることで2トップのアプローチがかからなくなり、ボーウェンやクドゥスがサイドでプレスを回避することで押し込まれるようになっていった。

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ウェストハムが幾度となくチャンスを作ったのはクロスボール(特にアーリークロス)だ。アントニオやファーサイドに向けたクロスボールに対し、この試合4CBを採用したレヴァークーゼンでも対応できなかった。クロッサー(ボーウェン、クドゥス、クレスウェル)とターゲット(アントニオ)の質だけでなく、「チャンネルのケアにCBが向かうためゴール前の人数が足りなくなる」という構造上の問題もあり、前半でウェストハムが4点取って試合を決めてもおかしくない展開であった。

後半はウェストハムが4-2-3-1で引き、レヴァークーゼンが落ち着いてボールを保持する通常運転の展開となった。レヴァークーゼンも4-2-3-1で、1トップに対して2CBが優位、SBがやや絞り気味に敵SHのラインを越えられる位置にポジションをとり、味方CHとのリンクを切らずに敵SHを広げにかかる。SHはビルドアップ段階では外に広がり敵SBを釘付けにする。
こうして図のように至る所に優位性を作り出し、空いた味方を見極めながらゆったりと前進していった。

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特にシャカとパラシオスがヴィルツへの楔を打ち込みやすくするために取る距離感は秀逸であった。敵2CHに対して3人で優位を作り出していった。
相手の中盤ラインを越えてからはリスクをかけずに前線4枚をメインに攻撃を仕掛ける。SBも無理に幅を取りに前進することをしなかった。
SBのエリアでプレスにはまりかけても、スタニシッチが内側へのドリブルでプレスを外す等、ボールを落ち着かせる個人技術とクレバーさを備えているのもこのチームの特徴だ。

守備局面は改めて4-4-2のブロックを敷きなおし、2トップのプレス開始位置をセンターサークル先端で安定させた。噛み合わせは問題なく、SBに対してSHが縦切りでアプローチをかけ、その際2トップはCHを使われないように引いてサポートを実施する。
ボーウェンが絞る場合はヒンカピエが絞って対応し、その背後にアントニオが抜けだせば、タプソバがカバーに入る。基本的な動きを徹底してみせた。

ウェストハムが3バック化する場合もあくまでアンカー管理を優先した上で2トップが緩く寄せて選択肢を奪った。
しかし3バック化に対応できた要因はそれ以上に、ウェストハムの構造上の問題に助けられた部分が大きかった。アンカーのアルバレスは身体の向きそのままにプレーする傾向が強く、3バック化によって空いた選手を的確に使うことができなかった。
他の中盤の選手やSBも連動してポジションを調整することができず、3バック化しては元の位置に戻る、の繰り返しとなってしまった。

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後半はレヴァークーゼンが望んだ試合展開で進み、最後に同点弾を叩き込みベスト4進出を決定づけたのは後半から途中出場したフリンポンであった。カウンターでの決定機を逸したものの、疲弊したDFに対して持ち前のアジリティをぶつけて得点をもぎ取った。アロンソの采配が的中したとも言えるポイントだ。
苦しい展開でも時間帯や相手の状態に応じて戦い方に変化をつけられる試合巧者ぶりは、ドイツのクラブチームには珍しい。その点も、無敗記録を更新した要因である。

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