4-5-1のゾーンディフェンス。あのペップ・グアルディオラが最も攻略に手を焼くシステムだ。
4-5-1もただ組んでいれば守れるわけではない。ボールと味方の位置を見ての連動が重要となる。
そんな4-5-1のゾーンディフェンスを高いレベルで機能させているチームはどこか?それはEURO本戦への出場を決めたスロバキア代表だ。
監督はフランチェスコ・カルツォーナ。サッリやディ・フランチェスコ、スパレッティの元で補佐を務め、2024年2月からはナポリの監督(23/24終了まで)を務める人物だ。
今回はカルツォーナが仕込んだ教科書のような4-5-1ゾーンディフェンスについて。
そして、それを破ったロベルト・マルティネス率いるポルトガル代表による攻略法について。
カルツォーナの4-5-1概要
4-5-1の特徴は何といっても中盤5枚の守備ラインだ。5枚でいかに相手の攻撃を絡めとる、もしくは選択肢を狭められるかという点が重要となる。
カルツォーナの4-5-1守備において最も守らなければならない約束事は「味方同士の間を通されない」ことだ。そのために、プレスに出る選手の隣の選手は斜め後ろで絞り「^」を作る。基本中の基本だ。中盤5枚で相手の攻撃の選択肢を削り、仮に中盤ラインを越えられたとしても、相手にとって悪い状態(プレスがかかっている、後ろ向きなど)を強い、DFラインで仕留める。CFは攻撃サイドの限定の役割を担う。
最前線のCFの守備開始位置はセンターサークルの先よりも6~7m高い位置になることが多い。彼に合わせて中盤とDFラインはコンパクトな陣形を保つようにポジションを取る。DFと中盤ライン間の距離はおよそ8m、DFからCFまでの距離はコンパクトな時で18m、長くても22~24mほどだ。(GK近辺までプレッシングをかける場合は30mほどに延びることもある)
CFの役割
CFの役割はアンカーの管理と、サイドの誘導だ。まずはアンカーへのパスを躊躇させるようパスコースを切るようなポジションをとる。実際に切れていなくても、躊躇させてパスを出させなければ、それは切れているのと同じだ。
中盤の選手がアンカーを見ることができるくらいコンパクトな陣形となったら、4-5-1概要の図のようにCB間のパスコースを切るようにプレスをかける。CB間を切ることで攻撃サイドの限定が可能となる。そこからSBにパスが出たらブロックの網にかけられる可能性が高まる。そこまで行けば再度アンカーにプレスバックをかけられる位置に入り、ボール奪取に移行する。
中盤・DFラインの役割
肝となる中盤5枚の最重要任務は、先述の通り隣り合う味方との間を通されないことだ。「^」を形作るようにプレスを行う。間を通されないという前提があれば、DFラインはライン間の相手よりも裏抜け対策に注力しやすい。また中盤の選手は、相手のビルドアップを担う選手に全くプレスがかかっていないという状態ができないよう、CFと協力してアプローチをかける。これも、背後に蹴りこまれて裏を取られないために重要だ。IHの選手が前進してCBにプレスをかけるのがその代表例である。
このIHのプレスに対して「^」を作るのは中盤だけではない。CFもだ。CFが絞ってアンカーを管理することで、IHが抜けた中盤ラインを補完することができる。
IHがCBにプレスを行うのはバックパスのタイミングであることが多い。隣り合う選手がプレスに出たら斜め後方に絞るのが基本となるが、相手が後ろを向いている場合、隣り合う選手であっても次にパスが出るであろう選手にアプローチをかけ、プレッシングに移行していく。
中盤は基本的にどの選手も縦を切る。隣の選手が自分の脇を固めている前提のため、縦さえ切れば相手に前進を許すことはない。SHも同様だ。ただし、スライドが間に合わない場合は中を切るようなプレスの向きとなる。
SHが縦を切り切れずに敵SB→SHへの縦パスが入る場合、SBは同様に縦切り、IHやアンカーが中を切りSHが後ろを切って囲い込むような形となる。
SHのスライドが間に合わず、SHの脇が空いてしまう場合、SBが前進し同じく縦切りのアプローチをかける。その際、SHやIHがチャンネルをケアする。DFラインと中盤という別ラインの選手であっても「^」を構築して穴を空けない。
ポルトガルによる4-5-1ゾーンの攻略法
スロバキアの4-5-1ゾーンディフェンスに対して、ロベルト・マルティネス率いるポルトガルはEURO予選で3得点を奪い勝利を収めた。
では、ポルトガルはいかに攻略を図ったのか?
4-5-1の守備の肝が中盤5枚であるため、4-5-1攻略において重要となるのも「いかに中盤5枚を越えるか」という点となる。
それを踏まえて下記のポイントが挙げられる。
- SBをアンカー脇に絞らせて2-3-5を構築。SBに対して敵SHが絞って対応するよう仕向け、サイドから中盤5枚を通過する
- WGとIHで敵SBに対して優位
- CB→SB→WG→内側の各駅停車のパスでスライドの構造の粗を突く
- SB(カンセロ)が内側へのドリブルでスライドを乱して楔を打ち込む
まず、両SBに絞った位置を取らせて2-3-5を形成。SBに対して敵SHが絞って対応するように仕向け、サイドから中盤5枚の通過を図った。
WGにボールを入れる際、IHの位置取りが重要となる。敵SBに対してWGとともに数的優位を作れる位置にポジションをとることで、SBがプレスを躊躇してWGがボールを受けやすくなり、かつその先の攻撃の幅が広がっていく。事前にWGとIHで敵SBに対して優位を作っておく必要がある。
ゾーン守備の構造の粗を突くパス回しも重要だ。例えばCB→SB→WGとパスを回す場合、SBに対して敵SHがプレスをかけるタイミングでIHが斜め後ろのポジションを取ることができない。なぜなら、IHはその1つ手前のCBがボールをもっているタイミングでプレスをかけているからだ。
そのため、SB→WGにボールが渡る際ハーフスペースにスペースができやすくなる。ここにIHが入り込み、攻略を図る。各駅停車のパスで相手を引きつけつつ回すことでブロックを破壊しやすくなるのだ。
守備側にとっては、アンカーがスライドして埋めるしかない。
SBにカンセロのような内側へのドリブルやパス精度の高いプレイヤーがいる場合、内側へのドリブルでスライドや受け渡しに乱れを生じさせ、楔を打ち込むことも可能である。
こうして中盤5枚のラインを越えていく。このラインを越えた先の攻撃手段として下記が挙げられる。
- WGとIHで敵SBに対して優位
- WGvs敵SBの質的優位
- 5トップで4バックに対して優位
- WGとIHで敵SBに対して優位
- ゴール前で3vs2の数的優位
- SBのインナーラップ
まずはライン越える際のポイントでもあった、WGとIHで作る敵SBに対しての数的優位だ。2vs1でワンツーやIHのチャンネルラン、IHによるハーフスペースからのクロスでチャンスを作っていく。
WGvsSBで質的優位が生まれていれば、IHもよりゴールに近い位置を取ることができる。
中盤のラインさえ越えられれば、5トップvs4バックの数的優位を得られるため、ゴール前では4vs3や3vs2といった数的優位を作ることができ、クロス攻撃も有効なものとなる。
WGにボールが入った時点でSBがインナーラップを仕掛けると、「斜め後ろでカバーする」という守備の原則から外れてより人につく必要が出てくるため、守備ブロックを崩す手段として有効なものとなる。
おわりに
カルツォーナ率いるスロバキアの4-5-1ゾーンディフェンスが教科書のような機能性であり、それを攻略するポルトガルもまた教科書通りの崩しを見せていたため取り上げた。
グアルディオラが4-5-1ゾーンと相対する場合も、ポルトガルと同じ2-3-5の配置で攻略を図るケースが多い。ただし、グアルディオラの方がより中央に基準を置く傾向が強い。
同じ4-5-1を崩す上で似通っている部分と差異のある部分を観察するのには大きな学びがある。