この記事は、同時投稿【ハーフスペース起点のひし形】ガスペリーニ・アタランタの5-2-1-2攻撃戦術の分析の後編として、アタランタにおけるHVの役割を中心に紹介する。
機動力に欠けるCBの代わりに、スピードあるSBをHVに置きカウンター対策を講じる。本職CHをSBにコンバートし、偽サイドバックとして活用する。DFには多様な役割が求められるようになり、それに応じるように進化を遂げている。
アタランタにおいてはHVを攻撃面で活用しようという狙いが見られる。それは前編におけるビルドアップでも説明した。ただし、求められているのは通常のボールを運ぶドリブル(グアルディオラの言うところの「ドライブ」というプレー)だけではない。ビルドアップにおけるポジションチェンジに加え、それより先、チャンネルを駆け上がるプレーや数的優位を確立するための補佐のプレーだ。
HVトロイの前進
アタランタの攻撃戦術を語るうえで欠かせない、HVの前進。前編での説明の中でも、他のチームに比べてHVのポジションチェンジ、稼働域が非常に広いことは分かるだろう。
とんとんさん @sabaku1132 の記事でアタランタの3バックの右のトロイがめちゃくちゃ気になったのでヒートマップを調べてみたら、確かに3バックの右とは思えないプレーエリアだった!
(引用:SofaScore) pic.twitter.com/bS4Vs9iCxM— polestar (@lovefootball216) March 16, 2019
— . (@souko_sa) May 3, 2020
例えばこのシーンも、HVのトロイが抜ける事で敵の守備組織に「歪」をもたらしている。敵を押しこむことでCHフロイラーが降りるスペースができた。彼がアタカール・エル・バロン気味に入って敵を釘付けし、外へのボールタッチで敵3人をひきつけることに成功したのも、トロイが抜けたことにより「歪」を生んだ成果だ。前編のパターンで言うと、「パターン4」にあたる。
ここからは、HVの特殊な役割についてさらに詳しく触れていく。
いくつかパターンを説明した後、最後にまとめた動画サンプルを載せる。アタランタは右サイドでオーバーロードをかけるため、主人公は背番号2、右HVトロイとなる。
①最小単位の数的優位の確立
最小単位の数的優位確立の重要性はゲンドゥージの記事にて紹介している。オーバーロードをかける上で最小単位の数的優位を築くことは非常に重要だ。2vs1を築くことで前を向きやすくなる。さらに安定したボール保持を実現することで、敵を数的不利の状態に長くさらすことができる。これを嫌がれば敵のブロック全体が片側サイドに寄ってきて、逆サイドのバックドアを仕掛けやすくなる。
トロイが築く最少単位の数的優位は大きく分けて2つ。1つはWBと組むもの。もう1つがトップ下(またはトップ)と組むものだ。
— . (@souko_sa) May 3, 2020
WBと組むパターンは主にプレス回避の役割を果たしている。サイド深い位置で数的優位を作られると、守備側としてはどこまで・何人で寄せていくかの判断がつきにくい。さらにイリチッチやゴメスという楔の受け手を作る事で、角度を少し変える事で楔のパスコースを作るアタカール・エル・バロンのような効果も生まれる。この「カバーシャドウを無効化する関係性」を駆使し、敵FW-中盤のライン間経由でボールを逃がす。この方法を用いてのプレス回避成功シーンが多々みられる。
トップ下・トップと組むパターンは、ゴメスやイリチッチに前を向かせるために用いられる。個のクオリティでフィニッシュまで持ち込める彼等に前を向かせることができるのは、攻撃の大きな助けとなる。エリア的には敵の中盤ラインの手前、ハーフスペース付近だ。ワンツーが可能であればそのままゴール前まで前進することもある。
②チャンネルへの侵入
チャンネルへの侵入はトロイがチームにもたらす大きなプラス作用のひとつである。トロイが行うチャンネル侵入は数的優位作りと同じく、主にWBを助けるもの、FW陣を助けるもの、さらにフィニッシュを狙ったものに大別される
まずWBを助けるチャンネル侵入。これは敵のSBを内側にひきつける事で大外のWBをフリーにする効果を持つものだ。浅い位置でのパス回しでサイドを起点に深さを出して敵の守備ブロックを揺さぶりたい時、速攻でサイドから前進したい時に用いられる。当然トロイの動きにDFが反応しなければ、彼自身がフリーの状態で危険エリアに顔を出すことができるわけだ。
WBのハテブールはハーフスペースでもプレー可能であり、そうなった際は外を回る事でWBを助けることになる。
次にFW陣を助けるチャンネル侵入。これはサイド深い位置でボールを握ることができた際に行う。彼がチャンネルに侵入することで敵の中盤の選手をDFラインに吸収させる。その中盤の選手が空けたスペースをイリチッチやゴメスに使わせるのだ。サイド深い位置で手詰まりになった際、トロイが動きをつけることで打開策を見出す。
最後はフィニッシュに絡むチャンネル侵入だ。これはWBが敵SBを外にひきつけている際に行う、アオアシの記事でも紹介したものだ。上述2つの侵入で、DFがトロイに対応できなかったパターンと言っても良い。
サイドチェンジ等で敵ブロックを動かし、適切な選手間の距離を奪った状態で彼が侵入する。HVのトロイが前進するということは、複数の守備ライン(DF、中盤、前線)を越えた攻撃参加ということになる。守備側にとって複数のラインを越える攻撃参加は受け渡しが非常に難しい。ましてやチャンネルに入られると、その難易度は非常に高くなる。横の受け渡しだけでなく縦の受け渡しも強いる事で、守備側に安全な受け身の策をとらせることができれば、主導権を握った攻撃が可能となるのだ。
これらのサンプルが以下のものである。
右HV②トロイの前進パターン。IH化によるパスコース作り、抜ける動きによるパスコース作り、最前線に進出してのフィニッシュも。
— . (@souko_sa) May 3, 2020
②HVトロイの前進。WBの位置に合わせて、大外だけでなくハーフスペースのランニングで攻撃に関与。
— . (@souko_sa) May 3, 2020
チャンネルの攻略
HVトロイの役割に注目してきたが、最後に少しだけチーム戦術に戻る。
アタランタが攻撃においてハーフスペース起点のひし形を形成しているのは既に説明済み。それでは狙っていくスペースはどこだろうか?
— . (@souko_sa) May 3, 2020
— . (@souko_sa) May 3, 2020
— . (@souko_sa) May 3, 2020
アタランタは主にチャンネルを狙っていく。
速攻の際も狙いはチャンネル。そうなった時に鍵となるのはWBの走力だ。オランダ代表招集歴もあるハテブールが駆け上がり、SBを外に引っ張り出す役目を果たす。彼が幅をとる事でチャンネルが広がり、侵入するイリチッチやゴメスが活きるのである。サイド深い位置から中央でワンクッションはさんで侵入するのもアタランタの得意パターンだ。
— . (@souko_sa) May 3, 2020
WBの幅を使った攻撃はチャンネル攻撃だけではなく大外へのロブを用いた、彼ら自身がフィニッシャーとなる形でも利用されている。
おわりに
アタランタの攻撃は流動的にポジションチェンジを繰り返すものの、カオスではなく明確な型を持つ、非常にシステマチックなものである。狙った形、狙ったエリアで勝負をかけられる、見ていて気持ちの良いチームだ。オーバーロードを採用するチームそのものが多くない中、さらにHVの攻撃参加も取り入れる事でその異質さを増している。
HVに求められる能力・役割の新水準となるのか、はたまたこれっきりになるのかは分からないが、どちらにしても目に焼き付けておく必要があるだろう。これは、この記事を書こうと思った動機でもある。
守備編でも振り返ったが、このチームはかなりの曲者揃いである。中でもアレハンドロ・ゴメスとイリチッチ、さらにゴールを量産しているサパタに関しては個人で打開するクオリティを兼ね備えている。彼等を活かすHV戦術もここまででいくつか紹介している。そういった個を活かす仕組みが整備されているのもこのチームの良いところだ。
ということでアタランタのさらなる活躍を願い、最後はサパタとゴメスのスーパープレーで締めましょう。
— . (@souko_sa) May 3, 2020
— . (@souko_sa) May 3, 2020
Fin
コメント
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