ドイツの誇る名将ラルフ・ラングニック。彼の率いるRBライプツィヒは、18/19シーズン、ブンデスリーガでの失点数がわずかに29。バイエルンの失点数をも3下回る、驚異的な数字だ。
このチームの特徴はセットした状態の守備、そしてそこからボールを奪取し速攻に移る局面にある。ハーゼンヒュットルが率いていた頃はプレッシングに途轍もない勢いがあった反面、状況に応じた守備を行えずに暴走することもあった。しかしラングニックに変わり、その勢いはやや落ち着き、代わりに局面に応じた守備を使いこなせるようになっている。
来季からはホッフェンハイムのユリアン・ナーゲルスマンが指揮を執ることが決まっており、これまで最前線でチームを支えたティモ・ヴェルナーも退団が濃厚だ。大きな変化が訪れる前に、4-2-2-2の教科書としてこのチームの機能美に触れておきたい。
基本布陣
RBライプツィヒは今季5バックを取り入れる試合も見られたが、基本布陣は4-2-2-2。
CBにはフィジカル能力に長けたフランス期待の若手ウパメカノとコナテ、安定感のあるオルバン。SBはドイツ代表クラスのハルステンベルクとクロスターマン。CHには献身的に動けるライマー、カンプル、デンメが配される。2列目にはテクニックのあるフォルスベリとサビツァー。2トップにはスピードのヴェルナーと万能型のポウルセンが置かれ、この二人でチーム総得点の半数を稼いでいる。
RBL所属、19歳のフランス人CBイブラヒマ・コナテ。独特のリズムで運べる面白い選手。
エミル・フォルスベリ。単調になりがちな攻撃に変化を加えるテクニシャン枠。
ピッチ中央をくり貫く守備戦術
RBLのセット守備は特徴的な4-2-2-2だ。アトレティコ・マドリードのようにフラットな4-4-2の3ラインではなく、SHが前進して「DFライン+六角形」の陣を形成する。
RBL次期監督となるホッフェンハイムのナーゲルスマンもシステムこそ違うが似た守備戦術をとっている。このメリットはFWとMFのライン間を使わせないという点にある。
4-2-2-2 プレッシング。
4-4-2を採用するチームにとって、FWとMFのライン間に位置する「アンカーケアの方法」は永遠のテーマである。CHが前進して見るか、FWが下がってケアするか。特に2トップの脇から入れられる横パスは対応が難しい。これに対してRBLはSHをハーフスペースまで絞らせたうえで前進させ、FWとの距離を短くした。こうすることで配置としては六角形となるため、FWとMFのライン間という概念は薄れる。「DF・MF・FWの3本線(=ライン)」ではなく「1本の線(DFライン)と1つの面(六角形)」になるからだ。縦だけでなく横の間隔も狭まるためCBからの楔の縦パスも逃さずに引っ掛けられるのだ。
各頂点に立つ選手はホルダーに寄せる際、六角形内部にパスを通されないように寄せる。隣り合う頂点の選手はそれをサポートするように絞り、斜め後ろをカバーする。こうすることでピッチ中央は経由されない、くり貫かれたエリアと化す。
ピッチ中央にくり貫かれたエリアを作る事で、敵の攻撃に「中央経由」の選択肢が無くなるため、右から受けるか左から受けるかの判断がつきやすくなる。攻撃を受けるサイドが決まったら中盤の選手はボール奪取モードに移行。2トップはカバーシャドウで限定をかけつつカウンターの準備を行う。
カウンターへの移行
2トップはSHと協力しカバーシャドウでアンカーを消すため、低い位置取りをする必要もなくなり、カウンターに転じやすくなる。
2トップの動きは速攻に転じる上でポイントとなっている。
サイドに誘導した際ボールサイドに近い方のFWは、アンカーへのパスコースを絞りつつ、CBにも対応できるような位置をとる。ボールを奪ったら彼はサイドに流れるかハーフスペースでボールを受ける。
一方でボールサイドから遠い方のFWは逆サイドへの展開を抑制するため、逆CB、SBにカバーシャドウをかけるような高く張った位置をとる。スライドして距離間を狭めれば良いというわけではないのだ。この間に彼は速攻に転じた場合に陥れるべきスペースを探る。敵のビルドアップの型に応じてできるスペースだ。奪ったらそのスペースにいち早く飛び込むのが彼の役目である。
また、SBがCBにバックパスをした場合、逆サイドの展開を許すと全体のスライド幅が大きくなってしまう。そのため、カバーシャドウをかけつつ押し戻すのも遠いサイドのFWの役目だ。
ユスフ・ポウルセン。プレーエリアが広く、至る所で空中戦を仕掛けては収める万能型のFW。守備能力も高いRBLのキープレイヤー。
ポウルセンはスピードもパワーもあるため、どちらの役目も容易にこなす。ハイボールを収める力は今やRBLの大きな武器となっており、遅攻・速攻の両方で活かされている。プレーエリアが広く、CBではなくCHやSBとの空中戦に持っていくことが可能であり、そうなった時の彼は無類の強さを発揮する。
ヴェルナーは空いたスペースを把握し侵入するのが抜群に上手い。スピードだけではなく守備とスペース認識能力を速攻に活かしている。
ライン間で一時的に収めるプレーも可能であるため、両選手共に二役こなすことができるのだ。
六角形内部の狭いエリアを狙ったパスは、引っ掛けてカウンターに移る絶好機となる。守備時の選手間の距離が狭いため、速攻に移行する際も狭い距離間を保ったまま最短ルートで前進できるのだ。
RBLの速攻が、速く、効果的なのは、
①ボールに近いサイドのFWがボールサイドで収める
②ボールから遠いサイドの選手が守備段階から狙うべきスペースを探索している
③六角形の狭い距離間を維持して速攻に移れる
という3点が要因となっている。
弱点
この守備の弱点はSH周りを攻略されることだ。
このシステムは六角形を形成することでピッチ中央をくり貫いている。六角形形成のポイントとなっているのが、通常より前進しているSHであるため、SH-CH-SBの間の空間も通常より広くなっている。このエリアでボールを持たれた場合、高い位置にいるSHのサポートがなくなるため、SBは一人で対応しなければならないのだ。攻撃側としてはここに複数の選手を送り込み数的優位を作る、もしくは圧倒的な個人能力を持つ選手を置く等して攻略したいところ。
このエリアにパスを供給するためにはどうしたら良いか?それが「CHとSHの間を射抜く」である。ではどうしたら良いか?
まず考えられるのが前提条件の破壊だ。くり貫かれた中央を使う。六角形は一人でも配置を破れば瓦解する。FWが位置につく前に、または一瞬休んだ隙に、リターン前提でも良いからあえてアンカーを使う。
前述のとおりCBの位置から楔のパスは打ち込みにくくなっているが、アンカーの位置からだと非常に展開しやすくなっているのがこの六角形の悪い意味での特徴だ。SH-CHの間はまさに開放状態となる。アンカーを消すという前提条件の破壊は大きなポイントであるのだ。
次に、SHを外にずらしたうえでの局所的優位作りだ。DFラインでのパス回しの最中、SBに渡る際にSHのスライドが弱ければ六角形の外周からWGやIHにボールを送り込まれてしまう。SBに時間を与えてしまえば、運ばれて数的優位を作られ、WGにも駆け引きの時間を与えてしまう事になる。
逆にSHのみが急いだ単騎のスライドとなってしまうと、ハーフスペースを降りてきたIHを捕まえるのが難しくなり、SH-CH間へのパスが通りやすくなる。
これらはRBL攻略法として見られたパターンである。SH周りをサポートするのは2トップの仕事であり、RBLの2トップにはそういった能力が求められている。
おわりに
MFとFWの関係を「ライン」ではなく六角形や五角形といった「面」にするチームは稀に見られる。2018ロシアW杯の頃の日本代表(パラグアイ戦)においても、乾貴士が出場する試合は似たような形をとる場面が見られた。
RBライプツィヒはこの六角形守備だけでなく、そこから速攻に展開する筋道もクリアになっている。そこまでに至るチームというのは滅多になく、非常に完成度の高いチームといえる。
来季は指揮官交代に伴いこの守備は見られなくなってしまうかもしれない。だからこそ今、4-2-2-2守備の教科書とも言えるこの若いチームを取り上げた。今後のRBライプツィヒがさらに魅力的なサッカーを展開してくれることに期待したい。
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[…] ラングニック監督のRBライプツィヒは、SHが高めの位置を取り六角形を形成し、FWのラインとMFのラインというライン間の概念を薄れさせる。 […]
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