2018年12月、レヴァークーゼンは監督のヘルリッヒを解任。新指揮官にオランダ人ピーター・ボスを迎え入れた。
Jリーグ、ジェフ市原でもプレー経験のあるボスが欧州の舞台でその名を轟かせたのが16/17シーズンのヨーロッパリーグ。シャルケ、リヨン等の強豪を破り、決勝戦に進出したのだ。その決勝では惜しくもマンチェスター・ユナイテッドに敗れてしまったが、ボスの率いたアヤックスのパスサッカーは鮮烈なインパクトを残した。
その後監督に就任したドルトムントではアヤックスのように上手くはいかず解任の憂き目にあった。しかし彼のパスサッカーはレヴァークーゼンで復活の兆しをみせている。ボスの就任間もないにもかかわらず爆発的な攻撃力を見せるレヴァークーゼンのパスサッカーにフォーカスする。
基本布陣
基本布陣はアヤックス時代同様4-3-3。CBにはフィジカル能力の高いターと本職CHのS.ベンダー。両SBには攻撃力の高いヴェンデルとヴァイザーが置かれるが、守備でバランスの取れるイェドバイも控えている。アンカーは守備能力が高く、シンプルな配球が持ち味のバウムガルトリンガー。IHにはアタッカー色の強いユリアン・ブラントとバランサーのアランギス。WGは左に圧倒的なスピードを誇るレオン・ベイリー。右には持ち味のテクニックで溜めを作るカイ・ハフェルツ。トップにはシュート力が特徴のフォラントが入る。
複数のポジションをこなせる選手が多いというのがこのチームの選手たちの特徴だ。
左右非対称な攻撃陣形
レヴァークーゼンは攻撃時、左右非対称な陣形を組むシーンが多い。
左WGのベイリーはこのチームで最も個人での打開を期待できる選手だ。彼をサイドに張らせることで幅を作りつつ、ドリブル突破を選択肢に持たせる。
敵SBを混乱させる、カイ・ハフェルツのポジションの取り方。
— . (@souko_sa) May 3, 2020
逆に右のハフェルツは中に絞ってのプレーが得意だ。サイドに張っているシーンはそれほど多くなく、ボールを落ち着かせて溜めを作る技術を中盤でのパス交換に活かす。攻撃のペースを落とし、複数の選手がポジションチェンジを交えながら攻撃を行う環境を作る。
WGの特性に合わせてDFラインも動く。右SBのヴァイザーが幅をとれるように少し高めに位置し、左のヴェンデルはCBの補佐。3バックのような形になる。
以上より全体が反時計回りにスライドする。そして左のヴェンデルとベイリーの間が開くこととなる。ここは左IHのブラントやベイリーが降りてスペースメイクをするための「余白」として使われる(後述)。
スペースに吸い込まれるように潜っていくアランギス。この人の感覚はエグい。
— . (@souko_sa) May 3, 2020
全体のバランス、できたスペースを察知して入るのは主にアランギスの役目となる。ハフェルツの動きに連動して前進、入れ替わりでハーフスペースと大外を出入りする彼のスペースを突く動きがハフェルツの特性を引き立てている。
サイドに張る
レヴァークーゼンは左にベイリー、右にハフェルツもしくはヴァイザー等を張らせている(右は常時ではないが)。そうすることでDFラインを横に広げてチャンネルを、もしくはシンプルに背後のスペースを狙うのだ。
「サイドに張る」の重要性がよく分かる攻撃
— . (@souko_sa) May 3, 2020
基本的にチャンネルに侵入するのはCFフォラントとIHブラント。WGは斜めではなく大外を縦に抜けるシーンが多くなっている。横に広げるだけに留まらず、これだけ多くの選手が裏へのランニングを意識できているというのは強みである。縦パス1本で好機を作れるのならそれに越したことはない。余計なポジションチェンジや手数をかけない攻撃はカウンター対策にもつながる。裏への意識付けは敵陣形の間延びも期待でき、パスを回しやすい環境をつくることにもつながるのだ。
関連記事:ウイングを張らせる意味~グアルディオラによるリスクを排した4-3-3戦術~
カバーシャドウは
・ハイボールで無効化
・離れるほどその影が薄くなる pic.twitter.com/78hQG2fvdU— とんとん (@sabaku1132) May 10, 2019
またこのチームではIHがチャンネルを突くシーンも多い。
高い位置をとるIHに対して、守備側の多くのチームは中盤のラインを形成しつつCHがカバーシャドウで見る。しかし、DFラインが横に引き伸ばされ、CHがカバーシャドウでIHを見ている状態で、頭越しのロングボールが飛んできた場合、守備側としては対応が難しい。CHは背後を離れていくIHを見失う上、頭越しのボールに対応できず、引き伸ばされたDFがフォローするには距離があるからだ。
左サイドの「余白」
非対称な攻撃陣形として既述の左サイドの「余白」。左サイドからはこの「余白」を使って攻め込むシーンが多く見られる。中心となるのは10番を背負うユリアン・ブラントだ。
ティーンの頃から注目を集めていた彼だが、ここ2年ほどでさらなる成長を遂げている。
— . (@souko_sa) May 3, 2020
ドリブル時のボールタッチが柔らかくなり、狭いスペースでも奪われなくなった。また、裏に抜けるタイミングと位置取りに磨きがかかり、周囲との連係もズムーズになった。ボスの元起用されているIHではこれらが遺憾なく発揮されている。
そんな彼を中心に利用する左サイドの余白。例をいくつかみていく。
【パターン1】ブラントがWGとSBの間に降りる
敵SHのプレスに合わせて流れて受ける。CHが出て行きにくい場所でオーバーロード。 pic.twitter.com/ZowMvwBn1R
— とんとん (@sabaku1132) May 10, 2019
最も多く見られる形だ。バイリーが張ってSBを釘付け、ヴェンデルがSHを引き付け、中間地点にブラントが流れてオーバーロードを作る。そこから本職WGのIHブラントがアクションを起こす。
【パターン2】ブラントがハーフスペースを下る。
外まで流れずにハーフスペースを下り、敵CHを誘き出してのワンツー&カットイン。 pic.twitter.com/NqY2aM297m
— とんとん (@sabaku1132) May 10, 2019
ブラントがハーフスペースを下り、最小単位の数的優位を作る。CHが出てくればライン間が空き余白に前進するヴェンデルからパスを送り込み、出てこなければ前を向く。パターン1同様、逆IHのアランギスが同サイドに流れてくる。
【パターン3】バイリーが引き、ブラントがSB裏へ。
影に入ってからSB裏をとる。 pic.twitter.com/FjRhCML5NO
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引いてくるバイリーが余白を使う形。SBを引き出せれば、ブラントがSB裏に流れる。この時ブラントは一度敵CHの陰に入ってから走り出すことが多い。
SBが出てこなければバイリーがドリブルを仕掛ける。
【パターン4】3人ヘドンド
関連記事:ヘドンドとは?
— とんとん (@sabaku1132) May 10, 2019
バイリー、ヴェンデル、ブラントが反時計回りに移動し敵の守備にズレを起こす。守備に回るSHは上がってくるSBをカバーシャドウで見ることが多いため、バイリー経由でパスを送れば、ヴェンデルは比較的裏を取りやすい。
以上は代表的なパターンであり、複合、別選手の関わり等、多彩である。余白を入れ代わり立ち代わり出入りすることで別の個所にスペースを作る、スペースの連鎖がなされている。
次記事へ続く・・・
長くなるためここで一区切り。レヴァークーゼンは選手個々の持ち味を活かしつつ全体を変形させ、幅と余白を用いて攻撃を行う。爆発力のある魅力的なチームである。
次記事はピーター・ボスがレヴァークーゼンに仕込んだパスサッカーの土台となる「三角形」について。三角形といっても様々であるが、ボスが仕込んだ三角形は2手先、3手先に展開していくための三角形である、といった内容の話となる。
次回記事「オランダ人監督ピーター・ボスが仕込んだパスサッカーにおける三角形とは?」は近日公開!
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