【日本代表の理想形!?】テンハーグ・アヤックスの4-2-3-1守備戦術の分析

戦術分析

18/19シーズン、今回のCLでも様々なドラマが生まれた。ユベントスvsアトレティコ、リヴァプールvsバルセロナ等での大逆転劇は特に衝撃的であっただろう。


そんなドラマティックな試合に負けないくらい大会を盛り上げたのが、アヤックスの躍進だ。グループステージではバイエルンと互角の勝負を演じ、決勝トーナメントではレアル・マドリード、ユベントスという押しも押されもせぬ強豪2チームを退けベスト4まで進出したのだ。

準決勝では惜しくもトッテナムに逆転負けを喫したが、そのインパクトは今大会最大級のものであった。そんなアヤックスが採用していたシステムが、日本代表と同じ4-2-3-1。

今回は日本代表も採用する4-2-3-1を駆使してCLを勝ち上がったテンハーグ・アヤックスの守備戦術にフォーカスする。

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基本布陣

アヤックスの基本布陣は4-2-3-1だ。

CBには1vs1に強いデリフトと、楔を打ち込めるレフティのブリント。

ボール奪取の肝となるSBには攻守に貢献度の高いマズラウィ、フェルトマン(以上右サイド)、タグリアフィコ、シンクフラーフェン(以上左サイド)。

CHには共にポジショニングと状況判断、パス技術に長けたシェーネとフレンキー・デ・ヨング。

右SHには攻撃のリズムに変化をつけられるツィエフ、左にドリブラーのダビド・ネレス。

トップ下には守備能力の高いファン・デ・ベーク。最前線には0トップのように機能するタディッチが入る。

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セット守備

アヤックスは4-2-3-1の形のまま守備を行う。(ロシアW杯での日本代表のように4-4-2への変更は行わない)

アヤックスはハーフスペースにひし形を形成し選択肢を狭め、可能な限り前線での奪取を狙う。ここでロングボールを蹴られたとしてもセカンドボールに対応できる配置となっている。

以下、各選手の役割である。

CF(タディッチ):CB間に入り、カバーシャドウで切りながらボールホルダーへ寄せ、攻撃サイドを制限する。

トップ下(ファンデベーク):アンカーが空かないようタディッチと縦関係を作りピタリとつける。

SH(ネレス):第一に中を締めてパスカットを狙いSBへのパスを促す。SBのアプローチは、CBからパスが出された瞬間。

CH(フレンキー):IHの背後からマークにつき、縦パスを攫う準備をする。
こうしてハーフスペースにひし形を形成する。

先日紹介したアタランタのように、ハーフスペース起点のひし形を作って攻撃を組み立てるのは非常に有効である。ハーフスペース起点のひし形攻撃が有効なら、ハーフスペース起点のひし形を守備においても用いることは同様に有効であり、アヤックスはそれを実行している。SBに誘導したらSHが寄せてはめ込む。

これを嫌ってロングボールを蹴ってくる敵に対しては、前もって準備していたCBを中心に跳ね返す。CH、SHはカバーシャドウを用いずに守っているため、上図ブルーエリアのセカンドボールに敵より早く到達し拾うことができる、という仕組みになっている。これがアヤックスのセット守備である。

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ネガティブ・トランジション

アヤックスは非常に攻撃的なサッカーを展開しているが、リスク管理にも余念がない。筆者としては、ボールを失ってからの守備こそがこのチーム最大の魅力だと感じる。それは「失ってからボール奪還に走る前線の選手のスピード」だけではない。チーム全体に仕組みとして浸透しているものだ。

アヤックスのネガトラは「外に押し出す3本線と迎え撃つ1本線」によって構成される。複数の選手が外に押し出すようにプレッシャーをかけ、制限をかけたところでボール奪取役が刈り取る。

基本的には
1本目:SH(最もホルダーに近い選手)
2本目:CH
3本目:トップ下
ボール奪取役:SB
となっている。

ボールを失ったらまず、最も近い選手(前線の、特にSHが多い)が中を切りつつ寄せる。(位置取りによっては外からプレスに向かうことになるが、その場合は中央のファンデベークが2本目となり再度外に押し出すように寄せる。)

1本目が外に押し出した後、2本目がさらに中央を切りつつ引き継ぐ。SHは後方へのバックパスを警戒しつつショートカウンターへの移行準備を行う。

この間にSBは自身の引き受けているマークをCBに託し、CHと共に挟撃する。CHが中を切っているため、SBは縦を切る。仮にSBが抜かれても、CHがそのままカバーに入る。

ここでホルダーが中のCHやアンカーを使おうとした場合、3本目となる守備の得意なトップ下・ファンデベークがボールを奪取する。守備能力の高いトップ下を採用する利点を上手く活用している。

「外に押し出す3本線と迎え撃つ1本線」はこのようにして機能しているのである。

ここでCLでのアヤックスの、1試合あたりのタックル数を見てみる。上位7人のうちなんと4人が奪取役であるSBの選手となっている。あとの3人もそれぞれ1本目、2本目、3本目を担うツィエフ、フレンキー、ファンデベークがランクイン。ここまでにCBが1人も入っていない。1vs1に強いデリフトですらも、だ。チームとしての守備の形が数字にも表れている。

中央の選手が外に押し出す3本線となるのだが、アヤックスは攻撃時、それほど幅を取らず中央に選手が集結するような形をとる。そのため、「中央の選手が足りずに3本線が形成できず押し出せない」という現象がほとんどない。攻撃陣形がそのまま守備にも役立っているのだ。

配置・状況によってSHとSBで挟める時は、CHは2人の間のパスコースを潰しながら、SB裏のカバーに走る。CBも状況に応じてSB裏のケアに出られるよう準備をしておく必要がある。

奪取役のSBの位置で奪えなかった時。例えば引っ掛けたパスが運悪く敵の前に転がってしまった時など。その場合、一斉にゴールに向かって戻る。

奪取に出るのはCHの2人であり、この2人がポイントとなる。

・逆サイドのCHはサイドを変えられないようにパスコース遮断で牽制を入れ、ボールホルダーの展開の判断を遅らせる。

・SB裏のケアに入ったCHはサイドエリアをカバーしつつ、SBにエリアの受け渡しを行う。

・エリアの受け渡しが終わり、守備陣形がコンパクトになり、迎撃の準備が整ったところで、CH2人で挟撃する。

この時、ボールにアタックするのは逆サイドのCHだ。サイドを変えさせず押し戻すのは約束事になっており徹底されているのだ。この2人で抑えられなければトップ下のファンデベークが続く。仮にここでも奪うことができなくとも、他の前線3名が帰陣して守備態勢が整う。(2列目の守備能力・意識が高いとプレスバックに迫力が出るのも4-2-3-1の特徴だ。)

シェーネとフレンキー・デ・ヨングの2CHにより敵のカウンターの選択肢の幅を消し、スペースを埋め、味方がスペースを埋めるための時間を稼ぎ、奪取に転じるのだ。

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ウィークポイント

1人1人の明確な役割の上で成り立っているアヤックスの守備。逆に言えば1人がタスクを全うできないと全体が瓦解する危険性もはらんでいる。例えば、タディッチとファンデベークが攻撃方向を制限できなかった時(2CBとアンカーが一定の距離を保ち、3vs2を苦にしないタイプの選手達であった時)。

最も怖いのはCHのポジショニングだ。フレンキーとシェーネが常に絶妙な立ち位置をとっているから目立たないが、4-2-3-1の2CHの脇は広く空く形となる。CL準決勝、スパーズに許した逆転弾はまさにそこを突かれている。

スパーズの選手の多くが前線に集結する中、アヤックスの2列目より上の選手はボールホルダーとその近辺にプレッシャーをかける。フレンキーとシェーネはこの時、前線に釣られるようにポジションを上げていった。カバーシャドウで守ったのだ。こうして広がったDFとのライン間および2CHの脇にロングボールを放られると、セカンドボールの収集に失敗。ライン間にCBが釣り出されてルーカス・モウラに斜めに侵入するスペースを許し、取り返しのつかない失点となってしまった。

このように攻撃側としては、どこか1カ所を集中的に叩くと一気に崩れる可能性がある、という点を念頭に置いた攻撃を組み立てると効果的であると言える。

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おわりに

4-2-3-1を駆使してCLベスト4まで勝ち進んだアヤックス。「快進撃」という点に関してはフォーカスされたが、日本代表と同じ4-2-3-1をどう機能させているのかという戦術的な話題についてはほとんどみかけなかったように思う。特に日本の課題でもある「カウンター」の芽を摘む守備は完成されたものであった。

4-2-3-1が機能すればこれだけ美しい守備になる!!という見本を見せてくれたアヤックス。次回は攻撃戦術についてフォーカスする。

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コメント

  1. […] 前回はCLベスト4進出と大躍進を見せたテンハーグ・アヤックスの4-2-3-1守備戦術についてフォーカスした。今回は攻撃戦術にフォーカスしていく。 […]

  2. […] リーガ・エスパニョーラで安定した戦いを見せ、CLでは昨シーズンベスト4のアヤックスを退け決勝トーナメントへと進出したセラーデス率いるバレンシア。平均ポゼッション率48.3%でリーガ12位の彼らの特徴は、「深く守り速く攻める」。本記事ではそんなバレンシアの4-4-2戦術にフォーカス。 […]

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