バンジャマン・メンディに見る”偽サイドバック”の戦術的有用性

バンジャマン・メンディに見る”偽サイドバック”の戦術的有用性

ペップ・グアルディオラがバイエルン・ミュンヘンで成功させ、代名詞のひとつともなった「偽サイドバック」。海外では”Falso Lateral”(ファルソ・ラテラル)、”Inverted Full-Back”等と呼ばれるこの役割。大雑把にいえばビルドアップ時にサイドではなく、CBの前方に絞り込んだ位置にポジションをとる役割を指す。名前が広く知られるようになったとはいえ、偽SBが採用されているチームは数少ない。

以前SB関連で紹介したヨシュア・キミッヒの果たす役割、またアオアシで見られる役割も、これとは異なる。

今回は偽SBを採用・機能させている数少ないチーム、マンチェスター・シティにおける偽サイドバックの役割とその有用性を、フランス代表左SBバンジャマン・メンディをモデルに紹介していく。


偽サイドバックとは?

偽SBは先述の通り、ビルドアップ時にSBがサイドではなく内側に絞り込み、あたかもIHのように振る舞う役割を指す。

SBが絞れば中央での数的優位が期待できる。そうはさせまいと敵のSHが絞って対応すればWGへのパスコースが開ける。このWGのポジションに強力なドリブラーを配し、1vs1から中央のターゲットにクロスボールを放り込む、というのがバイエルン・ミュンヘン時代のグアルディオラによる偽SB活用方法だ。クロスが跳ね返された際は中央に位置する偽SBがDFライン手前をプロテクトしつつ、セカンドボールを回収する。

そしてここからが本題、バンジャマン・メンディを起用した際のマンチェスター・シティではどのように偽SBが活用されているのかをみていく。

バンジャマン・メンディ

 

まず簡単にバンジャマン・メンディについて触れておく。
バンジャマン・メンディは1994年生まれ24歳のフランス人。各年代別のフランス代表に常時名を連ね、2018ロシアワールドカップではレギュラーでこそなかったがメンバーに選出、優勝を経験した。クラブ遍歴をみるとル・アーブルからマルセイユ、モナコと順調にステップアップ。2017年夏に約5,200万ポンドというDF最高額の移籍金でマンチェスター・シティに加入した。

特徴はズバ抜けた身体能力の高さ。圧倒的なスピードで敵を置き去りにし、屈強な敵にも全く当たり負けしない。短い助走からは想像できないような鋭いクロスを放つ、技巧よりもアスリート能力に特化したタイプの選手である。

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マンチェスター・シティの偽SB

マンチェスター・シティの偽SBの役割は基本的にバイエルンと同じだ。中央に絞って人数をかけ、WGへのパスコースを確保し、クロスが跳ね返された際にはセカンドボールを回収する。メンディが偽SBを務める場合はこれらに加え、楔の受け手としての役割、そして彼の走力を活かしたWGを助けるランニングが非常に有効な意味を持つ。

WGへのパスコースを空けるためサイドからハーフスペースに移動。そこで自分がフリーになれるようであれば敵の背後のギャップで楔の受け手となる。また、ペナルティエリアの手前でセカンド回収の準備を行っているのも上の動画で見て取れる。

そしてWGを助けるランニングだ。

基本的に偽SBはハーフスペースに位置する。メンディはその位置からパラレラを行う。内から外に抜けるこの動きを取り入れるメリットは複数ある。

①敵を外にひきつけることでWGのカットインのルートを空ける
②中央の選手へのパスコースができる。3オンラインへの展開も可能。
③敵がついてこなければWGから縦パスを受けクロス

上の動画はアーセナル戦の先制点だ。このシーンでのメンディはまずセカンド回収という偽SBとしての基本的な仕事を確実にこなしている。そのボールをWGのスターリングに預けると同時にパラレラを行う。この動きに敵がついてくることにより、スターリングがカットインを行うスペースを創り出すことに成功している。

続いては速攻のシーンだ。このシーンではまず最前線に位置していたシウバが降りて空けたスペースに斜めのランニングを入れている(15~16秒にかけて)。これによりSBを内側にひきつけ、サイドの選手にスペースを与えている。最終的にカットされてしまったが、続けざまに持ち味のスピードを活かしてオーバーラップを行い、ホルダーのアグエロに選択肢を与えている。

最後に2点目のシーン。ここでもサイドではなくゴールへの最短距離を進むため内寄りのハーフスペースを前進。サイドでの数的優位を活かすオーバーラップからマイナスのクロスを入れ、見事なアシストを記録している。

このように走力に長けた選手を偽SBとして起用し、ランニングを活用してスペースメイクを試みるというのが、バイエルン・ミュンヘンに無かった偽SBとしてのタスクである。ランニングをさせることによる懸念事項、リスク管理の部分だが、右SBウォーカーがHVに入る3バックでの組み立て、IHギュンドアンの攻撃参加自重、それに伴いアンカーのフェルナンジーニョが左にスライド。4~5人でポジション修正を施していた(攻撃は3-2-4-1のような形)。こういったリスク管理がなされたなかで採用されるメンディの偽SBは非常に強力な攻撃オプションとなっていた。

おわりに

ここまでの偽SBの役割をまとめると、ハーフスペースに絞る事による

①WGへのパスコース作り
②楔の受け手
③セカンドボールの回収
④WGを助けるランニング(パラレラ)

の4点が挙げられる。
バイエルンはWGの1vs1の強さを活かすため、偽SBが下手に近づかない方法(アイソレーション)をとっていた。その結果④が見られなかったとも言える。
抜けるランニングは敵陣を崩すのに必要な「スペースメイク」において非常に重要な要素である。西野ジャパンの3-4-2-1システム分析記事にて日本代表アタッカーの課題として挙げていた「抜ける動き」を偽SBで実践しているのが欧州の最先端だ。
バイエルンのようにハイクロスをあげないシティにとって強力なオプションになるだろう。今後トランジションに長けたチームと対戦する際にどのような施策を講じるのか、非常に興味深い。