EL準決勝レヴァークーゼンvsローマ。期待の若手指揮官対決、シャビ・アロンソvsデ・ロッシの第2戦。デ・ロッシの狙いが確実にはまりローマが2点を先制しタイスコアに戻すも、アロンソ・レヴァークーゼンの驚異的な勝負強さで2-2のドロー決着となった。
チームとしての完成度はレヴァークーゼンが明らかに上回り、シュート本数も32vs12と圧倒。ファイナルサード攻略においてもバリエーションを見せつけた。
今回はこの一戦の戦術的ポイントと、レヴァークーゼンのファイナルサード攻略術についてみていく。
ローマのツインタワー+α
レヴァークーゼンの守備は5-2-3、対するローマの攻撃は5-3-2からの変化となる。
ローマは攻撃時、左HVのアンヘリーノが外に開きアンカーのパレデスがDFラインに降りることで4バックを形成し、レヴァークーゼンの3トップに対して優位を確立する。狙いはホフマンを外に釣り出して中央を空けることだ。
後方4枚の作り方は比較的柔軟で、両IHが降りることで2-3-5のような形を取るシーンも見られた。SBの位置をとるアンヘリーノがWGの位置へとポジションを上げ、大外を取る動きは特に効果的であった。HV→SB→WGとポジションを移動するアンヘリーノはこの試合の攻撃のポイントとなった。
アンヘリーノがホフマンを外に釣り出すことができれば、CFアドリとの距離が開くため、中盤を経由して逆サイドに振ることもできる。
レヴァークーゼンは中を閉じるために中盤がボールサイドにドンドンと寄って行き、最終的に逆サイドが大きく空く。
この日のレヴァークーゼンの左SHはフロジェクが務めた。188cmのCFである彼は、中盤のスライドに加わることをしなかったため、CHの脇が大きく空くことになった。このスペースから上げられるクロスは大きな脅威となった。フロジェクはアドリから始まるプレスに連動することもせず、グリマルドとの受渡しもできずに守備面でほとんど機能しなかった。
ローマの2トップはルカクとアズムン。ツインタワーの構成である。
細かな駆け引きの少ないルカクについては左HVヒンカピエが完封してみせたものの、アズムンと左IHペッレグリーニがゴール前の脅威となった。アズムンは死角を使って外に逃げたりDFの前に飛び込んだりする駆け引きが上手く、腕を使って距離を作るのも上手い。彼のプレーがターのファウルを誘い、PKを奪うことに成功した。
ペッレグリーニはツインタワーの間に入り込むオフザボールが秀逸だ。2列目から2人の間に入り込むことで何度かフリーの状態を得た。左HVヒンカピエとCBターがツインタワーを相手している中で、遅れて間に入り込むペッレグリーニに対応することは難しい。この状態のゴール前にクロスを送り込むことでローマはチャンスを作り出して行った。逆に言えば、ファイナルサードでの攻撃はほぼこのパターンのみであった。シュート本数も前半は6本に留まっている。
こういったローマの攻撃には、いくつか弱みが見られた。まず、パレデスを落として4バックを作り、SBから前進していくのは効果的に決まったが、そこから中央に展開する際、パレデスが不在のため中盤に空洞ができ、パスコースが確保できないシーンが何度か見られた。2IHはアンカー位置に下がることをしなかったため、2CHに捕まった状態も多くなった。中央を使えなければ、守備ブロックの効果は半減する。
そして1stレグに引き続き、被カウンターは大きな問題となった。アンヘリーノが開いて上がるため、後方に3枚(内1人はアンカー)しか残らないシーンも多く見受けられた。最後方で2vs2の状態となり、力強いスプリントが魅力のフロジェクが抜け出すシーンが生まれた。
ローマはロングボールの際のプレスも効かなかった。ボールを拾ったレヴァークーゼンが短いパスで空転させるからだ。中盤の脇から回避と前進を許すことになった。
レヴァークーゼンのプレスに対してローマはロングボールで逃げ、セカンドは回収を許す。ボールを回収したレヴァークーゼンは空いたスペースを普段よりも即座に使ったため、ミスも多くなった。レヴァークーゼンの攻撃がシュートに至らず終わった際は、ローマが安定したボール保持でレヴァークーゼンの守備ブロックを乱すことに成功した。
レヴァークーゼンの優位性の作り方
ローマはファイナルサードでのバリエーションが少なく、最終的にクロスやロングボールを用いるが、セカンドボールの回収や被カウンターに脆い。そのためボールを奪った瞬間にスペースを得られるレヴァークーゼンは、普段よりも早めに縦パスでスペースを突いていった。
そういった速攻が多かったとはいえ、この試合はレヴァークーゼンがボールを保持する時間が長くなった。前半のポゼッションは54%、シュート本数は17本だ。
レヴァークーゼンは敵2トップに対して3バックで優位を得る。1stレグ同様左IHペッレグリーニを前に出すローマであるが、シャカかパラシオスがプレスの1stラインまで降りて変則3バックを形成して3トップに対して4vs3の優位を作り、右シャドーのホフマンがペッレグリーニの背後を利用することで中盤のヘルプに入り、後方で6vs5の優位を作る。
主に左HVヒンカピエであるが、ローマのIHがCHを見るために絞った位置をとる場合、彼がIHの脇を前進していく。
レヴァークーゼンは前進すると、5バックvs5トップの構図を外しにかかる。ホフマンは先述の通りペッレグリーニの背後を利用するかサイドに流れる動きを見せ、フロジェクは敵中盤の間に絞って顔を出し、アドリはボールサイドのハーフスペースに寄る。
ローマはホフマンに対して左HVアンヘリーノがDFラインを離れてマークに出るシーンが増えていった。ホフマンの自由をある程度封じたものの、空いたスペースを利用される場面も見受けられた。
またローマは2トップの守備関与が弱く、プレスを回避されると中盤以下の5-3で守ることとなる。押し込まれると2トップと中盤の距離が開き、中央エリアでも安定したパス回しを許すこととなった。
ルカクとアズムンはカウンター要因となるが、2人だけのためレヴァークーゼンは普段よりも1枚少ない4枚で被カウンターの態勢を整えた。ヒンカピエがルカクをシャットアウトし、アズムンはターとタプソバでカバーすることでカウンターでの決定機を許さなかった。とはいえ、CHが1枚3列目から抜け出しを図れば、シャドーが1枚低めの位置に降りるといったリスク管理は当然のように行われている。
ローマの押し込みに成功したレヴァークーゼンは、ミドルシュートとDFライン背後への抜け出し&スルーパスでチャンスを作っていった。決定機も何度か生まれている。
レヴァークーゼンのファイナルサード攻略術
後半は1点を追うレヴァークーゼンが攻勢を強めていった。彼らには決勝進出に加えて無敗記録の継続がかかっている。ポゼッションは58%に上がり、シュート本数も前半とほぼ同じ15本だ。
ローマは後半45分間でもう1点を奪って追いつく上で、失点を避ける必要がある。押し上げを減らし、得点機会をじっくりと待つ。2-0で追いついたところまではデ・ロッシの目論見通りだろう。
そのため、後半のレヴァークーゼンはより容易に押し込むことが可能となった。ビルドアップもファイナルサード攻略も前半同様だ。ここではファイナルサード攻略にフォーカスする。
彼らの攻撃はWBとCHがそれぞれ外と内で起点となり、外に広げて内に返し縦を突く、内に収縮させて外で崩すといった具合に、相手のリアクションに応じて内と外を代わる代わるアタックしていく。
大前提として、外にスペースを空けるために中を使ったパス回しを行える必要がある。これは前半戦同様、優位性と細かなパス回し、チームとしてのパス判断の基準の明確化によりクリアできている。
相手を中に引き付けてから外を使った際のプレーを見てみる。外でボールを持つのは主にWBだ。WBのグリマルド、フリンポンは、敵WBと正対した状態を作る。縦の突破を図るのは圧倒的な瞬発力を誇るフリンポンだけだ。グリマルドはキック精度とパス&ムーブを武器に崩していく。
WBに対して周囲の味方はサポートの動きを見せる。まずは三角形のサポートだ。この三角形の最も重要な点は、相手の守備のライン間に位置する三角形を作ることである。相手を基準にするのだ。フリンポンに対して、MF-DFのライン間、MF手前にサポートを置くことで、マークの所在を曖昧にする。敵MFがDFとのライン間を遮断すれば、フリンポンは後ろに下げて中央経由で逆サイド攻撃の選択肢を作り出す。敵MFがバックパスでのやり直しを警戒すれば並行にパスを出し、外に広げたDFラインの間に抜け出す動きを見せる。フリンポンからパスを受けた選手にも同様のライン間三角形のサポートを提供し、パスを繋ぐ。「片方しか切れない『相手守備ライン間基準の三角形』を常に作り出す」ことでパスを自在につなぐのだ。彼らの攻撃において、これがとにかく重要だ。
WBに対して並行もしくは斜め後ろのサポートをしたシャカから、素早く縦に入れる楔はこの試合で何度もビッグチャンスを演出した、再現性の高い攻撃となった。特に、ハーフスペースの選手を飛ばしてWB→シャカへ繋がるパスはマークの撹乱に繋がり、抜け出した選手が完全フリーになる機会が多かった。
この場面やサイドを変えた時に有効となるのがWBとHVの間をとるランニングだ。この試合、ローマの右サイドはWB-HV間をIHがカバーする形を取った。右HVのマンチーニが出ていかなかったのは、ゴール前にスペースを作らないためであるのと同時に、左HVが本来SBの171cmアンヘリーノであり、ゴール前の不安が拭えなかったからであろう。
中央ケアを行うIHによるカバーは確実な遅れをもたらす。このスペースに入り込むことで大きなチャンスを掴んでいった。このランニングに相手がついていった場合は、それをデコイに中央から攻撃を展開していく。左サイドではヒンカピエもIH脇でのサポートと共にランニングもこなしてみせた。
ここで大切なのが、相手がランニングに間に合いそうな場合。相手に対応される可能性が高ければ、再度横パスでやり直す。成功確率を上げるために何度でも横パスをやり直すのだ。
ローマの左HVアンヘリーノは右とは対照的に、ガンガンとライン間の相手を潰しに出ていった。それはそれで、レヴァークーゼンはHVの背後に出来上がるスペースを突くことができる。このスペースを突くためには距離の短い並行サポートを行うことで、パスを出すタイミングを増やす必要がある。この点はレヴァークーゼンの得意とするところだ。右サイドでは主にホフマンが裏抜け役を担った。
3選手が一線上に並んだ状態から1つ飛ばしのパスを出して抜け出すユニット戦術もこの試合のファイナルサード攻略では多々見られた。
さらに5バック崩しという点でいうと、CF位置の選手がボールサイドに寄り、WBとHVに対して受け手が3vs2の優位になるようなオーバーロードも右サイドで見られた。WBのカットイン、シャドーの外流れ、CFのハーフスペース横移動などで受け手の3選手がレーンを入れ替える、さらには奥と手前で同一レーンを共有することでフリーの選手を生み出すことに成功していった。
おわりに
試合としては、ローマが望んだクロスボールからの形でPKを奪取し、2点を先制することとなった。ディバラを外してアズムンとルカクのツインタワーを採用したデ・ロッシの狙い通りであった。
レヴァークーゼンは度重なる決定機を逸し続けたが、最後の最後に途中出場のスタニシッチがゴールを奪う、今季何度も見た劇的同点弾で無敗記録を伸ばしてみせた。
レヴァークーゼンからは最後の最後にゴールを奪う勝負強さだけでなく、各局面がシームレスに影響し合う、チームとしての強さを感じずにはいられない。これだけボールを保持してカウンターを食らわないチームというのも珍しい。
シーズン無敗という歴史的快挙が本当に現実味を帯びてきた。