前記事、「【ピーター・ボスのパスサッカー】レヴァークーゼンの4-3-3攻撃戦術」の分析の分析の続きとなります。
上記を先にご覧いただいたのち、本記事に入っていただくことを推奨します。本記事はレヴァークーゼンを率いるオランダ人監督ピーター・ボスがチームに落とし込んだパスサッカーにおける三角形と、チームとしての弱点を主に取り上げます。
小さな三角形
レヴァークーゼンは小さな三角形を生成しながら前進する。
— . (@souko_sa) May 3, 2020
オーバーロードとアイソレーション。
Ver.レヴァークーゼン pic.twitter.com/cYXe9A3E2K— とんとん (@sabaku1132) May 11, 2019
ハフェルツが中央に絞る事で、中央には彼と中盤の3人、計4人の選手が集結することになる。中央にオーバーロードを生み出し、薄くなったサイドに展開すると同時にIHやCFが流れ込む一連の動きは数多く見られる。アンカーのバウムガルトリンガーは低い位置にポジションをとり、他の3人が適宜降りたり前進したりすることで三角形を創り出す。
この三角形だが、彼らは三角形の横幅を狭くしており、正三角形は作らない。わざわざ2選手が大きく離れて正三角形を作ってボールホルダーに2つの選択肢を与えるようなことはしないのだ。
選択肢を2つにする△ではなく、2手先を見据えた△。 pic.twitter.com/jddXfSvUvl
— とんとん (@sabaku1132) May 11, 2019
正三角形を作る場合、ボールホルダーは2つの選択肢を持つが、次にボールを受けた選手の選択肢が狭まってしまう可能性もある。
彼等の三角形でカギを握っているのはアンカーのバウムガルトリンガーだ。上のサンプルではほとんどのケースに関わっている。彼は無理してCBやSBからボールを引き出そうとしない。彼が狙っているのは2本目のパスだ。
ハフェルツ達が降りて受けたボールのレイオフを待っている。つまり、三角形と言っても初めのボールホルダーの選択肢は1つ。選択肢を2つにするための三角形ではなく、レイオフを受けるための三角形となっている。
ではバウムガルトリンガーに渡った次の展開はどうなるか?ここで4人目は横幅を狭める。バウムに近づくように、敵の前に出るように、もしくは降りた選手が空けたスペースに入るように受けることで軽やかなパス回しを実現している。
ただし、ここまではこの陣形だからこその話でもある。では他のメンバー、他のエリアで行う、より汎用性に富んだ陣はどうだろうか?
レイオフの陣
— . (@souko_sa) May 3, 2020
レヴァークーゼンはレイオフを用いる際、1:2:√3の直角三角形を作る。30度の選手が出し手、60度がレイオフ、90度が3人目となる。
この角度はあくまで目安だが、3人目がわざわざ広がって①に選択肢を与えるようなことはせず、2手先を考えたポジションをとることで攻撃の滞りがなくなる。
②の選手は、受け持つ角度が大きくなるほど技術的難易度が上昇する。60度なら落としのパスで済むが、120度になると背後へのフリック、180度ならターン(1人完結)となる。
そもそも③が広がって②-③の間に距離ができてしまえば角度に関わらず難しくなる。
空いた瞬間「出せる」柴崎。
空いた瞬間「出してしまう」柴崎。
代表の中でも別格のパス技術で隙間を通す場面も多い反面、受け手の状況を考慮せずに味方と攻撃をキルしてしまうシーンも目立った。 pic.twitter.com/eFzX3zcII9— とんとん (@sabaku1132) January 12, 2019
ここでアジアカップでの日本代表の例を見てみる。パスの出し手は柴崎岳。日本屈指のパサーだ。針の穴を通すような彼のパス技術、スピードはレヴァークーゼンのどの選手よりも高いレベルにあるかもしれない。
しかし、彼のパスの出し先には味方が一人しかいないケースが大半である。次の展開に繋がりにくい場所であり、受け手がターンをするにしても強すぎるパスだ。コースさえ空けば「出せる」、「出してしまう」。彼のような類稀なパス技術が無ければむしろ出さないであろう出し先であり、パス技術が仇となっている。勿論これは柴崎だけに非があるわけではない。チームとして彼の持ち味を活かしきれず、どうしていきたいのか、3人目がどう関与するのかが見えてこなかったケースであった。
逆に2つ目のシーンは面白い形であった。スイッチが上手くいかなかったが、柴崎のパスはレイオフを促すような左脚へのパスであり、2人目の選手は3人目を認知できる向きであり、3人目は前を向いてレイオフを受けられる形である。レイオフ攻撃を完結させるには良い形であった(レヴァークーゼンにもある、敵を縦にも横にも「広げる」工程がチームとして省略されているため、スモールスペースでのプレーを余儀なくされてはいるが・・・)。
レヴァークーゼンの課題
彼等の課題は守備の部分。トランジションとロングボール対策である。
先述の通り、このチームには複数のポジションをこなせる選手が多い。ベララビがプレー可能の場合は彼が右WGに。ハフェルツがIHに入りアランギスかバウムが抜けるが、そうなるとトランジションとリスク管理が甘くなる。IHハフェルツとブラントはどちらも前進を好むタイプで、中盤を空にしてしまうケースが多々ある。そうなるとアンカー一人でのカウンター対応を強いられる。援護に出たSBの裏を突かれて失点するシーンは少なくない。
仕組みとしてではなくアランギス、バウムガルトリンガーの守備能力で持っているトランジション、カウンター対策の整備は不可欠だろう。どちらかが抜けてしまうと不安定となる現状は、チームとしての課題だ。
そしてもう一つがロングボール対策。
ゲンドゥージのプレー分析にて、彼とアーセナルの課題として取り上げたが、中盤の3人がカバーシャドウでの守備を行った場合、配置的にロングボールのこぼれ球を拾えなくなる。これはレヴァークーゼンの守備においてもあてはまる。またトランジションとロングボールの二つの弱点を複合的に突かれての失点も多くなっている。
おわりに
レヴァークーゼンはペーター・ボスの仕込んだパスサッカーの元、爆発的な攻撃力を発揮している。幅と裏、余白、2手先を考えた三角形を用いるパスサッカーは停滞感を感じさせず、他のチームとは一線を画す。反面、カウンターとロングボールに弱いという点はパスサッカーを標榜する他チームと同様であり、勝ち点を積み重ねていく上で改善すべき課題となっている。
ペーター・ボスが就任してまだ半年。今後は細部を詰め、より洗練されたサッカーで16/17シーズンヨーロッパリーグでのアヤックスのような快進撃を見せてくれることを期待したい。
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[…] ※レヴァークーゼンの三角形の作り方は川崎と真逆の考え方なので比較をおすすめ。 […]