前回の記事「バルセロナの8番を継いだアルトゥールの特徴とは?~イニエスタの穴を埋めた男~」では、今夏バルセロナに加入したアルトゥールのプレーの特徴を紹介した。
今回はアルトゥールに加えWGのコウチーニョ、SBジョルディ・アルバで構成されるバルセロナの左サイド攻撃について分析する。柔軟で破壊力抜群、非常に強力な武器となっているこのユニットはどのように機能しているのだろうか?
コウチーニョのオフザボール
コウチーニョのストロングポイントとして切れ味鋭いドリブルが真っ先に挙げられるが、それと同じくらい敵の脅威となっているのが「オフザボールの動き」だ。バルセロナの左サイド攻撃はビルドアップの段階から優位を作っていくパターンと同じくらい、コウチーニョのスペースメイクに連動していく形が多い。そのため、以前紹介したマンチェスター・シティのウイングの役割よりも、タスクは多岐にわたる。それを確実にこなす彼はまさにウイングの鑑と言えるだろう。
高い位置に張る
これはシティと同様のタスクだ。ただし、シティとは目的が違う。シティはビルドアップで優位(CBとアンカーのパス交換でホルダーがフリーとなる状態)を作り、WGが広げたチャンネルへ侵入を図る。対してバルセロナは敵SBとSHの間にスペースを作るために用いる。ここにパラレラで侵入するのがIHアルトゥールだ。
前回紹介したアルトゥールのセントラルウインガーとしての役割はこういった周囲との関係によって成り立っている。この動きで敵のIHを外に引きずり出せれば次は中央が手薄となり、攻撃の展開が容易となる。
降りる
これはシンプルに敵SBを釣り出すことで、裏に味方が侵入するスペースを作るための動きだ。ジョルディ・アルバはそのタイミングを逃さずにオーバーラップを発動させる。
絞る・抜ける
コウチーニョは敵SBのポジショニングを変化させるのが非常に上手い。外から内に抜ける(絞る)事でジョルディ・アルバをフリーにさせる動き。逆に内から外に抜ける(パラレラ)事でスアレスへのパスコースを確保する動き。両方向持ち合わせている。
そして彼自身がチャンネルに抜けるプレーも可能だ。これはビルドアップ段階から優位にボールを前進させていく必要がある。
多いパターンとしては、アルトゥールが敵のSHを内側に絞らせるようなポジショニングを取り、ジョルディ・アルバを浮かせる形。この状態でアルバvs敵SBのマッチアップを作り、引きずり出す。敵SBからしてみると、コウチーニョを警戒しながらアルバに寄せるという状況に陥る。この時の寄せ方・タイミングは非常に難易度が高い。以前紹介したマルセリーノ・バレンシアのように巧みに守るチームも少なからず存在するが、ほとんどのチームは後手に回ることになる。
ちなみにこの状況は配置に目を向けると、偽サイドバックを採用するチームが実現しようとしている配置となっている。
3オンラインの活用
「抜ける」で紹介したが、コウチーニョのパラレラにより、アルバからスアレスへのパスルートを確保するパターンは何度も見られる。3オンラインである。フットサル出身であるという彼は、自然とこういった動きが身に付いたのかもしれない。
ドリブラーにとって「ボールを受ける前にドリブルを仕掛けやすい環境を作る」ことは非常に重要となる。常に複数の選択肢を突き付ける彼の狡猾なオフザボールの動きが、ドリブラーとしての彼を際立たせているのである。
また、ビルドアップ段階ではアルトゥールが中央の役を果たすことも多い。
※この動きの効用は3オンライン記事、偽サイドバック記事、3-4-2-1システム分析記事を参照のこと。
ラングレ、スアレスの加勢
状況に応じて、ベースとなる3人に左CBラングレやCFのスアレスが補佐に入る事でオーバーロードの状態を作り出して攻めるパターンも備えている。
ラングレは大きく広がっての位置取りや、身体の向きを調整することでパスコースを確保するプレス回避に長けている。状況に応じて前進し、正確な楔を通すこともできる。スアレスはチャンネルに抜ける動きで加勢に入ることができる。3人の連携では枚数や役割が足りない場合、適宜この2人がユニットに加わりオーバーロードを実現することで突破を図るのだ。
対策
最後に、バルセロナのサイド攻撃の対策についてもみていく。
バレンシア
バレンシアの対策は以前の記事でとりあげている。チャンネルを封鎖するため、SBの寄せ方に規則性を持たせ、状況に応じて使い分けをさせている。それに連動するように周囲の選手で受渡しを行う。非常に効率の良い見事な守備を見せている。
ソシエダ
この試合の左サイドはコウチーニョとアルトゥールが不在であるが、ソシエダの守備は非常に特徴的だ。左CBウンティティにはあえてボールを持たせ、右CBピケを消すという策である。話題となったW杯ドイツvsメキシコにおいてフンメルスを消しにかかったメキシコと似ている。これはピケ(フンメルス)に配球させないという効果以上に、左右に揺さぶられるという状況を排除する点において効果を発揮した。
ピケにボールが渡る際のプレッシャーおよび受け渡しは速やかに、完璧に遂行された(ツイートを参照)。サイドチェンジに対して、ハーフスペースに位置する選手が敵SBに対応。これによって空いてしまうハーフスペースは確実に受け渡す。ハーフスペースを守備で活かし、敵の攻撃には使わせない。要所の陣取り合戦に勝利することで優位に立っている。
そうなるとウンティティの左サイドから攻める他無いが、こちらのサイドには人数をかけて対応。ボールに対して壁を作るような陣を敷いている。左サイド攻撃のみに限定したからこそできる守備戦術だ。3つのラインで分厚い層を作り、バルセロナの攻撃を絡め取る。理にかなった、よく練られた守備であった。
おわりに
バルセロナの左サイドの攻撃は非常に強力な武器となっている。オフザボールの動きが多彩なコウチーニョ、スペースの感覚とプレス回避能力に長けたアルトゥール、パス出しとオーバーラップのタイミングが秀逸なジョルディ・アルバ。さらに状況に応じてオーバーロードをかけるラングレ、スアレス。非常に柔軟でバランスの良い構成となっている。
上に挙げたパターンを状況に応じて使い分ける事で攻撃を組み立てている。この柔軟性こそがバルセロナのサイド攻撃の最大の武器であると言えよう。サイド攻撃の教科書のような機能性を見せるこのユニットには今後も注目する必要がありそうだ。
コメント
[…] ・ユベントスの守備戦術分析 : 攻撃戦術分析 ・アトレティコの守備戦術分析 ・リバプールの守備戦術分析 ・バルセロナの攻撃戦術分析 […]
[…] バルセロナのサイド攻撃の記事でも紹介したコウチーニョのオフ・ザ・ボール。キミッヒを置き去りにしています。本当ならパスコースは切れているはずですが、マルセロの絶妙な股抜き付き。ギュンドアンの咄嗟のカバーリングといい、ハイレベルな攻防です。 […]
[…] 例えばマンチェスター・シティなら、WGのレロイ・サネが①WBの釘付け役と④HV裏への侵入役をこなす。バルセロナならCFのスアレスが②CB釘づけと④HV裏侵入を兼任。シティのデブルイネやダビド・シルバ、PSGのドラクスラー、バイエルンのレオン・ゴレツカ等は③HVの釣り出し役から④HV裏侵入までこなす。 […]