普段あまりJリーグを見ることができていない筆者だが、久しぶりに観てみようかな!と気まぐれにも思ったので、ついでに書いてみる。
このカードをチョイスしたのは深い意味は無く、私が長野県在住だから。
どちらのチームについても詳しくないため、この記事の構成は両チームのザックリとした特徴と印象→試合のポイントと具体的な特徴、という形で進めていく。
松本山雅の特徴
松本山雅は5-2-3。昇格組ということもあり、カギを握るのはやはり守備の部分だろう。
この試合を観た印象として、このチームはよく走るし、ゴール前で身体を投げ出す泥臭さも備えている。反面、同じ5バックでも先日取り上げたアタランタのような決まり事や敵を誘導するといった仕組みの部分は弱い。アトレティコやユベントス、ナポリのように守備の段階から自分達主導で奪いやすいエリアに誘い込むというのは難しい。いうなれば受け身の守備である。
攻撃において敵に脅威を与えられそうなのが、セットプレーとカウンターだ。「セットプレー」に関してはロングスローと精度の高いプレースキックを備える砲台・岩上の存在が大きい。
山雅の「カウンター」は組織というよりも個に依存する。
カウンターは良い守備から始まる。狙い通りの形で奪えるほど、ゴールへの筋道がクリアになる。山雅の場合その奪い取る仕組み(狙った形)が弱い。しかし、献身的に追い廻し敵からボールをかっさらいショートカウンターを炸裂させられる「走力」を備えた前田大然とセルジーニョがWGに配置されている。彼らが奪う、もしくは彼らを使ったカウンターは非常に強力だ。彼等2人の走力は攻撃(カウンター)だけでなく守備においてもキーとなる。
彼らがサイドエリアまでカバーしないと数的不利に陥ってしまう。かといって守備に走らされてスタミナを削られればカウンターの精度は落ちる。低い位置まで押し込まれたら敵のゴールが遠くなり、カウンターの難易度は上昇する。こういったジレンマを解消するための仕組みは弱い。頼りは彼らの足次第、そして90分を通したゲームプランといったところ。彼らの替えも懸念事項だ。
WGの足の動く早い時間帯にセットプレーやカウンターで先制。そのまま粘り強く守る先行勝ち逃げがこのチームの勝ちパターンになりそうだ。
ジュビロ磐田の特徴
ジュビロ磐田は4-2-3-1。この試合においてはボール保持の時間が比較的長く、その中で特徴的なのが、左SB高橋の偽サイドバック的な動きだ。この動きがこの試合でどう効果を発揮したのかは後述する。
攻撃面で最も気になるのは背後をとる選手・動きの少なさだ。誰も裏にぬけようとする選手がいない。誰も裏に抜けないならば守備側としてはラインを下げる必要もなく、コンパクトな陣形・定位置を保つことができる。ライン間のギャップに入れられても、誰も裏に抜けないのなら攻撃の連鎖はそこで終わりだ。
ボールが出たら走る!というジェスチャーを見せる選手はいても、ボールが出る前から走る選手はいない。攻撃はその分スローペースになる。裏に抜けなければスペースも出来ずにどん詰まりだ。
(誰も抜けないことでどういう状況に陥るかは、日本代表の記事(ガーナ戦)を参照)
逆にシンプルなサイド攻撃は敵を脅かすものが多かった。この試合の同点弾や決定機も大体はシンプルなサイド攻撃。それは山雅のシステム的側面にも関係するのでこれも後述。
偽サイドバックの意図
この試合は序盤からジュビロがボールを握る。ここで注目となるのが左SB高橋の特徴的な偽サイドバックの動きだ。この動きがどう機能したのか。
結論から言うとこの試合においては、偽サイドバックの動きは機能しなかったと言うほかないだろう。
CBがボールを持つと、高橋はハーフスペースに移動し、左WGのアダイウトンへのパスコースを空ける。この現象を起こすという点に関してはクリアだが、アダイウトンにパスが渡った後、さらに言えばそもそもアダイウトンにボールを回す目的が曖昧だった。
グアルディオラが採用する偽サイドバックは大きく分けて
①WGへのパスコースを空ける(WGの突破力を活かすため)
②チャンネル攻略
③カウンター対策
の3つの効果を発揮する。
ではこの試合ジュビロが採用した偽サイドバックはどれを意識したものだったのか?
①に関して、アダイウトンが突破を成功させたシーンはそれほど多くなかった。そもそも突破を武器にしたタイプなのか?とさえジュビロ素人の私には映った。さらに言えば山雅は5バック。WGが降りて受けたところで、WBとしては躊躇なく前進できる。HVが居る事でチャンネル攻略にも対応できる。どちらかと言えばアダイウトンに張らせて、高橋にボールを持たせた方が前進しやすかっただろう。
②チャンネル攻略について。シティのバンジャマン・メンディはパラレラでWGをサポートしていたが、そもそも山雅は5バック。チャンネルに抜けようにもHVが居るため守備側の人数は足りる。これも無いだろう。
③カウンター対策。これは一番考えにくい。高橋の位置が高く、カウンターに備えたポジショニングとは言えないものであった。
シンプルなサイド攻撃に光明
逆に、シンプルに高橋がアダイウトンの外を回るパターンの方がチャンスとなる場面が多かった。WBの岩上が1vs2の数的不利を強いられるため、周囲の選手がそれをサポート。そこからできる穴を突く素晴らしい形も見られた。
例えば35:50のシーン。これは高橋が外を回ったわけではないが、配置的に観ると同じ。WB岩上とアダイウトンのマッチアップの外側を回ったシーンだ。基本的に5バックのチームはWBの外側の対応が利かない。山雅はここでCHのパウリーニョをヘルプに向かわせたが、パウリーニョの抜けた穴からピンチを迎えることになった。
5バック攻略には偽サイドバックではなく、このようなシンプルに外を突くパターンの方がベターだろう。5バックの山雅との試合で偽サイドバックを採用した意図は見えず、却って逆効果ともとれるものであった。
通常このシステムでのマッチアップではサイドでWB vs SB+WGという数的優位を作れるのだが、偽サイドバックの採用でそれを自ら崩してしまっていたのだ。